2020年に買った新譜

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 昨年の好評を受けて(?)、今年もやります「今年買った新譜」企画。今回もあくまで"自分が購入した順"でご紹介(リリース順ではないので念のため)。

 2020年はコロナの影響もあり、新譜/中古問わず店舗でCDを買う機会が激減。散々お世話になった渋谷レコファンも閉店してしまい、個人的にはCD→ダウンロード購入へのシフトが急速に進んだ1年でした。いざ始めてみれば便利なもので、今となっては何故あれほどCDに拘っていたんだろう…という気持ちすらありますね。まぁ旧譜などCDで買った方が安い場合はそちらを買うんですが、新譜については今後ほぼダウンロード購入に切り替わっていくだろうなぁ*1

 

 Riki - Riki

 過去のレビュー記事はこちら。↓

giesl-ejector.hatenablog.com

  

②Choir Boy - Gathering Swans

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  こちらもDais Records発のシンセポップユニットによる2ndアルバム。レーベルメイトのDrab MajestyやRiki、Tempersと同じく、彼らも80年代風の音作りが特徴的です。しかし、英国ニューウェイブの色が濃い先述のグループに対し、このChoir Boyはバックサウンド以上にVo.の「歌」が前に出た造りで、そういう意味ではもはやニューロマや80's歌謡ポップスの域に近い雰囲気かも。モリッシーを連想させる(いい意味で)キモいファルセットボイスと相まって、かなり"泣き"の要素が強調されています。雑に例えるなら、The Smithsの曲をSoft Cellに演奏させたら…みたいな感じでしょうか。ジャケやPVからも判る通り、なかなかキャラが濃い*2ので人によっては引いてしまうかもしれませんが、そのメロディセンスはホンモノ。アルバムの冒頭3曲は全て外れなしの名曲ですが、個人的にはその中でも、哀愁と温かさを湛えたキーボードの旋律が泣かせる#1が特に好きです。

  

③TRIAL - 1

 過去のレビュー記事はこちら。↓
giesl-ejector.hatenablog.com

 

④Black Magnet - Hallucination Scene

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 今、インダストリアルメタル界隈で静かに話題となっている(?)期待の新人、Black Magnetのデビュー作。巷では「Godflesh/Ministryのような」*3と枕詞を付けて売り出されていますが、個人的にはそれだけに留まらない懐の深さを兼ね備えていると思います。確かにミッドテンポなギターリフでねじ伏せる#1や#4ではGodflesh的な側面ものぞかせていますが、アルバム後半ではメタルというよりハーシュEBM/アグロテック的な色が強く、トータルとしては90年代のLeaether Strip/Klute、あるいはNumbを想起させる仕上がり。肉厚で凶暴なボディビートと吐き捨てVo.の組み合わせが堪りません。特に、削岩機のような激烈ビートで駆け抜ける#3はもはや完全にKluteの再来で、個人的にはこの曲だけでもう拍手大喝采です。近年パッとしない印象があったインダストリアル"メタル"界における、久々の快作。

 

⑤Deafkids & Petbrick - Deafbrick

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 Sepulturaの元ドラマー、Igor Cavalera率いるインダストリアルロックユニット:Petbrickと、ブラジル出身のトライバル・ハードコアバンド:Deafkidsのコラボアルバム。上のBlack Magnetと同日発売だったので同時に入手したんですが、このDeafbrickもなかなかにアグレッシブな高速インダストリアルメタルです。ただ、こちらは片や元ドラマー、片や"トライバル・ハードコア"ということもあり、変態的なリズム面への拘りが前面に出ている印象。民俗的なチャカポコしたパーカッションを主軸とし、随時電子ノイズやメタルギターを組み合わせていくスタイルは、一般的なインメタのそれとはかなり異なるものです*4。ときおり挟まれるトライバル・ダブ風味のインスト曲をはじめ、Black Magnetに比べるとやや取っ付きにくい部分もありますが、こちらも要注目な最新型インダストリアル・スラッシュと言えるでしょう。ちなみに、#9はDischargeのカヴァーのようです。

 

⑥Vatican Shadow - Persian Pillars Of The Gasoline Era

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 Prurientをはじめ多数の名義で活動するDominick Fernowのプロジェクト、Vatican Shadowの9thアルバム。この界隈では比較的メジャーな存在らしいですが、自分は最近まで彼の作品にほとんど触れてきていませんでした。何だかんだ分かりやすいものを好む自分にとっては、試聴した限りちと難解な印象があったので…。一応、Prurientはラムレー直系のパワーエレクトロニクス、Vatican Shadowはインダストリアル風味のテクノ、アンビエント、というカラー分けがなされているようです。本作はGodflesh/JesuのJ. K. Broadrickがマスタリングで参加、さらにデスメタル系レーベルとして知られる*520 Buck Spinからのリリース*6ということで、前情報だけ見るとまさかのメタル路線!?なんて勘繰りたくもなりますが…中身はいつも通りの暗黒インダストリアル・アンビエントですはい。ただ(試聴しただけですが)これ以前の作品と比べると、全体的に有機的かつ"まろみ"のあるような音ですね。J. K. Broadrickの影響かは判りませんが、自分はバキバキのハイレゾなテクノイズよりは、少し輪郭のぼやけた音が好きだったりするので、個人的には歓迎したい方向性です。

 

⑦Wisteria - Never Waved

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  シアトル出身のダークウェイブ/シンセポップユニットの1st。これはベルリンに拠点を置く地下レーベル、Detriti Recordsを辿っていて発見しました。このDetriti、東欧やロシア・旧共産圏などのマイナーなポストパンク/ダークウェイブ/EBMグループの音源を多数リリースしており、一部界隈では以前から話題になっている旬なレーベルの模様。全体的にアングラでストイックな音のグループが多いのですが、そんな中で場違いな煌びやかさを湛えていたのがこのグループ。Dais Records所属と言われても全く驚かない、ネオンサインを連想させるキラキラしたシンセが大活躍。そのままだとニューロマとかそっち方面になりそうなところを、見事なほど覇気のない低音Vo.がうまい具合に中和(?)しています。青白い顔のゴス系モヤシ男子がボソボソ歌ってるさまが容易に想像できる声というか。ネット上のスキニー・パピーのレビューで「ビタミンC不足気味なメロディ」という秀逸な表現を目にしたことがありますが、このWisteriaのVo.もまさにそんな感じですね。

 

⑧Cardinal Noire - Nightmare Worms

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  フィンランドEBM/エレクトロインダストリアルユニットの1stEP。2015年頃から活動しているようで、既に2枚のアルバムを発表しています。今年一番驚かされたのがこの作品でした。なにせNecro Facility以来の直系Skinny Puppyフォロワー、それも一番狂っていたToo Dark Park~Last Rightsの頃のパピーを模倣するサウンドなんですから。従来スキニー・パピーのフォロワーといえば、ぶっちゃけ「ちょっとノイジーなFront Line Assembly」みたいなダークエレクトロ系がほとんどで、(一部の例外を除き)中期パピーのぶっ壊れサウンドへの追従はしない…というより誰も真似できない、という印象すらありました。しかしこのCardinal Noireは、その高すぎるハードルに真っ向から挑み、本家パピーに肉薄する驚異と脅威のハーシュEBMを完成させています。腐乱死体の如く腐りきったノイズに、先の読めない狂気の変則ビート、重厚で荘厳なシンセの旋律、ウゲウゲの死神ヴォーカル…どこをどう切り取っても完璧にSkinny Puppy。前情報なしで聞かされたら本家の未発表音源かと錯覚しそうなほどです。ゆえにオリジナリティは薄いかもしれませんが、この圧倒的なクオリティを前にしてそんなことはもはや問題にならないでしょう。必聴です!

 

⑨Cbaret Voltaire - Shadow Of Fear 

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 昨年のTest Dept.に続き、インダストリアル界の大御所がまたしても復活。26年ぶりのオリジナルアルバムが投下されました。とは言っても、メンバーはRichard H. Kirk一人だけで、実質的には彼のソロアルバムと言ってよさそう。先行公開された#7を聴いたときは、中期のエレクトロファンク路線の延長線上というか、最近流行りの"プレEBM"路線で来るのかな?という印象でしたが、アルバムを通して聴くとどうやら違う様子です。確かにEBM以前のプリミティブなエレクトロ・インダストリアルではあるのですが、中期のようなファンキーでコシのあるビートではなく、よりチープなリズムとざらついたサウンドコラージュを中心に淡々と進行していく様は、どちらかといえばChris Watson在籍時の初期に近いような。自分は中期のキャブスしか通っていないのではっきりとは判りませんが、恐らく今までのキャリアで獲得した要素を全て盛り込みつつ、単なる懐古に終わらない現在進行形の音を構築することに成功しているのではないでしょうか。そのせいかネット上では、保守的な印象のある初期キャブスファン*7にも軒並み好評な模様ですね。全曲6分越え、8曲で60分というボリューム感なのでまだ消化しきれていない部分もありますが、このクールでストイックな音はなかなか癖になります。初期のアルバムも聴きたくなりました*8

 

 

   実際は上記のアルバム以外に、1曲単位でリリースのシングルとかもちょくちょく購入してるんですが、その辺を取り上げ始めるとキリがなくなるので今回は割愛。Twitterでも呟きましたが、今年はスピード重視型の"インダストリアル・スラッシュ"が久々に盛り上がったなーという印象です。2010年代のインダストリアルメタルは、SwansやGodfleshの影響下でドゥーム、スラッジコア、ないしはデスメタル等と接近したバンドが多く、MinistryやKMFDM型のインメタを好む身としては少々物足りない思いもあったのですが、TRIAL、Black Magnet、Deafkids & Petbrickがそんな不満を吹き飛ばしてくれました。速いインダストリアルメタルだってカッコいいんですよ!まぁ「速さ命!!」みたいになられても困るんですけど。

 

 あとはこんなご時世なので仕方ないとはいえ、Ministryの25年ぶりの来日公演となるはずだったDownload Festival中止は無念でしたね。コロナの状況とアルさんの年齢を鑑みると、正直この先もう来日は難しそうな気がするので…。それどころか、向こうの国はついに感染死亡者数が全国民の0.1%(=33万人)まで到達しているようなので、ライブどころではないですよね。大統領が変わって果たしてどう変わるやら…。

 

 世界情勢に違わず、今年は私生活面でもなかなかゴタゴタが多かったので、来年はもう少し平和な一年であってほしいなぁ…というのが正直なところです。ブログ更新も相変わらずのペースですが、何とか続けていきたいですね。では、よいお年を~

*1:BandcampからCD買ってもいいんですが、コロナのこのご時世、直輸入だとちゃんと届くのか不安で手を出せていないというのもあります…。

*2:ついでにVo.の胸毛も濃い。ジャケ参照。

*3:というかインダス系のバンドって十中八九この2組で例えられますよね。「この2組でないと一般層に通じないでしょ」というフォロワーさんの指摘には頷くしかなかったですが…(苦笑)。

*4:何となくAlternative Tentaclesにこんなバンドいそうだな~という気もしますね。Grotusとか似てるかも。

*5:らしい。ユニオンのHPでも特集されてたりします→【特集】20 BUCK SPIN特集:知る人ぞ知る!DEATH/DOOM METALの先駆者レーベル! |ニュース&インフォメーション|HARD ROCK / HEAVY METAL|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

*6:先述したBlack Magnetの1stもここからのリリースです。

*7:初期が好きな人は、クリス・ワトソン脱退後のファンク・スター(笑)路線や、テクノ路線を毛嫌いするイメージがあるので。あくまで個人の印象ですが。

*8:さっそく編集盤の"The Living Legends..."を購入して勉強中です。

Skinny Puppy - Too Dark Park

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  スキニー・パピーの代表作として挙げられることも多い6thアルバム(通称"暗杉公園")。一方でネット上での評判を見ていると(特にインダストリアルマニアの間では)、ハーシュEBMの完成形として「VIVIsectVI」を、唯一無二の域まで上りつめた究極形として「Last Rights」を推す方が多く、意外に本作は影が薄いイメージもあったりします。まぁ4thから7thまでの彼らは、各アルバムで異なる方向性を突き詰めつつ、毎度のようにハイクオリティな傑作を叩き出していた文字通りの無双状態ですから、それぞれを単純に比較するのは野暮というものでしょう。

 

  「動物実験反対」を唱えた4thに続き、本作のテーマは"Environmental degradation=環境破壊"。こういうテーマの場合、保護対象を「危機に瀕した美しい自然」として賛美しつつ「こんなに素晴らしいものを壊すなんて!」と文明を非難するのが常套手段なんですが、この人たちの場合、保護対象を「破壊・汚染されてしまった異形の自然」として醜悪な姿で描き出し、「このままだとお前らの世界もこうなるぞ」と言っているのが一寸捻くれてますね。高尚なテーマを掲げていても、あくまで露悪的に現実を抉り出し容赦なく目の前に突き付けてくる表現手法は、Throbbing Gristleから脈々と続く"インダストリアル・ミュージック"のコンセプトに忠実です。また、ラブクラフトの「宇宙からの色」を思わせる毒々しくも美しいアートワークは、Jim Cumminsという人の手によるもの。おなじみSteven Gilmoreを起用しなかったのは、音もビジュアルも含め、今までとは違う新しいアルバムを作りたい…という思いがあったためのようです*1

 

 そんな本作は、cEvin Keyいわく「本当の意味でパピーのアルバムだった"VIVIsectVI"に続く作品」だそう*2。確かにメタル・ハードコア色はやや後退しましたが、「Rabies」で獲得した狂犬的テンションの高さをそのまま、「VIVIsectVI」までのエレクトロニクス主体の方法論でフィックスすることに成功しています。さらに、以前の音源よりも重低音が強化され、厚みと迫力を増した結果、その発狂具合がよりダイナミックに伝わってくるようになりました。ヘッドホンで聴くとエグさが段違いです。また、単にハーシュEBM路線に回帰するのではなく、#3の民族的なパーカッションや#5のフレットレスベースなど、より生の楽器を活用した音作りが印象的。そのせいもあってか、激しく電気処理で歪められた音にも関わらず、妙に有機的でグロテスクな印象を受けます。これも「汚染された自然」のメタファーなんでしょうか。

 

 そして、今までも十分に奇抜だったリズムトラックはここに来てさらに混迷を極めています。個人的な1つのキーワードは「痙攣」*3かなと。しゃくりあげるかのように暴走したかと思えば唐突に大人しくなり、次の瞬間にはまた引きつったまま走り出すテンポに、完全に聴き手は置いてきぼり。唯一メタルギターを前面に出した#8ですら、痙攣する神経質なリフのおかげで、一般的なメタルっぽさを完全に払拭しています*4。狂気と正気を瞬間的にスイッチングしながら突き進む展開は非常にスリリングで、先が読めない緊張感にゾクゾクさせられます。このEBMらしからぬ、"突然ブチ切れる"極端な静と動のダイナミクスは、後のNINの2ndやNumbの3rdにも色濃く受け継がれていますね。

 

 それでいて各曲の長さは3~4分台で統一されており、また楽曲ごとの個性も際立っているため、アルバムを通じてダレるということが全くありません。のっけから変則ビート・変態リズムと雷のようなギターノイズを駆使して破壊を極める#1、腐臭を漂わせながら陰鬱に自然の恨み・嘆きを呟く#5、神経質な偏執ダンスビートと美麗なシンセサイザーがせめぎ合う#6や#9、中盤からの疾走がクールな盛り上がりを見せる人気曲#7など、語り始めればキリがないほど粒ぞろい。捨て曲なしの圧倒的な完成度です。

 

  本作を引っさげた2年ぶりのライブツアー*5は、ファンの間ではもはや伝説。ステージ中央には巨大な植物のようなオブジェ(テレビモニターが内蔵され、注射器などが絡みついている)が鎮座し、機材の間にも樹木あるいはツタのようなものが並べられた光景は、どこかゴシック・ホラー調で異様です。オーガさんが終始血みどろなのは平常運転ですが、何といってもハイライトは"Stilt Man"と呼ばれる竹馬スーツによるパフォーマンスでしょう。金属製の拘束具のようなものを手足に装着したオーガさんの、昆虫のようなシルエットはインパクト大で、パピーのドロドロとしたライブのイメージとして真っ先に挙げられることもしばしば。後にマリリン・マンソンが好んで使用したことでも有名で、一般的には竹馬=マンソンのイメージが強いかもしれません*6。この竹馬スーツ、#3のPVにもちょっとだけ登場しています。

 

  PVといえば、本作に関連する映像作品として「Too Dark Park Backing Film」というブートビデオが知られています*7。これはその名の通り、元々はライブ演奏中にステージのバックスクリーンに投影するために制作されたもの。したがって、プロモーション用にオンエアを想定して作られたPVとは性質が異なります。ほとんどが映画のワンシーンやドキュメンタリー映像などを継ぎ接ぎした著作権ガン無視の構成で、映像としての展開らしい展開もありません(ただの背景映像なので)。また当然ながら、本アルバム以外の曲でもセトリに入っている曲には映像が存在しています*8。現在ネット上でよくPVとして紹介されている"Tin Omen"や"Convulsion"のビデオも、実は全てこのBacking Filmの映像*9。とはいえ、Too Dark Park以前にほぼ同じ手法で作られた"Worlock"のビデオ*10だけは、一応公式にPVとして扱われているので、本質的に違いがあるわけではないんですが…。正確に言えば、"Worlock"でやったことを更に推し進めて、ライブ向けの背景映像を作った…というのが実際のところでしょう。

 

 今は亡きEBMファンサイトで、"すでに自縄自縛に陥っていたEBMが見出した唯一の突破口" " EBMの到達点でもあり次への第一歩"と評されていた本作。しかし実際のところ、パピーの影響下からスタートしたダークエレクトロなどの後続組も本作を超えることができず、EBMと同じように自縄自縛に陥っている印象もあるのは皮肉なところ。結局、EBMやその派生ジャンルは、現在に至るまでパピーが提示した"次への第一歩"を踏み出せないままでいるのかもしれません*11。唯一の例外として本作から4年後、すっかりEBMが下火になった頃に、稀代の天才/孤高の暗黒王子がこの突破口を飛び越えて歴史的な一作を産み落とすのですが…。そちらについてはまた別の機会に。

 

Released Year:1990

Record Label:Nettwerk, Capitol Records

 

Track Listing

  1. Convulsion
  2. Tormentor
  3. Spasmolytic
  4. Rash Reflection
  5. Nature's Revenge
  6. Shore Lined Poison
  7. Grave Wisdom
  8. T.F.W.O.
  9. Morpheus Laughing
10. Reclamation

 

 Pick Up!:#3「Spasmolytic」

  EBMともメタルとも異なる、異様なテンションと焦燥感が癖になるシングル曲。タイトルは"鎮痙薬"という意味ですが、1曲目から痙攣激し過ぎたので抑えに来たのかと思いきや、ますます痙攣してますね。この薬、本来は手術等で筋肉を弛緩させるためのものなのですが、依存性があり乱用されるケースもあるらしいです。つーわけで要はドラッグソング。といっても歌詞を見る限り、これはドラッグ断ちの様子を描写している模様です。煙草を切らした喫煙者が貧乏ゆすりをしているかのような、イライラをそのまま具現化した怒涛のドラミングが秀逸。あとこの曲は”Tin Omen”と並んで歌詞のリズム感が素晴らしいと思っています。特に"She sits alone in the worry she's created"の語感とか最高。もはや歌詞を見なくても1曲通して口ずさめるようになってしまいました(キモい)。

 

*1:こちらのインタビューより→http://litany.net/interviews/103190.html

*2:出典→http://litany.net/interviews/aphilt.html 暗に「パピーのアルバムではない」と言われるRabies…。

*3:#1のタイトル"Convulsion"は文字通り"痙攣"を意味します。

*4:ちなみに今回ギターをプレイしているのは"第4のメンバー"ことDave Ogilvie。

*5:前作"Rabies"の時は、アルバム発表後にオーガさんがミニストリーのライブに帯同してしまったため、Skinny Puppyとしてのツアーは行われませんでした。

*6:初出は"Sweet Dreams"のPV。その後ライブでも"Kinderfeld"、"Tourniquet"、"The Nobodies"等の演奏時に使用されているのが確認できます。

*7:詳細はこちら→http://www.skinnypuppy.eu/vault/db_1990.php

*8:逆に、ライブで演奏された曲の分しか映像が用意されていないので、当時のツアーでは披露されなかった#2や#7、#9のビデオは存在しません。

*9:そのグロさが特筆される"Convulsion"のビデオには、「エンゼル・ハート」という映画のシーンが主に使われています。

*10:グロ過ぎるせいで一度もオンエアされたことが無く、また著作権の問題からPV集にも収録されていないという不遇っぷり。

*11:そこも含めて愛おしいジャンルではあるのですが。

Marilyn Manson - Antichrist Superstar

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 全世界の厨二病キッズ御用達のアンチ・ヒーロー、マソソソマソソソの代名詞的アルバム。そのイロモノ的なキャラと良くも悪くもキッズ受けする分かりやすさ、そして近年のグダグダな迷走っぷりもあってか*1、いわゆる「玄人リスナー」あるいは「インダストリアルガチ勢」の皆さんからはソッポを向かれがちなマソソソさんですが、いやいや初期の作品、特にこのアルバムはサウンドメイキングも緻密だし、ちゃんとインダストリアルしてるんですよ…ということで書いてみます。

 

  デビュー当初からトレント・レズナーの息がかかっていたとはいえ、基本的な曲作りの面ではトレントさんはノータッチだった模様。そのせいか、1st完成後にアルバムを聴いたトレントが「聞きたくないだろうけど、正直に言って良いとは思えないんだ」的なことをマンソンに伝え、マンソンも「そうだな、君の言うとおりだ」と謙虚に認めた…という、今の両者からは信じられないような男の友情エピソード(?)もあったりします*2

 

 というわけで、今度こそは「本当に良いレコード」を作るべく、ゼロからトレント×マンソンの共同作業でアルバム制作がスタートしました(結果的に、アルバム中3曲の作曲でトレントさんがクレジットされています。)。しかし、当初からレコーディングは難航。バンド側のモチベーション不足&ドラッグ浸りで曲作りは進まず、プロデューサーのDave OgilvieはTVゲームに夢中で部屋に籠りっぱなし…という有様(何してんすかデイヴ)。苛立ちを募らせたメンバーは次第に破壊的になり、とにかく機材を壊す、メンバーの私物を壊す…といった行動が常態化していきます。特にデイジー・バーコウィッツ*3への風当たりは強かったようで、ドラムマシンは窓から投げ捨てられ、4トラックレコーダーはレンジでチンされ…と散々な目に。あげくトレントがデイジーのお気に入りのギターを嫌がらせでアンプに叩きつけ破壊し、笑って立ち去った…という胸糞エピソードも*4。その結果、アルバム完成前にデイジーは脱退に追い込まれてしまいます*5。最終的にマンソンは、ドラッグに溺れつつ4日間ぶっ続けで起きていた時に、それまで求めていたインスピレーションを得ることに成功。以降、意図的に睡眠不足のハイな状態を作り出して録音に臨むようになります。それを維持するべく、自傷行為や更なるドラッグが追加され…ともうメチャクチャ。まさしく"This is beyond your experience…"って感じですな*6

 

 Trent Reznor/Dave Ogilvieのエンジニア組もかなり狂っていて、レコーディング開始時に「ギターアンプを一切使わない」という謎ルールを自分たちに課していたそうです。安易にアンプに頼らず今までにないサウンドを作ろうという試みだったようですが、おかげでDave Ogilvieは随分苦労させられた模様*7。1曲につき1枚のアルバムを作るような熱意で7~10日間みっちり取り組み、完成したらまた一から次の曲…という工程を繰り返したせいで、疲労もかなりのものだったようです*8。5曲目に入る時点でメンバー全員が疲れでガタガタだったそうで、こんな作業をスタジオで約8か月も缶詰になって続けていれば…当然の帰結として、レコーディング終盤にはメンバー同士の人間関係もボロボロに。結局、アルバム完成前にDave Ogilvieはバンド側から解雇され、ちょうど「ロスト・ハイウェイ」サントラの作業を始めていたトレントと共にアルバム制作から離脱。最終的なプロダクションは、NINで長らくミキシングを務めていたSean Beavanが担当しています*9。レコーディング終盤の時点で、既にトレントとマンソンの間には方向性の違いが生じていたようですね*10

 

  そんな滅茶苦茶のカオスと文字通り血の滲むような努力(?)の中から産み落とされた本作は、マンソンの作品中でも群を抜く緊張感と凶暴性を湛えています。というか常にマンソンの代表作とされながら、明らかにこの人のキャリアの中で一番浮いてるんですよね。それはやはり、曲作りの根幹からトレント・レズナーが関わった唯一の作品だからだと思っています。

 

 個人的な本作のサウンド面での肝は「限りなく生のバンドサウンドに聞こえるインダストリアルメタル」。ミニストリーのように機械的な無機質さ・単調さを前面に出したタイプではなく、中期スキニー・パピーのようにエレクトロニクスを"汚く壊して"使ったタイプのインダストリアルメタルです。ドラムやギターのサウンドを1つ1つ見ていくと判りますが、全体に電気的処理を加えてありながら、生の音以上にグチャグチャドロドロと生々しい質感。喩えるならば、一見してマシンと判るロボではなく、本物の血肉で巧妙に偽装されたサイボーグ(もといターミネーター)…といったところでしょうか。良くも悪くも整理された印象のあるこの後の2作と比べると、より混沌とした印象を受けるのもそのためでしょう。バンドサウンドの上に電子音をフィーチャーしたのか、電気処理されたパーツでバンドサウンドを偽装しているのかの違いですね。

 

 "March Of The Pigs"のあの印象的なドラムが、実は生録音に聞こえるように加工された打ち込みである、というエピソードに象徴されるように、トレントさんはスキニー・パピーの生々しく破壊的なエレクトロニクスの使い方に影響を受けて「The Downward Spiral」を制作しました。その手法を、パピーの音作りの仕掛人だったDave Ogilvieと共に、バンドのプロデュースに適用した結果産み落とされたのが本作…と自分は捉えています。エレクトロニック・ノイズに怒り・情念・狂気を乗せ、本物以上に増幅して吐き出す、そんなアプローチこそが今のマンソンに必要なもの…というトレントさんの判断だったのでしょう。それは目論見通り成功し、本作を以てマンソンは晴れて憎むべき世界の敵として君臨することになるのです。2人の友情を犠牲にして。

 

 先述の通り、ある程度洋楽を聴く人はマンソンを途中で"卒業"してしまい、「いやマンソンとか全然インダストリアルじゃねーしwww」と軽く見られてしまうことも多い印象。確かにそれは間違ってないんですが、少なくとも本作に関しては"ミーハー向け"の烙印を押して無視するにはあまりに巨大なマイルストーンでしょう。何といってもトレント・レズナーとブライアン・ワーナーという2人の天才が本気でエゴをぶつけ合い、周囲の世界どころか2人の絆までも破壊し尽くして生まれた「奇跡の一枚」なのですから。トレントさんの貢献度を鑑みても、これはNINの2ndと3rdの間にある彼の作品の1つ、とカウントしてもいいとすら思っています。凡百のフォロワーバンドはもちろんのこと、本人たちですら間違いなく二度と作り出せない孤高の作品。「マンソンとか高校のとき以来聴いてないなぁ」みたいなそこのあなたも、この機会に改めて聴き直してみては。新しい発見があるかもしれませんよ。

 

Released Year:1996

Record Label:Nothing / Interscope

 

Track Listing

Cycle I - The Heirophant
  1. Irresponsible Hate Anthem
  2. The Beautiful People
  3. Dried Up, Tied And Dead To The World
  4. Tourniquet
Cycle II - Inauguration Of The Worm
  5. Little Horn
  6. Cryptorchid
  7. Deformography
  8. Wormboy
  9. Mister Superstar
10. Angel With The Scabbed Wings
11. Kinderfeld
Cycle III - Disintegrator Rising
12. Antichrist Superstar
13. 1996
14. Minute Of Decay
15. The Reflecting God
16. Man That You Fear
17-98 [blank]
99. hidden track

 

 さて、ここまで個々の楽曲に全く触れずに筆を進めてきてしまったので、久しぶりの以下全曲解説。たまにはサービスサービスぅ!

 

#1:"We hate LOVE !, We love HATE !"という倒錯したコールから幕を開ける疾走曲。サビでのド直球な歌詞とは対照的に、コーラス部分で急に横乗りにチェンジしたりと、実は展開が独特で捻くれてます。ベタベタベタベタ、暑い!ベタベタベタベタ、夏!(空耳)の所の気持ち悪さが個人的に好き。

 

#2:本作からのシングル第一弾。これについては今更語ることすら不要でしょう。"Old-fashioned fascism will take it away !"のシャキシャキした語感がパピーっぽくてナイス。MTVアワード'97での弾けっぷりとか名演は数多ありますが、やはり2000年のFragility TourでNINに乗り込んでコラボした際の演奏を推したいです。会場の盛り上がりも含め、色々と胸アツ。

 

#3:前2曲が強力過ぎるせいでどうしても影が薄いですが、よく聴き込めば味わい深いスルメ曲。コーラス部分のダイナミックなドラミングや、ボディブローのようにじわじわと効いて来るサビの盛り上がり方、ラストで突然顔を出すメタリックなリフが好み。ライブでは珍しくマンソンがギターを持ちますが、そのプレイ意味ある?と突っ込んではいけません。

 

#4:シングル第二弾。次作以降のメロウな展開を予期させる雰囲気を持った、やや控えめな印象の曲。マンソンもこの時期にしては情感たっぷりに歌い上げています(「感情込めすぎ」とトレントにNGを食らい、拗ねてしまったこともあるらしい。子供か。)。この曲はダンサブルなベースラインが肝でしょう。PVは相変わらずエグさ全開で、虫苦手な人は閲覧注意。

 

#5:「作曲にトレント・レズナーが名を連ねた3曲」の1曲目。3分足らずを一瞬で駆け抜けていくパンキッシュな曲ですが、サビのギターリフは一捻り凝っていますし、ブリッジ部分にしっかりブレイクを挟んだりと小技が効いています。NINの"Big Man With A Gun"もそうですが、こういう瞬間的に爆発する曲を作らせてもピカイチなのは流石全盛期のトレントさん。近年になってライブのセトリにも登場したらしいのは驚き(短いから衰えた喉でも歌いやすいんでしょう)。

 

#6:キーボーディストのポゴが1人で作曲した曲(でもメロトロンはトレントがプレイ)。本作の中で最もエレクトロニックかつ不穏な質感のサウンドです。後半の、調子外れでありながら怖さと美しさを兼ね備えたボコーダーの使い方、どこか既視感があると思ったら、パピーの"Worlock"ですねコレは。あと、カルト映画「Begotten」の監督として知られるE. Elias MerhigeによるPVは、曲に違わず超不気味な世界観で素晴らしいです*11

 

#7:「作曲にトレント・レズナーが名を連ねた3曲」の2曲目です。EBMっぽいデケデケシーケンサーが印象的でツボ。ドラムもその辺のドラム缶ぶっ叩いたようなサウンドで良いですね。臓物を引きずっているかの如くグロテスクな曲調といい、コーラスの "You're such a dirty, dirty"の癖になる感じといい、#6と#7の2曲は特にパピーの影響が色濃くて気に入ってるんですが、世間的には人気無いようで残念。

 

#8:最初は完全に捨て曲と思ってほとんど聴いてませんでした。改めて聴くと、80年代ニューウェイブの香りを残す雰囲気は1stの頃のようで嫌いではないんですが、せっかく初期のこけおどし感を払拭したシリアスな本作においては、やはり浮いている印象が否めません。シングルのB面とかでよかったんじゃ…と思ってしまいますね。

 

#9:これも最初はそんなに…という感じだったんですが、今ではそこそこ気に入ってます。よく耳を凝らすと、ヴァース部分のドラミングが地味ながら結構複雑。ちなみに今度はリードギタートレントがプレイしてます。「(アルバム全体を)もっと自分に任せてくれればさらに良くなったはず」と豪語していたトレントさん、意外と出しゃばりですね。最後はお決まりのハーシュノイズに埋める展開でそのまま次曲へ。

 

#10:こちらは隠れた(?)人気曲。本作を引っさげたツアー「Dead To The World」ではオープニングを飾っていました。キリング・ジョークの影響を感じる呪術的なドラミングとダンサブルで小気味良いギターリフ、そしてマンソンの畳みかけるような早口発狂ヴォーカルが癖になります。個人的にも実は#12や#13より好きな曲だったり。ちなみにリードギターを弾いているのはNINのダニー・ローナーです。

 

#11:ある意味アルバム中最もヘヴィで淀んだ空気を持つ曲。サウンドエフェクトはかなり凝っていて聴き応えあるんですが、いかんせん元の曲自体がそこまで…といった感じ。むしろ、あまり面白くない原曲をよくここまで仕上げたな~と評価するべきかもしれません。ライブでは一瞬ですがマンソンがリコーダー(!)をプレイしていて、ある意味必見です(というかあれをプレイと言っていいのか)。色々とんでもないことになってるので。

 

#12:聖書破りパフォーマンスで有名なアルバム表題曲、もとい「暗黒面に堕ちた"We Will Rock You"」。スタジオ盤も壁のように分厚いギターサウンドが結構独特で面白いんですが、こればっかりはやはりライブ音源が本領を発揮しているもしれませんね。この曲には#6と同じ監督によるモノクロのPV(恐らく当時お蔵入りになったと思われる)が存在しており、そちらも必見。余談ですが、"Cut the head off / Grows back hard / I am the hydra"の一節を「頭をぶった切る / 後ろ向きに進むなんてキツイことさ / 俺はヒドラだ」と訳した邦訳はセンス無さ過ぎ*12。「頭を切ってみろよ、(俺はヒドラだから)すぐまた生えてくるぜ」的なニュアンスなんですがねぇ…。

 

#13:これも#1と並んで今や貴重な高速スラッシュ曲。ですが#1に比べると勢いに頼りすぎな感じもあって、ちと飽きやすいのが玉に瑕。ライブ向けの曲といったところでしょうか。実際、当時のライブではマンソンの演説を交えつつ演奏するトリッキーな演出で披露されていました。

 

#14:クライマックスへ向けての箸休め…かは知りませんが、またまたテンションの低いダークな曲。アウトロの反響するピアノをはじめ、不思議な哀愁と浮遊感があってこれ単体だと結構好きなんですが、#12~#16までの流れで見ると、アルバム終盤の勢いを殺しているようにしか思えないのがちょっとアレ。クオリティというより曲順で損してる気の毒な曲ではありますね。

 

#15:「作曲にトレント・レズナーが名を連ねた曲」の3曲目であり、本作の中でもイチオシに大好きな1曲。まずTwiggyのゴリゴリとしたベースラインが既にキマってます。そのベースが主導権を握る抑えたヴァースから、一気に爆発するコーラスの鮮やかな対比はお約束ながらもやはりカッコいい。ブリッジ部分のドラマチックな"Forgiveness ! !"連呼を経ての疑似ライブ歓声、そしてアコースティックパートから最後の爆発へ~の流れは何度聞いても強烈なカタルシスを得られます。ラスト大サビの、もはやノイズと一体化した金切り声のシャウトも堪りません。全編にわたって言うこと無しの、まさに神曲。これをライブのオープニングに持ってきてた全盛期のマンソンって一体…。

 

#16:前曲での爆発を経て始まる最終曲は、まさにアンチキリストのための葬送歌のような1曲。終始背後を漂う不穏なノイズと、これまたトレントさんお得意の寂しげなピアノに導かれ、物語はじりじりと、しかし着実に最後の瞬間へと近づいていきます。「お前の愛した子はいまやお前が恐れる怪物になった」「祈れよ、お前の人生は全て夢に過ぎなかったと祈れ」という歌詞が痛烈。そして最後のサビが終わった後、夢も人生も全てが崩れ落ちていくかのように耳を覆いつくしていくノイズ処理が何とも言えず素晴らしい。NINの"Hurt"と似ているようで全く逆のベクトルを向いた、救いようのないバッドエンドでアルバムは幕を閉じます。最後に子供の声でリピートされる"When all of your wishes are granted, many of your dreams will be destroyed"の一節も絶望的で好きですね*13 。

*1:ちなみに私の場合「Born Villain」はかなり好きです。あれでマンソンもついに復活!と思ったんですが…。

*2:出典①→https://www.theninhotline.com/archives/articles/manager/display_article.php?id=667

*3:初代ギタリスト。創設メンバーの一人であり、曲のほとんどを書いていたバンド初期の功労者です。

*4:出典②→Marilyn Manson's 'Antichrist Superstar': 8 Insane Stories of Drugs, Pain, Pushing Limits | Revolver

*5:そもそもトレントさん、デイジーの作る曲がオールドスクールHR/HM過ぎるという理由で気に食わなかった模様。ACSS完成後のインタビューでも「アイツが曲を書いていた頃はダメだった」的な事をのたまっています(出典①より)。自分はすぐに潰れる豆腐メンタルの癖して、ホント他人に対しては容赦ねぇなトレント…。

*6:ここまでのエピソードについては出典②参照。

*7:本人は「戦争でもやっているようだった」と述懐しています。「だからお前を雇ったんだろ。それこそお前にやってもらいたかったことなんだから」とも言われたそうですが。

*8:この辺りの事情はかつて存在した日本語インタビューサイトに詳しかったのですが、Wayback Machineにもアーカイヴされていなかったので、一部をここに。https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/giesl-ejector/20201010/20201010114635.jpg

*9:英語版wikiより→https://en.wikipedia.org/wiki/Antichrist_Superstar#Recording_and_production

*10:亀裂が決定的になるのは、ACSSのヒットでマンソンが鼻持ちならないビッグスターになり、一方のトレントが本格的にスランプに陥る97年以降のことですが。

*11:というより、シーンの多くは「Begotten」本編からそのまま流用されています。

*12:まぁこれに限らず、本作の邦訳は直訳ばっかりで大概酷いんですが。これだからメタル業界は…。

*13:ちなみに99曲目のシークレットトラックは、サンプリングノイズと語り中心のインタールードなんですが、#16の最後のサンプリングボイスから始まり、#1冒頭のサンプリングボイスに繋がるように編集されています。

TRIAL - 1

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 イギリス出身の"ディストピアン・スラッシュ"*1ユニット、TRIALのデビュー作(1stEP)。このグループの存在はTwitter経由で知りました。"Def Masterみたいな音"と紹介されていたので興味を持ったんですが、蓋を開けたら想像以上のクオリティにぶっ飛ばされましたね。

 

 一聴して耳を惹くのがギターの音作り。ハイファイでソリッドなサウンドを好むメタラーが顔をしかめそうなひしゃげた音で、まるで自主製作のデモ音源のようです。しかし、その80年代ハードコアパンクを思わせるノイジーなギターサウンドで繰り出されるのは、まさに王道を往くスピーディ&スラッシーなリフ。ザクザクと小気味良い刻みを中心に、ツインギターでユニゾンしたり、速弾きソロを展開したりと、どう考えてもパンクシーンからは出てこないであろうスタイルで聴かせてくれます。メタリカやスレイヤーといった超大御所が脳裏をよぎるリフ構成やアレンジは、もはや古典的とすら言えるレベル。5曲20分というトータルタイムをあっという間に駆け抜けていきます。

 

 そこに乗るVo.が醒めきっているのも興味深いところ。実に無機質かつ淡々としていて、吠えたり叫んだりすることが全くありません。感情を排したように低音でボソボソ呟くスタイルは、どちらかと言えば近年のEBMグループのダミ声に近い感じ。ドラムは人力と思われる音ですが、こちらも単調な直線ビートの反復に終始しており、メタル的な手数の多いドラミングよりもプリミティブな質感です。サンプリングの類といった装飾も最小限で、とにかくストイックに研ぎ澄まされた音という印象を受けますね。

 

 ここまで書いてきて思ったんですが、全体的な音像はGodfleshに近いんですよね。特に、ノイジーでざらついたギターの質感はGodflesh(あるいはその影響元であるKilling Joke)にも通ずるものを感じます。ただし決定的に違うのは曲のスピード。このアルバムにはJ.K. Broadrickがナパームデスから脱退した際に、意図的に捨てた"速さ"があります。同じナパームデス脱退組のScorn(初期)にもある程度のスピード感は残っていましたが、このTrialはそれ以上。加えて前述の通り、Godfleshやその一派が絶対にやらないような「王道メタル」のスタイルで無邪気にギターを弾き倒していますから、もう余計に異質。GodfleshがSlayerをカバーしたら…という妄想をそのまま形にしてしまったかのような仕上がりです。

 

  で、調べてみると、このユニットの2人組はそれぞれKhostとPrimitive Knotというバンドのメンバーのようです*2。特にKhostについては、Godfleshとスプリットシングルを出したり、メンバーがTechno Animalにも関わっていたりと密接な繋がりがある模様。ほとんど電気的処理がされていないのにも関わらずこのインダストリアル・ドゥームな空気感は…と思っていたのですが、やはり…という感じですね。

 

 いわゆる"Godflesh系"のバンド群は、メタルよりもポストパンク・ハードコア系統からの影響が強いためか、王道メタル的なスタイルを嫌う(あるいは避ける)傾向が強いという印象があったのですが、このTRIALはそういった照れ隠しが皆無。誰もが通るであろう、メタルを聴き始めた当初の「メタル・キッズの顔」をおくびもなく覗かせています。素直なメタル愛を隠さず、それでいて絶対零度なハードコア、インダストリアル・ジャンクの要素も忘れていないという、個人的には最高のバランスを保っているこのユニット、本作に続く新たな音源も制作中とのことで、今後の動向が注目されますね*3

 

Released Year:2020

Record Label:(self released)

 

Track Listing

  1. Eyes Against Infinite Suppression
  2. Colony Of Trial
  3. Steel Premonition Against Time
  4. Towers Of Short Term Lies
  5. Mannequin Eyes
 

 Pick Up!:#5「Mannequin Eyes」

  比較的スローでヘヴィに始まったと思いきや、1分過ぎから爆速驀進モードに早変わり。終盤は再びテンポを落としつつ、最後はドゥームで不穏なピアノで締めるという凝った展開の曲。「初め五月蠅く、終わりはピアノでしっとり」というのもNIN以降の定番ではありますが、こういうアレンジにもただのメタルで終わらないメンバーの経歴が出てるなぁと感じますね。

2nd Communication - 2nd Communication

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 同じ札幌出身のDRPと並んで「国産EBM」を代表するユニット、2nd Communicationの1stアルバム。メンバーはDossa Yun (programming, voice, sampling)、Toshiani Ishida (sampling, metal machinery, DJ)、Trast C. Howard (voice, sampling, video)の3人。名前からわかる通り、外人1名を含む3人組というちょっと変わった構成のユニットです。1989年にベルギーのEBM系レーベルであるKK Recordsと契約を結び、同年8月にリリースされたのが本作*1DRPのTomoyuki Murashige氏もエンジニアとして参加しています。

 

 このユニットに関する情報はネットでもなかなか見つからないのですが、前回のエントリで取り上げたMIX創刊号にインタビュー記事が掲載されており、非常に貴重な情報源となっています。例えばデビューのきっかけについては、元々メンバーの友人女性が渡欧した際にThe Klinik*2のメンバーに彼らのデモテープを渡し、それをThe Klinikが面白がってKK Recordsのオーナーに聴かせたところ、オーナーがその音源を気に入ったことで契約を持ちかけられた…というのが事の経緯だそうです。当時のEBMシーンにおいてアジア出身のグループはほぼ皆無だったと思われるので、これはなかなかの快挙。デモの時点で、本場の人間も興味をそそる"何か"を持っていたのかもしれません。

 

 本作以前にも、国内インディーズで発表していた自主製作のカセット音源が存在するようですが、その頃の音は先述のインタビュー曰く「ノイズ・アヴァンギャルド(笑)」だったそうで。当時のFool's Mate誌のレビューでは「必死にカレント(Current 93)をやっている」「フィータスばりのジャンク・ビート」などと形容されています*3。その後サンプラーを導入したことで、本作のようなEBM型のスタイルに移行したようです。

 

  そんなバックボーンの影響かは分かりませんが、これが強烈なエレクトロニック・ジャンク。前述インタビュー記事のアオリに「凄絶なエレクトロハードビートには、ミニストリーも顔負け」とありますが、冗談抜きでそのレベルの音を繰り出してきます。当時勃興した数多のEBMユニットの中でも、ミニストリーやリヴォルティング・コックス(及びその周辺ユニット)だけが持っていた"ビートの重さ"を備えているんですよね*4。一音ごとに鳩尾を殴打されるような、ズシリと腹に響くビート感。まさに「Twitch」の1曲目、"Just Like You"のイントロを思い出させる質感がここにあります。 その他、キーボードを連打する姿が目に浮かぶ執拗なサンプリングボイスの挿入や、極端にイコライジングされほぼノイズと化したヴォーカルなども、どことなくリヴコ的。

 

 ただ、こうしたロック的攻撃性を持ちながらも、曲構成はあくまでテクノ的なのがこのユニットの特徴。歌というよりはサンプリング的な使われ方のヴォーカルを始め、曲中にメロディ要素は皆無ですし、先述した音圧の強さを保ったまま、目立った展開もなく徹頭徹尾同じフレーズを反復していくので、アルバム後半はほとんど拷問状態。ぶっちゃけ9分~11分もある#4,5はちとしんどいです。テクノが浮遊感や酩酊感を反復することで覚醒を促すのに対し、暴力的なマシンビートを反復する本作は強制的に肉体をメタモルフォーゼさせられているような…。そういう意味では初期のノイズ・アヴァンギャルド路線を踏襲しているとも言えますし、逆に言えば後年に出現するリズミックノイズ/テクノイズといったジャンルの方が、EBMよりも本質的には近いのかもしれません。それほどストイックで容赦のない音です。

 

 そんなわけでちょっと不愛想なきらいはあるものの、同時代のベルジャンEBMよりも遥かにハードで強烈*5な音は必聴。CDでの入手は難しいですが、実はApple Storeには普通にディスコグラフィが揃ってたりする*6ので、未聴の方はいますぐ聴きましょう(迫真)。ちなみに、2ndアルバムはこの路線を維持しつつCD版では70分越えのボリュームなので、さらに拷問度合いがアップしています。こちらもマストアイテム。

 

Released Year:1989

Record Label:KK Records 

 

Track Listing

  1. Mambo Fucker
  2. Sow Sow The Propaganda
  3. Feed Back
  4. Count Down
  5. Steel & Concrete
 

 Pick Up!:#2「Sow Sow The Propaganda」

 曲単位ではこのグループの中で一番好きかも。やや早めのマーチングビートにデケデケシンベと煽情的なシンセが乗るだけなんですが、1つ1つのパーツが的確にツボを突いた仕上がりで最高です。縦横無尽かつジャストのタイミングで挿入されるサンプリングのセンスにも、リヴコやTKKを思わせる部分がありますね。ちなみに"sow"とは"種をまく、植え付ける"という意味合いの動詞らしく、つまり"Sow Sow The Propaganda"とはソウいうことですな。ソウソウソウソウソウソウ…

*1:札幌出身のエレクトロ/テクノ系アーティストといえば、1993年にベルギーのR&Sと契約しデビューしたKen Ishii(ケン・イシイ)が有名です。そのためか、"ケン・イシイよりも先に海外レーベルと契約したユニット"として語られることもしばしば。

*2:ベルギーの古参EBMユニット

*3:Twitter情報ですが、当該インタビューはこちら。→https://twitter.com/ButtholeGalore/status/1286845748370272258

あとはこんなフォーラムの情報も。→https://www.special-interests.net/forum/index.php?topic=41.0

*4:あとは強いて言うならDessauぐらい?ちょっとベクトルが違いますが。

*5:本人もインタビューで「僕たちの音はフロント242なんかよりも重くて硬い」と発言しています。

*6:こちらに。→https://music.apple.com/jp/artist/2nd-communication/1396730436

とはいえ、今や音楽業界から足を洗ってしまったメンバーの許可を得ているとは考えにくいので、複雑な心境ではあるのですが…。

V.A. - 21st Century Quakemakers Volume 2

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 イタリアのオルタナ系レーベル*1Contempo Recordsのサブレーベル、BBATのレーベルコンピ第2弾。とはいってもBBATの活動はかなり短命で、このシリーズコンピ2枚と12" シングルを数枚リリースしたのみであっさり閉鎖してしまった模様。

 

 そんなマイナー街道まっしぐらなコンピではありますが、EBMマニアにとってはこれがなかなかの好盤。オープニングを飾るPankowはもちろんのこと、そのサイドプロジェクトであるHardsonic Bottoms 3とSanta B. Boysも、本家に負けず劣らず良質なボディビートを聴かせてくれます。特にSanta B. Boysは、とぼけたような電子音と硬質で重めのキックの取り合わせが癖になりますね。Wax Trax!からの外部ライセンスであるKMFDMとThrill Kill Kultも、前者はハードレゲエ・ダブ風味、後者はハウス風味のボディで違和感なくアルバムに溶け込んでいます。

 

 ちなみにこのコンピは、「MIX」*2創刊号のディスクレビューで、あの石野卓球氏が紹介していたことでも知られています。いわく、「はっきり言ってPIASのコンピレーション"エレクトリック・ボディ・ミュージック"*3の百倍良い!」だそうで、揃ったメンツにしても選曲にしても、毒舌家の氏には珍しく(?)手放しで絶賛されております。この当時はまだEBMを好んで聴いていたんですね~*4

 

 実際のところベルギー発の「This is Electronic Body Music」は、表題はEBMと言いつつもその実ポジティブパンク・ダークウェーブと呼ばれるバンドが中心。The Neon Judgemenやà; Grumh...、The Cassandra Complexなど、EBMというよりは"シンセサイザーを導入したゴシックパンク"といった面持ちで、全体的な雰囲気としても仄暗くひんやりとした、ヨーロッパ北部の空気を濃厚に感じる内容でした。

 

 一方の本作を語るうえでのキーワードは、ずばり"アシッド・ハウス"。#3や#9といったモロなグループはもちろん、前述のPankow関連の音源にも共通してアシッドの影響を感じます。TKKがちょうどハウス路線に接近を始めたころの萌芽である#8が収録されているのも象徴的*5。このように、全体を通じてイタロ風味ともいうべき陽性のエネルギー、生命力といったものに満ち溢れているんですね。まさにイタリア・ギリシャといった、温暖なヨーロッパ南部のイメージ。EBMの持つ「躍動する筋肉!迸る汗!」といった肉体性に加え、こうしたハウスムーヴメントの影響が色濃く反映されていた点も、卓球氏の耳を惹いたのではないでしょうか。

 

  イタロハウス風味の牧歌的なEBMがズラリと並んだこのコンピは、さんさんと照りつける太陽の下、ビーチでワインでも飲みながら聴きたい1枚です。そんなシチュエーションでEBMを聴きたくなるのかというツッコミはさておき。

 

Released Year:1989

Record Label:BBAT

 

Track Listing (Artist - Track title)

  1. Pankow - Germany Is Burning
  2. Clock DVA - Hacked (Reprogrammed III)
  3. Unique And Dashan - House Is Taking Over
  4. Hardsonic Bottoms 3 - Mr. Walker (The Convincing Version)
  5. Carlos Perón - A Hit Song
  6. Santa B. Boys - Canaria Canaria
  7. KMFDM - King Kong Dub Rubber Mix
  8. The Thrill Kill Kult*6 - The Devil Does Not The Drugs
  9. The Shamen - Splash 2

 

  Pick Up!:#5「Carlos Perón - A Hit Song」

  70年代末から活動するスイス出身のシンセポップデュオ、Yelloの片割れであるCarlos Perónのソロ作品。この人の経歴には詳しくないのですが、どうもこの時期(80年代末)はEBMブームの波に乗る形でこっち方面に舵を切っていたようです。ですがそこはベテランの意地なのか、アップテンポかつなかなか緊張感のある音で素晴らしい。これ以前はダークウェイブ系の音を鳴らしていたようですが、男声コーラスの使い方などにその名残も感じますね。

*1:一部界隈ではPankow、Clock DVA、Lassigue Bendthaus等が所属していたことで知られていますが、カタログを見ているとPixiesCocteau Twins、Christian Deathなどもリリースしているので、特にエレクトロニック至上主義!というわけでもなさそうです。

*2:「FOOL'S MATE」が邦楽専門誌になった際、それまでの洋楽部門を別冊として独立させて創刊された雑誌。その後の「remix」誌の原型となりました。

*3:文字通りEBMというジャンルを定義付けたといわれるPlay It Again Samのコンピレーション、"This Is Electronic Body Music"のこと。この当時、EBMは"エレクトリック・ボディ・ミュージック"と誤読(正しくはエレクトロニック~)されていたそうですが、ここでもその様子が見て取れますね。

*4:その後アシッドハウスやヒップホップの台頭に伴い、氏の趣味もそちらへ移っていきます。本人曰く「それまでボディ・ミュージックとかも聴いてたんだけど、それがバカバカしく聴こえてしまった」らしい。出典はここhttps://www.redbullmusicacademy.jp/jp/magazine/interview-takkyu-ishino

*5:リミックス前のオリジナルである"First Cut"と比べると、明らかに方向性が変わってきていることがよく分かります。

*6:ご存じの通り、本当は"My Life With The Thrill Kill Kult"なんですが、このアルバムではこういう表記になっています。まぁ無駄に長いし略したくもなるよね(?)

Meat Beat Manifesto - Armed Audio Warfare

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 言わずと知れた「分解/再構築のオリジネーター*1による2ndアルバム…といいつつ、実質的には初期音源をまとめたレアトラック集だったりします*2。元々、"Armed Audio Warfare"というのは1989年に発売が予定されていた1stアルバムのタイトルでした。しかし、マスターテープを保管していたメンバーの友人宅が火事になり、マスターは焼失してしまいます*3。その代替として、初期シングルをズタズタに編集したリミックス集のような形で1stアルバム"Storm The Studio"がリリースされたのは周知の通り。そして本作は、初期シングルのB面曲やコンピレーション提供曲、未発表曲を集め、焼失した"幻の1stアルバム"を疑似的に再現したものとされています。「当初の予定通りに1stが世に出ていればこんなアルバムになった筈」とは英語ライナーノーツの弁。

 

 MBMは時期によってスタイルがかなり異なりますが、インダストリアル・EBMスキーにお勧めするとすれば間違いなく本作を推します。というか、そういう人は最低限このアルバムのみ押さえておけば十分かもしれません。それほどまでに、本作には過激な初期衝動が満ち満ちています。ノイズ成分もかなり強めで、Wax Trax! からリリースされたのも納得の内容です*4

 

 特に凄まじいのが#6~8の一連の流れ。これらは1500枚限定で発売されたデビューシングル"Suck Hard EP"の音源なのですが、中期Skinny Puppyを想起させるほどのノイズの砂嵐が吹き荒れる音像に驚かされます。特にビートすら捨て去った#6は、もはやパワーエレクトロニクスの域。大音量で聴くと覚醒しまくります。ちなみに本作の裏ジャケでは、#6と#7のタイトルが入れ替わって表記されるというミスプリントがあり混乱を生じているので要注意。正しくは#6のパワエレノイズ曲が"Kick That Man"、ビート・ラップ有の#7が"Kneel & Buzz"です*5

 

  その他、初期の代表曲である"Strap Down"の別バージョンである#9では、ウルトラマンの怪獣ジラース*6の声をサンプリングしているなど、全編通じて雑多すぎるほどのサンプリングセンスが光ります。この辺り、元ネタがもっと分かっていればさらに楽しめるんだろうな~と。こういう音楽を聴くときは、いかに多種多様な音楽ジャンルを知っているかという、ある種の教養が試されている感じもありますね(もちろんそんなもの無くても楽しめはするんですが)。

 

  「分解/再構築のオリジネーター」たる彼らの極致という意味では1stアルバムに軍配が上がりますが、全方位に発散される直情的な攻撃性を楽しめるという点ではコチラが上。単なるハーシュノイズ一辺倒のアーティストとはまた違う、とにかくガチャガチャと騒がしい・やかましい音に溺れたい人向けです。インダストリアルは好きだけどヒップホップは…という人も、これなら抵抗なく聴けるんじゃないでしょうか。

 

Released Year:1990

Record Label:Wax Trax! Records / LD Records

 

Track Listing

  1. Genocide
  2. Repulsion
  3. Mister President
  4. Reanimator
  5. I Got The Fear
  6. Kick That Man
  7. Kneel & Buzz
  8. Fear Version
  9. Give Your Body Its Freedom
10. Marrs Needs Women
11. Cutman

 

 Pick Up!:#1「Genocide」

  これも初期の代表曲"God O.D."の未発表リミックス。畳みかけるようなスピード&キレを備えたラップと、スクエアに弾けるようなスネアの組み合わせが堪りません。このバックトラックは本人たちも気に入ったのか、後の3rdアルバム"99%"に収録された"Psyche Out"(アルバムバージョン)にも流用されています。どうでもいい情報ですが、私が普段歩く時のテンポはこの曲とぴったりリズムが一致するので、外出時にはつい聴いてしまう1曲だったり。いやシンクロさせて歩くとホント気持ちいいんですよコレが。

*1:元は藤井麻輝氏が"Actual Sounds + Voices"をレビューした際にMBMを指して使用した言葉らしいです。当該雑誌を所持していないので明確な出典は不明ですが…。

*2:フルレングスと扱うかコンピと扱うかは解釈が分かれますが、英語版wikiとdiscogsでは2nd扱いとされているので本記事ではそれに倣いました。

*3:詳しい経緯はこちらのインタビュー→The Quietus | Features | A Quietus Interview | "An Amazing Drug Like Quietus": Jack Dangers Of Meat Beat Manifesto Interviewed を参照のこと。

*4:後にジャケを変えてMuteからもリリースされています。

*5:字面としては何となく逆の方がしっくりくるんですけどね…。

*6:アップロード時レッドキングと勘違いしていましたが、正しくはジラースの声でした。過去にTwitterでも呟いておきながら、当の本人が忘れているとはお恥ずかしい…。