2nd Communication - 2nd Communication

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 同じ札幌出身のDRPと並んで「国産EBM」を代表するユニット、2nd Communicationの1stアルバム。メンバーはDossa Yun (programming, voice, sampling)、Toshiani Ishida (sampling, metal machinery, DJ)、Trast C. Howard (voice, sampling, video)の3人。名前からわかる通り、外人1名を含む3人組というちょっと変わった構成のユニットです。1989年にベルギーのEBM系レーベルであるKK Recordsと契約を結び、同年8月にリリースされたのが本作*1DRPのTomoyuki Murashige氏もエンジニアとして参加しています。

 

 このユニットに関する情報はネットでもなかなか見つからないのですが、前回のエントリで取り上げたMIX創刊号にインタビュー記事が掲載されており、非常に貴重な情報源となっています。例えばデビューのきっかけについては、元々メンバーの友人女性が渡欧した際にThe Klinik*2のメンバーに彼らのデモテープを渡し、それをThe Klinikが面白がってKK Recordsのオーナーに聴かせたところ、オーナーがその音源を気に入ったことで契約を持ちかけられた…というのが事の経緯だそうです。当時のEBMシーンにおいてアジア出身のグループはほぼ皆無だったと思われるので、これはなかなかの快挙。デモの時点で、本場の人間も興味をそそる"何か"を持っていたのかもしれません。

 

 本作以前にも、国内インディーズで発表していた自主製作のカセット音源が存在するようですが、その頃の音は先述のインタビュー曰く「ノイズ・アヴァンギャルド(笑)」だったそうで。当時のFool's Mate誌のレビューでは「必死にカレント(Current 93)をやっている」「フィータスばりのジャンク・ビート」などと形容されています*3。その後サンプラーを導入したことで、本作のようなEBM型のスタイルに移行したようです。

 

  そんなバックボーンの影響かは分かりませんが、これが強烈なエレクトロニック・ジャンク。前述インタビュー記事のアオリに「凄絶なエレクトロハードビートには、ミニストリーも顔負け」とありますが、冗談抜きでそのレベルの音を繰り出してきます。当時勃興した数多のEBMユニットの中でも、ミニストリーやリヴォルティング・コックス(及びその周辺ユニット)だけが持っていた"ビートの重さ"を備えているんですよね*4。一音ごとに鳩尾を殴打されるような、ズシリと腹に響くビート感。まさに「Twitch」の1曲目、"Just Like You"のイントロを思い出させる質感がここにあります。 その他、キーボードを連打する姿が目に浮かぶ執拗なサンプリングボイスの挿入や、極端にイコライジングされほぼノイズと化したヴォーカルなども、どことなくリヴコ的。

 

 ただ、こうしたロック的攻撃性を持ちながらも、曲構成はあくまでテクノ的なのがこのユニットの特徴。歌というよりはサンプリング的な使われ方のヴォーカルを始め、曲中にメロディ要素は皆無ですし、先述した音圧の強さを保ったまま、目立った展開もなく徹頭徹尾同じフレーズを反復していくので、アルバム後半はほとんど拷問状態。ぶっちゃけ9分~11分もある#4,5はちとしんどいです。テクノが浮遊感や酩酊感を反復することで覚醒を促すのに対し、暴力的なマシンビートを反復する本作は強制的に肉体をメタモルフォーゼさせられているような…。そういう意味では初期のノイズ・アヴァンギャルド路線を踏襲しているとも言えますし、逆に言えば後年に出現するリズミックノイズ/テクノイズといったジャンルの方が、EBMよりも本質的には近いのかもしれません。それほどストイックで容赦のない音です。

 

 そんなわけでちょっと不愛想なきらいはあるものの、同時代のベルジャンEBMよりも遥かにハードで強烈*5な音は必聴。CDでの入手は難しいですが、実はApple Storeには普通にディスコグラフィが揃ってたりする*6ので、未聴の方はいますぐ聴きましょう(迫真)。ちなみに、2ndアルバムはこの路線を維持しつつCD版では70分越えのボリュームなので、さらに拷問度合いがアップしています。こちらもマストアイテム。

 

Released Year:1989

Record Label:KK Records 

 

Track Listing

  1. Mambo Fucker
  2. Sow Sow The Propaganda
  3. Feed Back
  4. Count Down
  5. Steel & Concrete
 

 Pick Up!:#2「Sow Sow The Propaganda」

 曲単位ではこのグループの中で一番好きかも。やや早めのマーチングビートにデケデケシンベと煽情的なシンセが乗るだけなんですが、1つ1つのパーツが的確にツボを突いた仕上がりで最高です。縦横無尽かつジャストのタイミングで挿入されるサンプリングのセンスにも、リヴコやTKKを思わせる部分がありますね。ちなみに"sow"とは"種をまく、植え付ける"という意味合いの動詞らしく、つまり"Sow Sow The Propaganda"とはソウいうことですな。ソウソウソウソウソウソウ…

*1:札幌出身のエレクトロ/テクノ系アーティストといえば、1993年にベルギーのR&Sと契約しデビューしたKen Ishii(ケン・イシイ)が有名です。そのためか、"ケン・イシイよりも先に海外レーベルと契約したユニット"として語られることもしばしば。

*2:ベルギーの古参EBMユニット

*3:Twitter情報ですが、当該インタビューはこちら。→https://twitter.com/ButtholeGalore/status/1286845748370272258

あとはこんなフォーラムの情報も。→https://www.special-interests.net/forum/index.php?topic=41.0

*4:あとは強いて言うならDessauぐらい?ちょっとベクトルが違いますが。

*5:本人もインタビューで「僕たちの音はフロント242なんかよりも重くて硬い」と発言しています。

*6:こちらに。→https://music.apple.com/jp/artist/2nd-communication/1396730436

とはいえ、今や音楽業界から足を洗ってしまったメンバーの許可を得ているとは考えにくいので、複雑な心境ではあるのですが…。