Sielwolf - Nachtstrom

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 ドイツのインダストリアルバンドの2ndアルバム。元々は93年にCashbeatというドイツのレーベル*1からリリースされていたアルバムを、同じくドイツのVan Richterというレーベルが97年に米国向けに再発したもの。オリジナルは全13曲、70分超えのボリュームだったのですが、再発に当たって収録曲が整理され幾分コンパクトになっています。ここで外された曲は、同時にVan Richterから再発されたシングル「Magnum Force」に追加されているので、そちらと併せて聴くことでコンプできます。ちなみにプロデュースは元YelloのCarlos Perón*2。ジャケット写真はカルト映画「ヴィデオドローム」のワンシーンからの引用です。(これは「Magnum Force」も同様。)

 

 90年代のインダストリアル・シーンでは、EBMを出発点としつつも、よりノイジーさを強めて独自の暗黒世界を構築するグループが存在していました。先駆者であったSkinny Puppyの沈黙以降も、その遺志を引き継ぐかのように、カナダのNumbやDecree、ベルギーのDive/Sonarなどが頭角を現しています。これらのグループが提示したサウンドは、その後ミニマルなテクノと結びつき、"リズミックノイズ/パワーノイズ"あるいは"テクノイズ"などと呼ばれるようになりました。

 

 そして今回取り上げるこのSielwolfは、あくまでロックバンドの形態をとりつつも、そういったユニットと同じベクトルの暗黒世界を志向しているように思えます。Van RichterのHPに掲載されているバイオグラフィーでは"METAL NOISE"という表現をされていました*3が、まさに"ノイズ・メタル"にあらず"メタル・ノイズ"としか呼べない、「ハーシュノイズ/ダークアンビエント主導のメタルバンド」という異形の悪夢的音像を見せてくれます。

 

 とにかく1音1音の重みと圧が凄いのなんの。アルバム序盤こそ、無慈悲なリズムマシンの反復で強制的に躍らせる#1や、超重量級サウンドで狂気へひた走る#2など、比較的キャッチーな縦ノリの曲もありますが、むしろ彼らの本領発揮は3曲目以降。強力な音圧でビリビリと唸るベースに、サンプリング音や金属音、そしてハーシュノイズが幾重にも重ねられたメタル/ダーク・アンビエントが展開されます。特に#4は、工場内部を思わせるドゥーミーな前半から一転、鉈のように振り下ろされるギターと削岩機と化した鉄槌ビートが襲い来る、まさにメタル・ノイズな一曲。

 

 さらに10分越えの#6は、廃墟でフィールドレコーディングしたような環境音から始まり、じわじわとノイズの壁が押し寄せ、その中にホラー映画のスコア由来とおぼしき不穏な旋律が聴こえてくる瞬間がたまらなくカタルシス。こういったアンビエント調の曲はほとんどPrurientやRamlehの域で、もはやバンドらしさといったものは完全に皆無です。一方、箸休め的な浮遊感を醸す#8では、ひんやりシンセに突然EBMっぽいシンセベースが飛び出すなど引き出しも多く、ノイズ一辺倒で飽きさせることがありません。

 

 先述したVan RichterのHPには本人たちへのインタビューも多数掲載されており、いわく中心人物の1人は5年ほど精神科に分析医として勤務していた経験がある模様。インタビュー中でも「自分たちの音楽はサイコハイジーン(Psychohygiene:精神衛生学)のようなもの」と繰り返しており、闇を抱えすぎて心が壊れる前にそういったものを吐き出し、取り除いていく一種のセラピーのようなもの…と説明しているようです*4

 

 ネット上のレビューではNeubauten×Godflesh、的な紹介をされることが多いようですが、どちらかと言えばメタルを取り入れたPrurient、ぐらいの方が近いと思います。とはいえこのバンドの強迫観念の凄まじさと、静/動のコントラストの過激さはちょっと他に思い当たるグループが無く、簡単には模倣も追従もできない異端のグループであることは間違いないです。CDもそこまで入手難ではないようですし、Bandcampでも配信されてますので*5、インメタ好きにもパワエレ好きにもこれを聴かずして死ぬな!と触れて回りたい1枚。超オススメ。

 

Released Year:1997

Record Label:Van Richter

 

Track Listing

  1. Korrosion
  2. Verstärker Zerstört
  3. Embryo
  4. Nachtstrom
  5. Brushed Steel
  6. Freitag (1:54)
  7. Embryonal
  8. Vengessen
  9. Ghost Track

 

 Pick Up!:#2「Verstärker Zerstört」

  爆発音をサンプリングして加工したような圧搾ビートと、耳をつんざくハウリングノイズ&メタパーで構築されたリフレインで掴みは完璧。疾走する演奏とチェーンソーのサンプリング、そして狂気の形相で喚き散らすしゃがれヴォーカルが絡み合い、果てしなく暴走する重戦車のような迫力が凄まじいです。ある意味で本来のインダストリアル・ミュージックの趣旨に忠実な、"正しくインダストリアル・メタルしている曲"ともいえるでしょう。冒頭にMCらしい声が入ってますが、もしかしてライブ録音なんでしょうか?

*1:初期のKMFDMやSwamp Terroristsの作品もここから出ていました。

*2:この縁があってか、Carlos Perónのソロ作品にSielwolfがリミックスを提供したりもしています。

subculturerecords.bandcamp.com

*3:出典:https://vanrichter.net/siel_bio.html

*4:出典:https://vanrichter.net/interviews/siel9_int.html 「歯医者に行くハメになる前に毎日歯を磨くようにね」などとのたまっていますが、いや、君らの"歯磨き"重すぎでしょ…

*5:Van Richter公式にもありますが、オリジナルの曲順かつCarlos Perónがリマスターしたバージョンも別で配信されているようです。

subculturerecords.bandcamp.com