Skinny Puppy - VIVIsectVI

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Released Year:1988

Record Label:Nettwerk, Capitol Records

 

Track Listing

  1.Dogshit

  2.VX Gas Attack

  3.Harsh Stone White

  4.Human Disease (S.K.U.M.M.)

  5.Who's Laughing Now?

  6.Testure

  7.State Aid

  8.Hospital Waste

  9.Fritter (Stella's Home)

10.Yes He Ran

11.Punk in Park Zoo's

12.The Second Opinion

13.Funguss 

 

 初期の彼らの到達点であり、ここからがいよいよ彼らの本領発揮。1stの清涼感あるシンセ、2ndの変則的なビート感、3rdの暗黒で淀んだ空気を融合させ、ノイズの海で漂白させたような感じ...とでも言いましょうか。これまでのダークさはそのままに、ビートはより機械的に、サンプリングはより緻密に、ノイズはより苛烈に、そして曲構造はより複雑怪奇に変貌。タガどころか関節が外れたかのような独特の異形っぷりは、もはや「エレボディ」というより「エレクトロニック・ジャンク」という表現がしっくりくる内容となっています。

 

 のっけからハーシュノイズで幕を開ける#1は、オーガさんのVo.も甲高く叫びまくりで、スローテンポながら掴みは抜群。#4は腐りきったジャンクビートが突如整然としたボディビートへと転換する構成が見事。アルバム本編を締めるインスト曲#9での、サンプリングボイスを交えた不穏な静寂に強烈なビートが切り込んでくる展開などは、驚異・戦慄という二重の意味で鳥肌ものです。この曲をはじめとするホラー映画風の不気味な空気感は、3rdアルバムを通過したからこそ演出できたものでしょう*1

 

 こうして説明していくと難解な内容かのように思われそうですが、ネット上での評判を見ていると「ポップになった」「聴きやすくなった」という声が多いです。これはつまり、以前より「わかりやすい壊れ方」をするようになった、という意味合いではないかと。ポップスとは違う、"過激な音楽"としての判り易さといいますか...。

 

 3rdまでのパピーは、"80年代の"ポストパンク・インダストリアル然とした、一種冷めたような淡々とした空気感を引きずっていた部分があり、そこがインダストリアルメタルを好む層などからすると「わかりにくい」ポイントになっていたと思われます。しかし本作における、一聴しただけで気付けてしまう音の強烈さ・パラノイアな構成は、明らかにそれ以前の作風とは一線を画し、90年代以降のインダストリアルに繋がるものです。

 

 それに加え、ドラッグ中毒をテーマとした#3や、前作からのシングル曲"Addiction"の発展形ともいえる#6では、以前からの持ち味だった寂寥感や哀愁といったものも健在で、喧しいだけで終わらせないフックを与えています。これらの曲でベールのように被せられたシンセの音は、同時にケミカルで無機質な印象も高めており、先述した狂気と相俟って「人ならざるもの」感を強く打ち出しているように思えますね。ゾンビで例えると、3rd以前が墓地の地面の下から這い出てくる、有機的に"腐敗"したタイプ、本作は廃工場・廃病院から出現する、無機的に"汚染"されたタイプ...つまり「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」と「バイオハザード」の違いといったところでしょうか(?)。

 

 #10~13はCDのみのボートラで、シングルB面曲が中心ということもあってやや実験的。そんな中でも#11では、後のリズミックノイズにつながるような音を鳴らしていたりするのが興味深いです*2。また、B面曲でない#13はCD版のみの収録。


 音以外にも目を向けると、これ以降顕著になる傾向として、オーガさんによる言葉遊びというか造語遊びが挙げられます。まず、アルバムタイトルはVivisecion(生体解剖)と666(ローマ数字にするとVIVIVI)を引っかけていますし、TestureはこれまたTestとTortureをかけた造語(PVもそのまんまTest+Tortureな内容)。本作のコンセプトとして"Anti-Vivisection"(反動物実験)が根底にあるのは有名ですが、そういったものを曲に落とし込む手法として造語が効果的に使用されていますね。

 

 こうしたメッセージ性が明確になっていくにつれて、ステージパフォーマンスがさらに大がかり且つ過激になり始めたのもこの頃。当時の映像は不鮮明ながらネット上で見ることができますが、

・オーガさんが白衣を着て犬の死体(*どう見てもぬいぐるみ)を弄ぶ

​             ↓

・突然謎の被り物をした研究者?(*スタッフ)が現れオーガさんを拘束

​             ↓
・ステージ上に金属製の檻?が組まれ、研究者がオーガさんを上に座らせる

​             ↓
・オーガさんが檻の上から飛び降りて逆さ吊りに

​             ↓
・なぜか拘束が解け、半狂乱になったオーガさんが客席に乱入...しかけたところを研究者が取り押さえて退場。ライブ本編は終了し、アンコールへ

というのが、クライマックスにおける一連の流れです*3。一応、動物実験をしていた研究者が怪物化した動物によって実験台にされる...という"Testure"のPVと同じ流れにはなっているんですが、こうやって文章化しても意味不明だと思うので、実際の様子はぜひ各位で確認してみてください(投げやり)。

 

 ちなみに、不気味でありながら美しいアートワークは例によってSteven R. Gilmore作ですが、これはブリティッシュコロンビア大学に勤めていたGilmore氏の友人から、廃棄されるレントゲン写真を横流ししてもらって製作したそうな*4。人間の手のレントゲン写真をバラバラに解体・再構築して作り上げたらしいですが、果たしてどこをどう弄ったらこうなるのか...。コンセプト面だけでなく、"過剰なカットアップ・コラージュ"という意味でもアルバムの内容に忠実な、名ジャケットだと思います。

 

 1988年という「Electronic Body Music」が提唱された年に、Ministryの3rdと並んで次なる一手を投じていた彼らの革新性には驚かされますし、このアルバムが持つ衝撃度は30年が経った今もなお有効ではないかと思っています(流石に音圧とかの面では劣りますけど...)。"EBMグループ"としての彼らの集大成。

 

 ちなみにNEWSWAVE誌のレビューでは「内容は素晴らしいが、方法論としてはMinistryが"Twitch"で見せたものと変わらない。ついにEBMも成熟を迎えたのか」という趣旨のことが書かれていたりします*5。その点に関しては彼らも自覚していたのか、以降はEBMという範疇を飛び越えて、さらに孤高の道を突き進むこととなります。それについてはまた次のレビューで。

 

 Pick Up!:#1「Dogshit」

 本文にも書きましたが、ノイジーな凶暴さと取っつき易さが同居したアルバムのリードトラック。規則的なようで微妙に反復を避けながら進んでいくリズムも癖になりますが、なんといっても中盤にギターが入ってからの展開が最高に盛り上がります。ここのギターの使い方、ちょっと"One Time One Place"と似てるかも。

*1:余談ですが、途中の台詞パートが「あ、バイト出ません」と聞こえるのは私だけ...?

*2:実はこの曲、シングルの"Censor"収録版とはバージョンが異なります。といってもアウトロの処理が微妙に違うだけですが...。言われなきゃ気付かないレベルの差異です。

*3:これのバックでは、cEvinとDwayneによるカオスな即興演奏が繰り広げられます。

*4:英語版wikiより。https://en.wikipedia.org/wiki/VIVIsectVI#Artwork

*5:確かに#2のドラムパターンが"Over The Shoulder"とよく似ていたりと、影響された部分もあるとは思いますが...。