Numb - Language Of Silence

 

 カナダのエレクトロ・インダストリアルユニットの6thアルバムにして活動休止前の最終作。この作品とシングル「Suspended」を出した後、翌1999年にNumbは解散。Don Gordonは2000年にHalo-Genという別名義で1枚アルバムを出すも、ほどなくしてベトナムへ移住。以降20年に渡って沈黙してしまいます。

 

 5thアルバム「Blood Meridian」のレビューでも述べたとおり、実は先にレコーディングされていたのは本作。どうも当時の所属レーベルKK Recordsとの"legal issues"(ボツを喰らった?)があったようで発売が出来ず、急遽「Blood Meridian」が制作されました*1。その後KKとのトラブルもありレーベルをZoth Ommogに移したことで、お蔵入りしていた本作も一部手直しのうえ*2無事発売と相成ったようです。そのため前作から1年足らずという非常に短いスパンでのリリースとなりました。

 

 というゴタゴタを経た本作、幾重にも重ねられたレイヤー処理や綿密なサンプリング、サイバーな音作りはFLAの「Hard Wired」を彷彿とさせるものがありますが、大胆にトランスやテクノイズへ接近していた前作と比べると全体的にマイルドで地味…という印象が先行します。しかし聞き込んでいくとこれがなかなかスルメ盤。ダブ的な要素もある#3は最初長くてタルいだけだったんですが、サビのボコーダーの美しさ(使い方がSkinny Puppyの"Worlock"のよう)に気付いてからは結構楽しめるようになりました。これはインスト曲#8,10も同様で、宇宙を思わせるような独特の浮遊感(それでいて不気味かつ不穏なのは流石)は本作の持ち味の1つと言えそうです*3

 

 また#4や#6など、ハイテンポなドラムンベース的要素の導入もこの時点で試みがなされており、この辺りは「Blood Meridian」の方でさらに昇華されていきます。当然Numbお得意の粘着質・吐き捨てボイスな曲も#1,5,7,9など健在。前作ほどの強烈なノイズ処理はありませんが、そのぶん新ボーカルDavid Collingsのパワフルな仕事ぶりがよく判る感じです。

 

 攻撃的でノイジーな作品の後に、大人しめだけど構成力で魅せる作品が続くのは3rd「Death On The Installment Plan」/ 4th「Wasted Sky」の時を思わせますが、あちらがやり切った後の新路線模索だったのに対し、今作は次回作(であり前作)「Blood Meridian」へ至るまでの過渡期という印象。しかしインパクトは弱めながら総じてクオリティは高く、90年代後半のサイバーなインダストリアル系が好きな方にはお勧めできる作品です。最新作「Mortal Geometry」はほぼ本作の延長線上にある音ですので、そちらから入ってきた方も是非。

 

Released Year:1998

Record Label:Zoth Ommog, Metropolis

 

Track Listing

  1. Respect
  2. Suspended
  3. Deviation
  4. Illumination Rounds
  5. No Remorse
  6. Closer
  7. Defiler
  8. Benthos
  9. Immolate
10. Distorted Relations

 

 Pick Up!:#2「Suspended」

 本作の中では群を抜いてノリノリでキャッチーなラストシングル曲。デジタルシンセとサビで登場するギターリフの絡みはベタですが、否応なくテンションをブチ上げてくれます。ちょっとCubanateっぽい雰囲気も感じますね。Don Gordonは活動初期から一貫して、この手の「シンプルだしヘヴィでもないけど、とにかくフックの強い切れ味のあるギターリフ」を作らせたら天才だな~とつくづく思います*4。本人も「元々はギタリストだからね*5」と言ってますし。

 

*1:ソースはこちら→Interview: Numb - 5/7/98 

*2:ライブ映えしない曲はボツにした、と上記インタビューで語っています。

*3:#8のタイトルは"(水中の)底棲生物"を意味するので浮遊とは無縁なんですが。

*4:"God Is Dead"や"Right..."といった曲に顕著ですね。

*5:ソースはここ→Band Interviews Numbを始める前にやっていたシンセポップバンドImage in Vogueのこと。このバンドにはSkinny PuppyのcEvin Keyもドラムで参加していました。