攻撃的でノイジーな作品の後に、大人しめだけど構成力で魅せる作品が続くのは3rd「Death On The Installment Plan」/ 4th「Wasted Sky」の時を思わせますが、あちらがやり切った後の新路線模索だったのに対し、今作は次回作(であり前作)「Blood Meridian」へ至るまでの過渡期という印象。しかしインパクトは弱めながら総じてクオリティは高く、90年代後半のサイバーなインダストリアル系が好きな方にはお勧めできる作品です。最新作「Mortal Geometry」はほぼ本作の延長線上にある音ですので、そちらから入ってきた方も是非。
と言いつつ、このアルバム自体は非常に短期間でレコーディングされた模様。実は先行して別のマテリアルを新作として出す予定だったのが、KK Recordsとの"legal issues"により発売ができない状態に。当初のリリース日に間に合わせるために、急ピッチで制作されたのが本作…ということのようです*1。ここでお蔵入りした音源は、その後6thアルバム「Language Of Silence」としてリリースされることになります。
Numbはアルバムにおけるインスト曲の比率が高くて取っ付きにくい部分もあるのですが、本作は全編通じて緊張感をキープしており、フックもはっきりしているので音像のわりにはキャッチーだと思います*2。6分越えの曲がほとんどだったりして尺は長いのですが、あまりダレることなく聴き通せるのは素晴らしい。特にトランスを取り入れた#1,5のダンサブルな展開はまた一つ殻を破った感じです。まさに「Death On The Installment Plan」と双璧をなす、後期の傑作と言えるでしょう。
Released Year:1997
Record Label:KK Records, Metropolis
Track Listing
1. Blind 2. Dirt 3. Blood Meridian 4. Stalker 5. Desire 6. Critical Mass 7. No Time 8. Alien Hand 9. Deserted 10. Spasm
Joy Divisionの"Isolation"と並んでEBM界隈のクラシックとして人気がありそうな、The Normal=ダニエル・ミラーのカバー#4*2や、この人たちには珍しく(当時流行りの)インダストリアルメタルに目配せをしたような#8などもあり、マニアックながらなかなか捨て置けないアルバムです。個人的には肉厚なハンマービートとメタパーの掛け合いが楽しい#3がお気に入り。とにかくDiveやVomito Negro、Insektが好きな方なら問題なくハマれる音でしょう。無駄にレア化しているので、見つけたらマストバイです。
Released Year:1992
Record Label:Zoth Ommog / Cleopatra
Track Listing
1. Nerve Damage 2. There's Nothing Real 3. Fuck You 4. Warm Leatherette 5. This Is Not America 6. Hypnosis (Dubmix) 7. Burn Baby Burn 8. Blok 57 9. Homecoming 10. Crush (Softmix)
Pick Up!:#9「Homecoming」
本レビューのために聴き直していて気付いたんですが、これDiveの「We Rule The World」ですね。歌詞は違うものの節回しとリズムがそっくり。Vo.もDirk IvensのハーシュボイスなのでDiveをそのままEBM化したような雰囲気です。意識的にセルフカバーしたのか単なる手癖なのか何とも言えないところですが…。
アメリカのEBM/インダストリアルロックユニットのコンピレーションアルバム。このバンドは80年代後半のEBMブームに乗って何枚かシングルをリリース後、1stアルバム「Exercise In Tension」を発表。しかしその後6年ほどブランクを挟み、すっかりEBMも廃れた95年に2ndアルバム「Details Sketchy」を出しましたが後が続かず解散してしまいました。このコンピは2ndアルバムの後、バンドの軌跡を総括するベスト盤的アイテムとして出たものです。88~90年のシングル収録曲(#2,5,11,12)、1stアルバム「Exercise In Tension」の曲(#4,6,8)、そして1stアルバム後にレコーディングされながらもお蔵入りしていた未発表曲(#1,3,7,9,10)をまとめた、お得な1枚。基本的には彼らの特徴である「分厚いドラムマシンと主張強めなベースライン+野郎の野太いシャウト」というカラーで統一された良作です。
1. Suffer 2. Thanksgiving 3. Spinning On My Head 4. Move Seoul 5. Skeletons By Nature 6. Isolation 7. Cull 8. No Way 9. Sun 90 10. Party Zone 11. Beijing 12. Unshakeable Remix
以前紹介したコラボバンド、TRIALの片割れがやっているインダストリアルメタルバンドのアルバム。これがTRIALに負けず劣らず素晴らしい快作でした。ザラザラとしたノイズ交じりのギターサウンドはTRIALと同じですが、速さ重視のスラッシュというよりはミッドテンポのオルタナっぽいリフが多い印象。こういう音はすぐにGODFLESHと結びつけられそうだけど、どちらかと言えばジャスティンが昔ドラムを叩いてたHead Of David*2の音に近い気がしています。タイトル曲#3の疾走感と王道なギターリフ*3が鬼カッコいいので是非これだけでも聴いてみて欲しいところ。
相も変わらず精力的に活動を続けるクルップス、今回は丸ごとカバーアルバムです。元ネタはやはりEBM中心かと思いきや、QueenやBlue Öyster Cult等、本人たちが少年時代に聞いていたであろうグループまで引っ張り出してきたりと、なかなか多彩。基本はいつものクルップス節なボディ色に染め上げられていますが、Gang Of Fourのカバーではアンディ・ギルの"あのギター"をかなり忠実に再現しているのが面白いです。しかもドラムはKJのポール・ファーガソン(!)。
JD Twitch主宰の復刻専門レーベル「Optimo Music Archiv」より、初期KK Recordsに所属していたベルギーのEBM/ニュービートユニット、The Force Dimensionがリマスター再発されていました。前に当ブログで紹介したFatal Morganaにも似たベルジャン・ニュービートで素晴らしい内容ですので、こちらも是非。
Electronic Body Music、略してEBM。80年代後半から90年代前半にかけて勃興したこのジャンルを一言で説明するのはとても難しいのですが、個人的には「テクノみたいなロック、もしくはロックみたいなテクノ」と解釈しています。すなわち、「無機質で強迫的なビート」「ブリブリと肉感的なシンセベース」「ざわざわしたダミ声ボーカル」「各種ノイズや金属音」といったパーツを駆使して、"80年代まで"のエレポップやテクノポップよりも"凄み"を効かせた電子音楽。結果、テクノというには生々しいし、ロックというには電子的すぎる…*1という不思議なジャンルが誕生したわけです*2。
こちらのアルバムもタイトル通りのダークな作風ですが、この曲は若干ダンサブルかつキャッチーで取っ付きやすいかと。偏執的に作り込まれた独特のサウンドスケープは、かのNine Inch NailsやMarilyn Mansonが直接的に引き継いだとも云われています。更に90年代以降のEBM/インダストリアル界隈はもちろんのこと、DeftonesやKoЯnといったニューメタル系からもリスペクトを集めるなど、後世への影響の大きさは計り知れず。まさに知られざる暗黒帝王と言えるでしょう。