EBM(エレクトロニック・ボディ・ミュージック)を聴くならまずはコレ!な入門用リスト

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 今回は基本に立ち返って、「最近EBMって言葉を知ったけど、どういうジャンル?何から聴けばいいの?」という方のために、入門にふさわしいであろう代表的なグループと、その名曲・名盤をセレクトしてみました。とりあえずこの辺を一通り押さえておけば、今日からあなたも立派な"EBM通"です。

 

そもそもEBMって何?

 Electronic Body Music、略してEBM。80年代後半から90年代前半にかけて勃興したこのジャンルを一言で説明するのはとても難しいのですが、個人的には「テクノみたいなロック、もしくはロックみたいなテクノ」と解釈しています。すなわち、「無機質で強迫的なビート」「ブリブリと肉感的なシンセベース」「ざわざわしたダミ声ボーカル」「各種ノイズや金属音」といったパーツを駆使して、"80年代まで"のエレポップやテクノポップよりも"凄み"を効かせた電子音楽。結果、テクノというには生々しいし、ロックというには電子的すぎる…*1という不思議なジャンルが誕生したわけです*2

 と書いても伝わりにくいと思うので、こんな駄文はさっさと飛ばして実際の音源を聞いてみましょう。

 

 

Ministry (アメリカ)

Over The Shoulder (1986年/2ndアルバム「Twitch」に収録)

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 いわゆる「インダストリアルメタル」の代表格としても有名なグループですが、活動初期はギターを使わず電子音中心のEBMをやっていました。EBMというジャンルの音を定義したともいわれる作品ですので、入門にまず1枚選ぶならこの「Twitch」からどうぞ。一般的なテクノとは違うプリミティブな重量級ビートと、リズミカルな金属音*3に注目してみてください。

 

You Know What You Are (1988年/3rdアルバム「The Land Of Rape And Honey」に収録)

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 「Twitch」の次に出たアルバムから。この頃からギターも使い始めて「インダストリアルメタル」というジャンルが生まれた…とも言われていますが、アルバムの後半はこんな感じのEBMが主体だったりします。ボーカルのエフェクトをはじめ、上の曲と比べて音が攻撃的・狂気的になってきていますね。1枚でインダストリアルメタルとEBMを2度楽しめますので、この3rdアルバムもオススメ。

Ministryが気に入ったら…
Revolting Cocks - 38

 

Front 242 (ベルギー)

Headhunter (1988年/4thアルバム「Front By Front」に収録)

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 こちらもEBMの代表格としてよく登場するグループ。「エレクトロニック・ボディ・ミュージック」というジャンル名の名付け親としても広く知られています。口ずさめるようなキャッチーさを持つこの曲は、当時EBMとしては異例のヒットを飛ばし、彼らの代表曲となりました。シュールなPVにも要注目。

 

Tragedy (For You) (1991年/5thアルバム「Tyranny (For You)」に収録)

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 「Front By Front」から3年ぶりに出たアルバムの先行シングル。先ほどの曲に比べて、ややダークで神経質な音になりました。とはいえ持ち前のポップさは失われていないので、むしろこっちの方がカッコいい!という方もいるかも。(自分はそのパターンでした。)そしてPVのシュールさは相変わらず。

Front 242が気に入ったら…
A Split-Second - Mambo Witch

 

Nitzer Ebb (イギリス)

Let Your Body Learn (1987年/1stアルバム「That Total Age」に収録)

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 タイトなドラムとデケデケと地を這うシンセベース、そして漢臭い熱血シャウトだけで突っ走る、まさに肉体(ボディ)重視系EBMの代表格が彼ら。PVからも判る通り、引き締まった筋肉を想起させる、性急でストイックな音が特徴です。実は後世のテクノへの影響も大きく、ハードミニマルと呼ばれるジャンルの源流になったとも言われています。

 

②  Violent Playground (1987年/1stアルバム「That Total Age」に収録)

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(スタジオ音源が上がってなかったのでライブ映像を。)

 こちらも同じ1stアルバムから、彼らの持ち味である性急さがよく表れた1曲。耳に残る『カンカンカカンカ カンカンカカンカ』というメタルパーカッションは、後述するSOFT BALLETが"OPTIMAL PERSONA"で、BUCK-TICKが"ICONOCLASM"でそれぞれ引用するなど、日本のバンド群への影響も見逃せない点です。

 ちなみに、石野卓球氏が敬愛するDAFもこのグループと同じ系統。というより、DAFの音楽性を丸パク…もといアップデートしたのがNitzer Ebb、という認識でOKです。

Nitzer Ebbが気に入ったら…
DAF - Der Mussolini

 

Die Krupps (ドイツ)

The Machineries Of Joy (1989年/ベストアルバム「Metall Maschinen Musik: 91-81 Past Forward」に収録)

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 1980年結成の古株ながら、2021年現在も現役バリバリの重鎮。初期はDAFと同じく「ジャーマン・ニューウェイブ」と呼ばれるような音楽性でしたが、その後EBMを経て、ミニストリーのようなインダストリアルメタル*4へと進化していきました。ここ最近はアルバムごとにEBMとメタルを行ったり来たりしています。

 この曲は一時の活動休止を経て復活した際のシングル。先ほど紹介したNitzer Ebbがゲスト参加しているので、仕上がりも似通った雰囲気ですね。

 

High Tech / Low Life (1992年/3rdアルバム「Ⅰ」に収録)

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 3rdアルバムのリードトラック。この頃から徐々にギターを導入してメタル化の気を見せていきますが、この曲ではまだEBM要素が支配的です。イントロから流麗なシンセの音が耳を惹きますね。ちなみに3枚目なのに「Ⅰ」なのは、活動再開後の1枚目だから。本作に続くアルバムが「Ⅱ」「Ⅲ」と3部作になっていて、時代が下るごとにHR・HM色が強くなっていきます。

Die Kruppsが気に入ったら…
Tommi Stumpff - Le Chien Andalou

 

KMFDM (ドイツ)

More & Faster 243 (1989年/3rdアルバム「UAIOE」に収録)

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 ミニストリーと並びインダストリアルメタルの代表格として知られているKMFDMも、初期は比較的素朴なEBMをやっていました。彼らの特徴といえば、音楽性の根底にレゲエ・ダブの色濃い影響があるところ。女声コーラスの参加が目立つこの曲もそうですが、どこかソウルフルな"黒さ"を有しているのが他のEBM系グループと大きく異なる点です。

 

Liebesleid (1990年/4thアルバム「Naïve」に収録)

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 このアルバムの前後から活動拠点をドイツからアメリカに移した関係で、音楽性もハウスやメタルを取り入れたりと少しずつ洗練されていきます。イントロから雷鳴のような打撃音が目立つこの曲は、ギターを導入しつつもEBMらしくパーカッシブで"ビート至上主義"な面を残した、初期の名演です。

KMFDMが気に入ったら…
Tackhead - What's My Mission Now?

 

Front Line Assembly (カナダ)

Iceolate (1990年/5thアルバム「Caustic Grip」に収録)

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 よく「FLA」という略称で呼ばれるこのグループの持ち味は、しばしば"強迫神経症的"とも形容される緻密なプログラミングと、軍靴の音を思わせる高圧的なキック。特にこの「Caustic Grip」は、EBM界を代表する強力な名盤として、マニアの間で名高い作品です。

 

Paralyzed (1995年/8thアルバム「Hard Wired」に収録)

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 やや時代が下った95年作「Hard Wired」からの1曲。本人の経験値と機材面の進歩の賜物か、圧倒的に"分厚い"モダンな音になっているのが判るかと思います。彼らは色々と音楽性を変えながらも一貫してサイバーパンク的な作風を有していますが、特にこのアルバムはディストピアンな世界観と重厚なサウンドががっちりと嚙み合った傑作。

 ちなみにギターで参加しているのは、Strapping Young Ladはじめ様々な活動で知られる鬼才、Devin Townsend先生です。

Front Line Assembly が気に入ったら…
Noise Unit - Corroded Decay

 

Skinny Puppy (カナダ)

Human Disease (S.K.U.M.M.) (1988年/4thアルバム「VIVIsectVI」に収録)

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 このSkinny Puppyは一転してホラー/実験色が強め。ウゲウゲとゾンビのようなヴォーカルと、ノイジーで狂気的なサウンドはやや人を選びますが、ハマる人はどっぷりハマってしまう…そんな磁力を持ったグループです。あとこの人たち、PVやステージパフォーマンスがかなり過激かつグロテスクな事でも知られていますので、検索するときは要注意。

 ちなみに、先述のFront Line Assemblyの中心人物は、元々Skinny Puppyのメンバーでした。

 

Grave Wisdom (1990年/6thアルバム「Too Dark Park」に収録)

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 こちらのアルバムもタイトル通りのダークな作風ですが、この曲は若干ダンサブルかつキャッチーで取っ付きやすいかと。偏執的に作り込まれた独特のサウンドスケープは、かのNine Inch NailsMarilyn Mansonが直接的に引き継いだとも云われています。更に90年代以降のEBM/インダストリアル界隈はもちろんのこと、DeftonesKoЯnといったニューメタル系からもリスペクトを集めるなど、後世への影響の大きさは計り知れず。まさに知られざる暗黒帝王と言えるでしょう。

Skinny Puppyが気に入ったら…
Numb - Hole

 

SOFT BALLET (日本)

BODY TO BODY (1989年/1stアルバム「EARTH BORN」に収録)

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 日本にもEBMをやっているグループはいくつか存在していましたが、知名度・セールスの両面で最も成功したのがこのソフトバレエ。「EBMは知らないけどソフバは知ってる」とか、「ソフバからEBMという言葉を知った」という方も多いでしょう。

 この曲はデビューシングルですが、既に「歌謡EBM」という彼らの個性が確立。ボディビート・シンセベース・メタルパーカッション等、EBMのマナーを忠実になぞりつつも、そこに遠藤遼一氏の伸びやかなボーカルが載ることで、マニアックさとポップさが奇跡的なバランスを保っています。

 

VIRTUAL WAR (1991年/3rdアルバム「愛と平和」に収録)

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 タイトルからもビシバシ伝わる通り、当時の湾岸戦争に対する反戦メッセージが込められた攻撃的なトラックです。ソフバは海外のEBM/インダストリアル系からの引用が多いことでも有名ですが、この曲は特にそれが顕著。ギターノイズはMinistryの"Stigmata"、シンセベースはLead Into Goldの"Idiot"、ウォー! ウォー!のシャウトはNitzer Ebbの"Cold War"が元ネタともいわれています*5。このように、彼らの"パクリ元"を探していくだけでもEBMに詳しくなれること請け合いです。それにしても、これだけポリティカルなメッセージとコアな音楽性を内包しながら、涼しい顔で(?)お茶の間に進出していたの、今見ると信じられませんね。

SOFT BALLETが気に入ったら…
BRAIN DRIVE - VISION OF LOVE

 

 

 …とまぁこんな感じで、有名どころを一通り紹介してみました。一応、自分の趣味も少し盛り込みつつ、世間的な評価・作品の入手性・アルバム自体のクオリティ等々を鑑みてチョイスをしたつもりです。それと、代表格からもう1歩踏み込んで知りたい方のために、各アーティストの類似・関連グループもちょこっとだけ入れておきました*6。それでも尚「何であのグループが入ってないんだ!」「代表曲ならコッチだろ!」といった不満を持たれたそこの貴方、是非貴方も"自分自身が納得できる"EBM紹介文を書きましょう。マイナージャンル故、布教サイトはいくつあっても足りるということはありませんので…。

 

~おまけ~

 完全に個人の趣味を垂れ流したフェイバリットEBMリストはTwitterの方に残っていますので、良ければこちらもどうぞ。

 

*1:いんなーとりっぷブログ様では、これを「テクノロジーを駆使したハードロック」と表現されています。

*2:ちなみに、このEBMスラッシュメタルのギターリフを追加すると「インダストリアルメタル」というまた別のジャンルになります。といってもこの辺りの線引きは曖昧で個人の趣味嗜好によるところが大きく、自分の場合は「電子音の比重が高ければEBM、メタルギターの比重が高ければインダストリアルメタル」ぐらいのユルさで捉えています。

*3:メタルパーカッション、略してメタパーとも呼ばれます。

*4:細かいことを言えば、同じインダストリアルメタルでもミニストリーとはやや毛色が異なりますが…。

*5:あくまでファンの推測であり公式見解はないですが。あと、私は洋楽などをパクるということに特に否定的・批判的な意見は持っていないので念のため。

*6:こちらはやや入手難易度高めなものもありますのでご注意を。