Numb - Blood Meridian

 

 カナダのエレクトロ・インダストリアルユニットの5thアルバム。94年の4th「Wasted Sky」のリリース後、ボーカルのConan Hunterが脱退。新たにDavid Collingsが加入します。この体制で95年には来日も果たし、その模様は日本限定のライブ盤「Koro」として発売されました。その後、インダストリアル系アーティストたちによるカヴァー作品集のコンピ「Operation Beatbox」や「TV Terror」への曲提供を挟み、満を持してリリースされたのが本作。前作から3年越しのフルレングスです。

 

 と言いつつ、このアルバム自体は非常に短期間でレコーディングされた模様。実は先行して別のマテリアルを新作として出す予定だったのが、KK Recordsとの"legal issues"により発売ができない状態に。当初のリリース日に間に合わせるために、急ピッチで制作されたのが本作…ということのようです*1。ここでお蔵入りした音源は、その後6thアルバム「Language Of Silence」としてリリースされることになります。

 

 そういった背景だけみるといかにも間に合わせの中途半端な作品が出てきそうですが、なんとこれが大傑作。冒頭#1のイントロからもわかるように、全体的に当時勃興していたテクノイズ/リズミックノイズの影響を感じる、無機質で耳が痛くなるような電気ノイズが牙を剥いています。同時に、サイケデリックトランスやドラムンベースと言った流行のサウンドもしっかり取り入れており、前作までのボディビート×ノイズギターの有機的で生々しいインダストリアルから、一気にデジタルでサイバーなエレクトロ・インダストリアルへと変貌。まさに白基調のアートワークにふさわしく漂白された、殺菌作用すらありそうな仕上りです。

 

 そんな無機質でデジタルな音作りでありながら、David Collingsの怨嗟に満ちたボーカルが乗ることで強烈なオブセッションを感じさせる仕上がりとなっているのが素晴らしい。特に#1,2,4,5のような曲でのウィスパーと咆哮のコントラストには圧倒されるものがあります。歴代のボーカリストにも負けない凄まじい迫力。

 

 Numbはアルバムにおけるインスト曲の比率が高くて取っ付きにくい部分もあるのですが、本作は全編通じて緊張感をキープしており、フックもはっきりしているので音像のわりにはキャッチーだと思います*2。6分越えの曲がほとんどだったりして尺は長いのですが、あまりダレることなく聴き通せるのは素晴らしい。特にトランスを取り入れた#1,5のダンサブルな展開はまた一つ殻を破った感じです。まさに「Death On The Installment Plan」と双璧をなす、後期の傑作と言えるでしょう。

 

Released Year:1997

Record Label:KK Records, Metropolis

 

Track Listing

  1. Blind
  2. Dirt
  3. Blood Meridian
  4. Stalker
  5. Desire
  6. Critical Mass
  7. No Time
  8. Alien Hand
  9. Deserted
10. Spasm

 

 Pick Up!:#4「Stalker」

 Numbお得意の粘着質なミッドテンポ曲。ヒップホップ的な撥ねたビート感と、陰湿な脅迫ボイスの絡み合いも素晴らしいのですが、サビで壁のようにせり上がってくるシンセとブチギレロングトーンシャウトの迫力がもう大好き。やはり彼らはこういう曲で真価を発揮しますね。

*1:ソースはこちら→Interview: Numb - 5/7/98 

*2:本人たちも上記のインタビューで「曲構造はとてもポップ・オリエンテッドだ」.と言ってますし。