Front Line Assembly - Tactical Neural Implant

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Released Year:1992

Record Label:Third Mind

 

Track Listing

  1.Final Impact

  2.The Blade

  3.Mindphaser

  4.Remorse

  5.Bio-Mechanic

  6.Outcast

  7.Gun

  8.Lifeline

  9.Toxic*日本盤ボーナストラック

10.Mutilate*日本盤ボーナストラック

11.Mindphaser (12" Version)*日本盤ボーナストラック

 

 カナダのエレクトロ・インダストリアルユニットの大体6枚目ぐらい*1のアルバム。この作品で初めて日本盤が発売されました。上記の通りボートラが追加されていますが、これは先行シングル"Mindphaser"の12"リミックスおよびB面曲です。

 

 EBM界を代表する大傑作"Caustic Grip"と、大胆にメタル化を図った"Millennium"に挟まれているせいか、彼らのキャリアの中でも影が薄い印象がある本作。ガチガチの鉄筋ボディだったこれまでの路線を捨て、当時ヨーロッパで大流行していたハードコアテクノ・トランスに接近した音作りへと変貌しています。しかしその結果、表面的な迫力やスピード感は減退。控えめなキックがメインの淡々としたアルバム進行は、特に前作のテンションを期待する人からは「ぬるい」「地味」などと評判が悪いです。この立ち位置、なんとなくSkinny Puppyの"Cleanse Fold And Manipulate"と似ているような...。

 

 しかし個人的にはこのアルバム、そこまで嫌いじゃないです。自分が最初に聞いたFLAの作品がコレというのもあるかもしれませんが、普通のテクノに比べて明らかに肉感的なキックにはボディを感じますし、彼ら特有の綿密なサンプリングも冴えわたっています。前作が「点」で勝負していたとすれば、本作は「面」で勝負、といったところでしょうか。1つ1つの音は線が細いながらも、トータルでは高密度で重厚な仕上がりで、これが彼らの持ち味であるディストピア/サイバーパンクな世界観の構築に一役買っている印象を受けます。

 

 何より、今までのどの作品よりもダークなメロディを前面に打ち出していて、フックが掴み易いのが素晴らしいです。特にシングルカットされた#2,3ではその傾向が顕著で、#2の幻想的なボコーダーの使い方にはどことなくパピーの名曲"Worlock"に通じるものを感じます。また、#3は日本のマイナー特撮映画「ガンヘッド」の映像が使われており、曲の持つ世界観といい感じにマッチした仕上がりとなっています*2。これらのシングルはクラブシーンでそこそこヒットしたようで、アルバムもトータルで7万枚の売り上げを記録しました。こうした成功もあってか、海外のファンの間では"Caustic Grip"よりも本作が代表作/最高傑作として捉えられているようです*3。もはやオフィシャルサイトと化しているファンサイトの名前も「mindphaser.com」ですし。

 

 90年代前半のEBM→インダストリアルメタルという流行の推移からみると、90年の”Caustic Grip”でEBM路線を極め、92年の本作を挟んで94年にメタル化というFLAのキャリアは、シーンの流れに1歩後れをとっているようにも見えます。しかし、クラブシーンが大きな幅を利かせていたヨーロッパに目を向けると、また違った見方ができます。90年代初頭、彼の地では80年代のEBMにとって代わり、テクノやトランスと融合した「90年代型EBM」とでも呼ぶべきサウンドが続々と生まれていました。当ブログでも何回か取り上げているZoth OmmogやCleopatraといったレーベルに属するグループもその一派。そして、今回取り上げているFLAのアルバムは、こうした欧州の音を志向したものではないかと自分は思っています。

 

 ジャーマンニューウェーブやポストパンクだけではなく、同時進行的に発展したテクノを吸収したより新しいボディ。ここでこの路線を完成させたからこそ、次の一手としてメタルも取り入れつつ、第2の傑作”Hard Wired”を生み出すことができたのではないでしょうか。あのアルバムで提示されたサイバーなインダストリアルは、明らかに本作を経過したものですし。逆に、ここで”Caustic Grip”の路線から脱却していなければ、DAFの影響下で自らが完成させたボディから抜け出せずに失速していったNitzer Ebbのように、袋小路にはまっていた可能性も...。そういった意味で、もっと評価されていいアルバムだと思います。

 

 ヨーロッパのシーンと同調し、90年代型EBMのスタイルを確立した1枚。また、単にシーンに迎合するだけではなく、その後のFLA自身、そして後続のダークエレクトロやフューチャーポップの参照元になったアルバムとも言えそうです。再評価希望!

 

 Pick Up!:#1「Final Impact」

 近未来の工場を連想させるSEで幕を開けるオープニングトラック。今までは(意地悪な言い方をすれば)ただ叫んでいるだけという印象があったヴォーカルも、ここでは低音でドスを効かせつつ、サビでは加工ヴォーカルを重ねてメロディを聞かせるなど、より表現が多彩になっています。何より、曲を通じて鳴らされるベコベコしたシーケンスの音が狂おしいほど好き。

*1:初期の彼らはレーベルを変えながらデモ音源やEPを乱発していたので、どこからカウントするのか線引きが難しいです...。

*2:(英語版wikiの記述によると)Bill Leeb曰く、先に映画の映像を見て、それから曲や詞の構想を固めていったそうです。そりゃマッチングが良くて当然か。

*3:例えばここ→https://addins.kwwl.com/blogs/criticalmass/2010/06/album-review-front-line-assembly-improvised-electronic-deviceのレビューでは、"Often times Caustic Grip or Tactical Neural Implant are called the best FLA albums..."と、「世間一般的な評価」という文脈で言及されています。