The Young Gods - L'Eau Rouge

f:id:giesl-ejector:20181208201427j:plain

 

Released Year:1989

Record Label:Play It Again Sam

 

Track Listing

  1.La Fille De La Mort

  2.Rue Des Tempêtes

  3.L'Eau Rouge

  4.Charlottey

  5.Longue Route

  6.Crier Les Chiens

  7.Ville Nôtre

  8.Les Enfants

  9.L'Amourir

10.Pas Mal

 

 スイスのインダストリアルロックバンドの2ndアルバム。このバンドはヴォーカル、サンプラー、ドラマーの3人組で、他の楽器(ギターやベース)は全部サンプラーで鳴らしているという変わったグループです。

 

  バンド名はSwansのEPが由来、プロデュースはRoli Mosimann(初期Swansのドラマー)、ヴォーカルはMichael Gira直系のダミ声ということで、かなりSwansをリスペクトしているようですが、実際の音楽性はそこまでジャンクかつノイジーなわけでもないです。どちらかといえばRoli MosimannとJ.G.Thirlwellのユニット、Wisebloodに近い印象。特にタイトで硬質なドラムの音処理はそっくりで、デビュー当時「Wisebloodの変名か?」と言われていた...という逸話にも納得です。Roli Mosimannという人はロック全般を手がける総合プロデューサー的なところがあるので、関わったバンド全てがインダストリアルな仕上がりになるわけでもないんですが*1、このThe Young Godsはその中でも、比較的Swansとの繋がりが判りやすいケースではないかと思います。

 

 そして、ヴォーカルとドラム以外の全てを任されているサンプラーですが、これがまた千手観音のような活躍を見せています。ゴリゴリとしたベースは前述の強力なドラムに負けないグルーヴを生み出していますし、神経質なギターとストリングスを自由自在に入れ替えて、巧みに焦燥感を煽る手法にはただ唸らされるばかり。時々挿入される逆回転や小刻みな継ぎ接ぎなど、サンプラー(=人力演奏による再現を考慮しなくてよい)というアドバンテージをフルに活用していますね。ギュルギュル唸るギターの早弾きソロも、この人たちにかかれば効果的なサンプリングノイズに早変わりです。

 

 また、#1,4,8ではオペラというかキャバレーというか、演劇的な要素も取り入れており、大仰なオーケストレーションはFoetusやPigを連想させる部分もあります*2。当然これもサンプラーの仕事。彼らはこの後、クルト・ヴァイルのカバーアルバムで丸々1枚オペラな音楽性を披露するのですが、この頃からその布石は打たれていたようですね。

 

 ただ、こうした雑多な音楽性やヴォーカルの野太い声が、独特の個性を演出する反面で聴く人を選ぶ要因になっているのも事実かなと。#4のとぼけた場末感にしろ、#5の猪突猛進な勢いにしろ、どことなくコミカルというか掴みどころの無さがあって、米英のバンドとはちょっと違うセンスを感じます。さらに、この頃は歌詞や曲タイトルもまだフランス語*3で、この辺も好みが別れるところかも。

 

 あとは既に各所で指摘されていますが、この人たち、音に"邪念"がほとんど感じられません。同時期のインダストリアル系にありがちな、ノイズや打ち込みに乗せた感情の発露が皆無。仏語の歌詞も翻訳にかけてみると、"Everyone dances the red water"だとか"We made a long journey, Never it stops"だとかで、かなり浮世離れした雰囲気。どこか醒めているというか、仙人のように達観した印象を受けます。したがって、NINその他のごとく、音楽にネガティブな感情を託したい人にはあまりお勧めできません。

 

 とはいえ、この後の彼らがどんどんインダストリアルという枠を飛び越えてポストロックの域にまで行ってしまう(その頃の音源も良いんですが)ことを考えると、SwansやFoetusといった先達の影響をうまく噛み砕き、"エレクトロニクスを駆使したロック"に落とし込んでいる本作は、まだ80年代インダストリアルとの繋がりが分かり易くて個人的には好きです。彼らのキャリアの中で見れば発展途上ではありますが、ジャンク寄りのインダストリアル好きなら押さえておいて損はないかと。 

  

 Pick Up!:#10「Pas Mal

 #9,10はシングルからの曲でCD版のみのボートラとなっています。この2曲、どちらもアルバム本編よりもストレートにボディを打ち出していて甲乙つけがたい良さがあるのですが、僅差でこちらをチョイス。引き締まったビート中心のシンプルな構成はさながら「ギターを導入したWiseblood」という趣で、単調ながらも疾走するスピード感が心地よいです。シングルのB面にしとくのはもったいない出来映え。

*1:かのマリリン・マンソンの1stにもエンジニアとして参加していますが、少なくともNYジャンク的な要素は皆無です。あれはトレントさんがプロデュースという点も大きいと思いますが。

*2:Allmusicのレビューhttps://www.allmusic.com/album/l-eau-rouge-red-water-mw0000654523では、"traditional French cabaret tunes"と言及されていたり。学が無いものでこれ以上言及できないのが辛いですが...。

*3:後に、世界的な人気の獲得に伴って英語を使うようになります。