Skinny Puppy - Ain't It Dead Yet?

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Released Year:1989(VHS)/1991(CD)

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Intro

  2.Anger

  3.The Choke

  4.Addiction

  5.Assimilate

  6.First Aid

  7.Dig It

  8.One Time One Place

  9.Deep Down Trauma Hounds

10.Chainsaw

11.Brap

12.Smothered Hope

 

 パピー初の公式ライブアルバム。彼らは何度かライブアルバムを出していますが、Dwayne Goettel存命時のライブがフルセットで記録されているのはこのアルバムだけです*1。公演は87年の"Cleanse Fold and Manipulate Tour"からの録音ですが、リリースは2年遅れて89年、しかも当初はVHSのみでの発売でした。続いて91年にCD化、その後2001年にはDVD化もされています。

 

 ちなみにこのツアー、3rdアルバムの名を掲げておきながらアルバム発売前にスタートしたため、この公演の時点ではセットリストの半分近くは未発表の新曲だった模様*2。バンドは3rdアルバム発表後、翌年になってから改めて"Head Trauma tour"を行っています。ツアー前半ではカナダ・アメリカを廻り、後半ではヨーロッパを廻るという行程だったみたいですね。

 

 この手のグループでは、ライブと言いつつもほとんどカラオケじゃん?というパターンが多々見受けられますが、このアルバムはわりとしっかり「ライブ」してます。基本的なバックトラックはテープに頼りつつ、随所で人力のパーカッションやギターを導入。これによって、原曲を忠実に再現しながらも生々しさを加えることに成功しています。また、シンセやギターは全てエフェクター(?)を駆使してノイズ発生源に徹しており、全体的にザワザワとした心地よい耳触りの悪さ(意味不明)を演出。オーガさんも唄いながらボコーダーらしきものを弄り、声までも音のパーツとして利用していたり。また、ドラム缶を利用したパーカッションも迫力満点で、#2,9などでの高圧ビートがいっそう際立っています。

 

 さらに特筆されるのがインプロビゼーション(即興演奏)の巧みさ。曲間部分が特に顕著ですが、シンセの残響音やサンプリングボイスを器用に反復、あるいは変容させてノイズを生み出し、上手く次の曲へと繋いでいます。さらに終盤の#11では、SPKばりに火花を散らす本格ノイズ・インプロを披露しています。ピュアノイズ大好き人間にとってはここだけで十分なのかもしれませんが、こうした即興的要素が曲に緊張感を与えると同時に、より凶暴さを高めてもいるんですね。以前TLでも話題になったんですが、このようにエレクトロニクスを多用しつつも、あくまで人の手によって為されるスリリングな即興演奏こそが、初期インダストリアル(特にThrobbing Gristle)の系譜を踏む要素ではないかと思っていたり。

 

 またオーガさんのVo.もスタジオ版に比べてテンションがup。パピーお得意の血みどろパフォーマンスを繰り広げながらということもあってか、より狂気的で凄みのあるウゲウゲボイスで魅せてくれます。たまに挿入される演説というか朗読もいい感じに不気味でクール。その一方で、#7では歌い出しの入りをミスって上手いこと誤魔化す...なんていうお茶目な一幕もあったり(笑)。こういうハプニングもライブならではですね。

 

 これらの要素によって、トータルで曲の迫力や凄みが強化された結果、特に地味といわれがちな3rdの曲が見違えるほどカッコ良くなった印象があります。#4はこの先のライブでも定番曲となりますが、それも納得といったところ。リズミカルなビート感とメロディアスな哀愁のバランスが素晴らしいです。低音で囁くように歌っていたスタジオ版に比べ、オクターブ上で叫ぶように歌唱法を変えているのも大きいと思いますが...。しばしば「大人しい・控えめ」と言われがちな初期と、ぶっ壊れた中期とを繋ぐ、ある種のミッシングリンクのような内容と言えるかもしれません。

 

 今までの文章でもチラチラ書いてきましたが、やはりパピーのライブは派手なパフォーマンスも含めたトータルエンターテイメントなので、一度は映像で確認して頂きたいところ。ステージ上を動き回るオーガさんはもちろんのこと、映る度に担当楽器が変わるケヴィン・キーの千手観音なマルチプレイヤーぶりや、黙々とノイズを繰り出すまだ容姿端麗な*3ゴエテル、さらにオープニングのホラー映画風クレジットなど、見所がたくさんあります。その一方で、改めてCDで聴いてみると、視覚情報が強烈すぎるあまり、映像を見ているだけでは気付かなかった演奏面での面白さも再発見できたので、ファンとしては映像と音源の両方で鑑賞してみることをお勧めしたいです。

 

 ちなみに、91年に発売されたCDの初回盤は、ミスプレスによりすべての楽曲がトラック分割されずに1曲に纏まってしまっているほか、ケース裏面のトラックリストも一部間違っています*4。私はたまたまこれに当たってしまったので、波形編集ソフトで自分でトラック分割をするはめになりました()。まぁ致命的な問題があるわけじゃないんで別にいいんですけど。

 

Pick Up!:#2「Anger」

 イントロに続きオープニングを飾る1曲。3rdアルバムでは歌詞がほとんど聴き取れないよくわからん曲...という印象が強かったですが、このライブ版での聴きどころはやはり、後半から叩き込まれるケヴィンの生ドラムでしょう。一応原曲に沿ったアレンジなんですが、打ち込みと生ドラムの音質差が顕著になったことで、曲の流れにメリハリがついた印象。オリジナルから一番見違えた曲と言ってもいいかもしれません。視覚面でも、布張りの箱(?)の中にのた打ち回るオーガさんのシルエットが浮かび上がる演出が印象的。

*1:曲単位では、シングルのB面やレアトラック集として散発的に発表されています。

*2:この公演の録音が5/31、3rdアルバムの発売が6/25です。

*3:晩年の彼はドラッグに蝕まれた結果、急激に容姿が老化&痛々しくなってしまっていたので。最初は美青年だったのに...。

*4:出典→Skinny Puppy - Ain't It Dead Yet? (CD, Album) | Discogs