Pankow - Gisela

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Released Year:1989

Record Label:Contempo Records, Wax Trax!, Cashbeat, LD Records

 

Track Listing

  1.I'm Lost, Little Girl

  2.Warm Leatherette

  3.Die Beine Von Dolores

  4.Let Me Be Stalin

  5.Pankow's Rotkäppchen

  6.Me & My Ding Dong

  7.Happy As The Horses Shite

  8.Deutsches Bier

  9.Madness (Danke Gisela)

10.Follow Me In Suicide (Lenin)

 

 イタリアのEBMグループの3rdアルバム。

 

 最近では、Adrian Sherwoodの仕事を纏めたアーカイブ集に取り上げられたりと、On-Uとの繋がりが強調されがちな彼ら。2ndではアルバム丸ごとシャーウッドにミキシングを頼んでいたようですが、自分たちなりのテクニックが確立したのか、本作では3曲(#4,8,9)のみでの参加に留まっています。そのせいか、そこまでOn-Uらしい質感というわけでもなく、もっとエッジの効いたシャープな音という印象を受けました。どちらかというと、NINの"Sin"(シングル盤のバージョン)とかに近いかも。これぞEBM!といった趣の、芯の太いボディビートは確かにかっこいい。

 

 ただそれ以上に、イタリア人特有の"アク"や個性が非常に強く感じられる内容です...というか、変。明るく猥雑なアメリカ、陰湿で皮肉屋なイギリス、生真面目で汗臭いドイツのどれとも違う、深刻なんだか間抜けなんだかわからない独特の勢いがあります。政治的なテーマは曲タイトルからもビシビシ伝わってきますし、そもそもグループ名が旧・東ドイツの政治的中枢だったベルリンの行政区*1という事からも、冷戦下という空気を感じずにはいられないんですが...。出だしからアイ♪アイ♪アイ♪アイ♪な#1や、ヴォーカルが変態的な#8、唐突にマーチング風の#10など、やっぱり何かズレてる。

 

 そんなわけで最初は「ん?ん?」ってな感じでいまいち入り込めなかったんですが、当時のライブ映像を見たらかなり印象が変わりました。淡々とビートを打ち出すシンセドラムの前で、エレクトロ系らしからぬ長髪の兄ちゃんが飛び跳ねながら熱いアジテートをかます...まさに「激しすぎて30分しか持たない」と言われたNitzer Ebbを髣髴とさせるパフォーマンスです。意外と熱血系な人たちだったんですね。このライブ映像を見てから、アルバム中の奇妙な印象は狙ってやっているのではなく、本人たちが100%シリアスにやった結果として滲み出たおかしさだという気がしてきました。当の本人は大真面目なのに傍から見ると笑っちゃう...というケース、わりとありますよね。

 

 また、入り込むのに時間がかかった分、慣れてくると先述の"変"なポイントがそのまま中毒性を発揮して病みつきになる気がします。硬派でダーク、狂気的、破壊的なインダストリアル・ボディはいくらでもいますが、こういう変態チックな路線は確かにあまり類を見ないタイプの個性。 ある意味、DAFの持っていた変態性・コミカル成分を最も色濃く受け継いだグループと言えるかもしれません。特に#6などは、彼ら特有のコミカルさとEBMとしての肉感的な重さがバランスよく融合した曲だと思います。例によって入手困難ではありますが、一聴の価値あり!なアルバム。

 

 Pick Up!:#2「Warm Leatherette」

 Muteの総帥Daniel Millerの1人プロジェクト、The Normalのカヴァー。この曲はJoy Divisionの"Isolation"と並び、EBM界隈でよくカヴァーされるエレクトロミュージックのクラシックとなっています。このPankowバージョンは原曲よりBPMも上がって、超筋肉質な猪突猛進ボディに。カンカン鳴る金属的なスネアと隙間無く充填されたハンマービート、ビニョビニョシンベの組み合わせで押しまくります。この勢いは素晴らしいですね。

*1:東ドイツの体制を揶揄する意味でも使われたとか。日本で言うところの"霞ヶ関"的なニュアンス...といったところですかね。