2020年に買った新譜

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 昨年の好評を受けて(?)、今年もやります「今年買った新譜」企画。今回もあくまで"自分が購入した順"でご紹介(リリース順ではないので念のため)。

 2020年はコロナの影響もあり、新譜/中古問わず店舗でCDを買う機会が激減。散々お世話になった渋谷レコファンも閉店してしまい、個人的にはCD→ダウンロード購入へのシフトが急速に進んだ1年でした。いざ始めてみれば便利なもので、今となっては何故あれほどCDに拘っていたんだろう…という気持ちすらありますね。まぁ旧譜などCDで買った方が安い場合はそちらを買うんですが、新譜については今後ほぼダウンロード購入に切り替わっていくだろうなぁ*1

 

 Riki - Riki

 過去のレビュー記事はこちら。↓

giesl-ejector.hatenablog.com

  

②Choir Boy - Gathering Swans

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  こちらもDais Records発のシンセポップユニットによる2ndアルバム。レーベルメイトのDrab MajestyやRiki、Tempersと同じく、彼らも80年代風の音作りが特徴的です。しかし、英国ニューウェイブの色が濃い先述のグループに対し、このChoir Boyはバックサウンド以上にVo.の「歌」が前に出た造りで、そういう意味ではもはやニューロマや80's歌謡ポップスの域に近い雰囲気かも。モリッシーを連想させる(いい意味で)キモいファルセットボイスと相まって、かなり"泣き"の要素が強調されています。雑に例えるなら、The Smithsの曲をSoft Cellに演奏させたら…みたいな感じでしょうか。ジャケやPVからも判る通り、なかなかキャラが濃い*2ので人によっては引いてしまうかもしれませんが、そのメロディセンスはホンモノ。アルバムの冒頭3曲は全て外れなしの名曲ですが、個人的にはその中でも、哀愁と温かさを湛えたキーボードの旋律が泣かせる#1が特に好きです。

  

③TRIAL - 1

 過去のレビュー記事はこちら。↓
giesl-ejector.hatenablog.com

 

④Black Magnet - Hallucination Scene

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 今、インダストリアルメタル界隈で静かに話題となっている(?)期待の新人、Black Magnetのデビュー作。巷では「Godflesh/Ministryのような」*3と枕詞を付けて売り出されていますが、個人的にはそれだけに留まらない懐の深さを兼ね備えていると思います。確かにミッドテンポなギターリフでねじ伏せる#1や#4ではGodflesh的な側面ものぞかせていますが、アルバム後半ではメタルというよりハーシュEBM/アグロテック的な色が強く、トータルとしては90年代のLeaether Strip/Klute、あるいはNumbを想起させる仕上がり。肉厚で凶暴なボディビートと吐き捨てVo.の組み合わせが堪りません。特に、削岩機のような激烈ビートで駆け抜ける#3はもはや完全にKluteの再来で、個人的にはこの曲だけでもう拍手大喝采です。近年パッとしない印象があったインダストリアル"メタル"界における、久々の快作。

 

⑤Deafkids & Petbrick - Deafbrick

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 Sepulturaの元ドラマー、Igor Cavalera率いるインダストリアルロックユニット:Petbrickと、ブラジル出身のトライバル・ハードコアバンド:Deafkidsのコラボアルバム。上のBlack Magnetと同日発売だったので同時に入手したんですが、このDeafbrickもなかなかにアグレッシブな高速インダストリアルメタルです。ただ、こちらは片や元ドラマー、片や"トライバル・ハードコア"ということもあり、変態的なリズム面への拘りが前面に出ている印象。民俗的なチャカポコしたパーカッションを主軸とし、随時電子ノイズやメタルギターを組み合わせていくスタイルは、一般的なインメタのそれとはかなり異なるものです*4。ときおり挟まれるトライバル・ダブ風味のインスト曲をはじめ、Black Magnetに比べるとやや取っ付きにくい部分もありますが、こちらも要注目な最新型インダストリアル・スラッシュと言えるでしょう。ちなみに、#9はDischargeのカヴァーのようです。

 

⑥Vatican Shadow - Persian Pillars Of The Gasoline Era

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 Prurientをはじめ多数の名義で活動するDominick Fernowのプロジェクト、Vatican Shadowの9thアルバム。この界隈では比較的メジャーな存在らしいですが、自分は最近まで彼の作品にほとんど触れてきていませんでした。何だかんだ分かりやすいものを好む自分にとっては、試聴した限りちと難解な印象があったので…。一応、Prurientはラムレー直系のパワーエレクトロニクス、Vatican Shadowはインダストリアル風味のテクノ、アンビエント、というカラー分けがなされているようです。本作はGodflesh/JesuのJ. K. Broadrickがマスタリングで参加、さらにデスメタル系レーベルとして知られる*520 Buck Spinからのリリース*6ということで、前情報だけ見るとまさかのメタル路線!?なんて勘繰りたくもなりますが…中身はいつも通りの暗黒インダストリアル・アンビエントですはい。ただ(試聴しただけですが)これ以前の作品と比べると、全体的に有機的かつ"まろみ"のあるような音ですね。J. K. Broadrickの影響かは判りませんが、自分はバキバキのハイレゾなテクノイズよりは、少し輪郭のぼやけた音が好きだったりするので、個人的には歓迎したい方向性です。

 

⑦Wisteria - Never Waved

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  シアトル出身のダークウェイブ/シンセポップユニットの1st。これはベルリンに拠点を置く地下レーベル、Detriti Recordsを辿っていて発見しました。このDetriti、東欧やロシア・旧共産圏などのマイナーなポストパンク/ダークウェイブ/EBMグループの音源を多数リリースしており、一部界隈では以前から話題になっている旬なレーベルの模様。全体的にアングラでストイックな音のグループが多いのですが、そんな中で場違いな煌びやかさを湛えていたのがこのグループ。Dais Records所属と言われても全く驚かない、ネオンサインを連想させるキラキラしたシンセが大活躍。そのままだとニューロマとかそっち方面になりそうなところを、見事なほど覇気のない低音Vo.がうまい具合に中和(?)しています。青白い顔のゴス系モヤシ男子がボソボソ歌ってるさまが容易に想像できる声というか。ネット上のスキニー・パピーのレビューで「ビタミンC不足気味なメロディ」という秀逸な表現を目にしたことがありますが、このWisteriaのVo.もまさにそんな感じですね。

 

⑧Cardinal Noire - Nightmare Worms

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  フィンランドEBM/エレクトロインダストリアルユニットの1stEP。2015年頃から活動しているようで、既に2枚のアルバムを発表しています。今年一番驚かされたのがこの作品でした。なにせNecro Facility以来の直系Skinny Puppyフォロワー、それも一番狂っていたToo Dark Park~Last Rightsの頃のパピーを模倣するサウンドなんですから。従来スキニー・パピーのフォロワーといえば、ぶっちゃけ「ちょっとノイジーなFront Line Assembly」みたいなダークエレクトロ系がほとんどで、(一部の例外を除き)中期パピーのぶっ壊れサウンドへの追従はしない…というより誰も真似できない、という印象すらありました。しかしこのCardinal Noireは、その高すぎるハードルに真っ向から挑み、本家パピーに肉薄する驚異と脅威のハーシュEBMを完成させています。腐乱死体の如く腐りきったノイズに、先の読めない狂気の変則ビート、重厚で荘厳なシンセの旋律、ウゲウゲの死神ヴォーカル…どこをどう切り取っても完璧にSkinny Puppy。前情報なしで聞かされたら本家の未発表音源かと錯覚しそうなほどです。ゆえにオリジナリティは薄いかもしれませんが、この圧倒的なクオリティを前にしてそんなことはもはや問題にならないでしょう。必聴です!

 

⑨Cbaret Voltaire - Shadow Of Fear 

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 昨年のTest Dept.に続き、インダストリアル界の大御所がまたしても復活。26年ぶりのオリジナルアルバムが投下されました。とは言っても、メンバーはRichard H. Kirk一人だけで、実質的には彼のソロアルバムと言ってよさそう。先行公開された#7を聴いたときは、中期のエレクトロファンク路線の延長線上というか、最近流行りの"プレEBM"路線で来るのかな?という印象でしたが、アルバムを通して聴くとどうやら違う様子です。確かにEBM以前のプリミティブなエレクトロ・インダストリアルではあるのですが、中期のようなファンキーでコシのあるビートではなく、よりチープなリズムとざらついたサウンドコラージュを中心に淡々と進行していく様は、どちらかといえばChris Watson在籍時の初期に近いような。自分は中期のキャブスしか通っていないのではっきりとは判りませんが、恐らく今までのキャリアで獲得した要素を全て盛り込みつつ、単なる懐古に終わらない現在進行形の音を構築することに成功しているのではないでしょうか。そのせいかネット上では、保守的な印象のある初期キャブスファン*7にも軒並み好評な模様ですね。全曲6分越え、8曲で60分というボリューム感なのでまだ消化しきれていない部分もありますが、このクールでストイックな音はなかなか癖になります。初期のアルバムも聴きたくなりました*8

 

 

   実際は上記のアルバム以外に、1曲単位でリリースのシングルとかもちょくちょく購入してるんですが、その辺を取り上げ始めるとキリがなくなるので今回は割愛。Twitterでも呟きましたが、今年はスピード重視型の"インダストリアル・スラッシュ"が久々に盛り上がったなーという印象です。2010年代のインダストリアルメタルは、SwansやGodfleshの影響下でドゥーム、スラッジコア、ないしはデスメタル等と接近したバンドが多く、MinistryやKMFDM型のインメタを好む身としては少々物足りない思いもあったのですが、TRIAL、Black Magnet、Deafkids & Petbrickがそんな不満を吹き飛ばしてくれました。速いインダストリアルメタルだってカッコいいんですよ!まぁ「速さ命!!」みたいになられても困るんですけど。

 

 あとはこんなご時世なので仕方ないとはいえ、Ministryの25年ぶりの来日公演となるはずだったDownload Festival中止は無念でしたね。コロナの状況とアルさんの年齢を鑑みると、正直この先もう来日は難しそうな気がするので…。それどころか、向こうの国はついに感染死亡者数が全国民の0.1%(=33万人)まで到達しているようなので、ライブどころではないですよね。大統領が変わって果たしてどう変わるやら…。

 

 世界情勢に違わず、今年は私生活面でもなかなかゴタゴタが多かったので、来年はもう少し平和な一年であってほしいなぁ…というのが正直なところです。ブログ更新も相変わらずのペースですが、何とか続けていきたいですね。では、よいお年を~

*1:BandcampからCD買ってもいいんですが、コロナのこのご時世、直輸入だとちゃんと届くのか不安で手を出せていないというのもあります…。

*2:ついでにVo.の胸毛も濃い。ジャケ参照。

*3:というかインダス系のバンドって十中八九この2組で例えられますよね。「この2組でないと一般層に通じないでしょ」というフォロワーさんの指摘には頷くしかなかったですが…(苦笑)。

*4:何となくAlternative Tentaclesにこんなバンドいそうだな~という気もしますね。Grotusとか似てるかも。

*5:らしい。ユニオンのHPでも特集されてたりします→【特集】20 BUCK SPIN特集:知る人ぞ知る!DEATH/DOOM METALの先駆者レーベル! |ニュース&インフォメーション|HARD ROCK / HEAVY METAL|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

*6:先述したBlack Magnetの1stもここからのリリースです。

*7:初期が好きな人は、クリス・ワトソン脱退後のファンク・スター(笑)路線や、テクノ路線を毛嫌いするイメージがあるので。あくまで個人の印象ですが。

*8:さっそく編集盤の"The Living Legends..."を購入して勉強中です。