Released Year:1984
Record Label:Mute
Track Listing
1.Ideal World
2.Collapsing New People
3.Sleep
4.Stand Up
5.Speak To Me
6.One Man's Meat
7.The Ring
8.Jump
9.Ad Nauseam
イギリスのアーティスト、Frank Toveyによるソロプロジェクトの4thアルバム。
このFad GadgetはMute Recordsが最初に契約したアーティストであり、初期Muteとは切っても切り離せない関係にあったようで、レーベルの歴史を振り返るようなコンピには必ず名前を連ねています。音源製作を始めた頃はオーナーのDaniel Millerとも共同作業をしていた模様。
音楽性はなかなか形容しがたいのですが、強いて言えば初期Depeche ModeとNeubautenを足してヴォーカルにPeter Murphyを招いたような音、といったところでしょうか(説明になっていない...)。感覚としてはノイバウテンをサンプリングしてインダストリアルに接近したDMの3rd~4thに近いのですが、David Bowie直系のダンディなヴォーカルも相まって、あちらよりもややダークでシニカルな印象を受けます。あくまでエレクトロ中心だったDMに比べて、よりポストパンク的・ロック的なビート感を持っているのも相違点として挙げられるかと。
特に、今回取り上げたアルバムでは本格的にバンド編成での録音を行ったようで、以前の音源と比べ音が分厚く、重厚に変化しました。ギターや女声コーラスも大きくフィーチャーされ、もはや単なるシンセポップから逸脱しています。後のNIN等とは全く異なる文脈の音ですが、ある意味インダストリアル・ロックの元祖と言えないこともないかもしれません。ちなみに、#2はずばりノイバウテンとの共作となっており、ジャンクな金属音がふんだんに使われています。
(2018.10.23 追記)ノイバウテンが直接参加したのは、この曲の12"mixである"Collapsing New People (Berlin Mix)"だった模様。このアルバムのレコーディングはベルリンのHansa Tonstudioで行われたのですが、同時期に同じスタジオでレコーディングをしていたノイバウテンの音楽性に興味を示したFrank Toveyが、リスペクトを込めて彼らのサンプリングを使用し"Collapsing New People"のアルバム版を製作。その後、この曲をシングルカットするにあたって12"mixを作製する際、Frank Toveyがノイバウテン側に共演を申し込み、先述の"(Berlin Mix)"とB面曲"Spoil The Child"を録音した...というのが実際の経緯のようです。こういうのはきちんと調べてから書かないとダメですね...反省。
このように、随所に金属音やノイズなどを挟みつつ、基本的なメロディはポップで親しみやすいという、絶妙なバランスが聴き所。「音はかっこいいけど曲が弱い」というケースが散見されるこの手の音楽の中で、このセンスは他の追従を許さない部分があるかと思います。シンセサイザーという新たなツールがようやく普及し始めた頃に、ただの商業的なポップスでも過激なインダストリアルでもなく、その両者を融合させた"実験的なポップス"を鳴らしていたところに、この人の独自性があったのでしょう。先に挙げたDMの3rd~4thにおける音作りは、こうしたFad Gadgetの方法論を参考にしたのではないかと思っています。実際サンプリングネタとしても使っていますしね*1。
80年代のインダストリアルに関心はあるけれど、どうも難解で取っつきにくい...と思っている方は、このFad Gadget辺りから入ってみるのもいいかもしれません。あとDavid BowieやBauhausのような低音ヴォーカルが好きな人にもおすすめ。
Pick Up!:#3「Sleep」
物悲しいピアノと鉄琴の音が印象的な、しっとりと聴かせる系の曲。困窮する家庭を歌った歌詞が泣かせます。"Don't you do as I do, Do as I say"のリフレインが刺さる...。こういった斜に構えたような歌詞も、Frank Toveyというアーティストの特色と言えるでしょう。赤ん坊の声のサンプリングは一周回って不気味ですが。
*1:石野卓球氏のインタビューhttp://www.sonymusic.co.jp/artist/depechemode/info/439127によれば、Frank ToveyはDM側が楽曲を勝手にサンプリングしたことについてかなり怒っていたようです。