Killing Joke - Pandemonium

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Released Year:1994

Record Label:Butterfly Records, Zoo Entertainment

 

Track Listing

  1.Pandemonium

  2.Exorcism

  3.Millennium

  4.Communion

  5.Black Moon

  6.Labyrinth

  7.Jana

  8.Whiteout

  9.Pleasures Of The Flesh

10.Mathematics Of Chaos

 

 イギリスのポストパンクバンドの9thアルバム。


 デビューから10年近く活動を続けてきた彼らも、80年代末にはメンバーの相次ぐ離脱など色々あって活動休止を迎えます。その後1990年にはMartin Atkinsをドラムに招いて1度復活しますが、すぐにまた沈黙。4年のブランクを経て再び表舞台に姿を現した復帰作が、今回紹介するアルバムになります。

 

 本作では1982年の脱退以来12年ぶりに、オリジナルメンバーのYouthがベースに復帰。KJ離脱後はAlex PatersonとThe Orbを始めたり、Dragonflyというレーベルを立ち上げてゴアトランスの布教に力を注いできただけあって、本作にもトランス的なエレクトロニクスが導入されています。また楽曲のへヴィネスも大幅に増加。90年代に入り世界的なインダストリアルメタル・ブームが到来したことで、さまざまな若手バンドがKJの影響を公言するようになったためでしょうか。明らかに時流のインメタを意識した音作りで、アルバム冒頭の3曲ではMinistryと肩を並べるほどの重量感を、#10,12ではKMFDMばりのダンサブルさを披露しています。結果的に、へヴィ路線回帰の兆候を見せつつもやや無理をしている感があった前作に比べ、より自然なスタイルで往年の緊張感を取り戻すことに成功しているのではないでしょうか。

 

 一方で#5,7では、80年代中期以降に獲得したメロディアスな面もきちんと昇華しており、アルバム上でのいい箸休めとなっています。その他、#4,6では当時ジャズさんが傾倒していたらしいアラビア音楽の要素も導入*1。初期とはまた違った呪術的空気を盛り込んでいます。こうした貪欲なジャンル吸収の結果、トランス+メタル+アラビア音楽という、何ともカオスで独自の音像が完成(当時の日本盤の煽り文句は「デジタル暗黒舞踏」だったらしい)。基本的に同じフレーズの反復が続くので、トランス同様の酩酊感もあるのですが、一方でどことなく影があるのも特徴的。一般的なトランスはやはりクラブ向けでアッパーな雰囲気がありますが、ポストパンク出身の彼らが奏でるトランスはやはりダークさがぬぐえず、そこがまた独特の味になっています。

 

 そもそも彼らの初期の音楽性は、テクニック不足から来る同一フレーズの反復が持ち味だったわけで、トランスというジャンルも元をたどれば彼ら自身が原点の1つだったりします*2。乱暴な言い方をしてしまえば、初期KJの反復性をエレクトロ的な方向で(Youthが)発展させたものがトランス、ロック的な方向で(後発バンドが)発展させたものがインダストリアルメタルとも解釈できるわけで、本作はバンドの影響下に生まれたジャンルを逆輸入することで形作られたものと言えるでしょう。

 

 そうそう、タイトルトラックの#1ですが、US盤とUK盤でバージョンが異なっています。どうもUS盤バージョンがオリジナルで、UK盤バージョンはCybersankによるリミックス...という扱いらしい(ちなみに#3もCybersankによるリミックス)。前者ではわりとポストパンク的なジャリジャリしたギターリフだったのが、後者では刻みのはっきりとしたメタリックなリフに変化しており、違いは瞭然。聴き比べるとなかなか興味深いです。このCybersankという人、調べてみるとPeace, Love & PitbullsやShotgun Messiahといったインダストリアルメタルバンドのプロデュースも手がけていて、なるほどと頷かされたり。この人の手腕があったからこそ、大きくインメタ路線に踏み込めたのかもしれませんね。

 

 今までのKJの変遷から各バンドメンバーの音楽性までもを取り込んだ、彼らの1つの到達点であり集大成。実際、これ以降の彼らの作品の雛形になっている節もあります(焼き直しとか言わない)。"インダストリアルメタルの原典"という側面で彼らに関心を持った方は、下手に初期の作品を買うよりもとりあえず本作を押さえておけばOKですし、入っていき易いかと思います。いずれにしても必聴の充実作!

 

 Pick Up!:#2「Exorcism」

  必殺のリフが9分ひたすら続く、デジタル暗黒舞踏ここに極まれり!な1曲。ジャズさんのアジテーションも最高潮で、いつめより多めにむせております。むせることを歌唱に取り入れて成立するのもこの人ぐらいじゃないでしょうか。ちなみに、この曲はあのギザの大ピラミッドの王の間で録音されたらしいです。これを最初に提案したのはYouthらしいのですが、さすがのジャズさんも「こいつ頭おかしいんじゃないかと思った」*3そうな。

*1:ジャズさんは1991年に"Anne Dudley And Jaz Coleman"名義で、中近東風インスト作品(なんだそりゃ)を発表するなどしています。

*2:YouthはAlex Paterson以外にも、Ben Watkins(Juno Reactor)やJimmy Cauty(KLF)とも交流を持ってたりします。さらに言えば、Alex PatersonはKJのローディーをやってた過去があったり。

*3:その辺の詳しいいきさつはコチラ→https://www.loudersound.com/features/killing-joke-inside-the-great-pyramid-at-gizaに。