Def.Master - Destroyer Has Godmind

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 日本のインダストリアルメタルバンドの1stアルバム。このバンドはRosen KreuzというバンドのベーシストだったYU-MIと、同バンドのマニピュレーターだったEBUによって89年に結成されました。しばらくはコンピレーションに楽曲を提供する程度だったようですが、93年のRosen Kreuz解散と入れ替わるように本格的な活動を開始しています。

 

 Def.Masterは基本的にヴォーカル・プログラミング担当のYU-MI氏が中心となるプロジェクトのようですが、その他のメンバーは出入りが激しく、その面子を追いかけているだけでもなかなか興味深いです。本作の時点では裏ジャケに「DEF. MASTER = YU-MI + EBU」とある通り、Ministryと同じく2人組のユニット形態だったようですが、DOOMの藤田タカシ氏*1が全曲でギターを担当しており、実質的にはトリオ体制だったのではないかと。以前弊ブログで紹介したScornの1stみたいな感じですかね。その他、#7ではZ.O.Aの黒木真司氏が琵琶(!)で、#10ではcocobatのRyuji氏とTake-Shit氏が、それぞれヴォーカルとベースで参加しています。

 

 国産インダストリアルメタルの雄...的な扱いをされているのを散見したので、さぞハードでゴリゴリのギターが聴こえてくるのかと思いきや、#1はいきなりガバテクノ。一応ギターのクレジットはあるものの、ほぼ100%エレクトロニックな構成となっていて驚かされます。その後は期待通りのメタルギターと打ち込みの競演を聞かせてくれますが、この人たち、思っていたよりエレクトロニクスの比重が高いです。#2,3ではPeace, Love & Pitbullsを髣髴とさせる超重量級のマシンビートで圧倒する一方、#4,7ではドラムンベース的な高速ブレイクビーツを取り入れるなどなかなか多彩。各所で挿入される耳障りなサイレンやサイバーちっくなSEも、どちらかといえばハードコアテクノ系の影響を感じます。90年代末期には本格的にドラムンベースに傾倒していたという情報もありますが*2、その片鱗は既にこの時点で垣間見えますね。

 

 実は、マニピュレーターを担当するEBU氏は、93年ごろまでGult Depというテクノユニットに参加していたという経歴を持っています。このGult Dep、ネットで試聴する限りは当時流行りのハウス寄りなテクノといった趣。それも電気グルーヴのようなJ-Popの域に踏み込んだそれではなく、クラブ志向の真面目な(?)テクノをやってます。曲によっては海外のグループと言われても気づかないかもしれません。その後どういった経緯でインダストリアルメタルに流れたのかは不明ですが、Def.Masterのやけにこなれたエレクトロニクスの使い方は、こうした背景が関連していると見てよさそうです。

 (2021.9.12追記)…と長いこと信じていたのですが、フォロワーさんの情報によると、どうもGult DepのEBUさん(本名:江袋能是氏)とDef. MasterのEBUさんは別人らしいです。といってもこのお二方はご親戚なんだとか*3。デフの方のEBU氏はRosen Kreuz加入前、Angelic Pierre(エンジェリック・ピエール)というインダストリアルユニットで活動していたらしいです。カセットコンピに曲を提供したぐらいでほとんど音源は残っていないようですが、どうもノイバウテン+白虎社のようなノイズパフォーマンスユニットだった模様です*4

 

 またRosen Kreuz時代のYU-MI氏は、自らの影響元としてFoetusやFront 242を挙げていた模様。特に前者に関しては、初期シングルのアートワークやフォントデザインにその影響をみることができます。また音楽面でも、#10のイントロにおけるお祭り騒ぎなドラムなど、NINのFoetusによるリミックス曲群を髣髴とさせるものがありますね。

 

 多少癖はあるものの、野太いデス声から甲高いシャウトまで使いこなす安定したヴォーカルや、最後までテンションを保ったまま全力疾走で駆け抜けていくアルバム構成も相まって、音楽性のわりには比較的とっつきやすい内容となっているのも高ポイント。インダストリアルメタルにありがちな、スローやミッドテンポのダラダラした曲は皆無で、一息つく暇など無いと言わんばかりです。こうした初期衝動の発露もFoetus的だなぁと感じたり。

 

 メタル/パンクとハウス/テクノの合わせ技でもって、Foetusの凶暴なテンションを再現したという恐ろしい1枚。ポストパンクの音圧を強化することでインダストリアルメタルを生み出したMinistryとはまた違う、異形の"Japanese Industrial Metal"は必聴です。インディーズ盤ということでやや入手は困難ですが、Def.Masterの音源の中では一番見つけやすいのではないでしょうか。ネットオークションを地道に探してみましょう。

 

Released Year:1994

Record Label:Destroy Method

 

Track Listing

  1. Are You In
  2. Laise A Rebellion
  3. Gastrey
  4. Bring To Ruin
  5. Corporal Power
  6. Menacingly
  7. Carry One's Mission
  8. Lethal Chamber
  9. The Seed Of Abraham
10. Train Your Body

 

 Pick Up!:#3「Gastrey」

  #1と同様に、ガバの影響を感じさせる暴力的なマシンビートでひたすらゴリ押し。さらにこちらはギターリフも加わってさらに暴力度が増しています。無慈悲なまでの単調さと冷徹さ、そして高速稼働に耐えかねて機械が悲鳴を上げているかのようなサンプリングノイズの組み合わせが堪りません。この人間味の無さこそまさにインダストリアルメタル!と太鼓判を押せる1曲です。

*1:詳細は→Doom (日本のバンド) - Wikipediaで。ちなみに藤田氏はSOFT BALLETにもサポートギタリストとして参加しています。

*2:yukihiro氏のソロデビューシングル"ring the noise"(2001年)では、表題曲のドラムンなリミックスを提供したりしています。

*3:江袋なんて珍しい苗字(失礼)の方が狭い業界にそう何人もいる筈ないだろう…と思ってたら、やはり。

*4:こちらのツイ参照→