TRIAL - 1

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 イギリス出身の"ディストピアン・スラッシュ"*1ユニット、TRIALのデビュー作(1stEP)。このグループの存在はTwitter経由で知りました。"Def Masterみたいな音"と紹介されていたので興味を持ったんですが、蓋を開けたら想像以上のクオリティにぶっ飛ばされましたね。

 

 一聴して耳を惹くのがギターの音作り。ハイファイでソリッドなサウンドを好むメタラーが顔をしかめそうなひしゃげた音で、まるで自主製作のデモ音源のようです。しかし、その80年代ハードコアパンクを思わせるノイジーなギターサウンドで繰り出されるのは、まさに王道を往くスピーディ&スラッシーなリフ。ザクザクと小気味良い刻みを中心に、ツインギターでユニゾンしたり、速弾きソロを展開したりと、どう考えてもパンクシーンからは出てこないであろうスタイルで聴かせてくれます。メタリカやスレイヤーといった超大御所が脳裏をよぎるリフ構成やアレンジは、もはや古典的とすら言えるレベル。5曲20分というトータルタイムをあっという間に駆け抜けていきます。

 

 そこに乗るVo.が醒めきっているのも興味深いところ。実に無機質かつ淡々としていて、吠えたり叫んだりすることが全くありません。感情を排したように低音でボソボソ呟くスタイルは、どちらかと言えば近年のEBMグループのダミ声に近い感じ。ドラムは人力と思われる音ですが、こちらも単調な直線ビートの反復に終始しており、メタル的な手数の多いドラミングよりもプリミティブな質感です。サンプリングの類といった装飾も最小限で、とにかくストイックに研ぎ澄まされた音という印象を受けますね。

 

 ここまで書いてきて思ったんですが、全体的な音像はGodfleshに近いんですよね。特に、ノイジーでざらついたギターの質感はGodflesh(あるいはその影響元であるKilling Joke)にも通ずるものを感じます。ただし決定的に違うのは曲のスピード。このアルバムにはJ.K. Broadrickがナパームデスから脱退した際に、意図的に捨てた"速さ"があります。同じナパームデス脱退組のScorn(初期)にもある程度のスピード感は残っていましたが、このTrialはそれ以上。加えて前述の通り、Godfleshやその一派が絶対にやらないような「王道メタル」のスタイルで無邪気にギターを弾き倒していますから、もう余計に異質。GodfleshがSlayerをカバーしたら…という妄想をそのまま形にしてしまったかのような仕上がりです。

 

  で、調べてみると、このユニットの2人組はそれぞれKhostとPrimitive Knotというバンドのメンバーのようです*2。特にKhostについては、Godfleshとスプリットシングルを出したり、メンバーがTechno Animalにも関わっていたりと密接な繋がりがある模様。ほとんど電気的処理がされていないのにも関わらずこのインダストリアル・ドゥームな空気感は…と思っていたのですが、やはり…という感じですね。

 

 いわゆる"Godflesh系"のバンド群は、メタルよりもポストパンク・ハードコア系統からの影響が強いためか、王道メタル的なスタイルを嫌う(あるいは避ける)傾向が強いという印象があったのですが、このTRIALはそういった照れ隠しが皆無。誰もが通るであろう、メタルを聴き始めた当初の「メタル・キッズの顔」をおくびもなく覗かせています。素直なメタル愛を隠さず、それでいて絶対零度なハードコア、インダストリアル・ジャンクの要素も忘れていないという、個人的には最高のバランスを保っているこのユニット、本作に続く新たな音源も制作中とのことで、今後の動向が注目されますね*3

 

Released Year:2020

Record Label:(self released)

 

Track Listing

  1. Eyes Against Infinite Suppression
  2. Colony Of Trial
  3. Steel Premonition Against Time
  4. Towers Of Short Term Lies
  5. Mannequin Eyes
 

 Pick Up!:#5「Mannequin Eyes」

  比較的スローでヘヴィに始まったと思いきや、1分過ぎから爆速驀進モードに早変わり。終盤は再びテンポを落としつつ、最後はドゥームで不穏なピアノで締めるという凝った展開の曲。「初め五月蠅く、終わりはピアノでしっとり」というのもNIN以降の定番ではありますが、こういうアレンジにもただのメタルで終わらないメンバーの経歴が出てるなぁと感じますね。