Def.Master - Thoughts Distorted

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  日本のインダストリアルメタルバンドの2rdアルバム。今作ではオリジナルメンバーだったEBUが脱退し、基本的にはYU-MI一人のユニットとなっています。その他いくつかの曲では、ギターでNARASAKI(Coalter of the Deepers)と藤田タカシ(Doom)、ベースでHIROKI(Media Youth)、ドラムでSHIGEO(Crawfish)、プログラミング&アシスタントでMURAYA(Trance Noise Machine)…という面々が参加している模様。細かく見ていくと、#1,2,4,6は上記のバンドメンバーで、そのほかの曲はYU-MI氏が1人で録音しているようですね。

 

 前作のジャケは「スリーブ+印刷付き透明フィルムの重ね合わせ」という凝った仕様でしたが、本作のアートワークにおけるメタリック印刷もなかなか気合が入ってます。ご覧の通り、蝶の鱗粉で見られる構造色のような独特の粒子感と、光の当て具合で色味が変化する様子が実にカッコいいですね。*1

 

 高速マシンビートでゴリ押しする曲が目立った前作に比べると、やや音楽性に拡大・深化が見られるのが本作の特徴。特にYU-MI氏の単独製作である#3,5では、テクノ的要素がより前面に出てきており、アンビエント的なシーケンスにゴリゴリのベースと砂嵐ノイズギター、そしていつものデス声が被さるという新境地を見せてくれます。1stの頃からエレクトロニクスの比重は大きかった彼らですが、背景音が明確にテクノっぽくなるだけでここまで印象が変わるのか…と驚かされることしきり。ダンサブルな#3などは、ローゼンクロイツ時代の曲"Once Upon A Time"の進化系ともいえるかもしれません。

 

 その他バンド録音の4曲は前作を踏襲した作りですが、比較的音の分離が良く輪郭がはっきりしていた前作と比べ、音が塊となって飛び込んでくるような印象を受けます。音質が悪くなったというより、細かいノイズやサンプリングがギターリフの間にも綿密に織り込まれることで、全体的に情報量が増えたというか。どうもYU-MI氏のインタビューを読むと、1stの時点でこういう音にしたかったのが、マスタリングの段階でノイズ成分が除去されて不本意な仕上がりになってしまったので、今回はそのリベンジ…ということのようです*2。特に#1は前作の1曲目"Are You In"のリメイク版的な曲で、スピード感はそのまま、ギターレスのガバテクノからヘヴィなリフ主体の構成に変貌。同じサンプリング音を使用していても印象がかなり異なります。

 

 このように着実な変化を示した一方で、全ての障害物をなぎ倒しながら暴走していくような独特の疾走感・初期衝動が減退したのは否めない印象があります。ミッド~スローテンポの曲も、ダンサブルな#3以外はそこまで…という感じもあるのがちょっと残念。ダレ気味の#5については、Ministyの「The Dark Side Of The Spoon」を先取りしたかのような妖しさが垣間見えるのが一周回って興味深いですが。あとは先述の音質の変化についても、パキッとした1stかモコっとした2ndか、この辺り好みが別れそうです。

 

 というわけで、Def.Masterでまず聴くべきアルバムは?と聞かれたら1stを挙げてしまう部分はあるものの、こちらも決して見逃せない内容であることは間違いないでしょう(そもそもアルバムを2枚しか残していないので)。入手性の悪さも相まって語られることの少ない気がするアルバムですが、前作が気に入った方なら聴いて損はないかと。

  

Released Year:1996

Record Label:Destroy Method

 

Track Listing

  1. Risky
  2. Kick Back
  3. Thoughts Distorted
  4. Rage
  5. Tell The Truth
  6. Expose
  7. Expose (V.B.mix)

 

 Pick Up!:#6「Expose」

 不気味なシンセ音が鳴り響くミッドテンポなパートと、ガバ的な直線ビートでゴリ押しする高速パートを行ったり来たりするトリッキーな曲。前作の作風に一番近い曲で、やっぱり彼等にはこのゴリ押し感が似合ってるな~と思ってしまうのはファンとして保守的に過ぎるでしょうか。ちなみに#7は同曲のドラムンベース風リミックスですが、個人的にはオリジナルの方が好きです*3

 

*1:写真に撮るときはえらく難儀しますが。

*2:Doll誌96年11月号より。「エンジニアの色が強く出すぎた。他人に任せるのはもうやめようと思った。」とは本人の弁。

*3:V.B.mixとは本人曰く"Violent Beat mix"の略だそうですが、うーんオリジナルの方がヴァイオレントな気が…。