Numb - Wasted Sky

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 前作で確かな手応えを感じたのか、1年弱のスパンでリリースされた4thアルバム。このアルバムから、米国でのリリースをMetropolisが持つようになりました(US盤のリリースは翌95年)。またしてもKK盤とMetropolis盤でジャケが異なる模様。あと、なにげに同一メンバーで2作続いてアルバムがリリースされるのはこれが始めてだったりします。

 

 本作での彼らは、より分かりやすい形でギターを取り入れ、ある程度流行のインダストリアルロックへの接近を見せています。そうはいっても多少"接近"した程度で、比較的歯切れのいい表題曲の#1にしろ、地上スレスレを低空飛行で疾走するかのような#3にしろ、KMFDM等に比べれば10倍くらい捻くれてます。陰湿でドロドロした音処理も相変わらずなのでご安心を。

 

 その一方、前作で見せた圧倒的な邪念とテンションは収束・整理されており、変則的な曲展開や執拗に牙を剥くノイズも控えめなので、よく言えば分かり易くキャッチー、悪く言えばやや地味...という印象を受けます。ヴォーカルが低音のウィスパーボイスを多用するようになったのも象徴的。一般的に、EBM系ユニットがギターを導入すると曲のテンションやボルテージが向上することが多いんですが、このアルバムではむしろクールダウンした、冷めた印象すら受けるところがおもしろいですね。Don Gordon曰く「ノイズ一辺倒な展開は出来るだけ使わずに行く」と決めてレコーディングに臨んだらしく*1、前作とは異なる方向性を志向していたようです。

 そういったわけで、本作の真骨頂はどちらかといえば"静"のパート。特に、淡々としたメタルパーカッションに、浮遊感のある妖しくもキラキラしたシンセが重なる#2は彼らの新境地。その他インスト曲も、いつも通り不穏に始まったかと思えば珍しく途中からテンポアップする#4や、一通りノイズで蹂躙してから不気味なストリングスで終幕を迎えるラスト曲#9など、1stの頃とはまた違ったアプローチで静・動の混沌を見せてくれます。前作が全てを破壊し尽くす地獄の業火ならば、本作はその焼き尽くされた世界のための葬送曲とでも言いましょうか...(厨二的表現)。この全体に漂う終末後感、夕日に照らされた廃墟や遺跡が似合いそうな雰囲気です。

 燃え盛っているようで黒光りしたダークさも垣間見せるジャケに象徴される通り、破壊衝動のみならず奥深さすら漂う作風は、相変わらず独特の個性があって飽きさせません。単に「Skinny Puppyがメタルをやったら...」という足し算的発想に留まらない良作。

 

Released Year:1994

Record Label:KK Records, Metropolis

 

Track Listing

  1. Wasted Sky
  2. Blood
  3. Driven
  4. Keyak
  5. Ophelia
  6. Ratblast
  7. Smile
  8. Effigy
  9. Seven Types Of Ambiguity

 

 Pick Up!:#6「Smile」

 真綿で首を絞めるようにジワジワ責め立てるミドルテンポの曲。ベコベコシンセは流石EBM出身というところですが、そこへのギターの絡ませ方がなかなか面白い。明瞭なリフがあるわけでもなく、ざらざらと耳障りなようで心地良いこの感じが癖になりますね。終盤の強迫的な"Smile"連呼も、背筋が寒くなるような怖さがあって良いです。