V.A. - NG (Various Collektiv From Trans Records)

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 ナゴムと並んで日本の80年代インディーズシーンを代表する(らしい)、「トランスレコード」のレーベルコンピ。私はこの辺りの80年代サブカルチャーに疎いので、個々のバンドについて詳しいことは書けないんですが、90年代以降のいわゆるJロック()とは全く違う、アンダーグラウンドな熱量を感じる楽曲がズラリと並んでいます。

 

 あえて形容すれば #1,6,8はポストパンク、#2,5はカオティック・ハードコア、#5,9はノイズ...と括ることはできなくもないですが、そういったカテゴライズでは語り切れないほど異形かつカオスな曲が多い印象。もちろん同時代のパンク・ニューウェーブに何らかの形で影響は受けているのでしょうが、その咀嚼・消化の仕方が独特すぎるのか、いい意味で「こんなの聞いたことねぇ...!」という感覚を味わえます。ある意味、最も影響元に対して素直なのは、"和製ノイバウテン"といった感のあるZeitlich Vergelterの#3かもしれません*1。そういえばライブ盤が出るという話はどうなったんでしょうか...。

 

 そんな尖りまくりの楽曲群の中で異彩を放っているのが、#4と#10。前者は明らかに後続のV系バンドへの影響を感じる、耽美かつヒステリックなヴォーカルが印象的ですし、後者のどんよりと不穏な静謐さの中に見える形容しがたい閉塞感・鬱屈さ加減は頭一つ飛び抜けています。タイトルのナンバーレスランドは「網走番外地」から採られたらしいですが、歌詞からもそういった"ネガティブな"昭和のモチーフを色濃く感じるのが、日本のバンドならではといった趣で興味深いです。そういえば、英詞がほとんどの本作においてこの2曲だけは日本語詞なんですね。

 

  インディーズということでヴォーカルや演奏には独特の癖がありますし、全体的にグチャドロとしたアングラ感が漂っているので好みは別れるかもしれません。ただ、音源としてはこのコンピでしか聴けないものがほとんどですし、そもそも碌にスタジオ音源を残していないバンドもあったりするので、そういった意味でかなり貴重なアルバム。入手は困難と思われますが、ジャパニーズ・インダストリアルの一資料という域を超えて、一度聴いてみてもらいたい作品です。

 

Released Year:1986

Record Label:Transrecords

 

Track Listing (Artist - Track title)

  1. Z.O.A - Cry The War
  2. Ruins - Ideology / Sanctuary
  3. Zeitlich Vergelter - The Third System Of Transit
  4. Asylum - Mu En
  5. YBO² - Trash! Crash! Y.B.O.
  6. Sodom - Banshee / Cry
  7. Boredoms - Ground Burn Out
  8. Libido - Kiss My Area
  9. A.N.P - Disembody
10. Ill Bone - Numberless Land

  

* #2,6はCD上ではトラック分割されていますが、両者とも実質的に1つの曲といった感じなのでこのように表記しています。

 

  Pick Up!:#4「Mu En」

  上に書いた通り、V系バンド群との連続性を感じる1曲。個人的には、この泣き喚くようなヴォーカルスタイルは完全に初期LUNA SEAにおけるRYUICHIのそれで、86年にしていわゆる「V系っぽい歌唱法」が既に完成しているというのは非常に驚きでした。それでいて歌メロは意外と馴染みやすいですし、中盤からの急加速と「モウオワリダ!!」連呼も素敵で、結構気に入ってます。ちなみに、Mu Enは"無縁"ではなく"夢宴"と書くらしいですね。

*1:バンドメンバーはノイバウテンと比較されるのを嫌がっていたとも聞きますが、メタパーを駆使しつつも激しさより音と音の隙間・静寂が印象に残るという点で、2nd~3rdの頃のノイバウテンにそっくりだと思うんですよね。