Numb - Mortal Geometry

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  カナダ出身のエレクトロ・インダストリアルユニットの7thアルバム。1998年の最終作"Language Of Silence"以来、21年ぶりとなる新作です。中心人物のDon GordonはNumbの活動終了後、2000年にHalo_Gen名義で1枚アルバムを発表していたようですが、その後何を思ったのか突如ベトナムに移住。現地で結婚もして今は大学教授をしているらしい…などという情報もあり、もはや完全に音楽業界から足を洗ったものと思われていました。それだけに、今作発表の報には心が躍った反面、不安要素があったのもまた事実。

 

 そんな想いで上がってきた本作を聴いてみると...うーんこれが何とも言えない。基本的な方向性としては、幾重にも綿密にレイヤーを重ね合わせた、円熟味すら漂わせるサイバーなEBM。同じく去年出たFLAの新譜を彷彿とさせるところもあり、丸々一枚エレクトロニカ、或いはダークアンビエント…といった「脱・ボディ」な作風でなかったという点では一安心です。

 

 ただ、かつてのNumb最大のトレードマークだった、聞き手を突き放す強烈なノイズ処理がほぼ皆無なんですね。楽曲を聴いていると、#3、6、7等はむしろ20年前よりもストレート・キャッチ―でダンスフロア向けな仕上がりだったり。特にアンビエントな前半から一転して女声Vo.を交えてデジタルに疾走する#4などは、一歩突き抜けた感すらあります。これでもう少しだけでも音処理がハーシュだったら...と思わずにはいられません。その一方、一番かつての彼ららしい吐き捨てVo.の#1や、アルバム終盤のインスト曲では、活動初期から一貫している陰湿で不穏なエッセンスを見せてくれます。水中を思わせる黒光りシンセ空間の中を、淀んだギターノイズがサイレンのように反復する#8などは過去の名曲"Blood"を彷彿とさせ、Don Gordonの作曲センスが錆びついていないことを思い知らされましたね。

 

 そんなわけで楽曲の基礎の部分は悪くないので、あとは味付けの問題といった感じです。とりあえずカナダにいようがベトナムにいようが*1、Don Gordonはこういう作品を作れるということは判ったので、願わくばこのまま「ベトナムバンクーバーインダストリアル」*2な路線(意味不明)で活動を継続してほしいところ。できれば旧友のConan HunterかDavid Collingsもベトナムに呼んでアルバムを作ってくれたら*3言うことないんですが…。まぁ厳しいよなぁ…。

 

Released Year:2019

Record Label:Metropolis

 

Track Listing

  1. Redact
  2. Hush
  3. Complicit Silence
  4. The Waiting Room
  5. How It Ends
  6. Summer Lawns
  7. When Gravity Fails
  8. Shadow Play
  9. Mortal Geometry
10. Hush (Creation To Negation)

 

 Pick Up!:#7「When Gravity Fails」

  導入的なインスト#6からなだれ込むように始まる、ダンス路線の1曲。音は流石に今風にアップデートされていますが、このにじり寄るように地を這うシンセベースと淡々としかし強迫的なハンマービートはまさにThis Is EBM!と言った感じで、思わず口元がニヤけてしまいますね(キモい)。少しづつ音の厚みが増えていく終盤の盛り上がりもgood。

*1:クレジットを見ると"RECORDED AT HO CHI MINH CITY"の文字列が...。

*2:90年代のバンクーバー周辺は、cEvin Key、Front Line Assembly、Strapping Young Lad、Unit 187そしてNumbといったバンド群が跋扈する、超胸熱なエリアだったらしいです。

*3:今作ではDon Gordon自らがVo.をとっています。