V.A. - 21st Century Quakemakers Volume 2

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 イタリアのオルタナ系レーベル*1Contempo Recordsのサブレーベル、BBATのレーベルコンピ第2弾。とはいってもBBATの活動はかなり短命で、このシリーズコンピ2枚と12" シングルを数枚リリースしたのみであっさり閉鎖してしまった模様。

 

 そんなマイナー街道まっしぐらなコンピではありますが、EBMマニアにとってはこれがなかなかの好盤。オープニングを飾るPankowはもちろんのこと、そのサイドプロジェクトであるHardsonic Bottoms 3とSanta B. Boysも、本家に負けず劣らず良質なボディビートを聴かせてくれます。特にSanta B. Boysは、とぼけたような電子音と硬質で重めのキックの取り合わせが癖になりますね。Wax Trax!からの外部ライセンスであるKMFDMとThrill Kill Kultも、前者はハードレゲエ・ダブ風味、後者はハウス風味のボディで違和感なくアルバムに溶け込んでいます。

 

 ちなみにこのコンピは、「MIX」*2創刊号のディスクレビューで、あの石野卓球氏が紹介していたことでも知られています。いわく、「はっきり言ってPIASのコンピレーション"エレクトリック・ボディ・ミュージック"*3の百倍良い!」だそうで、揃ったメンツにしても選曲にしても、毒舌家の氏には珍しく(?)手放しで絶賛されております。この当時はまだEBMを好んで聴いていたんですね~*4

 

 実際のところベルギー発の「This is Electronic Body Music」は、表題はEBMと言いつつもその実ポジティブパンク・ダークウェーブと呼ばれるバンドが中心。The Neon Judgemenやà; Grumh...、The Cassandra Complexなど、EBMというよりは"シンセサイザーを導入したゴシックパンク"といった面持ちで、全体的な雰囲気としても仄暗くひんやりとした、ヨーロッパ北部の空気を濃厚に感じる内容でした。

 

 一方の本作を語るうえでのキーワードは、ずばり"アシッド・ハウス"。#3や#9といったモロなグループはもちろん、前述のPankow関連の音源にも共通してアシッドの影響を感じます。TKKがちょうどハウス路線に接近を始めたころの萌芽である#8が収録されているのも象徴的*5。このように、全体を通じてイタロ風味ともいうべき陽性のエネルギー、生命力といったものに満ち溢れているんですね。まさにイタリア・ギリシャといった、温暖なヨーロッパ南部のイメージ。EBMの持つ「躍動する筋肉!迸る汗!」といった肉体性に加え、こうしたハウスムーヴメントの影響が色濃く反映されていた点も、卓球氏の耳を惹いたのではないでしょうか。

 

  イタロハウス風味の牧歌的なEBMがズラリと並んだこのコンピは、さんさんと照りつける太陽の下、ビーチでワインでも飲みながら聴きたい1枚です。そんなシチュエーションでEBMを聴きたくなるのかというツッコミはさておき。

 

Released Year:1989

Record Label:BBAT

 

Track Listing (Artist - Track title)

  1. Pankow - Germany Is Burning
  2. Clock DVA - Hacked (Reprogrammed III)
  3. Unique And Dashan - House Is Taking Over
  4. Hardsonic Bottoms 3 - Mr. Walker (The Convincing Version)
  5. Carlos Perón - A Hit Song
  6. Santa B. Boys - Canaria Canaria
  7. KMFDM - King Kong Dub Rubber Mix
  8. The Thrill Kill Kult*6 - The Devil Does Not The Drugs
  9. The Shamen - Splash 2

 

  Pick Up!:#5「Carlos Perón - A Hit Song」

  70年代末から活動するスイス出身のシンセポップデュオ、Yelloの片割れであるCarlos Perónのソロ作品。この人の経歴には詳しくないのですが、どうもこの時期(80年代末)はEBMブームの波に乗る形でこっち方面に舵を切っていたようです。ですがそこはベテランの意地なのか、アップテンポかつなかなか緊張感のある音で素晴らしい。これ以前はダークウェイブ系の音を鳴らしていたようですが、男声コーラスの使い方などにその名残も感じますね。

*1:一部界隈ではPankow、Clock DVA、Lassigue Bendthaus等が所属していたことで知られていますが、カタログを見ているとPixiesCocteau Twins、Christian Deathなどもリリースしているので、特にエレクトロニック至上主義!というわけでもなさそうです。

*2:「FOOL'S MATE」が邦楽専門誌になった際、それまでの洋楽部門を別冊として独立させて創刊された雑誌。その後の「remix」誌の原型となりました。

*3:文字通りEBMというジャンルを定義付けたといわれるPlay It Again Samのコンピレーション、"This Is Electronic Body Music"のこと。この当時、EBMは"エレクトリック・ボディ・ミュージック"と誤読(正しくはエレクトロニック~)されていたそうですが、ここでもその様子が見て取れますね。

*4:その後アシッドハウスやヒップホップの台頭に伴い、氏の趣味もそちらへ移っていきます。本人曰く「それまでボディ・ミュージックとかも聴いてたんだけど、それがバカバカしく聴こえてしまった」らしい。出典はここhttps://www.redbullmusicacademy.jp/jp/magazine/interview-takkyu-ishino

*5:リミックス前のオリジナルである"First Cut"と比べると、明らかに方向性が変わってきていることがよく分かります。

*6:ご存じの通り、本当は"My Life With The Thrill Kill Kult"なんですが、このアルバムではこういう表記になっています。まぁ無駄に長いし略したくもなるよね(?)