Pankow - Svobody!

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 イタリア産EBMグループの、未発表曲やリミックス等を集めたコンピレーションアルバム。タイトルはチェコ語で"自由"という意味らしいです。

 

 内容としては、Adrian Sherwoodのプロデュースで有名な2ndアルバム収録曲のセルフ・リミックスが5曲(#1,4,6,8,10)、アルバム未収録曲が3曲(#2,3,9)*1、新曲が2曲(#5,7)。最後の3曲(#11~13)はCD版のみの収録で、表記はありませんがプロ・リミックス集団のRazormaid*2によるリミックス。悪くはないんですが、このグループの持ち味とはちょっと方向性が違う気がしてあまり聴いていません…。

 

 というわけで、注目すべきはやはりセルフ・リミックス。オリジナルではシャーウッドがプロデュース・ミキシングしていたものを、わざわざ自分たちの手でミックスし直しています。このコンピが出たのは、シャーウッドの手を離れて一人立ちした3rdアルバム「Gisela」の後ですから、3rdで手応えを感じたバンド側が、自分たちの手で過去作品を再構築したくなったとみるのが自然でしょう。BUCK-TICKの「殺シノ調ベ」と同じ立ち位置の作品と言えば、一部の方には判りやすいかもしれません。

 

 自分は2ndをいまだに入手できていないため、オリジナルとの比較はできないんですが、前衛的な#10以外は、どれもグループの勢いが伝わってくる仕上がりで素晴らしいです。3rdと同じく、On-Uを通過しつつよりソリッドに洗練された感のあるエレボで、特に#4,6,8がお気に入り。一方で未発表の2曲は、妙に人懐っこいメロディと浮遊感を湛えた#5、神経質なストリングスを主軸に終始不健康な雰囲気で進む#7(タイトルもかなり物騒)と、どちらもスローテンポでやや実験的な要素を取り入れており、脱・EBMを図る次作以降の路線が垣間見られて興味深いです。ちなみにあまり知られていませんが、#5はなぜかPVも作成されています。

 

 その他、#3はシングル以外ではこのアルバムにしか収録されていませんのでこちらも貴重。この曲にもPVが存在しますが、Front 242の"Tragedy For You"よろしく、なかなかにシュールで意図を図りかねる仕上がりになっております。こういった芸風はEBM界隈のお約束か何かなんでしょうか?

 

 このグループは基本的に牧歌的かつ独特の癖があるので、サイバーで近未来的なEBMを好む方には合わないかもしれませんが、DAFや80年代ボディが好きな方にはオリジナルアルバムと併せてお勧めしたいアルバムです。入手はかなり困難かと思われますが…。

 

Released Year:1991

Record Label:Contempo Records

 

Track Listing

  1. Nice Bottom / Schöner Arsch (Justified Remix)
  2. Kunst Und Wahnsinn (The 3rd Remix)
  3. Rememberme (7" Edit)
  4. Gimme More (Much More) (o.4.$.remix)
  5. Love Is The Biggest Pig
  6. She's Gotta Be Mine (1991 Remix)
  7. No Fun (In Droppin' Bombs On Berlin Or Bagdad)
  8. Sickness Takin' Over (Erased Version)
  9. Germany Is Burning (Verbombte Version)
10. She's Lowtta Be Mine
11. Sickness Takin' Over
12. Rememberme
13. Me And My Ding Dong

 

 Pick Up!:#4「Gimme More (Much More) (o.4.$.remix)」

 ガガガガ!!ズドドド!!と、建築現場を思わせる鉄骨乱打ビートが炸裂するゴキゲンな1曲。徹頭徹尾勢いだけでゴリ押ししてくるこの疾走感は癖になりますね。ギミ♪ギミ♪ギミ♪ギミ♪とダサさギリギリを紙一重で攻めるVo.も一周回って好き。思わず体が動きます。 

*1:ちなみに3曲ともオリジナルとは別バージョンとなっています。リミックスというよりも別バージョン・Edit違い…といった程度の差ですが。

*2:リミックス請負業者とでもいうべきでしょうか。どういうグループなのかはコチラ→Razormaid! - The Art and Popular Culture Encyclopediaを参照。

Ministry - In Case You Didn't Feel Like Showing Up/Live Necronomicon

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 Download Festivalでついに25年ぶりの来日が実現…と思いきや、昨今のコロナ禍の煽りを受けてまたしても*1中止となってしまったミニストリーの来日公演。そもそも日本でのフェス出演どころか、本国でのツアー開催*2も難しそうな状況となっており、なかなか厳しい状況です。とにかく今は「Stay Home」が至上命題、ライブやフェスはもってのほかということで…こうなったら出来ることはただ一つ、家でライブ盤を楽しむことだけですね(?)

 

 …というわけで今回は、この界隈なら知らない人はいないであろう、ミニストリーの最強ライブ盤を紹介。89年末~90年に行われた、"The Mind~"発表時のライブを記録したアルバムです。このツアーの音源については、同じ日の公演を記録したものが2種類発売されていますので、その両方を取り上げつつ比較してみたいと思います。

 

 このツアーでは、サンプリングや打ち込みを駆使した非人間的なスタジオ音源を再現するため、総勢10名というプログレバンド並みの大所帯でライブを敢行。結果、凄まじい熱量のライブアルバムが完成してしまいました。Bill RieflinとMartin Atkinsによるツインドラムと、最大4名のクォーター(?)ギターで繰り出される楽曲群は、どれもスタジオ音源を遥かに上回る音圧・迫力。重いというよりとにかく「厚い」です。ひとたびこれを聴いてしまったが最後、原曲なんて聴く気がしなくなってしまいますね(特に3rdの曲)。このライブで会得した音圧と熱量を、そのままスタジオ録音に持ち込んだのが次作"Psalm 69"だと個人的には思っていたり。この頃の彼らは間違いなく、世界最強のインダストリアル・メタルバンドでした*3

 

①In Case You Didn't Feel Like Showing Up (Live)

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 こちらが当初発売されたもの。実際のセトリからサイドプロジェクトの曲はごっそり削除され、随分とコンパクトな曲数になっています*4。VHSも同時にリリースされており、そちらには"Breathe"、"The Land Of Rape And Honey"、そしてビアフラによるスポークンワード"Pledge Of Allegiance"も収録されています。

 

 この作品に関しては、やはりVHSの映像が真骨頂。ただライブの模様を記録したビデオというよりも、PVのように様々なイメージ映像を挿入し、加工を施した*5プロパガンダというべき仕上がり。英語版wiki*6によると、89年12月31日*7と90年2月22日*8の2つの公演を組み合わせて映像を作っていて*9、メンバーもわざわざ服装を揃えて違和感を消しているという徹底ぶりだそう*10。ライブ映像自体にもネガポジ反転のような派手な処理が施されていて、各人の様子や演奏風景を楽しみたい人にとってはこの上なく見辛い映像になっています。しかしながら、この全容を把握できない荒い画質が、いかにもインダストリアルらしい不気味で危険な雰囲気作りに成功しているんですね*11。各所に暴行の様子や火だるまになる観客などが写っていますが、どこまでがフェイクでどこまでがガチなのか、見ていて判らなくなる瞬間が多々あります*12SPK的なインモラルと、メタル的エンタメを高度な次元で融合させた、至極のライブビデオと言えるでしょう。DVD化されていないのが残念ですが、YouTubeで全編見れるのでぜひ一度ご覧あれ。

 

Released Year:1990

Record Label:Sire

 

Track Listing

  1. The Missing
  2. Diety
  3. So What
  4. Burning Inside
  5. Thieves
  6. Stigmata

 

 Pick Up!:#6「Stigmata」

 ライブ本編のクライマックス。アルさんのヴォーカルにもかなり力が入っていて、要所で聞ける狂気的な叫びが強烈です。あと何といっても外せないのは終盤のアジテーションキリスト教徒、仏教徒ユダヤに始まりジョージ(パパ)ブッシュからゴルバチョフまで、全てに中指を立てていく姿は一周回って神々しさすら覚えます。まさに鳥肌もの。

 

②Live Necronomicon

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 で、こっちが2017年に突如リリースされたIn Case~の完全版。こちらは全て90年2月22日の音源で、In Caseでは削られていたサイドプロジェクト等の曲を含め、80分以上に及ぶセットリストをフル収録しています。といいつつ、この日演ったはずのRevolting Cocksの曲"Stainless Steel Providers"は漏れていますが…。これについては、リヴコのシングル"Beers, Steers & Queers (Remixes)"に、"Public Image"と共に収録されています*13。というかこの音源、ミニストリーのライブだったんですね。リヴコのツアー音源かと思ってましたよ*14。あと、ビアフラのスポークンワードもオミットされてます。

 

 音質に関しても当然リマスター済みで、各楽器パートの分離がクリアになっていますが、それ以上に驚くのが演奏そのものの差異。"Breathe"の冒頭ドラムソロに始まり、"The Missing"のイントロとコーラス部分の音程、"Thieves"のヴォーカル処理…本当に同じ音源か!?と問い詰めたくなること請け合いです*15。上でIn Caseは「加工されたプロパガンダ」と書きましたが、映像だけでなく演奏そのものもアルさんによって相当に手を加えられていたことが判ります。それもNINのライブ盤*16のように純然たる音質向上のためではなく、ライブ特有のミスや演奏のブレなどを都合よく修正した、言ってしまえば荒隠しの小細工。特にヴォーカル部分へのイコライジング処理が多い印象です。ヴォーカリストが入れ替わる割には声質が変わらないな~とは思ってたんですけど…。そんなわけで、良くも悪くも当時のバンドのありのままを捉えた、In Caseの伝説…もとい幻想をぶち壊す内容になっています。

 

 特に差が歴然としているのが"Stigmata"で、あのド迫力のパフォーマンスはどこへやら…といった感じです。最後の怒涛のアジテーションも、実際にはそこまで覇気がなくてなんだか興ざめ。もっと酷いのが"The Power Of Lard"で、肝心のビアフラ先生が曲のスピードについてこれず、後半はかなーりグダグダな演奏になってます(苦笑)。まぁLARDの曲はビアフラがゲスト参加した数回の公演でしか披露されていないので、バンドとしてもリハ不足、且つ息が揃わないのは仕方ないとは思うんですが…。これはIn Caseで外したのも納得です。

 

 しかしその一方で、こちらの方が輝きを増している曲も多数あります。中盤のPailheadのカヴァーは原曲超えのカッコよさですし、アンコールの"The Land Of Rape And Honey"では人力のノイジーなサンプリングが加わり、スタジオ盤とはかなり違った表情を楽しむことができます。また"So What"と"Burning Inside"はギターの音が整理されていない分、電ノコのようなリフの生々しさ・殺気が前面に出た仕上がりになっていて最高。In Caseとは迫力が全然違います。"Smothered Hope"と"Thieves"では、ミニストリーの鬼ハードコアな演奏にパピーのOgre兄さんのウゲウゲ声という組み合わせが聴けるだけでもう5000兆点。今やミニストリーの顔ともいえる曲になった"Thieves"も、オーガさんのVo.だとだいぶ印象が違って新鮮ですね。

 

 In Caseという作為的なプロパガンダの裏側を垣間見れるという点で、ファンにとってはかなり興味深い資料ですし、単純なライブ音源としても十分にアピールポイントを持つ内容だと思います。In Caseについても上ではちょっとネガティブな書き方をしてしまいましたが、最終的にカッコいいものが出来上がってるので手を加えたこと自体を批判するつもりは毛頭ありません。結果良ければすべてよし。ということで、両者違った良さがあるのでどちらをお勧めするかはかなり甲乙つけがたいんですが、個人的にはIn Caseを履修してからNecronomiconを聴いた方がより楽しめると思うので、余裕がある方はぜひ両方聴いてみては。

 

Released Year:2017

Record Label:Cleopatra Records

 

Track Listing

  1. Breathe
  2. The Missing
  3. Deity
  4. Man Should Surrender
  5. No Bunny
  6. Smothered Hope
  7. So What 
  8. Burning Inside
  9. Thieves
10. Stigmata
11. Public Image
12. The Power Of Lard
13. Hellfudge
14. The Land Of Rape And Honey

 

 Pick Up!:#6「Smothered Hope」

 やはり私としてはこの曲が外せません。初期スキニー・パピーの代表曲を大胆にスピードアップ、ハードコアにアレンジしたカヴァー。スタジオ音源はシングル"Burning Inside"のB面に収録されていますが、このライブ版ではさらにテンポがアップし、オーガさんのヴォーカルはもはや早口言葉の域に。まさに"Rabies"での狂気的なテンションの再来です。中期のパピーは好きだけど初期はちょっと…という人も、これなら聴けるんじゃないでしょうか。

 

*バンドメンバーについて

 本文で当然のようにラインナップの話をしてしまいましたが、そもそもアルとポール以外のメンバーなんて知らねぇよ!という人が大半だと思うので、つべのVHS映像から抜き出した画像付きで各メンバーも簡単に紹介したいと思います(上手くキャプチャできなかった人もいますが…)。もう見飽きたという人も、これを参照しつつビデオを見返すと新たな発見があるかもしれません。以下、クレジットも添えつつ。

 

Personnel

f:id:giesl-ejector:20200418151505j:plainAl Jourgensen – vocals, guitar 
みんな大好きアルおじさん。このビデオではテンガロンハットがトレードマークです。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151541j:plainPaul Barker – bass, keyboards 
単身ベースでバンドの屋台骨を支えております。ここまで周りがコワモテばかりだと、この人の知的なルックスがより際立ちますね。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151620j:plainTerry Roberts – guitar 
ギタリストその①にしてテンガロンハットその②。この人の立ち位置はアルさんの右隣なのでビデオに映ることも多く、見た目的にも判別しやすいです。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151647j:plainWilliam Tucker (右) – guitar
ギタリストその②。立ち位置はステージ上手。後にPigfaceやKMFDM等にも参加しており、インダストリアル界隈ではよく名前を見かける人ですが、ヘロイン中毒が原因で1999年に他界しています。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151705j:plainMike Scaccia – guitar
 ギタリストその③。立ち位置はステージ下手。一番メタルっぽいルックスからも判る通り、ミニストリーに速弾きギターソロを持ち込んだのはこの人です。このツアーで初めてミニストリーに帯同し、以降2010年代まで断続的にバンドに参加していましたが、2012年にライブ中の心臓発作で他界。このショックでアルさんが一時ミニストリーの解散を宣言したほど、貢献度が高かった人です。
  

f:id:giesl-ejector:20200418151802j:plainBill Rieflin – electric drums 
ドラマーその①。ミニストリーのサイドプロジェクトのほとんどに参加していた裏の立役者。ダンディなスーツ姿で機械のように淡々とエレドラを叩く姿が滅茶苦茶クールです。アルさんによれば、「この時のリーフリンにはメトロノームのような役割を果たしてもらった(ので申し訳なかった)」そうで、まさに名実共に人間ドラムマシンだった模様。

 

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Martin Atkins – drums
ドラマーその②。元Public Image Ltd.で自レーベルInvisible Recordsのオーナー。金髪とボーダーシャツがトレードマークで、このファッションはなぜかPigfaceやKilling Jokeでも統一されていました。リーフリンとは対照的に、ヘドバンしまくりの激しいドラミングが特徴的で、この二人のスタイルの対比も見どころの一つです。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151922j:plainChris Connelly – keyboards, vocals ("So What", "Public Image")
 ゲストヴォーカルその①。元Fini Tribeで、ビル・リーフリンと並びミニストリーのサイドプロジェクトでは常連だった人です。こちらのドレッドヘアー+スーツというスタイルも大好き。So Whatでのパフォーマンスは必見です。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151949j:plainNivek Ogre (奥) – keyboards, guitar, vocals ("Smothered Hope", "Thieves", "The Land Of Rape And Honey")  
ゲストヴォーカルその②。ご存じ我らがスキニー・パピーのヴォーカリスト。1988年のミニストリーのツアーにも参加していました。本家と違い、ゲスト参加だと血みどろにならないので()、普通にイケメンな立ち姿が拝めます。「FUCK ART LET'S KILL」シャツにも注目。

Joe Kelly (手前) – vocals ("Man Should Surrender", "No Bunny", "Thieves")  
ゲストヴォーカルその③。シカゴでLost Causeというパンクバンドを率いていたようで、どういう経緯か不明ですがミニストリーに参加。"Thieves"のスタジオ盤でもバックヴォーカルでクレジットされています。 

 

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Jello Biafra – spoken word(video only), vocals ("The Power Of Lard", "Hellfudge")   
ゲストヴォーカルその④。説明不要、元Dead KennedysAlternative Tentaclesレーベルの総帥です。英語をロクに聞き取れない私でも引き込まれてしまう、キレッキレの演説は流石の一言。LARDのパフォーマンス映像も見たいなぁ…。

 

 

 最後に、今年の3月24日に惜しくも亡くなったビル・リーフリンに、哀悼の意を表して本記事を締めたいと思います*17Twitterでも呟きましたが、全盛期のミニストリーはこの人のドラミング無しには成立しえないものだったと思っているので。Ministryに限らず、Revolting Cocks始め多数のサイドプロジェクトでのプレイも大好きでした。どうか安らかに。R.I.P.

 

*1:過去にはラウドパーク'06で来日予定だったものの突然キャンセル、さらに遡ればPsalm 69の頃から来日決定!→キャンセル…を繰り返していたらしいです。

*2:ちょうど今回取り上げているツアーの30周年記念で、前座にKMFDMとFront Line Assemblyという超豪華ラインナップのツアーを予定していたんですが、うーん… https://www.axs.com/ministry-announces-2020-the-industrial-strength-tour-138777

*3:一応断っておくと、私は"Filth Pig"も大好きな人です。あくまでライブバンドとしてこの時のラインナップが最強という意味ですので念のため。

*4:版権の問題もあると思いますが、恐らくはLP盤を2枚組にしないための措置。

*5:実際、シングル曲についてはPVがそのまま使用されています。

*6:コチラを参照のこと。→In Case You Didn't Feel Like Showing Up - Wikipedia

*7:実際のセトリ→Ministry Concert Setlist at Riviera Theatre, Chicago on December 31, 1989 | setlist.fm

*8:実際のセトリ→Ministry Concert Setlist at Star Plaza Theatre, Merrillville on February 22, 1990 | setlist.fm

*9:これが映像のみを指しているのか、音源も2日分を組み合わせているのかは不明。

*10:これにメンバーがイラついていたというのも面白いですね。ビデオの監督に強要されたんでしょうか。

*11:もちろん、かがり火と金網を並べたセッティングに、ツインドラム含む総勢10名のパフォーマーが暴れまわる時点で、すでに絵面として最強なんですが。

*12:というか、ステージ上の金網前で暴れまわる観客については、恐らくこの日のビデオ撮影のためのサクラ。別の日に録画されたブート映像(Ministry - Live In Dallas 1-28-90 (1990, VHS) | Discogs)ではステージ上に登る観客は確認できませんし。このライブビデオ中でも、はっちゃけ過ぎてスタッフに制止されている姿が散見されます。

*13:"Public Image"についても、このシングル版ではイントロにサウンドチェック(便宜的に"Country Interlude"とも呼ばれています)が入っており、さりげなくエアロスミスのリフを弾いてたりするのが興味深いです。Necronomiconで削られてしまったのが残念。

*14:どっちにしたところで演奏者は変わらないんですが。

*15:先述した通り、In Caseでは2日分の音源を組み合わせている可能性があり、演奏が違う曲=89年12月31日の音源ということも考えられます。"Thieves"については、ビデオではNivek OgreとJoe Kellyが2人で歌っている様子がはっきり映っているんですが、Necronomiconではどう聞いてもOgreのヴォーカルしか聞き取れませんね。

*16:And All That Could Have Been。偏執狂のトレントさんが弄り倒した結果、ツアー終了から丸一年以上経ってようやく発売に漕ぎ着けたというアレ。

*17:ミニストリー、R.E.M.、キング・クリムゾンで活躍したドラマーのビル・リーフリンが59歳で逝去。その半生を辿る

Riki - Riki

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  LA出身のミュージシャン/ヴィジュアルアーティスト、Niff Naworによるシンセポッププロジェクトのデビューアルバム。この人は元々デスロック・アナーコパンクと呼ばれるジャンル方面で活動していたらしく、Crimson Scarletというバンドでキーボードを担当していた模様。しかしこのソロデビュー作では、全くパンキッシュな印象が感じられない、耽美なシンセポップを奏でております。

 

 所属レーベルは本ブログでも何回か登場しているDais Records。ということで(?)、このアルバムも例に漏れず80年代回帰な作風です。それもキラキラした軽いシンセポップではなく、ちょっとビート太めなエレボ風味。1曲目から打ち込みドラムがビシバシ言わせております。3曲目なんて"Body Mix"と来てますし*1。ただ、あくまでそこに乗るVo.は甘く、コクトーツインズのような妖しさと浮遊感が特徴的です。この声が通常シンセサイザーが担う部分を肩代わりしている印象もあり、そのせいかシンセポップと言いつつシンセサイザーによるメロディ装飾は控えめ。いい意味でチープかつシンプルな構成となっています。

 

 特にリードトラックとなった#2は、インタビューで"super italo"と言われるほどに*2「まんまイタロ(ディスコ)」らしいのですが、イタロというものを知らない筆者は「DAF+Toni Holiday」*3としか聞こえませんでした。軽快なようで妙に肉感的なシンベ、バタバタと跳ねるドラムマシン、冗談みたいなセンスのPV…聴けば聴くほどDAF。この曲の歌詞、要は「なんて魅力的な男。抱いて!」という感じの内容なんですが()、男性性への憧れを男性視点で描いたのがDAF、女性視点で描いたのがRiki…と捉えることもできるかも。#1,3ではドイツ語の歌唱も披露しているので、余計にNDWっぽい印象を受けるのかもしれませんね。

 

 Curveを「ゴスい女性Vo.と90年代インダストリアルロック(およびシューゲイザー)の融合」とするならば、Rikiは「ゴスい女性Vo.と80年代プレEBMの融合」という感じでしょうか。アルバムの流れとしてはもう少しアップテンポの曲が欲しい感じもありますが、初のフルアルバムと考えれば十分すぎる内容でしょう。Daisのアーティストは、みな80年代への愛と音の再現度合いが徹底しているのが素晴らしいところ。今後の活動も要注目です。

 

 ちなみにNiff NaworはルックスもちょっとToni Holidayっぽい印象。ジャケは本人のご尊顔ですが、このスージー・スー風の山姥みたいな写真はいただけません。PVを見てもらえばわかりますが、素の映りではもっと綺麗な人です。特に#5のPVは殺傷力高めなので…是非一度ご覧あれ。(何の話?)

 

Released Year:2020

Record Label:Dais Records

 

Track Listing

  1. Strohmann
  2. Napoleon
  3. Böse Lügen (Body Mix)
  4. Know
  5. Earth Song
  6. Spirit Of Love
  7. Come Inside
  8. Monumental

 

 Pick Up!:#5「Earth Song」

  アルバム随一のアップテンポ曲。全編にわたりポストパンク風にドライブするベースラインが気持ちいいですが、哀愁漂う下降気味のメロディラインがまさに一撃必殺級。私はこれにノックアウトされてアルバムを買いました。控え目に散りばめられたオルゴール風のシンセもいい感じ。ちなみにこの曲、プロデューサー/シンセ奏者として、Skinny Puppy界隈ではおなじみのKen Marshallが参加しています*4。こんなところで名前を見かけるとは…予想外の発見でした。

*1:この曲はアルバム発表前のシングル"Hot City"に収録されていた曲のリミックスです。

*2:こちらのインタビューより。→ https://www.post-punk.com/let-your-heart-show-an-interview-with-new-wave-warrior-riki/

*3:ご存じCurveのヴォーカリスト。日本だとAcid Androidへの客演でも有名でしょうか。

*4:Discogsのクレジットより。→https://www.discogs.com/Riki-Riki/release/14792995

Foetus - Flow

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 7thアルバム。古典的なカートゥーン風味のジャケは本人の趣味でしょうか?

 

 80年代にはまさに破竹の勢いで進撃を続けたフィータスですが、90年代に入ると活動が急速に停滞し、ジャズ風味のサイドプロジェクトやリミックスワークといった形でしか表舞台に姿を見せなくなります*1。95年になってようやく出た"Gash"では、90年代のインダストリアルロック・ブームとNIN等若手のリスペクトというかつてない追い風を受けメジャーレーベルへ移籍、ついにNYアングラ界の帝王が華々しく表舞台へ…と思いきや、商業的には大失敗で本人が不貞腐れてしまう始末*2。決して中身は悪くないんですが、世間が求める"インダストリアルロック"のフォーマットからは大きく逸脱した、分かりにくい捻くれた仕上がりだったものですから…。

 

 そんなこんなで再び6年ものブランクが開き、21世紀になってようやく出たのが本作。古巣のThirsty Earに戻っての再出発です。基本的には前作"Gash"の延長線上にありながら、本作のキーワードは「ジャズ」。これまでもビッグバンド風のアプローチを随所で取り入れてきたフィータスですが、今作ではそれを前面に押し出しています。まさかのボサノヴァ風#2、ハモンドオルガンとサックスで渋くキメる#4、スパイ映画を思わせるスピードと緊張感に満ちた#6などにそのカラーが顕著です。

 

 一方で従来のインダストリアル的な要素もしっかり残しており、開き直ったかのようにブレイクビーツ・ビックビートを取り入れて"インダストリアルロック"を鳴らす#1*3を筆頭に、演奏は下品なほどノイジーな癖してヴォーカルラインは妙にキャッチ―な#5、ヤケクソ気味に暴走する#10など、いい意味でストレートな曲が光ります。一方で、スキニー・パピーの"Knowhere?"を彷彿とさせるジャンクでドゥームな#3や、ラストの13分近くある大曲#12等、へヴィな曲の迫力も相変わらず。前作ではメジャーの重圧もあったのか、変に明るくキャッチ―な要素と無理に力んだようなハードさとが噛み合ってなかった印象がありましたが、今作では程よく肩の力が抜け、かつてのように伸び伸びと暴れ回る素敵な()御大が拝めます。曲ごとのカラーを振り切ったことで統一感は無くなりましたが、その分上手く緩急が付いた印象がありますね。

 

 ある意味これまでの総決算的な仕上がりとなったアルバムですが、本作に伴うツアーを最後に、「ロックバンド的なライブはやらない」宣言を出してしまいます。この路線はもう十分にやり切ったということなのか、はたまた限界・行き詰まりを感じたのかは本人のみぞ知るところですが、これ以降の作品ではアンビエント環境音楽的なアプローチがメインとなり、いよいよロックの範疇から外れていってしまいます。そんなわけで、これがインダストリアルロックとしてのフィータス最後の輝き。ニューウェーブよりもオルタナ系が好きな人はこれが一番気に入るかもしれませんね。

 

Released Year:2001

Record Label:Thirsty Ear

 

Track Listing

  1. Quick Fix
  2. Cirrhosis Of The Heart
  3. Mandelay
  4. Grace Of God
  5. The Need Machine
  6. Suspect
  7. (You Got Me Confused With) Someone Who Cares
  8. Heuldoch 7B
  9. Victim Or Victor?
10. Shun
11. Kreibabe

 

 Pick Up!:#6「Suspect」

  どことなく戦前のスパイ映画を思わせる旋律が印象的な曲。ストリングスやピアノを駆使しつつ、不穏さのボルテージを徐々に上げていく手法はもはや円熟の域ですが、終始一貫したテンポの良さもあって比較的取っ付きやすいと思います。リズミカルで小気味いい歌唱も癖になりますが、歌詞については「1つだけ心残りがある/まだテメェを殺してないことさ」など、相変わらず物騒ですな。

*1:フィータス名義では90年にシングルを1枚、92年にライブアルバム(しかも90年のツアーのもの)を出したのみ。

*2:妬み交じりでNINをこき下ろしたりしてたらしい。カ、カッコ悪い…。

*3:こういうのが欲しいんだろ?とばかりに、ミニストリーの"Corrosion"までサンプリングしてるのが痛快。タイトルもミニストリーの同名曲を意識していると思われます。

Numb - Mortal Geometry

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  カナダ出身のエレクトロ・インダストリアルユニットの7thアルバム。1998年の最終作"Language Of Silence"以来、21年ぶりとなる新作です。中心人物のDon GordonはNumbの活動終了後、2000年にHalo_Gen名義で1枚アルバムを発表していたようですが、その後何を思ったのか突如ベトナムに移住。現地で結婚もして今は大学教授をしているらしい…などという情報もあり、もはや完全に音楽業界から足を洗ったものと思われていました。それだけに、今作発表の報には心が躍った反面、不安要素があったのもまた事実。

 

 そんな想いで上がってきた本作を聴いてみると...うーんこれが何とも言えない。基本的な方向性としては、幾重にも綿密にレイヤーを重ね合わせた、円熟味すら漂わせるサイバーなEBM。同じく去年出たFLAの新譜を彷彿とさせるところもあり、丸々一枚エレクトロニカ、或いはダークアンビエント…といった「脱・ボディ」な作風でなかったという点では一安心です。

 

 ただ、かつてのNumb最大のトレードマークだった、聞き手を突き放す強烈なノイズ処理がほぼ皆無なんですね。楽曲を聴いていると、#3、6、7等はむしろ20年前よりもストレート・キャッチ―でダンスフロア向けな仕上がりだったり。特にアンビエントな前半から一転して女声Vo.を交えてデジタルに疾走する#4などは、一歩突き抜けた感すらあります。これでもう少しだけでも音処理がハーシュだったら...と思わずにはいられません。その一方、一番かつての彼ららしい吐き捨てVo.の#1や、アルバム終盤のインスト曲では、活動初期から一貫している陰湿で不穏なエッセンスを見せてくれます。水中を思わせる黒光りシンセ空間の中を、淀んだギターノイズがサイレンのように反復する#8などは過去の名曲"Blood"を彷彿とさせ、Don Gordonの作曲センスが錆びついていないことを思い知らされましたね。

 

 そんなわけで楽曲の基礎の部分は悪くないので、あとは味付けの問題といった感じです。とりあえずカナダにいようがベトナムにいようが*1、Don Gordonはこういう作品を作れるということは判ったので、願わくばこのまま「ベトナムバンクーバーインダストリアル」*2な路線(意味不明)で活動を継続してほしいところ。できれば旧友のConan HunterかDavid Collingsもベトナムに呼んでアルバムを作ってくれたら*3言うことないんですが…。まぁ厳しいよなぁ…。

 

Released Year:2019

Record Label:Metropolis

 

Track Listing

  1. Redact
  2. Hush
  3. Complicit Silence
  4. The Waiting Room
  5. How It Ends
  6. Summer Lawns
  7. When Gravity Fails
  8. Shadow Play
  9. Mortal Geometry
10. Hush (Creation To Negation)

 

 Pick Up!:#7「When Gravity Fails」

  導入的なインスト#6からなだれ込むように始まる、ダンス路線の1曲。音は流石に今風にアップデートされていますが、このにじり寄るように地を這うシンセベースと淡々としかし強迫的なハンマービートはまさにThis Is EBM!と言った感じで、思わず口元がニヤけてしまいますね(キモい)。少しづつ音の厚みが増えていく終盤の盛り上がりもgood。

*1:クレジットを見ると"RECORDED AT HO CHI MINH CITY"の文字列が...。

*2:90年代のバンクーバー周辺は、cEvin Key、Front Line Assembly、Strapping Young Lad、Unit 187そしてNumbといったバンド群が跋扈する、超胸熱なエリアだったらしいです。

*3:今作ではDon Gordon自らがVo.をとっています。

HIDE - Castration Anxiety

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 女性Vo.のHeather Gabelとパーカッション担当のSeth Sherによる、シカゴ出身のインダストリアルユニットのデビューアルバム。Heather Gabelは元々、ヴィジュアルアート・グラフィックデザイン畑の人だったらしく、彼らの作品における不穏なアートワークやヴィジュアル面は全て彼女が担当しているそうです*1

 

 中身の方は、そのインモラルなジャケやタイトルから想像される通りのアングラワールド。呪術的なエレクトロビートの上に、ザワザワと歪められたシンセ、ゾンビか怨霊のうめき声を思わせるVo.が乗っかる、ミニマルなビートインダストリアルです。この手の音楽性で言うと、エレクトロパンクの始祖Suicide、さらにゴシカルでエログロなボンテージファッション・パフォーマンスといえばDie Formなどが連想されますが、そこはやはりシカゴ出身。前述のグループに比べると肉感的なボディビートを駆使して、より覇気のある音を鳴らしています。特にパーカッシブな冒頭3曲については、Killing Jokeを彷彿とさせる瞬間もありますね。

 

 また、軋んだハスキーなVo.の声質*2や楽曲のサタニックな雰囲気には、初期のMy Life With The Thrill Kill Kult(以下TKK)に通じる部分も見出せます...というより、Ministryの"Tonight We Murder"の世界観そのものといった方が近いかも。シングル"Stigmata"のB面だったこの曲は、高圧的かつダンサブルなドラムと超へヴィなベースラインを主体に、パンク的なうざいギターが被さるというシロモノ。ひたすら暗い穴の中を落ちていくような危険な雰囲気で、その中でのた打ち回る発狂Vo.もまた怖いんですねこれが。実はこの曲のVo.は、アルさんではなくTKKのGroovie Mannが担当しており、実質的にはMinistryとTKKの共作*3。結果としてTKKの暗黒カルトとミニストリーの冷徹な狂気が融合した、隠れた名曲となっていました。

 

 で、このHIDEのアルバムは、まさにそんな"冷徹な狂気"そのもの。実際のカルトにありがちな*4変なポップさやおふざけ要素はゼロで、100%シリアスかつストイックに攻め立てます。ただメロディというほどではないにしろ、引きずったヴォーカルラインに不思議と癖になる部分があって、何回かリピートしているうちにジワジワとハマってきます。そういう意味で突き放しっぱなしというわけではないのでご安心を(?)。3rdの頃のミニストリーの"メタル以外の部分"を引き継いだとも言える本作、もしミニストリーがギターを使わずにハードコア化したら…という趣で興味深いです。要チェック!

 

Released Year:2018

Record Label:Dais Records

 

Track Listing

  1. Fall Down
  2. Bound/Severed
  3. Close Your Eyes
  4. Wear Your Skin
  5. Come Undone
  6. Wildfire
  7. Fucked (I Found Heaven)
  8. All Fours

 

 Pick Up!:#2「Bound/Severed」

  個人的に特にミニストリーっぽさを感じた1曲。マシーナリーな殴打ビートとメタパーの応酬が最高に気持ちいいんですが、フラフラとさまようようなヴォーカルラインも不思議と癖になります。ちょっと曲長さが短めなのがもったいない。

*1:出典→https://artists.spotify.com/blog/hide's-heather-gabel-on-motherhood-late-starts-and-industrial-rage

*2:映像を見るまでまさか女性とは思ってませんでした。これで一児の母というのがまた凄い…母の力恐るべし。

*3:この曲の発表はTKKがデビューする直前ということもあり、むしろ初期TKKのスタイルの雛形になった曲、という方が正しいかもしれません。Groovie Mannとしても思い入れがあるのか、何回かTKKでも再利用しています。(Nervous Xiansの曲中でサンプリングしたり、"Burning Dirt"で歌詞を引用したり。) その辺の話はコチラ→https://groups.google.com/forum/#!topic/rec.music.industrial/33s_zMAWO-kが詳しいです。

*4:よくネタにされてるオ○ムの宣伝アニメとか。

Killing Joke - Revelations

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 イギリスのポストパンクバンドの3rdアルバム。

 

 本作レコーディング終了後、82年2月の末に突如Jaz Colemanがアイスランドへ逃亡してしまいます。どうもアレイスター・クロウリー等のオカルトにはまりすぎた結果、ガチで「アポカリプス(=核戦争による終末)が到来してこの世界終わるナリ!」と信じ込んでしまった模様。なぜアイスランドへ行けば助かるのかは謎なんですが...*1

 

 この時、バンドはプロモーションのため音楽番組への出演を控えていましたが、ジャズさんがドロンしてしまったため、ヴォーカル不在のまま出演を敢行するという異例の事態に*2。その後、GeordieとYouthもジャズさんを追ってアイスランドへ渡りますが、ほどなくYouthが愛想を尽かしイギリスへ帰国。ドラマーのPaul FergusonとBrilliantという新バンドを立ち上げます。しかし、このバンドに将来性は無いと判断したのか、Fergusonもアイスランドへ赴きジャズさんと合流。結果的にYouthだけがKJからハブられた形となってしまいました。

 

 ...とまぁ、リリースに際してかなりのゴタゴタがあったこのアルバムですが、音の方にも変革の兆候が見えてきています。本作の録音に当たり、バンド側はKraftwerkやCanといったクラウトロックでの仕事で知られる大御所、Conny Plankをプロデューサーに迎えました。バンドはドイツへと渡り、ケルンにあるConny Plankのスタジオでレコーディングを行っています。デビューからずっとセルフ・プロデュースでやってきたバンドにとって、外部のプロデューサーにプロダクションを委ねるのは初めてのこと。加えて、初めて異国の地で録音を行ったことも影響したのか、初期の野性的な荒削りさが後退し、音のバランスが整理された印象を受けます。ややお上品になったジャケットも象徴的ですね。

 

  それでいて曲自体は、かなり不透明で淀んだ雰囲気が漂っているのが本作の特徴。明白にヤバさのあった前作までと比べ、どこか歪だけどどこが歪んでいるのか判らない...という独特の居心地の悪さを感じます。キリキリと神経質に軋むギターは相変わらずなんですが、#4,5のイントロのように、アコースティックなパートを盛り込むことで"静"の不穏さを演出するなど、若干表現の幅が広がったとも言えるかもしれません。さらに、ジャズさんもガナリ声を卒業しノーマルボイスを使うように。元々声質が独特な人なので、これはこれで不気味さに拍車がかかっていますね。(一応褒め言葉。)

 

 特にアルバム前半の5曲は、こうした新しい要素と従来の持ち味が上手く噛み合っている印象。これぞKJ節というべき#1、珍しくストレートに突っ走る(でもドラムはロールしまくりな)#2、やや明るさも感じさせつつジャキジャキギターとダンサブルなリズムが気持ちいい#4等はアルバム中の白眉でしょう。

 

 一方で#6以降、アルバム後半は正直微妙な印象がぬぐえません。実験的過ぎるわけでもないし、1stに比べたらむしろ直線的なパンクだったりするのですが、イマイチ聴いててフックが弱いというか、印象に残らない曲が多いです。むしろ変にポップに寄せようとしている節があって、そこが噛み合わずスベっているのがアイタタタ...という感じ。そんな中で完全にアコースティックに振り切った#9はかなり異彩を放っていて、ある意味この曲が一番コワい。完全に神経切れちゃってます。

 

 というわけで初期作品の中では駄作扱いされたり、バンド初期の勢いを殺したアルバムとして戦犯扱いされることが多い本作ですが、前半はわりと気に入っているので、このクオリティを全編で維持してくれれば...という惜しい1枚ではあります。個人的には次作"Fire Dances"よりは好きかな~というところ。決して胸を張ってオススメはできませんが、かといって切り捨てるにはもったいない内容だと思います。

 

Released Year:1982

Record Label:EG

 

Track Listing

  1. The Hum
  2. Empire Song
  3. We Have Joy
  4. Chop Chop
  5. The Pandys Are Coming
  6. Chapter III
  7. Have A Nice Day
  8. Land Of Milk And Honey
  9. Good Samaritan
10. Dregs

 

 Pick Up!:#1「The Hum」

 この曲は2ndに入ってても違和感なさそう。終始ミドルテンポでじわじわと攻め立てる、いかにも初期KJという呪術的な曲。ズンドコドラムや不穏なシンセの音を組み合わせ、新興宗教の集会を思わせる雰囲気を演出するのも、1つの芸風としてこなれてきた印象がありますね。ジャズさんの詠唱するようかのようなヴォーカルもぴったりフィット。こういう曲にはガナリ声よりもこの歌い方の方が合ってる気がします。あと、この曲と#5はちょっとアラビアンな雰囲気も感じるあたり、後年の"Pandemonium"での作風を予見させるようで興味深いですね。ジャズさんのいう"Pandy"(=Pandemonium)は中近東からやってくるんでしょうか。(あながち間違ってもいないのがアレ...。)

*1:ちなみに、ジャズさんは2012年にも失踪騒ぎを起こしているんですが→https://rockinon.com/news/detail/71724、某掲示板で「Revelations30周年記念失踪www」と言われていたのは流石に笑ってしまいました。

*2:BBCの音楽番組Top of the Popsをはじめ、複数の番組に出演した模様。結局、養蜂家みたいな恰好で顔の見えないモブをシンセの前に立たせ、ドラマーのPaul Fergusonが口パクでヴォーカルを当てるという形で強行突破しています。