Meat Beat Manifesto - Armed Audio Warfare

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 言わずと知れた「分解/再構築のオリジネーター*1による2ndアルバム…といいつつ、実質的には初期音源をまとめたレアトラック集だったりします*2。元々、"Armed Audio Warfare"というのは1989年に発売が予定されていた1stアルバムのタイトルでした。しかし、マスターテープを保管していたメンバーの友人宅が火事になり、マスターは焼失してしまいます*3。その代替として、初期シングルをズタズタに編集したリミックス集のような形で1stアルバム"Storm The Studio"がリリースされたのは周知の通り。そして本作は、初期シングルのB面曲やコンピレーション提供曲、未発表曲を集め、焼失した"幻の1stアルバム"を疑似的に再現したものとされています。「当初の予定通りに1stが世に出ていればこんなアルバムになった筈」とは英語ライナーノーツの弁。

 

 MBMは時期によってスタイルがかなり異なりますが、インダストリアル・EBMスキーにお勧めするとすれば間違いなく本作を推します。というか、そういう人は最低限このアルバムのみ押さえておけば十分かもしれません。それほどまでに、本作には過激な初期衝動が満ち満ちています。ノイズ成分もかなり強めで、Wax Trax! からリリースされたのも納得の内容です*4

 

 特に凄まじいのが#6~8の一連の流れ。これらは1500枚限定で発売されたデビューシングル"Suck Hard EP"の音源なのですが、中期Skinny Puppyを想起させるほどのノイズの砂嵐が吹き荒れる音像に驚かされます。特にビートすら捨て去った#6は、もはやパワーエレクトロニクスの域。大音量で聴くと覚醒しまくります。ちなみに本作の裏ジャケでは、#6と#7のタイトルが入れ替わって表記されるというミスプリントがあり混乱を生じているので要注意。正しくは#6のパワエレノイズ曲が"Kick That Man"、ビート・ラップ有の#7が"Kneel & Buzz"です*5

 

  その他、初期の代表曲である"Strap Down"の別バージョンである#9では、ウルトラマンの怪獣ジラース*6の声をサンプリングしているなど、全編通じて雑多すぎるほどのサンプリングセンスが光ります。この辺り、元ネタがもっと分かっていればさらに楽しめるんだろうな~と。こういう音楽を聴くときは、いかに多種多様な音楽ジャンルを知っているかという、ある種の教養が試されている感じもありますね(もちろんそんなもの無くても楽しめはするんですが)。

 

  「分解/再構築のオリジネーター」たる彼らの極致という意味では1stアルバムに軍配が上がりますが、全方位に発散される直情的な攻撃性を楽しめるという点ではコチラが上。単なるハーシュノイズ一辺倒のアーティストとはまた違う、とにかくガチャガチャと騒がしい・やかましい音に溺れたい人向けです。インダストリアルは好きだけどヒップホップは…という人も、これなら抵抗なく聴けるんじゃないでしょうか。

 

Released Year:1990

Record Label:Wax Trax! Records / LD Records

 

Track Listing

  1. Genocide
  2. Repulsion
  3. Mister President
  4. Reanimator
  5. I Got The Fear
  6. Kick That Man
  7. Kneel & Buzz
  8. Fear Version
  9. Give Your Body Its Freedom
10. Marrs Needs Women
11. Cutman

 

 Pick Up!:#1「Genocide」

  これも初期の代表曲"God O.D."の未発表リミックス。畳みかけるようなスピード&キレを備えたラップと、スクエアに弾けるようなスネアの組み合わせが堪りません。このバックトラックは本人たちも気に入ったのか、後の3rdアルバム"99%"に収録された"Psyche Out"(アルバムバージョン)にも流用されています。どうでもいい情報ですが、私が普段歩く時のテンポはこの曲とぴったりリズムが一致するので、外出時にはつい聴いてしまう1曲だったり。いやシンクロさせて歩くとホント気持ちいいんですよコレが。

*1:元は藤井麻輝氏が"Actual Sounds + Voices"をレビューした際にMBMを指して使用した言葉らしいです。当該雑誌を所持していないので明確な出典は不明ですが…。

*2:フルレングスと扱うかコンピと扱うかは解釈が分かれますが、英語版wikiとdiscogsでは2nd扱いとされているので本記事ではそれに倣いました。

*3:詳しい経緯はこちらのインタビュー→The Quietus | Features | A Quietus Interview | "An Amazing Drug Like Quietus": Jack Dangers Of Meat Beat Manifesto Interviewed を参照のこと。

*4:後にジャケを変えてMuteからもリリースされています。

*5:字面としては何となく逆の方がしっくりくるんですけどね…。

*6:アップロード時レッドキングと勘違いしていましたが、正しくはジラースの声でした。過去にTwitterでも呟いておきながら、当の本人が忘れているとはお恥ずかしい…。