Killing Joke - Revelations

f:id:giesl-ejector:20180927024829j:plain

 

 イギリスのポストパンクバンドの3rdアルバム。

 

 本作レコーディング終了後、82年2月の末に突如Jaz Colemanがアイスランドへ逃亡してしまいます。どうもアレイスター・クロウリー等のオカルトにはまりすぎた結果、ガチで「アポカリプス(=核戦争による終末)が到来してこの世界終わるナリ!」と信じ込んでしまった模様。なぜアイスランドへ行けば助かるのかは謎なんですが...*1

 

 この時、バンドはプロモーションのため音楽番組への出演を控えていましたが、ジャズさんがドロンしてしまったため、ヴォーカル不在のまま出演を敢行するという異例の事態に*2。その後、GeordieとYouthもジャズさんを追ってアイスランドへ渡りますが、ほどなくYouthが愛想を尽かしイギリスへ帰国。ドラマーのPaul FergusonとBrilliantという新バンドを立ち上げます。しかし、このバンドに将来性は無いと判断したのか、Fergusonもアイスランドへ赴きジャズさんと合流。結果的にYouthだけがKJからハブられた形となってしまいました。

 

 ...とまぁ、リリースに際してかなりのゴタゴタがあったこのアルバムですが、音の方にも変革の兆候が見えてきています。本作の録音に当たり、バンド側はKraftwerkやCanといったクラウトロックでの仕事で知られる大御所、Conny Plankをプロデューサーに迎えました。バンドはドイツへと渡り、ケルンにあるConny Plankのスタジオでレコーディングを行っています。デビューからずっとセルフ・プロデュースでやってきたバンドにとって、外部のプロデューサーにプロダクションを委ねるのは初めてのこと。加えて、初めて異国の地で録音を行ったことも影響したのか、初期の野性的な荒削りさが後退し、音のバランスが整理された印象を受けます。ややお上品になったジャケットも象徴的ですね。

 

  それでいて曲自体は、かなり不透明で淀んだ雰囲気が漂っているのが本作の特徴。明白にヤバさのあった前作までと比べ、どこか歪だけどどこが歪んでいるのか判らない...という独特の居心地の悪さを感じます。キリキリと神経質に軋むギターは相変わらずなんですが、#4,5のイントロのように、アコースティックなパートを盛り込むことで"静"の不穏さを演出するなど、若干表現の幅が広がったとも言えるかもしれません。さらに、ジャズさんもガナリ声を卒業しノーマルボイスを使うように。元々声質が独特な人なので、これはこれで不気味さに拍車がかかっていますね。(一応褒め言葉。)

 

 特にアルバム前半の5曲は、こうした新しい要素と従来の持ち味が上手く噛み合っている印象。これぞKJ節というべき#1、珍しくストレートに突っ走る(でもドラムはロールしまくりな)#2、やや明るさも感じさせつつジャキジャキギターとダンサブルなリズムが気持ちいい#4等はアルバム中の白眉でしょう。

 

 一方で#6以降、アルバム後半は正直微妙な印象がぬぐえません。実験的過ぎるわけでもないし、1stに比べたらむしろ直線的なパンクだったりするのですが、イマイチ聴いててフックが弱いというか、印象に残らない曲が多いです。むしろ変にポップに寄せようとしている節があって、そこが噛み合わずスベっているのがアイタタタ...という感じ。そんな中で完全にアコースティックに振り切った#9はかなり異彩を放っていて、ある意味この曲が一番コワい。完全に神経切れちゃってます。

 

 というわけで初期作品の中では駄作扱いされたり、バンド初期の勢いを殺したアルバムとして戦犯扱いされることが多い本作ですが、前半はわりと気に入っているので、このクオリティを全編で維持してくれれば...という惜しい1枚ではあります。個人的には次作"Fire Dances"よりは好きかな~というところ。決して胸を張ってオススメはできませんが、かといって切り捨てるにはもったいない内容だと思います。

 

Released Year:1982

Record Label:EG

 

Track Listing

  1. The Hum
  2. Empire Song
  3. We Have Joy
  4. Chop Chop
  5. The Pandys Are Coming
  6. Chapter III
  7. Have A Nice Day
  8. Land Of Milk And Honey
  9. Good Samaritan
10. Dregs

 

 Pick Up!:#1「The Hum」

 この曲は2ndに入ってても違和感なさそう。終始ミドルテンポでじわじわと攻め立てる、いかにも初期KJという呪術的な曲。ズンドコドラムや不穏なシンセの音を組み合わせ、新興宗教の集会を思わせる雰囲気を演出するのも、1つの芸風としてこなれてきた印象がありますね。ジャズさんの詠唱するようかのようなヴォーカルもぴったりフィット。こういう曲にはガナリ声よりもこの歌い方の方が合ってる気がします。あと、この曲と#5はちょっとアラビアンな雰囲気も感じるあたり、後年の"Pandemonium"での作風を予見させるようで興味深いですね。ジャズさんのいう"Pandy"(=Pandemonium)は中近東からやってくるんでしょうか。(あながち間違ってもいないのがアレ...。)

*1:ちなみに、ジャズさんは2012年にも失踪騒ぎを起こしているんですが→https://rockinon.com/news/detail/71724、某掲示板で「Revelations30周年記念失踪www」と言われていたのは流石に笑ってしまいました。

*2:BBCの音楽番組Top of the Popsをはじめ、複数の番組に出演した模様。結局、養蜂家みたいな恰好で顔の見えないモブをシンセの前に立たせ、ドラマーのPaul Fergusonが口パクでヴォーカルを当てるという形で強行突破しています。