Foetus - Flow

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 7thアルバム。古典的なカートゥーン風味のジャケは本人の趣味でしょうか?

 

 80年代にはまさに破竹の勢いで進撃を続けたフィータスですが、90年代に入ると活動が急速に停滞し、ジャズ風味のサイドプロジェクトやリミックスワークといった形でしか表舞台に姿を見せなくなります*1。95年になってようやく出た"Gash"では、90年代のインダストリアルロック・ブームとNIN等若手のリスペクトというかつてない追い風を受けメジャーレーベルへ移籍、ついにNYアングラ界の帝王が華々しく表舞台へ…と思いきや、商業的には大失敗で本人が不貞腐れてしまう始末*2。決して中身は悪くないんですが、世間が求める"インダストリアルロック"のフォーマットからは大きく逸脱した、分かりにくい捻くれた仕上がりだったものですから…。

 

 そんなこんなで再び6年ものブランクが開き、21世紀になってようやく出たのが本作。古巣のThirsty Earに戻っての再出発です。基本的には前作"Gash"の延長線上にありながら、本作のキーワードは「ジャズ」。これまでもビッグバンド風のアプローチを随所で取り入れてきたフィータスですが、今作ではそれを前面に押し出しています。まさかのボサノヴァ風#2、ハモンドオルガンとサックスで渋くキメる#4、スパイ映画を思わせるスピードと緊張感に満ちた#6などにそのカラーが顕著です。

 

 一方で従来のインダストリアル的な要素もしっかり残しており、開き直ったかのようにブレイクビーツ・ビックビートを取り入れて"インダストリアルロック"を鳴らす#1*3を筆頭に、演奏は下品なほどノイジーな癖してヴォーカルラインは妙にキャッチ―な#5、ヤケクソ気味に暴走する#10など、いい意味でストレートな曲が光ります。一方で、スキニー・パピーの"Knowhere?"を彷彿とさせるジャンクでドゥームな#3や、ラストの13分近くある大曲#12等、へヴィな曲の迫力も相変わらず。前作ではメジャーの重圧もあったのか、変に明るくキャッチ―な要素と無理に力んだようなハードさとが噛み合ってなかった印象がありましたが、今作では程よく肩の力が抜け、かつてのように伸び伸びと暴れ回る素敵な()御大が拝めます。曲ごとのカラーを振り切ったことで統一感は無くなりましたが、その分上手く緩急が付いた印象がありますね。

 

 ある意味これまでの総決算的な仕上がりとなったアルバムですが、本作に伴うツアーを最後に、「ロックバンド的なライブはやらない」宣言を出してしまいます。この路線はもう十分にやり切ったということなのか、はたまた限界・行き詰まりを感じたのかは本人のみぞ知るところですが、これ以降の作品ではアンビエント環境音楽的なアプローチがメインとなり、いよいよロックの範疇から外れていってしまいます。そんなわけで、これがインダストリアルロックとしてのフィータス最後の輝き。ニューウェーブよりもオルタナ系が好きな人はこれが一番気に入るかもしれませんね。

 

Released Year:2001

Record Label:Thirsty Ear

 

Track Listing

  1. Quick Fix
  2. Cirrhosis Of The Heart
  3. Mandelay
  4. Grace Of God
  5. The Need Machine
  6. Suspect
  7. (You Got Me Confused With) Someone Who Cares
  8. Heuldoch 7B
  9. Victim Or Victor?
10. Shun
11. Kreibabe

 

 Pick Up!:#6「Suspect」

  どことなく戦前のスパイ映画を思わせる旋律が印象的な曲。ストリングスやピアノを駆使しつつ、不穏さのボルテージを徐々に上げていく手法はもはや円熟の域ですが、終始一貫したテンポの良さもあって比較的取っ付きやすいと思います。リズミカルで小気味いい歌唱も癖になりますが、歌詞については「1つだけ心残りがある/まだテメェを殺してないことさ」など、相変わらず物騒ですな。

*1:フィータス名義では90年にシングルを1枚、92年にライブアルバム(しかも90年のツアーのもの)を出したのみ。

*2:妬み交じりでNINをこき下ろしたりしてたらしい。カ、カッコ悪い…。

*3:こういうのが欲しいんだろ?とばかりに、ミニストリーの"Corrosion"までサンプリングしてるのが痛快。タイトルもミニストリーの同名曲を意識していると思われます。