The Cure - Pornography

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Released Year:1982

Record Label:Fiction Records

 

Track Listing

  1.One Hundred Years

  2.A Short Term Effect

  3.The Hanging Garden

  4.Siamese Twins

  5.The Figurehead

  6.A Strange Day

  7.Cold

  8.Pornography

 

 イギリスのポストパンクバンドの4thアルバム。

 

 初期の名作と名高いこの作品。毒々しい色彩のジャケからも明らかなように、ここに来てロバスミの暗黒世界が開花...というより爆発。演奏にしろボーカルにしろ、ぼそぼそ呟くようにひたすらに内向的だった前作までと比べ、外に向かって叩きつけるような攻撃性が露になっています。それまでのモノクロームなトーンから、明らかに「ゴス」の域に足を踏み入れた作品と言えるでしょう。そのせいか、日本盤では各曲にかなり怪しげな邦題が付けられていた事実は一部ファンの間で有名(?)です。

 

 一聴して判る変化はドコドコとタムを強調したドラムの音作り。80年代初頭のUKでは、PILやGang Of Fourなどポストパンク系バンドの間でこうしたエスニックビートが流行していたようですが、このアルバムでの呪術的な迫力はその中でも最も野生的・暴力的だったKilling Jokeの"What's THIS For...! "にも匹敵するレベルです。また#1における打ち込みの併用など、リズムパターンに関しても反復を基本としつつ工夫されており飽きさせません。実は当初、このアルバムのプロデューサーにはクラウトロック/ジャーマンニューウェーブ界隈で有名なConny Plankの起用が検討されていた*1らしく、これもバンド側がビートに焦点を当ててアルバム製作に臨んでいた事を示すものではないかと思っていたり。仮に実現していたらどんな仕上がりになっていたか、それはそれで聴いてみたかったところですね。

 

 もちろんドラム以外も要注目。ロバスミの哀愁漂うギターは相変わらず大活躍で、#5,6での聴き手を幻惑するようなサイケデリックな音色は何とも癖になります。一方、曲によっては前作で見せたシンセアレンジがさらに重厚さを増しており、特に#7での背筋も凍るようなフレーズはまさにタイトル通り。また最終曲の#8では実験的かつ不気味なボイスサンプリングも使用されており、この辺りにもKJとの類似点、もといインダストリアル的な要素を感じ取る事ができます。というか、普通に怖い...。

 

 それにしても、1曲目の歌詞から「It doesn't matter if we all die」「Waiting for the death blow」「Over and over we die one after the other」とかなりキレているのが印象的。どうしてここまで急激な変化が訪れたのかといえば、やはり過酷なツアーによる疲弊と、酒とドラッグの乱用が原因のようで。どこかのパピーさんとこといい、なぜヤク中は暗黒世界の扉を開いてしまうんでしょうか...なんて笑えない冗談はさておき。そういった荒廃した私生活の一方で、バンドの方向性に行き詰まりを感じていたメンバーが、自発的に変わろうとしていた面もあるようです。「"ultimate 'fuck off' record"を作ってバンドを解散させるつもりだった」「これまでより緊張感のあるレコードを作りたかった。なぜかは思い出せないけど」というメンバーの発言もあるようですし*2

 

 当時のポストパンク系は、ストイックに自らの音楽スタイルを追求したり、政治的な主張や外界への怒りを表明しているバンドが多かったイメージがありますが、そんな中ロバスミは、このアルバムで「内面的苦悩を音に託してぶつける」というアプローチを提示しました。歌詞に苦悩を表明しつつも、音はあくまで絶対零度で無表情だったJoy Division*3や、暗黒ではあってもシアトリカルな要素が強かったBauhausと決定的に違うのはここで、この"窮鼠猫を噛む"的逆ギレ方法論こそが、そのまま90年代の内省的なロックシーンの原型となった感があるようにも思えます。音楽性は全く違うにも関わらずKornやNIN、Radioheadが揃ってキュアーをリスペクトする理由も、このアルバムを聴けば理解できるはず。

 

  この後バンドは膿を出し切ったかのようにポップ路線に転換し、スターダムへとのし上がっていきます。そして時々ヘヴィな暗黒路線に回帰しつつも、ポストパンクの域に留まらない「世界的ロックバンド」として認知される存在になりました。それ故なのか、Joy DivisionKilling Jokeに比べ、EBM・インダストリアルの文脈ではあまり言及・引用されることがない印象*4。しかし、本作でのダイナミックで荒々しいビート感は、KJの2ndと同じくらい、後のEBMやインダストリアルへの影響が大きいのではないかと思っています。同時に、90年代の苦悩するNINが好きな人にはぜひ聴いて欲しいアルバム。

 

 Pick Up!:#3「The Hanging Garden」

 本作からの唯一のシングルにして、最も攻撃的な文字通りのキラートラック。儀式のようなエスニックビートは相変わらずですが、特にこの曲はベースが最強。ドラムと一体となりブイブイと曲を引っ張るスピード感がたまりません。タイトルは世界の七不思議の1つとされる「バビロンの空中庭園」と、首吊りの"Hanging"をかけたものと思われます*5。PVでのロバスミは全身黒尽くめに赤い目張りと、見た目的にもだいぶゴス化が進行しました。

*1:英語版wikiより。→https://en.wikipedia.org/wiki/Pornography_(album) 実際には後にベーシストとして加入するPhil Thornalleyが起用されました。

*2:こちらも*1:同様、英語版wikiより。

*3:ただし、ライブ音源に関してはその限りではありませんが。

*4:一応、クレオパトラから出たトリビュートアルバムは存在しています。→100 Tears - A Tribute To The Cure (CD, Compilation) | Discogs 相変わらず"いつものメンツ"感ありありですが。

*5:PVではメンバーが首を吊っているかのようなシーンも。