The Cure - Faith

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Released Year:1981

Record Label:Fiction Records

 

Track Listing

  1.The Holy Hour

  2.Primary

  3.Other Voices

  4.All Cats Are Grey

  5.The Funeral Party

  6.Doubt

  7.The Drowning Man

  8.Faith

 

 イギリスのポストパンクバンドの3rdアルバム。"Seventeen Seconds"の延長線上というべき作風で、相変わらずミニマルでモノクロームなポストパンクを奏でております。「信仰」というタイトルの通り、ロバート・スミスの宗教観が歌詞に強く現れているそうですが、そこはコアなファンの皆様が既に考察されているので、今回は音の方を中心に書いていきます(というかそれしか書けないので...)。

 

 一時的に在籍していたキーボード担当が方向性の違いにより脱退し、バンドは再びトリオ編成に戻りました。そのせいか、前作に見られたキーボード中心のインスト曲は姿を消しています。しかし、#4,5等、スローテンポな曲におけるシンセサイザーの厚みはむしろ増しており、より幻想的な雰囲気が強くなりました。アートワーク*1の通り、霧深い森の中をふらふらと彷徨っているかのようなイメージが想起されます。これは、前作で森に迷ってしまった主人公が、さらに深い森の奥へと足を進めてしまったということなのでしょうか*2。ドラムやヴォーカルにも深めのエコーがかけられていて、あたかも幽霊が遠くから呼びかけてきているかのようです。

 

 そうした落ち着いた雰囲気の曲が中心となっている一方で、#2,6といったアップテンポでパンク調の曲はより躍動的に、ヒリヒリとするような焦燥感を見せており、メリハリがはっきりしてきた印象。ややもすれば単調になりそうなアルバムをうまく引き締めています。特にシングルカットされた#2は、ロバスミもベースを持ってツインベースとなっており、いつもよりドライブ感強めです。

 

 全体的に陰鬱で冷たい空気を漂わせた音は、同時期に出たJoy Divisionの"Closer"と比較されることも多いそう。しかし、あちらが見せていた圧倒的な絶望感とは少し異なり、どちらかといえば"漠然とした不安感"が主といったところでしょうか。絶望や死といった明確なものではなく、もっと捉えどころのないぼんやりとした物に苛まれている印象。とはいえ暗いことには変わりなく、特にアルバム終盤では、答えの無い悩みをぐるぐるこねくりまわしているような、どうしようもない閉塞感のようなものも感じ取ることができます。初期の路線の中では最高傑作との呼び声も高い本作ですが、この世界観は濃密で完成度が高い反面、ややとっつき辛い側面もあるかもしれません。

 

 ロバスミが内面世界で1人苦悩し続けるうちに、どんどん霧が濃くなって出口が見つからなくなってしまったかのようなアルバム。次作ではその強迫観念が一気に反転し、どす黒く恐ろしい作品が生み出されることとなるのですが、その話はまた次の機会に。

 

 Pick Up!:#4「All Cats Are Grey」

 ヴェールのようにうっすらと被せられたシンセが幽玄な雰囲気を醸し出す、シンプルながら非常に美しい1曲です。この曲ではロバスミはキーボードとピアノに徹して、ギターは一切使っていないそう。長いキュアーの歴史の中で、完全にギターレスの曲というのは意外と珍しいのではないでしょうか(インストを除く)。

*1:これは後にギタリストとして加入するPorl Thompsonが手がけているそう。

*2:"A Forest"の歌詞参照。