V.A. - The Crow: Original Motion Picture Soundtrack

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Released Year:1994

Record Label:Atlantic, Interscope

 

Track Listing (Artist - Track title)

  1.The Cure - Burn

  2.Machines Of Loving Grace - Golgotha Tenement Blues

  3.Stone Temple Pilots - Big Empty

  4.Nine Inch Nails - Dead Souls

  5.Rage Against The Machine - Darkness

  6.Violent Femmes - Color Me Once

  7.Rollins Band - Ghostrider

  8.Helmet - Milktoast

  9.Pantera - The Badge

10.For Love Not Lisa - Slip Slide Melting

11.My Life With The Thrill Kill Kult - After The Flesh

12.The Jesus And Mary Chain - Snakedriver

13.Medicine - Time Baby III

14.Jane Siberry - It Can't Rain All The Time

 

 1994年公開のダークヒーロー・アクション映画「The Crow」*1サウンドトラック。ちょっと前に(と言いつつもう結構経ちますが)、ツイッターでお勧めのサントラは?という話になったので。

 

 私自身サントラをそこまで知っているわけでもないんですが、揃えられた面子、楽曲の完成度、全体の統一感など、様々な観点で見ても、所持しているサントラ盤の中ではトップクラスの内容です。こういった類のアルバムは多数のアーティストが集まる性質上、完成度という点でどうしても隙ができたり、既発曲ばかりで改めて買う必要を感じなかったり*2...というケースが多いですが、このアルバムにはそういった不満は一切ありません。楽曲もここでしか聴けない(あるいは聴こうとするとシングルや編集盤にまで手を出さなければならない)ものが多いですし、まぁ全曲100点満点とは言わないまでも、みな完成度は粒ぞろい。いくつかのアーティストに関しては、ここがキャリアピークと言っても過言ではないレベルに達しています。サントラでありながら、ビルボードチャートで1位にまで登りつめたのも納得の充実度。

 

 映画の内容についてはここでは触れませんが、王道を往く復讐劇でありながらファンタジー要素もある良作。サントラだけでも十分楽しめますが、映画を見てから聴くとよりいっそう堪能できる内容かと思います。このアルバムに関しては1曲だけPick Upとか無理なので、以下全曲解説。みな有名なグループばかりなので、アーティストに関する説明はおおむね省略しています。

 

 

#1:いきなり超名曲。呪術的でプリミティブなドラミングと重厚なベースラインが、重苦しくサントラの幕を開けます。このグルーヴ感だけでもご飯3杯はいけるんですが、加えてダークに揺れるメロディラインが本当にツボ。サビの下降気味なヴォーカル、間奏の悶えるようなギター、アウトロの悪夢に沈んでいくかのような絶望感、どこを取っても最高です。"Disintegration"のゴシックな歎美さと、"Wish"のロックバンド的ダイナミズムが、奇跡的な融合を果たした曲と言っていいでしょう。主人公の心情とリンクした歌詞にも涙。元々、この映画の原作コミックがキュアーの曲にインスパイアされているだけあって、映画との親和性も抜群です。さらに、ロバスミがフルートに初挑戦したり、全盛期を支えたドラマーBoris Williamsが最後に参加した曲だったりと、小ネタも多々あり。というか、この曲はロバスミとボリスの2人だけで、しかも2日で完成させたそうです。化け物か。

 

#2:トレントが絶賛したとも言われるインダストリアルロック、というかポストNIN型バンド。不穏な雰囲気でじわじわ進みいつ爆発するか...と思ったら、そのままフェードアウトしてしまうのでちと拍子抜け。Roli Mosimannが絡んでるだけあって打ち込みや細かいギミックは手馴れた感触ですが、いまいち盛り上がりに欠ける曲。映画の空気にはしっかり溶け込んでますけど。

 

#3:ジャジーで渋いヴァースから、メロウになだれ込むコーラスが見事な名曲。静→動の展開やざらついたギターはモロに当時の典型的なグランジではありますが、良いものは良いのです。この曲は1995年のMTV Movie Awardsで、"Best Movie Song賞"を受賞しました*3

 

#4:TDSの日本盤ボートラとしてよく知られている、Joy Divisionのカヴァー曲。これも言わずもがな名演ですね。いかにもポストパンク然としたドコドコしたリズムがグッド。演奏としてはほぼ完コピながらこの嵌り具合、さすが90年代を代表する暗黒王子です。終盤の畳み掛けから淋しげなアウトロへの流れも十八番ながら完璧。フォロワーの#2を前に格の違いを見せ付けております。

 

#5:アコースティックなパートといつものRATM節なラップメタルが同居した、彼らとしてはやや異色な曲。これは1stシングルのB面曲"Darkness Of Greed"の再録で、元はデビュー前に製作されたデモ音源に入っていた曲だとか。抑制された演奏は爆発力という点ではやや劣るものの、きちんとメリハリは効いているし、映画の雰囲気に合ってるので個人的にはむしろ好み。こういう路線でアルバム作っても良かったのでは?

 

#6:いかにもアメリカンといった泥臭さのある、ブルージーな曲。かなり気怠い雰囲気なので好みは分かれそうですが、このヘナヘナしたヴォーカルの泣き具合には不思議な魅力がありますね。調べてみると1980年から活動しているベテランらしく、独特の音楽性は"フォークパンク"などと呼ばれたそうです。

 

#7:NYシンセパンクSuicideのカヴァー。ミニマルな原曲を大胆にもドゥーミーにアレンジしており、流石はパンクにサバス由来の"遅さ"を持ち込んだ元祖...と云った感じでなかなか面白いです。しかし、Marc AlmondとFoetusのコンビによる圧倒的"モーターサイクル"なカヴァーを聴いてしまった後では、やや冗長に聴こえてしまう面も。オリジナルは10分近くあるようで、ここまで来るとちょっとやり過ぎた感が否めないですね...*4

 

#8:3rdアルバム「Betty」には"Milquetoast"とタイトルを変えて収録された曲。ミキシングもアルバム版とは微妙に異なり、全体的にノイズやエフェクトがかかった仕上がりとなっていますが、これはButch Vigの仕事によるもの。インダストリアルとまでは言わないですが、このノイジーなバージョンはオリジナルを上回る良さがあります。後半で疾走する展開もクール。

 

#9:カヴァー3曲目。これはPoison Ideaというハードコアパンクバンドの曲らしく、普段のパンテラよりもやや明るくストレートな印象を受けます。終盤のヤケクソ気味な加速から〆の悪態まみれなボイスサンプリングも含め、全体的にコミカルな雰囲気。"Far Beyond Driven"の日本盤にもボートラとして収録されています。

 

#10:おそらくここに揃った面子の中で最も無名なバンド。このサントラへの参加がキャリアのピークになってしまった悲しいパターンのようですが、曲の方はなかなか。Soundgardenをもう少しポップにしたような、ハードロック寄りのグランジと言ってしまえばそれまでですが、グルーブ感溢れる演奏と壮大な大サビの開放感がカッコいい。この曲を聴いてる限りは、もう少し売れても良かったんじゃないかと思ってしまいますね。

 

#11:はい神曲。初聴時、この如何わしい音とねちっこいヴォーカルはサントラの中でもかなりB級に聴こえたものですが、実はこれ、彼らの通常モードからは信じられないレベルにA級でカッコいい音だったりします。この曲は彼らの初期シングル"Nervous Xians"のリメイクですが、10分近くあった原曲を3分に短縮、BPMは大幅upし、ギターシンセ(?)と思しきリフを追加...といった具合に、(いい意味で)野暮ったかったオリジナルが想像できないほど、ダークかつシリアスに疾走するインダストリアル・ダンスへと変貌しています。それでいてエレクトロ中心で肉感的な部分はしっかり維持されているし、ジャストなタイミングで入ってくるサンプリングも冴えまくり。これはTKKのキャリアの中でも最高傑作などころか、実はこれこそEBMが90年代の"ロックシーン"に生き残る上での最適解だったのでは?と思わせるほどのクオリティです。やれば出来るじゃん!といったところ。因みに彼らは映画本編にも出演しており、敵マフィアのアジトとなっているライブハウスでこの曲を演奏、怪しげなオーラを振りまいていました*5。このシーンの映像も鬼カッコいいので必見。

 

#12:いつものジザメリ節。あまりに平常運転すぎて特に書くことが見当たりません(苦笑)。ノイジーなギターは相変わらずですが、うだるような炎天下を思わせるダラけた空気を感じるあたり、レイドバック路線な次作の片鱗を感じます。私は彼らのファンなので満足ですが、それ以外の人に対する訴求力はやや弱いかもしれません。素直にいい曲ですけどね。

 

#13:これも名曲。元々は"5ive"というシングルのB面曲だった"Time Baby II"のリミックスで、原曲の凶暴なノイズは綺麗さっぱり取り払われ、フワフワとした浮遊感が心地よいアレンジとなっています。このリミックスはCocteau TwinsのRobin Guthrieによるもので、Elizabeth Fraserもコーラスで参加しています。後半に反復される多重コーラスはややくどいという意見もありそうですが、このキッチュさと気怠さが同居したポップ感は癖になりますね。次曲と並び、このサントラの中では数少ないリラックスできる曲です。ちなみにTKK同様、彼らもライブハウスで演奏する形で映画に出演しています。

 

#14:最後はシンプルなピアノバラード。これまでのハードで厳しい戦いをくぐり抜けてきた主人公(≒リスナー)を癒すかのように、天使を思わせる女性ヴォーカルが歌い上げます。これは思わず昇天しそう...*6。曲自体はありふれた雰囲気ですが、実はコレ、作曲にあのGraeme Revellがクレジットされてます*7。この当時のグレアムさんは既にハリウッドの売れっ子作曲家に完全変態しているのでなんら不思議な事はないんですが、かつてステージで羊の頭を食していた人*8がこういう音楽を作るようになるのを、成熟と捉えるか退化と捉えるかは意見が割れそう。とはいえ、ダークな路線を突き進みつつ、最後は王道で美しく締める、というバランスの良さこそが、映画本編の魅力であり、またこのサントラの魅力でもあります。

 

 

 こうしてみると、いかに当時のオルタナティブ・シーンが充実し、また表舞台に進出していたかがありありと伝わってきて溜め息が出ますね。ハリウッド映画にここまでロックバンドが勢ぞろいしているのも、今では考えられないですし。

 

 この時代のロックが好きな人にとっては今更取り上げるまでも無い名盤だと思うんですが、せっかくなので書いてみた次第です。当ブログの趣旨に沿った観点からコメントすると、NINの"Dead Souls"の雰囲気が好きな人なら馴染める内容ではないでしょうか。あとボディ好きとしてはTKKが要チェックですよ!
 

 

*上の全曲解説でも参考にした記事。今回の記事に書ききれなかったトリビアも多数書いてあるので必見です。

www.revolvermag.com

 

*1:邦題は「クロウ/飛翔伝説」。ダ、ダサい...。

*2:私の場合、マトリックスのサントラがこのパターンでした。収録曲の半分を既に持っているとなると、どうしても購買意欲が湧かないんですよね...。

*3:出典はコチラ。→https://en.wikipedia.org/wiki/MTV_Movie_Award_for_Best_Musical_Moment

ちなみに映画自体もMTV Movie Awardsにノミネートされています。→https://www.imdb.com/title/tt0109506/awards

*4:実は1987年にHenry Rollinsのソロ名義(メンバーはRollins Band)で、既に同曲のカバーを披露してたりします。試聴する限りそちらはオリジナルの完コピといった趣だったので、次は全く別のアレンジで...ということになったのかもしれません。

*5:なおライブは主人公の突入で中断された模様。

*6:というか実際のところ劇中では昇天するんですが。

*7:この映画の劇伴もグレアムさんが手がけています。→The Crow: Original Motion Picture Score - Wikipedia

*8:NEWSWAVE19号のインタビューより。