Ministry - Twitch

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Released Year:1986

Record Label:Sire

 

Track Listing

  1.Just Like You

  2.We Believe

  3.All Day Remix

  4.The Angel

  5.Over The Shoulder

  6.My Possession

  7.Where You At Now? / Crash And Burn / Twitch (Version II)

  8.Over The Shoulder (12" Version)

  9.Isle Of Man (Version II)

 

 この作品の内容については、今更私がどうこう述べるものではないと思うので、今回は製作背景なんかを中心に書いていきたいと思います。

 

 屈辱の1stアルバム(笑)とそれに伴うツアーでほとほと嫌気が差したAl Jourgensenは、メジャーレーベルであるArista Recordsとの契約を切ってWax Trax!へと戻りました。その後1984年後半にかけて、MinistryとしてFront 242をサポートに据えた*1ツアーをおこないつつ、本作の原型となるマテリアルを制作していったようです。そしてそのギグがSire Recordsの創設者Seymour Steinの目に留まり、Sireとの契約を持ちかけられます。Aristaとの一件で懲りていたアルさんは当初オファーを断りますが、アルバム製作におけるクリエイティブコントロールが約束されたことと、(当時最新鋭で高価だったらしい)フェアライトCMIというシンセサイザーを購入する予算を与えられたこともあり、最終的に契約を結ぶことになります。Sire側からそれほど熱烈なラブコールがあったとは、ちょっと意外。


 1985年に入りアルバム製作が開始されます。レコーディングは主にロンドンで進められ、一部シカゴや西ベルリンにもまたがっておこなわれたようです。プロデュースはOn-U Soundの総帥Adrian Sherwood。これはSire側の推薦だったらしく、Adrianは最初にオファーをされた時「SireとしてはDepeche Modeみたいな作品を作ってほしいんだろうな。よっしゃ、コマーシャルなアルバムで成功を手にしたるで」と考えていたそう*2。また、On-UつながりでKeith LeBlancも参加しています。この理由が、先述のフェアライトCMIの使い方をアルさんに教えるためだった、というのもおもしろいですね。もしかして、自分のところでは手が出せない高価なシンセを弄ってみたかったとか...?

 

 こうした面々の技術もあってサウンド面では強力にインダストリアル化が推し進められましたが、レコーディングは円満に進んだわけではなかったようです。Keith LeBlanc曰く*3

「Alにアイディアを示しても『ダメだ、それはゴミ。気に入らないね。』ばかりだったんで、Adrianはありとあらゆる手を尽くさないといけなかった」

「そのくせ一ヵ月後にスタジオに来てみたら、あいつはAdrianが示したのとそっくり同じ音を自分の手で作ってたんで、彼はだまされたということに気付いたんだ」

「ロンドンに帰ってきたら、Adrianに『見ろよ、これ全部Alが没にしたトラックさ。さぁどうする?』って訊かれたんで、俺は『じゃあそいつを再利用してみよう』って言ったのさ」

...といった有様*4

 

 一方のアルさんはアルさんで*5

「ロンドンでのレコーディングは勉強になったけど楽しくはなかったね」

「あの頃の俺はまだチビだったんで、全部Adrian Sherwoodに頼りきりだった」

「"Twitch"はAdrian Sherwoodの色が強すぎて、自分の作品という気がしない」

などとのたまう始末です*6

 

 おそらくAl Jourgensenという人は、基本的に自分がすべてイニシアチブを握らないと気が済まないタイプの人間なのでしょう。後にPaul Barkerが加わった後も、レコーディングはアルさん主導で進めていたようですし。そのわりにはサイドプロジェクトを随分やってる気もしますが、まぁあれのほとんどは「ヴォーカルがAl JourgensenじゃないMinistry」みたいなところもあるので...。だからこそ方向性が安定していて、本家が好きな人でもすんなり聞ける部分はあるんですけど。

 

 色々書いてきましたが、個人的にこの作品の最も大きな意義は「メジャーレーベルから発売された」という点にあると思っています。アンダーグラウンドで育まれてきた過激なカットアップのセンスと、メジャーならではの潤沢な予算と豊富な機材を組み合わせることで、当時まだ誰も実現することができていなかった、類を見ないほど重く・分厚く・ノイジーなエレクトロミュージックを提示したわけです。発売からもう30年以上経つのにリマスターの必要性をあまり感じないのも、ここに理由があるように思います。もちろん細かいセンスとかには時代を感じるのですが、音質的な不満は(個人的に)ほとんどありません。しかも、それをメジャーの強い配給力で全世界に発信したということも重要。おかけで日本国内では最も入手しやすいEBMの音源となっています。これが結果的に多くの人々を刺激することになったのでしょう。もちろん、かのTrent Reznorもその1人です。


 このように、EBMというジャンルの金字塔として後世にその名を刻むことになったこのアルバムですが、当の本人にとってはあくまで通過点でしかなかったのかもしれません。では、On-Uの手を離れて今度こそ100%主導権を握ったアルさんが進んだ道は...?という話はまた別の機会に。

 

 Pick Up!:#8「Over The Shoulder (12" Version)」

 リズミカルなメタルパーカッションの気持ちよさを私に教えてくれた曲です。アルバム収録版よりもこっちの方が全体的に重厚かつ金属的でベター。PVの監督はインダス界隈ではおなじみのPeter Christophersonですが、これの収録に関してはヤバい逸話があり、アルさんをして「あのビデオに写っていることは全部犯罪だ」と言わしめるほどです。以下その詳細をば。

 

  冒頭、路駐された車を盗む少年2人組みが映りますが、これはその辺のガキに金を渡して、マジで車を盗ませている模様(撮影後どうしたのかは不明)。また、アルさんがスーパーマーケットの店内をウロウロしながら歌うシーン、店側に撮影を依頼したところ断られたので、Peter Christophersonは次のような一計を案じました。まず、例の自動車盗少年2人に再び金を払い、その店を襲撃させて店内を滅茶苦茶にします(オイオイ...)。そして翌日、何も知らない振りをして再び撮影話をもちかけます。すると、店側としては損害を埋め合わせるための当座の金が入り用なので、ショバ代欲しさに撮影を受け入れる...という寸法です。さすが、かの「Broken Movie」を撮った狂気の監督。なんてやつだ*7

*1:Richard23をMinistryのステージに上げたりしていたらしい。こうしたことが後のRevolting Cocks結成につながったと思われます。

*2:こちらhttp://testpressing.org/feature/adrian-sherwood-on-u-sound/のインタビュー記事より。

*3:こちらhttps://imgur.com/gallery/bgq1zのインタビュー記事より。Ministry以外にも非常に興味深いことが語られています。

*4:この発言の通り、これらの没トラックの一部はKeith LeBlancのソロアルバム(Major Malfunction)に流用された模様。

*5:こちらhttp://thequietus.com/articles/20135-al-jourgensen-favourite-ministry-albums-interview?page=13のインタビュー記事より。

*6:ただし、Luc Van Ackerは「AlとAdrianはとても仲が良さそうに見えた」と回想しているほか、Adrian自身も*2:のインタビューで「Alはいいやつだったよ」と発言しているので、レコーディング中ずっと軋轢があったわけでもないようです。

*7:ただYoutubeのコメント欄を見てると、「Alはいつも嘘ばっか言ってるし、その話も一種のジョークだろ」という意見も。確かにありそう...。というわけで真相は不明です。