Gary Clail's Tackhead Sound System - Tackhead Tape Time

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Released Year:1987

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Mind At The End Of The Tether

  2.Half Cut Again

  3.Reality

  4.M.O.V.E.

  5.Hard Left

  6.Get This

  7.Man In A Suitcase

  8.What's My Mission Now? (Fight The Devil)

 

 ニューヨーク出身のインダストリアル・ヒップホップバンドによるアルバム。このグループは Doug Wimbish(ベース)、Keith Leblanc(ドラム)、Skip McDonald(ギター)、Adrian Sherwood(プロデューサー)というメンバー構成で、Mark Stewartのバックバンド"Mafia"としてこの4人が集結したのが活動の発端になったようです。

 

 この作品、正確にはGary Clailという人がTackheadやKeith Leblancの発表した音源をカットアップし、自らのMCを乗せ発表したもの。そのため名義としては"Gary Clail's Tackhead Sound System"となっています。まぁ実質的にはTackheadなので、ここでは1stアルバムという扱いで。

 

 一応ジャンルとしてはレゲエ/ダブといったものに属するのでしょうが、ここで鳴らされているのはほとんどEBMです。それもMinistryの"Twitch"辺りを髣髴とさせるボディ。...と思っていたら、Tackheadの一部の音源はTwitch製作時の没マテリアルが元になっているようです。このアルバムでいうと#1と#8がそれに該当する模様。また、#4(これは元々Keith Leblancの曲)ではキーボードを弾いているようですね*1。自分で書いててゴチャゴチャしてきたので時系列順にまとめると、

 

・Twitchのレコーディング。(アルさんの我儘により大量の没トラックが発生)

Adrian Sherwood、没トラックを利用して各種音源を製作・発表。(Tackheadのシングル"What's My Mission Now?"、"Mind At The End Of The Tether"、Keith Leblancのソロアルバム"Major Malfunction" etc.)

・Gary Clail、On-Uの各種音源をベースにアルバムを製作。(Tackhead Tape Time)

といったところ。

 

 Gary Clailの手が加わっているとはいえ、製作陣の手で激しく解体されていたMark Stewartのソロ作品と比較すると、こちらはややバンド感があるように思えます。とはいえ卓越した編集技術はここでも如何なく発揮されており、太いボディビートの上をサンプリングボイスやノイズ、そしてザラザラしたギターが駆け巡る様はなかなかクールです。特にサンプリングボイスをシーケンスのように反復させる手法は、Ministryにも受け継がれているな~と感じたり。

 

 Twitch製作時のAl Jourgensenは、ここで聴けるレゲエ/ダブ的な要素よりも、もっとノイズ的な表現を目指していたようで*2、そういう意味ではMinistryが意識的に削ぎ落としてきたエッセンスがここに詰まっていると言えるでしょう。「有り得たかもしれないもう1つのTwitch」という見方もできそうです。そういうわけで、やはり普通の(?)EBMに比べるとレゲエ由来の独特な癖があり、その辺好みが分かれそう。また音質も、昨今のシャープな音像とは程遠いモッサリとした音です*3。このアナログな感じがまた良いという人もいれば、受け付けない人もいるかもしれません。実際、ソフトバレエのフジマキ氏はAdrian SherwoodやKeith Leblancの作るサウンドが(音質的な面で)嫌いだったらしいです。

 

 自分はレゲエ方面の音楽に明るくないのでそういった見地からレビューを書くことはできないんですが、インダストリアル/ボディ好きとしては非常に興味深い作品です。ダブというジャンルがEBMに大きく影響を与えていることがよく判るので、EBMから遡ってOn-U一派の音に触れる際には最適な1枚ではないでしょうか。Adrian Sherwoodってよく見かけるけど、自分ではどんな音楽やってたの?という人にお勧めです。

 

Pick Up!:#8「What's My Mission Now? (Fight The Devil)」

 イントロから耳障りなノイズと跳ねまわるボディビートが超かっこいい。この曲は特にKMFDMへの影響が顕著で、ドラムループをそのままサンプリングして使っている曲があるほか、"Liebesleid"で無断サンプリングして発禁になったCarl Orffの"O Fortuna"が使われています。発表はTackheadが先なので、KMFDM側がこれを参考にしたのではないかと。Tackheadは特に訴訟沙汰にはなっていないようですが、ちゃんと許諾を取っていたのか、単に知名度が違ったのか...真相は不明です。

*1:前回のエントリも参照のこと。

*2:こちらhttps://klintron.com/2013/every-day-is-halloween/の記事より。あのアルバム後半のメドレー曲を思い出していただければ、その意図がわかると思います。

*3:まだデジタル機材など無かった時代、On-Uでは本当にテープを物理的に切り刻んで編集作業をおこなっていたらしいので、仕方ない部分もあるのですが...。