Dive - First Album

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Released Year:1992

Record Label:Minus Habens Records

 

Track Listing

  1.Infected

  2.There's No Hope

  3.Dead Or Alive

  4.Right

  5.So Hard

  6.Attack

  7.Turn Me On

  8.Run

  9.Ghostcity

10.31

11.Menticide

12.Nightshift

13.Burning Skin

14.Eye Of The Past

15.Back To Back

16.Timezone

17.Shadows Of You

18.Sparks

 

 ベルギーのアーティストDirk Ivensによるソロ・プロジェクトの1stアルバム。元はセルフタイトルアルバム"Dive"として1990年にLPのみ発売されていたものに、未発表曲(#12~18)を追加してCD化されたもので、アートワークも変更されています。

 

 このDirk Ivensという人は、1980年代前半からAbsolute Body Control(略してABC)やThe Klinikというユニットで活動しているベテランで、現在もDive名義で活動*1しているほか、自身で複数のレーベルも運営しています。その関係で、この辺のアーティストのクレジットを見ていると、結構な頻度でサンクス欄に名前が挙がっていたりして、まさにベルジャンEBM・インダストリアルの重鎮。

 

 EBM最盛期の80年代後半にはFront 242をさらにミニマルでダークにしたような暗黒ボディを展開していたThe Klinikですが、Dirk Ivensは方向性の違いから1990年にグループを離脱。新たにこのDiveを始めたわけですが、これがまた強烈な音となっています。反復されるビートの上をダミ声ヴォーカルががなる...というのはその他のEBMグループと同じですが、決定的に違うのはその音質。ドラムからシンセベースからヴォーカルまで、全ての音が腹に響くような重低音。しかも原型を留めないほど過剰なエフェクトがかけられており、一瞬再生機器がぶっ壊れてるんじゃないかと疑いたくなります。スネアの割れ方とか、まさに壊れたスピーカーから聞こえてきそうな音。曲によっては早々ビートすらも放棄していて、ただのハーシュノイズになってます。これは確かにKlinikとはまったくの別物で、袂を別ったのもうなずけますね。

 

 あと、Klinik時代はわりと線の細い音作りをする印象でしたが、このDiveはもっと太くて破壊的。それでいて曲構成は相変わらずミニマルなので、却って脅迫的な効果が高まっています。それもダンスミュージック的な反復というより、ただただキックをループしてるだけといった趣で、はなから踊らせることなど眼中にない様子。一作目ということもあってか、初期衝動をそのままぶつけたかのように直情的で、それぞれの曲もワンアイディアで突っ走ってる印象があります。その上デス声で「There's No Hope...!」と絶望的なオブセッションを聴かされ続けた暁にはもう...屋上からDive To Blueするしかないですね(?)

  

 少なくとも90年代初頭の時点でほかに類を見なかったこの音作りは、その後EBMやインダストリアルメタルとはまた別に、リズミック・ノイズあるいはテクノイズなどと呼ばれるジャンルへと発展したようです。確かにこのビート感はわりと非ロック的というか、ライブなんかで盛り上がるにはあまりにもミニマルすぎる気がして、どちらかというとテクノ寄りの作りだなと感じます。ちなみに、本人もその後Sonarという別ユニットを立ち上げますが、そちらはさらに強烈なノイズを用いた、より後発のテクノイズに近いスタイルとなっています。それに比べてこのDiveはもっとダークで沈んでいるというか、ドロドロした生々しさが残っているのが特徴と言えるかも。あと、本作で聴ける「聴こえる音全部割れてます」というノイジーなスタイルは、:wumpscut:やSuicide Commandoなど、一部のダークエレクトロ勢が逆輸入して取り入れていますね。

 

 初期インダストリアル組の持っていたミニマルでダークな情景を、EBM以降のテクノロジーで再構成した暗黒ビート・インダストリアル。同じ「ぶっ壊れ系インダストリアル」でも、Skinny Puppyやその影響下にあるアーティストはそれなりに彩度のある音を鳴らしてますが、このDiveはジャケの通りひたすらモノクロームな世界観です。よく言えばストイック、悪く言えば単調...。TGやSPKなどと同じく、聴き手を突き放してくるタイプの音楽なので、人によっては聴くのが辛いと思われるのが難点でしょうか。

 

 あと他のベルギー産EBMと同じく、そもそもCDが非常に入手困難です。私も先日、某所でこれを発見した時は自分の目を疑いましたし...。興味がある方は、今ならダウンロード販売でも初期シングルなどをまとめた形で購入できるので、そちらでの入手をお勧めします。

 

Pick Up!:#3「Dead Or Alive

 以前弊ブログで紹介したAntler-Subwayのコンピにも収録されていて、そこで初めて耳にした曲。明らかに他のボディ系とは違う、ズシンズシンとした音に「何だこれは?」となったのを覚えています。単調な曲が多い本作の中においては、一番躍動感がある曲かも。あと歌詞もわりと凶悪というか、タイトル通り殺伐としてます。

*1:今年の6月には約20年ぶりに来日公演もおこなった様子。行けなかったのが残念...。

Numb - Death On The Installment Plan

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 3rdアルバム。前作発表後、Dave HalとBlair Dobsonが抜け、新しいヴォーカルとしてConan Hunterが加入。2人組のユニット体制になりました。このアルバムからベルギーのKK Recordsと契約しており、以後しばらくはヨーロッパでのリリースをKKが持つことになります。アメリカではRe-constriction Recordsからリリースされました。

 

 このアルバムを一言で表すとすれば、EBM・メタル・そしてリズミックノイズの三位一体。#1から暴走気味のビートと音圧のおかしいノイズに度肝を抜かれ、そのまま流れるようにダンサブルな#2へ。この2曲だけで完全に持ってかれます。その後も、変則的な曲展開を織り交ぜた中速ビートを基本に、嵐のようなノイズとサンプリングが唸り、邪悪なヴォーカルが呪詛を吐き捨てる悪夢的な世界が展開されます。その様はまるで、火山からあふれ出るマグマか、あるいは溶鉱炉で溶けた鉄のよう。ドロドロしてて、触れたもの全てをじわじわと焼き尽くしていくような、そんなイメージ。使っている音は無機質なのに、ネガティブな人間味に溢れているというか、強烈な負の感情を感じる音です。

 

 また、随所で歪んだギターノイズも導入され、攻撃的な雰囲気の構築に一役買っています。Skinny Puppyの6thや7thのように、もはやEBMの範疇に収めておくのが馬鹿馬鹿しくなるようなサウンドですね。元々このグループは、EBMらしからぬ特有のダイナミクスというか、「静から動への極端な転換」を持ち味としていたところがありますが、その路線が完成されたのがこのアルバムだと思っています。

 #6のようにギターが前面に出た比較的とっつきやすい曲もありますが、全体的にはへヴィな内容なので、やや聴く人を選ぶかも。難解というよりも、アルバム1枚聴き通すとその悪意に圧倒されぐったり...といった感じ。しかし、彼らの最高傑作と称される本昨、マスターピースであることは間違いありません。ぶっ壊れた音に飢えている人には超お勧めです。私は何度も聴いてるうちに耳が麻痺(Numb)してきて、最近ではこれぐらい壊れてないと満足できなくなってしまいました。もうダメかもしれない。

 

Released Year:1993

Record Label:KK Records, Re-constriction Records

 

Track Listing

  1. Violence
  2. Hole
  3. Curse
  4. Trial
  5. Painless
  6. Right...
  7. Shithammer
  8. A Dead Place
  9. Decay Of The Angel
10. Headcrash
11. Fugue
12. Revenant

 

 Pick Up!:#7「Shithammer」

 アルバム中盤のハイライトであり、今作中最も怨念に溢れた1曲。文字通りハンマーの如く、1音1音を叩きつけて来るような重厚なビートが堪能できます。あと個人的に、ヴォーカルの「シシシシィッッットハマー!」の引きずるような吐き捨て方がイイ! 気分が最低な時のBGMとしてこれ以上のものはありません。

Skinny Puppy - 12 Inch Anthology

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Released Year:1990

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Dig It

  2.The Choke (Re-Grip)

  3.Addiction (First Dose)

  4.Deep Down Trauma Hounds (Remix)

  5.Serpents

  6.Chainsaw

  7.Assimilate (R23 Remix)

  8.Stairs And Flowers (Def Wish Mix)

  9.Stairs And Flowers (Too Far Gone)

10.Testure (12" Version)

 

 タイトル通り、彼らの初期シングルの音源を纏めたコンピレーションアルバム。内訳を時代順に示しますと、#1,2が"Dig It"、#6~9が"Chainsaw/Stairs And Flowers"、#3,4が"Addiction"、#5,10が"Testure"からの収録となっています。各シングルからは収録時間の関係でいくつかオミットされている音源もありますが、それらは別のコンピレーションやオリジナルアルバムのボートラで聴くことが可能です*1

  

 まず個人的に注目したいのは#2,7の2曲。どちらもシングルのB面だった1stアルバム収録曲のリミックスですが、オリジナルを大きく上回る完成度。アレンジの大幅な変更はないものの、ヴォーカルの迫力やバックトラックの分厚さが向上し、やや控えめだった原曲の線の細さが改善されています。特に#7は、終盤での"Dead!"連呼が素晴らしくカッコいい。

 

 シングル"Addiction"からの2曲では、リミキサー/エンジニアリングにAdrian Sherwoodが参加しており、ダブ解釈されたパピーの音を聞くことができます。後の"Testure"に通じる哀愁を漂わせる#3は、"Mind~"に収録された"Addiction (Second Dose)"と聞き比べるのもまた一興。First Doseがメタルパーカッションやキラキラシンセを強調した、ある種パピーらしいシャープな音であるのに対し、Second DoseはOn-Uらしいモッサリとした、Tackhead的な音となっています。わりと大人しめな仕上がりなので、個人的にはもっとズタズタにしちゃっても良かった気はしますが...。

 

 #4は原曲の強迫的なドラムを抑え、飛び交うノイズやたまに顔を出すメロディアスなフレーズなど、曲に仕込まれた各種ギミックがより捉えやすい仕上がり。3rdアルバム自体、全体的に古典ホラー映画チックな印象が強かったですが、この曲はそのカラーを最も突き詰めた仕上がりと言えるかも。ちなみに、"Mind~"収録版ではアウトロに映画だかテレビショーのサンプリングが挿入されていましたが、こちらのコンピではなぜかカットされています。

 

 一方で、"Stairs And Flowers"のリミックスは正直退屈。新たに加えられたシンセベースのフレーズは嫌いじゃないですが、派手なノイズや強力なビートも無く、ヴォーカルも時々呻いたりするだけなのでフックに乏しいです。大して差異がないバージョン違いが2曲連続するのも、余計退屈さに拍車をかけているような。文字通りチェーンソーの音をサンプリングした#6も、2ndアルバムと3rdアルバムの過渡期のような雰囲気の曲ではありますが、ちょっと地味かも。

 

 そんな感じで捨て曲なし!とまでは言いませんが、シングル以外ではここでしか聴けない曲(#3,8,10)もあり、また内容としても初期ベスト的なものになっているので、ファンとしてはそれなりに見逃せないものと言えるでしょう。個人的には、中期から遡って聴く場合、下手にオリジナルアルバムに手を出すよりも、まずこれから聴いた方が良いんじゃないかと思っていたり。

 

 Pick Up!:#10「Testure (12" Version)」

  アルバム収録版は哀愁シンセを前面に押し出したポップ(?)な仕上がりでしたが、こちらのリミックスでは分厚いビートを追加したボディな曲に変貌。この超かっこいいイントロは、Soft Balletの藤井氏が"Spindle"でパクったことでも有名です。さらに全編にわたって生ベースが挿入されており、特に間奏部からの盛り上げに大きく貢献している印象。この手法は後に"Nature's Revenge"でも取り入れられていますね。

*1:特に、同時期のシングル曲をボートラに加えていた"Mind: The Perpetual Intercourse"とは4曲が被るという事態に...。

Skinny Puppy - Cleanse Fold And Manipulate

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Released Year:1987

Record Label:Nettwerk, Capitol Records

 

Track Listing

  1.First Aid

  2.Addiction

  3.Shadow Cast

  4.Draining Faces

  5.The Mourn

  6.Second Tooth

  7.Tear Or Beat

  8.Deep Down Trauma Hounds

  9.Anger

10.Epilogue

 

 3rdアルバム。今作からDwayne Goettelが作曲にも参加しています。このアルバム、各所で「地味、暗い」とネガティブな評判が目に付きますが、個人的にアルバムトータルとしては2ndよりも好きです。前作を「押し」とするならば今作は「引き」。全体的には抑え気味ながらも、要所にきちんとスパイスを効かせた音作りで、曲作りにもかなり手馴れてきた雰囲気。前作で一気に広げた音像を収束・整理した上、ややメロディにとっ付きやすさが戻るなど、1stの頃の路線に揺り戻しがかかった印象があります。


 しかしそのメロは1stほど明るいものではなく、ジャケの通りモノクロの古典ホラー映画を髣髴とさせる雰囲気で、ある意味パピー史上最も「ゴス」に接近したアルバムかもしれません。#1におけるシアトリカルなストリングスの導入にも、そうした傾向を見出すことができます。また、#4,5といったインストも1stの頃のような清涼感は皆無で、くらーい不気味な雰囲気が漂っています。聴いているとあたかも無人の洋館をさまよっているかのような気分を味わえたり。この頃はバンドロゴもホラー映画調のフォントですしね。

 

 ただ、派手に暴れていた前作やこの後の全盛期と比べると、ノイズ成分や発狂ヴォーカルといった要素は控えめなので、物足りなく感じる方が多いのは仕方ないかもしれません。全10曲43分と短め(かつ3曲はインスト)であることも、地味な印象に拍車をかけている節があるような。コレに関しては、他のアルバムでも本来(LP盤)はそれぐらいのボリュームなのですが、ボートラが追加されてるのであまりそう感じないのかもしれません(逆にボートラが無いためにコンパクトにまとまっている点も、自分としては高ポイントなのですが...)。


 でも本作の収録曲、とてもライブ映えするんです。元々の曲構成がシンプルで明快な分、ライブ演奏でも原型を損なわず、むしろライブ特有の荒々しさが際立つように感じられます。初期の彼らは純粋にスタジオでの実験をそのまま音にしているような印象がありましたが、この頃からライブでの再現も念頭に置くようになったのかもしれません。この点については、本作に伴うツアーを音源化したライブ盤のレビューで詳しく触れたいと思います。


 ちなみにこのアルバム、ループ再生すると、#10の最後のノイズが#1のイントロにつながるようになっています。英語ではこういうのを"cyclical album"と呼ぶそうです*1。とはいっても、私が持っているCDでは無音部分が1秒ほどあったので、波形編集ソフトでそれをカットしてようやく切れ目無くつながるようになりましたが。このアルバムからのシングルB面曲まで2ndのボートラにまわされたのは、もしかしてこの構成を考慮してのこと?などと勝手に思っていたり。というわけで、iPodで再生しているとずっとループで聴いていられるアルバムです。

 

 Pick Up!:#4「Draining Faces」

 少々長めのインスト曲。ひたひたと不穏な導入部から徐々にノイズが増え、終盤は偏執的なボディへと変貌しますが、その静から動への転換が見事。途中何度か盛り上がりを作りつつも溜めに溜め、最後にじわーっと音量が上がっていくところはまさに背筋がぞくっとします。これはただのインタールード的なものではなく、むしろA面のハイライトといっても過言ではないかと。後にブレア・ウィッチ・プロジェクトのサントラにも収録されましたが、実に映画の雰囲気に嵌まった選曲といえるでしょう。

*1:Pink Floydの「狂気」なんかが有名でしょうか。

Hilt - Journey To The Center Of The Bowl

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Released Year:1991

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Birdwatcher

  2.950

  3.Superhoney

  4.Way Out There

  5.222

  6.El Diablo

  7.Loudmouth Canyon

  8.Home

  9.314

10.Sandy Feet

11.Never Gonna Fall Again

12.Walkin On Thunder

13.Crazy For You

14.Real Cool Rain

15.World's Goin Down

16.The Ride

 

 Skinny Puppyのサイドプロジェクトの2ndアルバム。彼らのサイドプロジェクトはNivek OgreサイドとcEvin Key & Dwayne Goettelサイドに大別できますが、このグループは後者のパターン。cEvinとDwayneの2人に、Alan Nelsonという人をヴォーカルに加えたトリオ編成です。

 

 これはパピーのサイドプロジェクト全般に言えることですが、彼らの作品からEBM・インダストリアル的な音が聴けることは少なく、そういう音を求める人にこれらの作品はあまりお勧めできません。この辺り、サイドプロジェクトといいながら本家の延長線上にある音を鳴らしていたAl Jourgensenとは対照的です。どちらも半分遊び感覚というか、肩の力を抜いて取り組んでいる点では共通しているんですが。

 

 本作はというと、一言でいえば"サイケデリック・パンク"といったところでしょうか。もちろんドラムの多くは打ち込みですし、独特の歪んだエフェクトなどcEvinとDwayneの仕事だなと思わせる部分はあるのですが、それ以上にサイケなギターとヘロヘロのヴォーカルの印象が強く、いつものパピーからはかけ離れた内容になっています。またオルガンや生のパーカッションも大きくフィーチャーされ、とにかくカラフルで賑やかな印象。いきなり"Rabies"を髣髴とさせるブラストビートが炸裂したかと思えば、急にアコギ中心で爽やかに歌いだしたりと、方向性もバラバラです。意味不明なジャケット通り、とにかく何でもありのラリパッパ状態()

 

 元々このグループは上記の3人が組んでいたパンクバンドが母体となっていることもあり、比較的ロック寄りの音が特徴でしたが、ここまでドラッギーで弛緩した音に変わってしまうとは。この内容については某掲示板で「あれはテキサスサイケだから」と書かれていて、テキサスサイケって何ぞやと調べたら、The 13th Floor Elevatorsとかを指す言葉みたいですね。確かに60年代サイケを髣髴とさせる部分もあるけど、それだけじゃないような...と思っていたら、テキサスサイケでもう1つ、Butthole Surfersがヒットして、あぁなるほどと思わず膝を打ってしまいました。

 

 Butthole Surfersに関しては私も数枚しかアルバムを聴いてないので詳しくは言及できませんが、メタルのようにへヴィなリフ中心の曲がある一方で、レイドバックしたメロディを聞かせる曲もあったりと、とにかく多彩なルーツをドラッグと悪意でコーティングしたような音を鳴らすロックバンド...というイメージがあります。この何でもありのカオスな空気、言われてみると確かにこのアルバムに通じるものがあるような。さすがにGibby Haynesのような圧倒的狂気や悪意は無くて、もっと穏やかな感じですけど。

 

 「テキサスサイケにパンクやメタルを取り込み、90年代オルタナとして復活させた」*1といわれるButthole Surfersの音を、Skinny Puppyのエレクトロニクスを以って再現してしまった異色作。好みは別れそうですが、私は結構好きです。全体的にメロディアスな上、要所にきちんとフックを用意してあるので聞きやすいですし。また、曲間がほとんど繋がってることもあって、一度再生するとずるずる最後まで聞いてしまうというか、こっちの頭までいい感じにネジが緩んできます。インダストリアルよりも、Butthole SurfersやPixiesなどのオルタナ/ロック系が好きな方にお勧め。

 

 Pick Up!:#12「Never Gonna Fall Again」

 このアルバムの中でも特に弛緩しきった、リラックスしたムードの1曲。優しげなアコギと素朴な歌メロが何とも美しい。しかしこのまともに音程の取れていないヘロヘロヴォーカル、ほとんどThe Pastelsの域です。80~90年代のUKロックが好きな人はこういうの気に入るんじゃないでしょうか。晴れた日の午後、昼寝のBGMにすると最高です。

Revolting Cocks - Big Sexy Land

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Released Year:1986

Record Label:Wax Trax!

 

Track Listing

  1.38

  2.We Shall Cleanse The World

  3.Attack Ships On Fire

  4.Big Sexy Land

  5.Union Carbide (West Virginia Version)

  6.T.V. Mind

  7.No Devotion

  8.Union Carbide (Bhopal Version)

  9.You Often Forget (Malignant)

10.Attack Ships... (12" Version)

11.On Fire (12" Version)

12.No Devotion (12" Version)

 

 Ministryのサイドプロジェクトの代表格であり、「裏Ministry」とも呼ばれるRevolting Cocks。インダス界隈ではRevCo(リヴコ)と呼ばれることも多いですね。この手のサイドプロジェクトはシングル1枚だけ出して終わり!というようなワンオフのものが多かったですが、このグループはわりと恒常的に活動を続けており、Revolting Cocksとしてツアーも行っていました。因みにこのふざけたグループ名は、アルさんが地元シカゴのバーで飲んだくれたあげく、バーテンに店から叩き出された際に毒づかれた言葉に着想を得たものらしいです。

 

 今回取り上げるのは1stアルバム。#9~12はCD化に際し追加されたボートラで、#10~12がデビューシングル"No Devotion"から、#9がアルバム発売後に出たシングル"You Often Forget"からの収録。現在ではRykodiscからリマスター版も再発されており、そちらはジャケと曲順が少し変わった他、後のシングル"Stainless Steel Providers"に収録されていた"T.V. Mind"のリミックスバージョンが追加されています。

 

 メンバー構成は時期によって入れ替わりが激しいですが、この頃はRichard 23、Luc Van Acker、Al Jourgensenの3人組でした。この当時はRichard 23とLuc Van Ackerの2人をAl Jourgensenがプロデュースする、という形態を取っていたようで、アルさんの息抜き&おふざけの場と化す後年とは少し異なる性質のプロジェクトだった模様。実際、クレジットを確認すると、キーボードやベースにプログラミング、そしてヴォーカルも全てRichard 23とLuc Van Ackerが担当しており、意外にもアルさんは一切演奏していません。本作はかの"Twitch"とほぼ同時並行で製作が進められていた*1ようですが、アルさんがAdrian Sherwoodに師事しながら製作を進めていた"Twitch"とは逆に、自らがプロデュースの舵を握ってレコードを作っていたというのは興味深くもありますね。

 

 音の方はTwitchで見せたガチガチのボディとはやや趣が異なり、Luc Van Ackerによるブリブリしたベースを強調したファンキーな音。金属音やノイズといった要素は控えめで、代わりに人を食ったようなエフェクトヴォーカルが大きくフィーチャーされており、ベースの音とあいまって粗野かつ下品な印象を高めています。バンド名やタイトルからも明らかな通り、昨今の世相では眉をひそめられそうな男根主義的なイメージは、ある種70年代~80年代のアメリカンハードロックのパロディのようにも感じられます。DAFが「ホモセクシャルな猥雑性」を触媒として肉感的なエレクトロミュージック(すなわちボディ)を構築していったように、このグループは「ハードロック的な猥雑性」を触媒としていたのかもしれません。

 

 しかしエロエロ・アホアホ路線一辺倒かというとそうでもなくて、各所にシリアスなメッセージ性が仕込まれているのも本作のみで見られる特徴。#5,8はインストではありますが、曲タイトルは米国の化学企業ユニオンカーバイド社から取られており、"West Virginia"は1930年代に起きた「ホークス・ネストトンネル災害」を、"Bhopal"は1984年に起きた「ボパール化学工場事故」をそれぞれ示唆したものとなっています。どちらも企業側の非人道的な対応が問題となった労働災害・事故であり、Ministryで取り上げてもよさそうな重いテーマです。また、#1は「ヘイゼルの悲劇」と呼ばれるサッカースタジアムで発生した観客の事故を取り上げたもの。さらに#7は、タイトル通り宗教(とそれにまつわるいざこざ)に対する批判になっているように思えます。こうして見ると、意外と当時の時事ネタを取り入れつつ真っ当なことを言っているんですね。グループ名のせいで台無しですが...(苦笑)

 

 ポストパンク由来のファンクネスとハードロック的な猥雑性を取り込み、従来のシンセポップ等には無かった肉体性を獲得した作品。"Twitch"がEBMに留まらずインダストリアルというジャンル全体に影響を与えたとすれば、こちらは"Wax Trax!系"とでもいうべきアメリカンなEBMのカラーを定義付けたという点で重要だと思っています。My Life With The Thrill Kill Kultを始め、この後続々と出現するWax Trax!のグループの多くは明らかに本作を参考にしてる印象がありますし。猪突猛進する「でじたるふぁんき~」*2なボディは必聴です。

 

 Pick Up!:#10-11「Attack Ships...On Fire (12" Version)」

 シングル"No Devotion"のB面曲。トラック分割こそされていますが、実質的に1つの曲なのでまとめて取り上げています。この曲もご他聞に漏れず、アルバム収録版よりも12" Versionの方が私としては好みです。Luc Van Ackerのシャウトもなかなか気色悪くて良いんですが、やはりこの曲の主役はベース。うねるようなベースラインを追っかけているだけでも楽しめます。ちなみに曲タイトルは映画「ブレードランナー」劇中のモノローグから採られています*3。曲の内容と関連があるようには思えませんが...。

*1:実はシングル"No Devotion"は85年の発売なので、デビューではこちらの方がTwitchよりも早かったりします。

*2:かの有名なEBM系サイト「<BODY> to </BODY>」からの引用。この表現、彼らの頭悪そうなカラーがよく表されていて好きです。

*3:英語版wiki(https://en.wikipedia.org/wiki/Tears_in_rain_monologue)にもこの台詞のためのページがあるほど。

Front Line Assembly - Tactical Neural Implant

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Released Year:1992

Record Label:Third Mind

 

Track Listing

  1.Final Impact

  2.The Blade

  3.Mindphaser

  4.Remorse

  5.Bio-Mechanic

  6.Outcast

  7.Gun

  8.Lifeline

  9.Toxic*日本盤ボーナストラック

10.Mutilate*日本盤ボーナストラック

11.Mindphaser (12" Version)*日本盤ボーナストラック

 

 カナダのエレクトロ・インダストリアルユニットの大体6枚目ぐらい*1のアルバム。この作品で初めて日本盤が発売されました。上記の通りボートラが追加されていますが、これは先行シングル"Mindphaser"の12"リミックスおよびB面曲です。

 

 EBM界を代表する大傑作"Caustic Grip"と、大胆にメタル化を図った"Millennium"に挟まれているせいか、彼らのキャリアの中でも影が薄い印象がある本作。ガチガチの鉄筋ボディだったこれまでの路線を捨て、当時ヨーロッパで大流行していたハードコアテクノ・トランスに接近した音作りへと変貌しています。しかしその結果、表面的な迫力やスピード感は減退。控えめなキックがメインの淡々としたアルバム進行は、特に前作のテンションを期待する人からは「ぬるい」「地味」などと評判が悪いです。この立ち位置、なんとなくSkinny Puppyの"Cleanse Fold And Manipulate"と似ているような...。

 

 しかし個人的にはこのアルバム、そこまで嫌いじゃないです。自分が最初に聞いたFLAの作品がコレというのもあるかもしれませんが、普通のテクノに比べて明らかに肉感的なキックにはボディを感じますし、彼ら特有の綿密なサンプリングも冴えわたっています。前作が「点」で勝負していたとすれば、本作は「面」で勝負、といったところでしょうか。1つ1つの音は線が細いながらも、トータルでは高密度で重厚な仕上がりで、これが彼らの持ち味であるディストピア/サイバーパンクな世界観の構築に一役買っている印象を受けます。

 

 何より、今までのどの作品よりもダークなメロディを前面に打ち出していて、フックが掴み易いのが素晴らしいです。特にシングルカットされた#2,3ではその傾向が顕著で、#2の幻想的なボコーダーの使い方にはどことなくパピーの名曲"Worlock"に通じるものを感じます。また、#3は日本のマイナー特撮映画「ガンヘッド」の映像が使われており、曲の持つ世界観といい感じにマッチした仕上がりとなっています*2。これらのシングルはクラブシーンでそこそこヒットしたようで、アルバムもトータルで7万枚の売り上げを記録しました。こうした成功もあってか、海外のファンの間では"Caustic Grip"よりも本作が代表作/最高傑作として捉えられているようです*3。もはやオフィシャルサイトと化しているファンサイトの名前も「mindphaser.com」ですし。

 

 90年代前半のEBM→インダストリアルメタルという流行の推移からみると、90年の”Caustic Grip”でEBM路線を極め、92年の本作を挟んで94年にメタル化というFLAのキャリアは、シーンの流れに1歩後れをとっているようにも見えます。しかし、クラブシーンが大きな幅を利かせていたヨーロッパに目を向けると、また違った見方ができます。90年代初頭、彼の地では80年代のEBMにとって代わり、テクノやトランスと融合した「90年代型EBM」とでも呼ぶべきサウンドが続々と生まれていました。当ブログでも何回か取り上げているZoth OmmogやCleopatraといったレーベルに属するグループもその一派。そして、今回取り上げているFLAのアルバムは、こうした欧州の音を志向したものではないかと自分は思っています。

 

 ジャーマンニューウェーブやポストパンクだけではなく、同時進行的に発展したテクノを吸収したより新しいボディ。ここでこの路線を完成させたからこそ、次の一手としてメタルも取り入れつつ、第2の傑作”Hard Wired”を生み出すことができたのではないでしょうか。あのアルバムで提示されたサイバーなインダストリアルは、明らかに本作を経過したものですし。逆に、ここで”Caustic Grip”の路線から脱却していなければ、DAFの影響下で自らが完成させたボディから抜け出せずに失速していったNitzer Ebbのように、袋小路にはまっていた可能性も...。そういった意味で、もっと評価されていいアルバムだと思います。

 

 ヨーロッパのシーンと同調し、90年代型EBMのスタイルを確立した1枚。また、単にシーンに迎合するだけではなく、その後のFLA自身、そして後続のダークエレクトロやフューチャーポップの参照元になったアルバムとも言えそうです。再評価希望!

 

 Pick Up!:#1「Final Impact」

 近未来の工場を連想させるSEで幕を開けるオープニングトラック。今までは(意地悪な言い方をすれば)ただ叫んでいるだけという印象があったヴォーカルも、ここでは低音でドスを効かせつつ、サビでは加工ヴォーカルを重ねてメロディを聞かせるなど、より表現が多彩になっています。何より、曲を通じて鳴らされるベコベコしたシーケンスの音が狂おしいほど好き。

*1:初期の彼らはレーベルを変えながらデモ音源やEPを乱発していたので、どこからカウントするのか線引きが難しいです...。

*2:(英語版wikiの記述によると)Bill Leeb曰く、先に映画の映像を見て、それから曲や詞の構想を固めていったそうです。そりゃマッチングが良くて当然か。

*3:例えばここ→https://addins.kwwl.com/blogs/criticalmass/2010/06/album-review-front-line-assembly-improvised-electronic-deviceのレビューでは、"Often times Caustic Grip or Tactical Neural Implant are called the best FLA albums..."と、「世間一般的な評価」という文脈で言及されています。