Revolting Cocks - Big Sexy Land

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Released Year:1986

Record Label:Wax Trax!

 

Track Listing

  1.38

  2.We Shall Cleanse The World

  3.Attack Ships On Fire

  4.Big Sexy Land

  5.Union Carbide (West Virginia Version)

  6.T.V. Mind

  7.No Devotion

  8.Union Carbide (Bhopal Version)

  9.You Often Forget (Malignant)

10.Attack Ships... (12" Version)

11.On Fire (12" Version)

12.No Devotion (12" Version)

 

 Ministryのサイドプロジェクトの代表格であり、「裏Ministry」とも呼ばれるRevolting Cocks。インダス界隈ではRevCo(リヴコ)と呼ばれることも多いですね。この手のサイドプロジェクトはシングル1枚だけ出して終わり!というようなワンオフのものが多かったですが、このグループはわりと恒常的に活動を続けており、Revolting Cocksとしてツアーも行っていました。因みにこのふざけたグループ名は、アルさんが地元シカゴのバーで飲んだくれたあげく、バーテンに店から叩き出された際に毒づかれた言葉に着想を得たものらしいです。

 

 今回取り上げるのは1stアルバム。#9~12はCD化に際し追加されたボートラで、#10~12がデビューシングル"No Devotion"から、#9がアルバム発売後に出たシングル"You Often Forget"からの収録。現在ではRykodiscからリマスター版も再発されており、そちらはジャケと曲順が少し変わった他、後のシングル"Stainless Steel Providers"に収録されていた"T.V. Mind"のリミックスバージョンが追加されています。

 

 メンバー構成は時期によって入れ替わりが激しいですが、この頃はRichard 23、Luc Van Acker、Al Jourgensenの3人組でした。この当時はRichard 23とLuc Van Ackerの2人をAl Jourgensenがプロデュースする、という形態を取っていたようで、アルさんの息抜き&おふざけの場と化す後年とは少し異なる性質のプロジェクトだった模様。実際、クレジットを確認すると、キーボードやベースにプログラミング、そしてヴォーカルも全てRichard 23とLuc Van Ackerが担当しており、意外にもアルさんは一切演奏していません。本作はかの"Twitch"とほぼ同時並行で製作が進められていた*1ようですが、アルさんがAdrian Sherwoodに師事しながら製作を進めていた"Twitch"とは逆に、自らがプロデュースの舵を握ってレコードを作っていたというのは興味深くもありますね。

 

 音の方はTwitchで見せたガチガチのボディとはやや趣が異なり、Luc Van Ackerによるブリブリしたベースを強調したファンキーな音。金属音やノイズといった要素は控えめで、代わりに人を食ったようなエフェクトヴォーカルが大きくフィーチャーされており、ベースの音とあいまって粗野かつ下品な印象を高めています。バンド名やタイトルからも明らかな通り、昨今の世相では眉をひそめられそうな男根主義的なイメージは、ある種70年代~80年代のアメリカンハードロックのパロディのようにも感じられます。DAFが「ホモセクシャルな猥雑性」を触媒として肉感的なエレクトロミュージック(すなわちボディ)を構築していったように、このグループは「ハードロック的な猥雑性」を触媒としていたのかもしれません。

 

 しかしエロエロ・アホアホ路線一辺倒かというとそうでもなくて、各所にシリアスなメッセージ性が仕込まれているのも本作のみで見られる特徴。#5,8はインストではありますが、曲タイトルは米国の化学企業ユニオンカーバイド社から取られており、"West Virginia"は1930年代に起きた「ホークス・ネストトンネル災害」を、"Bhopal"は1984年に起きた「ボパール化学工場事故」をそれぞれ示唆したものとなっています。どちらも企業側の非人道的な対応が問題となった労働災害・事故であり、Ministryで取り上げてもよさそうな重いテーマです。また、#1は「ヘイゼルの悲劇」と呼ばれるサッカースタジアムで発生した観客の事故を取り上げたもの。さらに#7は、タイトル通り宗教(とそれにまつわるいざこざ)に対する批判になっているように思えます。こうして見ると、意外と当時の時事ネタを取り入れつつ真っ当なことを言っているんですね。グループ名のせいで台無しですが...(苦笑)

 

 ポストパンク由来のファンクネスとハードロック的な猥雑性を取り込み、従来のシンセポップ等には無かった肉体性を獲得した作品。"Twitch"がEBMに留まらずインダストリアルというジャンル全体に影響を与えたとすれば、こちらは"Wax Trax!系"とでもいうべきアメリカンなEBMのカラーを定義付けたという点で重要だと思っています。My Life With The Thrill Kill Kultを始め、この後続々と出現するWax Trax!のグループの多くは明らかに本作を参考にしてる印象がありますし。猪突猛進する「でじたるふぁんき~」*2なボディは必聴です。

 

 Pick Up!:#10-11「Attack Ships...On Fire (12" Version)」

 シングル"No Devotion"のB面曲。トラック分割こそされていますが、実質的に1つの曲なのでまとめて取り上げています。この曲もご他聞に漏れず、アルバム収録版よりも12" Versionの方が私としては好みです。Luc Van Ackerのシャウトもなかなか気色悪くて良いんですが、やはりこの曲の主役はベース。うねるようなベースラインを追っかけているだけでも楽しめます。ちなみに曲タイトルは映画「ブレードランナー」劇中のモノローグから採られています*3。曲の内容と関連があるようには思えませんが...。

*1:実はシングル"No Devotion"は85年の発売なので、デビューではこちらの方がTwitchよりも早かったりします。

*2:かの有名なEBM系サイト「<BODY> to </BODY>」からの引用。この表現、彼らの頭悪そうなカラーがよく表されていて好きです。

*3:英語版wiki(https://en.wikipedia.org/wiki/Tears_in_rain_monologue)にもこの台詞のためのページがあるほど。