Gary Clail's Tackhead Sound System - Tackhead Tape Time

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Released Year:1987

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Mind At The End Of The Tether

  2.Half Cut Again

  3.Reality

  4.M.O.V.E.

  5.Hard Left

  6.Get This

  7.Man In A Suitcase

  8.What's My Mission Now? (Fight The Devil)

 

 ニューヨーク出身のインダストリアル・ヒップホップバンドによるアルバム。このグループは Doug Wimbish(ベース)、Keith Leblanc(ドラム)、Skip McDonald(ギター)、Adrian Sherwood(プロデューサー)というメンバー構成で、Mark Stewartのバックバンド"Mafia"としてこの4人が集結したのが活動の発端になったようです。

 

 この作品、正確にはGary Clailという人がTackheadやKeith Leblancの発表した音源をカットアップし、自らのMCを乗せ発表したもの。そのため名義としては"Gary Clail's Tackhead Sound System"となっています。まぁ実質的にはTackheadなので、ここでは1stアルバムという扱いで。

 

 一応ジャンルとしてはレゲエ/ダブといったものに属するのでしょうが、ここで鳴らされているのはほとんどEBMです。それもMinistryの"Twitch"辺りを髣髴とさせるボディ。...と思っていたら、Tackheadの一部の音源はTwitch製作時の没マテリアルが元になっているようです。このアルバムでいうと#1と#8がそれに該当する模様。また、#4(これは元々Keith Leblancの曲)ではキーボードを弾いているようですね*1。自分で書いててゴチャゴチャしてきたので時系列順にまとめると、

 

・Twitchのレコーディング。(アルさんの我儘により大量の没トラックが発生)

Adrian Sherwood、没トラックを利用して各種音源を製作・発表。(Tackheadのシングル"What's My Mission Now?"、"Mind At The End Of The Tether"、Keith Leblancのソロアルバム"Major Malfunction" etc.)

・Gary Clail、On-Uの各種音源をベースにアルバムを製作。(Tackhead Tape Time)

といったところ。

 

 Gary Clailの手が加わっているとはいえ、製作陣の手で激しく解体されていたMark Stewartのソロ作品と比較すると、こちらはややバンド感があるように思えます。とはいえ卓越した編集技術はここでも如何なく発揮されており、太いボディビートの上をサンプリングボイスやノイズ、そしてザラザラしたギターが駆け巡る様はなかなかクールです。特にサンプリングボイスをシーケンスのように反復させる手法は、Ministryにも受け継がれているな~と感じたり。

 

 Twitch製作時のAl Jourgensenは、ここで聴けるレゲエ/ダブ的な要素よりも、もっとノイズ的な表現を目指していたようで*2、そういう意味ではMinistryが意識的に削ぎ落としてきたエッセンスがここに詰まっていると言えるでしょう。「有り得たかもしれないもう1つのTwitch」という見方もできそうです。そういうわけで、やはり普通の(?)EBMに比べるとレゲエ由来の独特な癖があり、その辺好みが分かれそう。また音質も、昨今のシャープな音像とは程遠いモッサリとした音です*3。このアナログな感じがまた良いという人もいれば、受け付けない人もいるかもしれません。実際、ソフトバレエのフジマキ氏はAdrian SherwoodやKeith Leblancの作るサウンドが(音質的な面で)嫌いだったらしいです。

 

 自分はレゲエ方面の音楽に明るくないのでそういった見地からレビューを書くことはできないんですが、インダストリアル/ボディ好きとしては非常に興味深い作品です。ダブというジャンルがEBMに大きく影響を与えていることがよく判るので、EBMから遡ってOn-U一派の音に触れる際には最適な1枚ではないでしょうか。Adrian Sherwoodってよく見かけるけど、自分ではどんな音楽やってたの?という人にお勧めです。

 

Pick Up!:#8「What's My Mission Now? (Fight The Devil)」

 イントロから耳障りなノイズと跳ねまわるボディビートが超かっこいい。この曲は特にKMFDMへの影響が顕著で、ドラムループをそのままサンプリングして使っている曲があるほか、"Liebesleid"で無断サンプリングして発禁になったCarl Orffの"O Fortuna"が使われています。発表はTackheadが先なので、KMFDM側がこれを参考にしたのではないかと。Tackheadは特に訴訟沙汰にはなっていないようですが、ちゃんと許諾を取っていたのか、単に知名度が違ったのか...真相は不明です。

*1:前回のエントリも参照のこと。

*2:こちらhttps://klintron.com/2013/every-day-is-halloween/の記事より。あのアルバム後半のメドレー曲を思い出していただければ、その意図がわかると思います。

*3:まだデジタル機材など無かった時代、On-Uでは本当にテープを物理的に切り刻んで編集作業をおこなっていたらしいので、仕方ない部分もあるのですが...。

Ministry - Twitch

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Released Year:1986

Record Label:Sire

 

Track Listing

  1.Just Like You

  2.We Believe

  3.All Day Remix

  4.The Angel

  5.Over The Shoulder

  6.My Possession

  7.Where You At Now? / Crash And Burn / Twitch (Version II)

  8.Over The Shoulder (12" Version)

  9.Isle Of Man (Version II)

 

 この作品の内容については、今更私がどうこう述べるものではないと思うので、今回は製作背景なんかを中心に書いていきたいと思います。

 

 屈辱の1stアルバム(笑)とそれに伴うツアーでほとほと嫌気が差したAl Jourgensenは、メジャーレーベルであるArista Recordsとの契約を切ってWax Trax!へと戻りました。その後1984年後半にかけて、MinistryとしてFront 242をサポートに据えた*1ツアーをおこないつつ、本作の原型となるマテリアルを制作していったようです。そしてそのギグがSire Recordsの創設者Seymour Steinの目に留まり、Sireとの契約を持ちかけられます。Aristaとの一件で懲りていたアルさんは当初オファーを断りますが、アルバム製作におけるクリエイティブコントロールが約束されたことと、(当時最新鋭で高価だったらしい)フェアライトCMIというシンセサイザーを購入する予算を与えられたこともあり、最終的に契約を結ぶことになります。Sire側からそれほど熱烈なラブコールがあったとは、ちょっと意外。


 1985年に入りアルバム製作が開始されます。レコーディングは主にロンドンで進められ、一部シカゴや西ベルリンにもまたがっておこなわれたようです。プロデュースはOn-U Soundの総帥Adrian Sherwood。これはSire側の推薦だったらしく、Adrianは最初にオファーをされた時「SireとしてはDepeche Modeみたいな作品を作ってほしいんだろうな。よっしゃ、コマーシャルなアルバムで成功を手にしたるで」と考えていたそう*2。また、On-UつながりでKeith LeBlancも参加しています。この理由が、先述のフェアライトCMIの使い方をアルさんに教えるためだった、というのもおもしろいですね。もしかして、自分のところでは手が出せない高価なシンセを弄ってみたかったとか...?

 

 こうした面々の技術もあってサウンド面では強力にインダストリアル化が推し進められましたが、レコーディングは円満に進んだわけではなかったようです。Keith LeBlanc曰く*3

「Alにアイディアを示しても『ダメだ、それはゴミ。気に入らないね。』ばかりだったんで、Adrianはありとあらゆる手を尽くさないといけなかった」

「そのくせ一ヵ月後にスタジオに来てみたら、あいつはAdrianが示したのとそっくり同じ音を自分の手で作ってたんで、彼はだまされたということに気付いたんだ」

「ロンドンに帰ってきたら、Adrianに『見ろよ、これ全部Alが没にしたトラックさ。さぁどうする?』って訊かれたんで、俺は『じゃあそいつを再利用してみよう』って言ったのさ」

...といった有様*4

 

 一方のアルさんはアルさんで*5

「ロンドンでのレコーディングは勉強になったけど楽しくはなかったね」

「あの頃の俺はまだチビだったんで、全部Adrian Sherwoodに頼りきりだった」

「"Twitch"はAdrian Sherwoodの色が強すぎて、自分の作品という気がしない」

などとのたまう始末です*6

 

 おそらくAl Jourgensenという人は、基本的に自分がすべてイニシアチブを握らないと気が済まないタイプの人間なのでしょう。後にPaul Barkerが加わった後も、レコーディングはアルさん主導で進めていたようですし。そのわりにはサイドプロジェクトを随分やってる気もしますが、まぁあれのほとんどは「ヴォーカルがAl JourgensenじゃないMinistry」みたいなところもあるので...。だからこそ方向性が安定していて、本家が好きな人でもすんなり聞ける部分はあるんですけど。

 

 色々書いてきましたが、個人的にこの作品の最も大きな意義は「メジャーレーベルから発売された」という点にあると思っています。アンダーグラウンドで育まれてきた過激なカットアップのセンスと、メジャーならではの潤沢な予算と豊富な機材を組み合わせることで、当時まだ誰も実現することができていなかった、類を見ないほど重く・分厚く・ノイジーなエレクトロミュージックを提示したわけです。発売からもう30年以上経つのにリマスターの必要性をあまり感じないのも、ここに理由があるように思います。もちろん細かいセンスとかには時代を感じるのですが、音質的な不満は(個人的に)ほとんどありません。しかも、それをメジャーの強い配給力で全世界に発信したということも重要。おかけで日本国内では最も入手しやすいEBMの音源となっています。これが結果的に多くの人々を刺激することになったのでしょう。もちろん、かのTrent Reznorもその1人です。


 このように、EBMというジャンルの金字塔として後世にその名を刻むことになったこのアルバムですが、当の本人にとってはあくまで通過点でしかなかったのかもしれません。では、On-Uの手を離れて今度こそ100%主導権を握ったアルさんが進んだ道は...?という話はまた別の機会に。

 

 Pick Up!:#8「Over The Shoulder (12" Version)」

 リズミカルなメタルパーカッションの気持ちよさを私に教えてくれた曲です。アルバム収録版よりもこっちの方が全体的に重厚かつ金属的でベター。PVの監督はインダス界隈ではおなじみのPeter Christophersonですが、これの収録に関してはヤバい逸話があり、アルさんをして「あのビデオに写っていることは全部犯罪だ」と言わしめるほどです。以下その詳細をば。

 

  冒頭、路駐された車を盗む少年2人組みが映りますが、これはその辺のガキに金を渡して、マジで車を盗ませている模様(撮影後どうしたのかは不明)。また、アルさんがスーパーマーケットの店内をウロウロしながら歌うシーン、店側に撮影を依頼したところ断られたので、Peter Christophersonは次のような一計を案じました。まず、例の自動車盗少年2人に再び金を払い、その店を襲撃させて店内を滅茶苦茶にします(オイオイ...)。そして翌日、何も知らない振りをして再び撮影話をもちかけます。すると、店側としては損害を埋め合わせるための当座の金が入り用なので、ショバ代欲しさに撮影を受け入れる...という寸法です。さすが、かの「Broken Movie」を撮った狂気の監督。なんてやつだ*7

*1:Richard23をMinistryのステージに上げたりしていたらしい。こうしたことが後のRevolting Cocks結成につながったと思われます。

*2:こちらhttp://testpressing.org/feature/adrian-sherwood-on-u-sound/のインタビュー記事より。

*3:こちらhttps://imgur.com/gallery/bgq1zのインタビュー記事より。Ministry以外にも非常に興味深いことが語られています。

*4:この発言の通り、これらの没トラックの一部はKeith LeBlancのソロアルバム(Major Malfunction)に流用された模様。

*5:こちらhttp://thequietus.com/articles/20135-al-jourgensen-favourite-ministry-albums-interview?page=13のインタビュー記事より。

*6:ただし、Luc Van Ackerは「AlとAdrianはとても仲が良さそうに見えた」と回想しているほか、Adrian自身も*2:のインタビューで「Alはいいやつだったよ」と発言しているので、レコーディング中ずっと軋轢があったわけでもないようです。

*7:ただYoutubeのコメント欄を見てると、「Alはいつも嘘ばっか言ってるし、その話も一種のジョークだろ」という意見も。確かにありそう...。というわけで真相は不明です。

The Cure - Faith

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Released Year:1981

Record Label:Fiction Records

 

Track Listing

  1.The Holy Hour

  2.Primary

  3.Other Voices

  4.All Cats Are Grey

  5.The Funeral Party

  6.Doubt

  7.The Drowning Man

  8.Faith

 

 イギリスのポストパンクバンドの3rdアルバム。"Seventeen Seconds"の延長線上というべき作風で、相変わらずミニマルでモノクロームなポストパンクを奏でております。「信仰」というタイトルの通り、ロバート・スミスの宗教観が歌詞に強く現れているそうですが、そこはコアなファンの皆様が既に考察されているので、今回は音の方を中心に書いていきます(というかそれしか書けないので...)。

 

 一時的に在籍していたキーボード担当が方向性の違いにより脱退し、バンドは再びトリオ編成に戻りました。そのせいか、前作に見られたキーボード中心のインスト曲は姿を消しています。しかし、#4,5等、スローテンポな曲におけるシンセサイザーの厚みはむしろ増しており、より幻想的な雰囲気が強くなりました。アートワーク*1の通り、霧深い森の中をふらふらと彷徨っているかのようなイメージが想起されます。これは、前作で森に迷ってしまった主人公が、さらに深い森の奥へと足を進めてしまったということなのでしょうか*2。ドラムやヴォーカルにも深めのエコーがかけられていて、あたかも幽霊が遠くから呼びかけてきているかのようです。

 

 そうした落ち着いた雰囲気の曲が中心となっている一方で、#2,6といったアップテンポでパンク調の曲はより躍動的に、ヒリヒリとするような焦燥感を見せており、メリハリがはっきりしてきた印象。ややもすれば単調になりそうなアルバムをうまく引き締めています。特にシングルカットされた#2は、ロバスミもベースを持ってツインベースとなっており、いつもよりドライブ感強めです。

 

 全体的に陰鬱で冷たい空気を漂わせた音は、同時期に出たJoy Divisionの"Closer"と比較されることも多いそう。しかし、あちらが見せていた圧倒的な絶望感とは少し異なり、どちらかといえば"漠然とした不安感"が主といったところでしょうか。絶望や死といった明確なものではなく、もっと捉えどころのないぼんやりとした物に苛まれている印象。とはいえ暗いことには変わりなく、特にアルバム終盤では、答えの無い悩みをぐるぐるこねくりまわしているような、どうしようもない閉塞感のようなものも感じ取ることができます。初期の路線の中では最高傑作との呼び声も高い本作ですが、この世界観は濃密で完成度が高い反面、ややとっつき辛い側面もあるかもしれません。

 

 ロバスミが内面世界で1人苦悩し続けるうちに、どんどん霧が濃くなって出口が見つからなくなってしまったかのようなアルバム。次作ではその強迫観念が一気に反転し、どす黒く恐ろしい作品が生み出されることとなるのですが、その話はまた次の機会に。

 

 Pick Up!:#4「All Cats Are Grey」

 ヴェールのようにうっすらと被せられたシンセが幽玄な雰囲気を醸し出す、シンプルながら非常に美しい1曲です。この曲ではロバスミはキーボードとピアノに徹して、ギターは一切使っていないそう。長いキュアーの歴史の中で、完全にギターレスの曲というのは意外と珍しいのではないでしょうか(インストを除く)。

*1:これは後にギタリストとして加入するPorl Thompsonが手がけているそう。

*2:"A Forest"の歌詞参照。

Klute - Excluded

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Released Year:1992

Record Label: Zoth Ommog

 

Track Listing

  1.No Man’s Land

  2.I Wanna Fuck Now!

  3.Me, Myself And No One Else

  4.Cutthroat

  5.Run!

  6.Shotgun Blues.

  7.Guilty

  8.Incest

  9.I’ll Never Be Your Slave

10.Tequila Slammer

11.Desert Storm*日本盤ボーナストラック

12.No Remorse*日本盤ボーナストラック

 

 デンマークのエレクトロ・インダストリアルユニット、Leaether Stripのサイドプロジェクトの1stアルバム。中の人はレザストと同じくClaus Larsen唯一人で、ゲスト参加などはありません。ちなみに、90年代までは"Klute"名義で活動してましたが、後に同名のトランス系ユニットが出現したため(クラウス曰く「名前を盗まれた」)、2006年の活動再開以降は"Klutæ"という表記になっています。

 

 サイドプロジェクトということで、あくまで100%エレクトロニックだったレザストとは大きく異なり、メタルギターをガシガシ効かせたインダストリアルメタルを展開しています。当時アメリカを中心に勃興しつつあったインメタブームに影響されたんでしょうか。奇跡的にアルファから国内盤が出ていたおかげで、日本では下手すると本家よりも知名度が高いかもしれません。実際、私もクルート経由でレザストを知りましたし。​

 

 国内盤の帯の売り文句は"「制 御 不 能 !!」。本作品の内容をよく表した、いいコピーだと思います。解説はいつもの小野島先生ですが、あまりに破壊的な音に感化されたのか、ちょっと文章も壊れ気味(汗)。とはいえ、ふざけてるように見せてきちんと触れるべきところには触れているのはさすがですが。「おれは生き残る、必ず。」

 

 当時、日本の関係者の間では「ドイツのミニストリー」の2つ名で通っていたらしく(おそらくドイツのレーベルに所属という所から)、帯にもそう書かれていますが、ライナー本文中でデンマーク出身であることがきちんと指摘されてるんですから、その辺しっかりしてもらいたいものです。おかげで今でもドイツ出身と誤解されてる節があるような...まぁどっちだっていいんですけど。

 内容は帯の通り、まさにぶっ壊れた機械が暴走しているような、マシーナリーな音の塊。よくミニストリーやNINを評して「無機質、人間味の無い」という表現が用いられますが、これを聴いた後だとミニストリーですらだいぶ血の通った音に聞こえてきます。全部の音にディストーションをかけたんじゃないかというほど派手なエフェクト処理が施されており、ノイズの壁と化したメタルギターに割れまくりのスネアドラム、そして聞き取り困難なザワザワヴォーカルがゴチャゴチャに混ざり合い、潰れた状態で飛んでくるという拷問のようなシロモノ。さらにリズム面も、他のロック的なグループに比べると独特で、ジェットコースターのように目まぐるしく変動。意図的に反復を避けているかのような構成は、ちょっとプログレじみている印象すらあります。この辺りの変幻自在さはやはり打ち込みの特権ですね。

 

 ただ、シリアス一辺倒というわけでもなく、#6や#10*1ではコミカルな一面も覗かせるなどなかなか多彩で、いい意味で一筋縄ではいかない構成になっています。クラウス本人曰く、「クルートでの音楽性はレザー・ストリップよりもユーモアを含んでいる」そうですが...うーんこれをユーモアと言っていいものなのか()

 

 ドイツと日本では上のジャケで発売されましたが、Cleopatraから発売されたUS盤ではジャケが変更されたほか、収録曲・曲順が大幅に入れ替えられています。スローテンポ寄りの曲をごっそり排除し、デビューシングル"Explicit"から3曲と、コンピ"Technopolis 4"に提供した"Nosecandy (Feed 'em Mix)"(レザストの曲をメタル風にアレンジ・再録したもの)を追加。結果として、オリジナル盤よりも疾走パートの時間が増え、アルバムとしても風通しが良くなりました。なお、ここで外された曲とその他コンピ提供曲は、同じくCleopatraから出た"Excepted"というEPにまとめられています。したがって、Cleopatra盤のアイテム2つを買えば、デビューから"Excluded"までの全ての音源を揃えることが可能です。

Pick Up!:#2「I Wanna Fuck Now!」

 単調なハンマービートとナタのように振り下ろされるギターノイズが無慈悲な雰囲気を盛り上げますが、なんといってもコーラスで登場するシンセのメロディが素晴らしい。ポップでも哀愁でもないんですが、何とも言えない背徳的な高揚感を煽る旋律にゾクゾクします。インダストリアルメタルでありながら、ギターリフではなくシンセサイザーを主役に持ってくるような構成は、さすがEBM畑出身という感じがしますね。

*1:後者はカバー曲らしいのですがクレジット等は一切見当たらず、元曲が何なのか発見できませんでした...。ご存知の方いたら教えて下さい。

V.A. - Zoth In Your Mind

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Released Year:1993

Record Label:Zoth Ommog

 

Track Listing (Artist - Track title)

  1.Mentallo & The Fixer - Sacrilege (Angel Of Death Mix)

  2.Leæther Strip - Adrenalin Rush (Vegger Version)

  3.Yeht Mae - Take Him Out Back

  4.X Marks The Pedwalk - Interruption

  5.Bigod 20 Retortion - (Green - Eye - Instrumental - Mix)

  6.Orange Sector - Kalt Wie Stahl (W.W.B.)

  7.Headcrash - Free Your Mind (Structure Mix)

  8.Amageddon Dildos - Homicidal Maniac (Crash Head Mix)

  9.Psychopomps - Daddy's Girl (Incestious)

10.Klute - They're Right - I'm Wrong

11.Ringtailed Snorter - Until Now!

12.Lights Of Euphoria - Deal In Sex (Protection Mix)

 

 80年代後半に大きな盛り上がりを見せたEBMムーブメントは、90年代に入ると急速に失速し、アメリカではインダストリアルメタル、ヨーロッパではサイケデリックトランスへと発展的解消を遂げていきました。しかしそんな時代にあっても、いくつかのレーベルは頑なにEBMの音源をリリースし、誰も得しない需要を満たしていたようです。今回取り上げるドイツのレーベル、Zoth Ommogもその1つ。

 

 このレーベルは80年代中頃からドイツのテクノシーンで活躍していたTalla 2XLCという人が立ち上げたもので、90年代を通してヨーロッパのインダストリアル/EBMシーンを支えていました。そしてこのアルバムは、そのZoth Ommog所属アーティストの音源をまとめたレーベルコンピ。カタログナンバーとして「ZOT CD 100」が与えられた記念碑的な作品となっています。

 

 内容としては一応EBM/ニュービートなのですが、一般的に(?)知られているEBMとはかなり毛色が違います。ここで展開されているのは、同時期に勃興していたトランスを取り入れたボディ。そもそもトランス自体、EBM/ニュービートから誕生したという経緯があるので*1少々おかしな表現かもしれませんが、アメリカよりもテクノ・トランスのシーンが活発だったヨーロッパにおいて、同時並行的に影響を与え合っていたのでしょう。

 

 ディストーションかけすぎで何言ってるか分からないヴォーカルが強烈な#1(イントロのシンセがハリーポッターみたい)や、かの"Last Rights"を思わせる歪みきった導入部分でニヤリとさせられる#4のようにSkinny Puppyの影響を覗かせる者もいれば、#7,8のようにインダストリアル・ヒップホップを披露する者もいたりとなかなか多彩ですが、どのグループもシンセは分厚く、ビートの圧力は控えめにすることでトランスに接近している印象。特に、先述のTalla 2XLCによるユニットの#5などは、ほぼトランス化が完了しているように思います。当時自分たちのアルバムではバリバリのインダストリアル・メタルを完成させていたPsychopompsでさえ、#9ではギターを抑え目に、よりフロア向けのアレンジを施していますし(これはこれでかっこいい)。結果的に、アプローチは様々ながらも全体的に統一感のある仕上がりとなっています。

 

 FLAやKMFDMの奏でるボディとはまた違うベクトルのEBM/ニュービートを楽しめる1枚。収録曲も全て未発表曲でお得です*2。過激で破壊力のある音を期待する人にはお勧めしませんが、普段からテクノやトランスを聴いていてボディに関心を持った方は、こういった音の方が親しみ易いかもしれません。

 

Pick Up!:#10「Klute - They're Right - I'm Wrong」

 全体的にトランス寄りと書きましたがこの曲だけは別。心臓弱い人が聴いたら失神しそうな、超速ハイテンションハイパーブラストインダストリアルメタル()を鳴らしています。まったく空気を読む気がありません。ギチギチに詰め込まれたブラストビートはスラッシュメタルというよりもはやグラインドコアの域で、初聴時は思わず笑ってしまいました。これだけ無茶苦茶やってるのに、きちんとポップで聴きやすいのがまた素晴らしい。

*1:過去エントリ参照。

*2:後に別のコンピで聴けるようになった曲もありますが...。少なくともこのアルバムが出たときは初出の音源でした。

Numb - Christmeister / Bliss

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 カナダのエレクトロ・インダストリアルユニットの2ndに、アルバム発表後に出したシングル「Bliss」の4曲(#3のリミックス3曲+未発表曲1曲、#10~14)を追加して再発したもの。オリジナルは Lively Artというフランスのマイナーレーベルからの発売でしたが、リイシューによってKK Records(EU盤)/Metropolis(US盤)に版権が移りました。ジャケも変更されています(下がオリジナル盤のもの)。

 

 このアルバムでは、前作でヴォーカルを担当していたSean Stubbsが抜け、代わりにBlair Dobsonが加入しています。この人のヴォーカルは暑苦しくかつ粘着質にネチネチ絡みつくというなかなか特徴的なもので、最初は1本調子過ぎるかな~と思ってたんですが、気がついたら病み付きになってました。特に#5での引きずるようなシャウトの伸び方とか凄いです。さらに4文字ワードも連発。海外のレビューで彼が"Madman"と称されていたのも頷けますね。

 そんなヴォーカルに引っ張られたのか、バックトラックも一気にアグレッシブに。動的な曲と静的な曲の比率が前作と逆転した感じで、#1, 6ではハードコアパンクスラッシュメタル的な要素も導入しています。こういった点は同時期に出た*1Skinny Puppyの「Rabies」を思わせますが、あちらは全体的にゴシックで湿った雰囲気だったのに対し、こちらはより乾いて殺伐とした印象。ドラムの音も抜けがよくて聴いてて気持ちいいです。一方で、#4,8,9のようなノイズ中心のインストも健在。不健全で病的な空気を保っています。強いて言えば、4つ打ちのダンスビートというよりは横ノリでじわじわ攻める曲が多いのが好みの別れるところかもしれません。

 ​

 追加収録のリミックス3曲は、大胆なアレンジ変更こそないものの、どれもオリジナルから更にキックが分厚く攻撃的になっていて素晴らしいです。BPMも気持ち早めになって性急さが増した印象。B面曲の#13はかなりギターノイズが前面に出ていて、後の「Wasted Sky」の路線を予感させるものがあります。シングル盤はOceana Recordsとこれまたマイナーレーベルからの発売*2で入手困難なため、こういった形で聴けるのはありがたい限りです。

 

 時代柄か、彼らのキャリアの中では本作が最も典型的なEBMらしい音(あくまで他の作品と比較して、ですが)に近いと思います。またそんなEBMにギターノイズを違和感なく溶け込ませる手法の巧みさは、同時期のSkinny PuppyやFLAより1歩先を行っているといえるかも。陰湿で粘着質な音を好む性格悪い方()はぜひ。

 

Released Year:1996

Record Label: KK Records, Metropolis

 

Track Listing

  1. Dead Inside
  2. Cash
  3. Bliss
  4. Balance Of Terror
  5. Eugene
  6. Frantic
  7. What
  8. Christmeister
  9. Flesh
10. Bliss (Endurance)
11. Bliss (In Absentia)
12. Bliss (Fundamentalist)
13. Stiff

 

Pick Up!:#10「Bliss (Endurance)」

 原曲の地を這うようなシンベと、曲の上を縦横無尽に往ったり来たりするノイズはそのままに、キックをより重く・分厚くしたバージョン。個人的にリミックス3パターンの中ではこれが一番好きです。3:54~から挿入されるクワイアも地味に怖くてgood。

*1:オリジナル盤は1989年発売。

*2:オリジナル盤の「Christmeister」のUS盤もここからのリリースでした。

Swamp Terrorists - Combat Shock

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Released Year:1993

Record Label: Re-constriction Records, Sub/Mission Records, Simbiose Records

 

Track Listing

  1.Pale Torment

  2.Cynic Forage

  3.Right Here

  4.Spawn

  5.Comeback

  6.P.T.S.D.

  7.Liberator

  8.Pant To Injure

  9.Revelation

10.Jerks Ever Win

11.Right Now

12.Comeback (Edit)

13.P.T.S.D. (Back In Solitude)

14.Pale Torment (Hard 12" Mix)

15.Cynic Forage (Unnamed Remix)

16.Hit' Em (Justness Mix)

 

 スイスのインダストリアルユニットの3rdアルバム。この作品で本格的に世界進出を果たしたようで、アルファレコードから日本盤も出ていました。良い時代だ...

 

 彼らの音楽性は一言で言ってしまえば"インダストリアルメタル"なのですが、その内実は同時期のMinistryやKMFDMとはかなり異なります。ボディビートではなくアシッドハウスハードコアテクノ的なビートにザクザクしたスラッシュギターを組み合わせ、その上にPIGのRaymond Wattsを思わせるダミ声が乗っかるといういびつさは、まさにクロスオーバーの極み。でもそういった個々の要素が剥離することもなく、しっかりと噛み合っているのが凄いです。

 

 それとヒップホップの色も強く、歌い方もラップとまではいかないまでもかなりそっち寄り。けれどもそれほど"黒さ"を感じないという点では、「白いPublic Enemy」と称された(らしい)Meat Beat Manifestoとの類似を見いだせる気もします。こうした音楽性を彼らは"ストリート・テック・ビート"と自称していました。

 

 個人的に、もう一つMeat Beat Manifestoと共通していると感じる部分があります。それは音の解体・再構築の仕方。初期のMBMは、4曲のシングルをズタズタに分解して再編集し16曲入りのフルアルバムを作ってしまうほど、フリーダムな継ぎ接ぎをやっていました。いわばフレーズやメロディの違いではなく、カットアップした断片の組み合わせの違いで曲の個性を決めているような状態。そしてこのSwamp Terroristsも、同じようなスタンスで曲を作っているように思えます。後半にリミックスを大量に収録しているのもその表れでしょうか。

 

 特に#1とそのリミックス版#14を聴き比べると、ギターリフやリズムパターンがどのようなパーツから構成されているのか分かって興味深いです。他のインダストリアル系グループは、デジタルな技術を使いつつ如何にバンドらしく整合性を持たせるかを意識してる気がしますが、彼らはそういったことをまるで考えてないように思えます。聴いてて音の継ぎ目が分かるんですよね。ライブで再現しようとすると大変そうですけど...。

 

 次にどんな音が飛び出してくるかわからないスリリングさは、カットアップ中心のアプローチならでは。メタラー受けはしないかもしれませんが、MBMやMark Stewart、NINの"Fixed"みたいな、激しく解体された音が好きな方はぜひ。あと、ガバやハードコアテクノが好きな人にインダストリアルメタルを紹介する時は、Ministryよりこっちを勧めるべきでしょう...そんな機会があるのかという突っ込みは無しで。

 

Pick Up!:#8「Pant To Injure」

 変則的で予測不能な展開が多い中で、これは直線的なビートと小気味よい歌い回しが癖になるシンプルな高速トラック。とにかく勢いがあって気持ちいいです。押せ押せー!