Hilt - Journey To The Center Of The Bowl

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Released Year:1991

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Birdwatcher

  2.950

  3.Superhoney

  4.Way Out There

  5.222

  6.El Diablo

  7.Loudmouth Canyon

  8.Home

  9.314

10.Sandy Feet

11.Never Gonna Fall Again

12.Walkin On Thunder

13.Crazy For You

14.Real Cool Rain

15.World's Goin Down

16.The Ride

 

 Skinny Puppyのサイドプロジェクトの2ndアルバム。彼らのサイドプロジェクトはNivek OgreサイドとcEvin Key & Dwayne Goettelサイドに大別できますが、このグループは後者のパターン。cEvinとDwayneの2人に、Alan Nelsonという人をヴォーカルに加えたトリオ編成です。

 

 これはパピーのサイドプロジェクト全般に言えることですが、彼らの作品からEBM・インダストリアル的な音が聴けることは少なく、そういう音を求める人にこれらの作品はあまりお勧めできません。この辺り、サイドプロジェクトといいながら本家の延長線上にある音を鳴らしていたAl Jourgensenとは対照的です。どちらも半分遊び感覚というか、肩の力を抜いて取り組んでいる点では共通しているんですが。

 

 本作はというと、一言でいえば"サイケデリック・パンク"といったところでしょうか。もちろんドラムの多くは打ち込みですし、独特の歪んだエフェクトなどcEvinとDwayneの仕事だなと思わせる部分はあるのですが、それ以上にサイケなギターとヘロヘロのヴォーカルの印象が強く、いつものパピーからはかけ離れた内容になっています。またオルガンや生のパーカッションも大きくフィーチャーされ、とにかくカラフルで賑やかな印象。いきなり"Rabies"を髣髴とさせるブラストビートが炸裂したかと思えば、急にアコギ中心で爽やかに歌いだしたりと、方向性もバラバラです。意味不明なジャケット通り、とにかく何でもありのラリパッパ状態()

 

 元々このグループは上記の3人が組んでいたパンクバンドが母体となっていることもあり、比較的ロック寄りの音が特徴でしたが、ここまでドラッギーで弛緩した音に変わってしまうとは。この内容については某掲示板で「あれはテキサスサイケだから」と書かれていて、テキサスサイケって何ぞやと調べたら、The 13th Floor Elevatorsとかを指す言葉みたいですね。確かに60年代サイケを髣髴とさせる部分もあるけど、それだけじゃないような...と思っていたら、テキサスサイケでもう1つ、Butthole Surfersがヒットして、あぁなるほどと思わず膝を打ってしまいました。

 

 Butthole Surfersに関しては私も数枚しかアルバムを聴いてないので詳しくは言及できませんが、メタルのようにへヴィなリフ中心の曲がある一方で、レイドバックしたメロディを聞かせる曲もあったりと、とにかく多彩なルーツをドラッグと悪意でコーティングしたような音を鳴らすロックバンド...というイメージがあります。この何でもありのカオスな空気、言われてみると確かにこのアルバムに通じるものがあるような。さすがにGibby Haynesのような圧倒的狂気や悪意は無くて、もっと穏やかな感じですけど。

 

 「テキサスサイケにパンクやメタルを取り込み、90年代オルタナとして復活させた」*1といわれるButthole Surfersの音を、Skinny Puppyのエレクトロニクスを以って再現してしまった異色作。好みは別れそうですが、私は結構好きです。全体的にメロディアスな上、要所にきちんとフックを用意してあるので聞きやすいですし。また、曲間がほとんど繋がってることもあって、一度再生するとずるずる最後まで聞いてしまうというか、こっちの頭までいい感じにネジが緩んできます。インダストリアルよりも、Butthole SurfersやPixiesなどのオルタナ/ロック系が好きな方にお勧め。

 

 Pick Up!:#12「Never Gonna Fall Again」

 このアルバムの中でも特に弛緩しきった、リラックスしたムードの1曲。優しげなアコギと素朴な歌メロが何とも美しい。しかしこのまともに音程の取れていないヘロヘロヴォーカル、ほとんどThe Pastelsの域です。80~90年代のUKロックが好きな人はこういうの気に入るんじゃないでしょうか。晴れた日の午後、昼寝のBGMにすると最高です。

Revolting Cocks - Big Sexy Land

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Released Year:1986

Record Label:Wax Trax!

 

Track Listing

  1.38

  2.We Shall Cleanse The World

  3.Attack Ships On Fire

  4.Big Sexy Land

  5.Union Carbide (West Virginia Version)

  6.T.V. Mind

  7.No Devotion

  8.Union Carbide (Bhopal Version)

  9.You Often Forget (Malignant)

10.Attack Ships... (12" Version)

11.On Fire (12" Version)

12.No Devotion (12" Version)

 

 Ministryのサイドプロジェクトの代表格であり、「裏Ministry」とも呼ばれるRevolting Cocks。インダス界隈ではRevCo(リヴコ)と呼ばれることも多いですね。この手のサイドプロジェクトはシングル1枚だけ出して終わり!というようなワンオフのものが多かったですが、このグループはわりと恒常的に活動を続けており、Revolting Cocksとしてツアーも行っていました。因みにこのふざけたグループ名は、アルさんが地元シカゴのバーで飲んだくれたあげく、バーテンに店から叩き出された際に毒づかれた言葉に着想を得たものらしいです。

 

 今回取り上げるのは1stアルバム。#9~12はCD化に際し追加されたボートラで、#10~12がデビューシングル"No Devotion"から、#9がアルバム発売後に出たシングル"You Often Forget"からの収録。現在ではRykodiscからリマスター版も再発されており、そちらはジャケと曲順が少し変わった他、後のシングル"Stainless Steel Providers"に収録されていた"T.V. Mind"のリミックスバージョンが追加されています。

 

 メンバー構成は時期によって入れ替わりが激しいですが、この頃はRichard 23、Luc Van Acker、Al Jourgensenの3人組でした。この当時はRichard 23とLuc Van Ackerの2人をAl Jourgensenがプロデュースする、という形態を取っていたようで、アルさんの息抜き&おふざけの場と化す後年とは少し異なる性質のプロジェクトだった模様。実際、クレジットを確認すると、キーボードやベースにプログラミング、そしてヴォーカルも全てRichard 23とLuc Van Ackerが担当しており、意外にもアルさんは一切演奏していません。本作はかの"Twitch"とほぼ同時並行で製作が進められていた*1ようですが、アルさんがAdrian Sherwoodに師事しながら製作を進めていた"Twitch"とは逆に、自らがプロデュースの舵を握ってレコードを作っていたというのは興味深くもありますね。

 

 音の方はTwitchで見せたガチガチのボディとはやや趣が異なり、Luc Van Ackerによるブリブリしたベースを強調したファンキーな音。金属音やノイズといった要素は控えめで、代わりに人を食ったようなエフェクトヴォーカルが大きくフィーチャーされており、ベースの音とあいまって粗野かつ下品な印象を高めています。バンド名やタイトルからも明らかな通り、昨今の世相では眉をひそめられそうな男根主義的なイメージは、ある種70年代~80年代のアメリカンハードロックのパロディのようにも感じられます。DAFが「ホモセクシャルな猥雑性」を触媒として肉感的なエレクトロミュージック(すなわちボディ)を構築していったように、このグループは「ハードロック的な猥雑性」を触媒としていたのかもしれません。

 

 しかしエロエロ・アホアホ路線一辺倒かというとそうでもなくて、各所にシリアスなメッセージ性が仕込まれているのも本作のみで見られる特徴。#5,8はインストではありますが、曲タイトルは米国の化学企業ユニオンカーバイド社から取られており、"West Virginia"は1930年代に起きた「ホークス・ネストトンネル災害」を、"Bhopal"は1984年に起きた「ボパール化学工場事故」をそれぞれ示唆したものとなっています。どちらも企業側の非人道的な対応が問題となった労働災害・事故であり、Ministryで取り上げてもよさそうな重いテーマです。また、#1は「ヘイゼルの悲劇」と呼ばれるサッカースタジアムで発生した観客の事故を取り上げたもの。さらに#7は、タイトル通り宗教(とそれにまつわるいざこざ)に対する批判になっているように思えます。こうして見ると、意外と当時の時事ネタを取り入れつつ真っ当なことを言っているんですね。グループ名のせいで台無しですが...(苦笑)

 

 ポストパンク由来のファンクネスとハードロック的な猥雑性を取り込み、従来のシンセポップ等には無かった肉体性を獲得した作品。"Twitch"がEBMに留まらずインダストリアルというジャンル全体に影響を与えたとすれば、こちらは"Wax Trax!系"とでもいうべきアメリカンなEBMのカラーを定義付けたという点で重要だと思っています。My Life With The Thrill Kill Kultを始め、この後続々と出現するWax Trax!のグループの多くは明らかに本作を参考にしてる印象がありますし。猪突猛進する「でじたるふぁんき~」*2なボディは必聴です。

 

 Pick Up!:#10-11「Attack Ships...On Fire (12" Version)」

 シングル"No Devotion"のB面曲。トラック分割こそされていますが、実質的に1つの曲なのでまとめて取り上げています。この曲もご他聞に漏れず、アルバム収録版よりも12" Versionの方が私としては好みです。Luc Van Ackerのシャウトもなかなか気色悪くて良いんですが、やはりこの曲の主役はベース。うねるようなベースラインを追っかけているだけでも楽しめます。ちなみに曲タイトルは映画「ブレードランナー」劇中のモノローグから採られています*3。曲の内容と関連があるようには思えませんが...。

*1:実はシングル"No Devotion"は85年の発売なので、デビューではこちらの方がTwitchよりも早かったりします。

*2:かの有名なEBM系サイト「<BODY> to </BODY>」からの引用。この表現、彼らの頭悪そうなカラーがよく表されていて好きです。

*3:英語版wiki(https://en.wikipedia.org/wiki/Tears_in_rain_monologue)にもこの台詞のためのページがあるほど。

Front Line Assembly - Tactical Neural Implant

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Released Year:1992

Record Label:Third Mind

 

Track Listing

  1.Final Impact

  2.The Blade

  3.Mindphaser

  4.Remorse

  5.Bio-Mechanic

  6.Outcast

  7.Gun

  8.Lifeline

  9.Toxic*日本盤ボーナストラック

10.Mutilate*日本盤ボーナストラック

11.Mindphaser (12" Version)*日本盤ボーナストラック

 

 カナダのエレクトロ・インダストリアルユニットの大体6枚目ぐらい*1のアルバム。この作品で初めて日本盤が発売されました。上記の通りボートラが追加されていますが、これは先行シングル"Mindphaser"の12"リミックスおよびB面曲です。

 

 EBM界を代表する大傑作"Caustic Grip"と、大胆にメタル化を図った"Millennium"に挟まれているせいか、彼らのキャリアの中でも影が薄い印象がある本作。ガチガチの鉄筋ボディだったこれまでの路線を捨て、当時ヨーロッパで大流行していたハードコアテクノ・トランスに接近した音作りへと変貌しています。しかしその結果、表面的な迫力やスピード感は減退。控えめなキックがメインの淡々としたアルバム進行は、特に前作のテンションを期待する人からは「ぬるい」「地味」などと評判が悪いです。この立ち位置、なんとなくSkinny Puppyの"Cleanse Fold And Manipulate"と似ているような...。

 

 しかし個人的にはこのアルバム、そこまで嫌いじゃないです。自分が最初に聞いたFLAの作品がコレというのもあるかもしれませんが、普通のテクノに比べて明らかに肉感的なキックにはボディを感じますし、彼ら特有の綿密なサンプリングも冴えわたっています。前作が「点」で勝負していたとすれば、本作は「面」で勝負、といったところでしょうか。1つ1つの音は線が細いながらも、トータルでは高密度で重厚な仕上がりで、これが彼らの持ち味であるディストピア/サイバーパンクな世界観の構築に一役買っている印象を受けます。

 

 何より、今までのどの作品よりもダークなメロディを前面に打ち出していて、フックが掴み易いのが素晴らしいです。特にシングルカットされた#2,3ではその傾向が顕著で、#2の幻想的なボコーダーの使い方にはどことなくパピーの名曲"Worlock"に通じるものを感じます。また、#3は日本のマイナー特撮映画「ガンヘッド」の映像が使われており、曲の持つ世界観といい感じにマッチした仕上がりとなっています*2。これらのシングルはクラブシーンでそこそこヒットしたようで、アルバムもトータルで7万枚の売り上げを記録しました。こうした成功もあってか、海外のファンの間では"Caustic Grip"よりも本作が代表作/最高傑作として捉えられているようです*3。もはやオフィシャルサイトと化しているファンサイトの名前も「mindphaser.com」ですし。

 

 90年代前半のEBM→インダストリアルメタルという流行の推移からみると、90年の”Caustic Grip”でEBM路線を極め、92年の本作を挟んで94年にメタル化というFLAのキャリアは、シーンの流れに1歩後れをとっているようにも見えます。しかし、クラブシーンが大きな幅を利かせていたヨーロッパに目を向けると、また違った見方ができます。90年代初頭、彼の地では80年代のEBMにとって代わり、テクノやトランスと融合した「90年代型EBM」とでも呼ぶべきサウンドが続々と生まれていました。当ブログでも何回か取り上げているZoth OmmogやCleopatraといったレーベルに属するグループもその一派。そして、今回取り上げているFLAのアルバムは、こうした欧州の音を志向したものではないかと自分は思っています。

 

 ジャーマンニューウェーブやポストパンクだけではなく、同時進行的に発展したテクノを吸収したより新しいボディ。ここでこの路線を完成させたからこそ、次の一手としてメタルも取り入れつつ、第2の傑作”Hard Wired”を生み出すことができたのではないでしょうか。あのアルバムで提示されたサイバーなインダストリアルは、明らかに本作を経過したものですし。逆に、ここで”Caustic Grip”の路線から脱却していなければ、DAFの影響下で自らが完成させたボディから抜け出せずに失速していったNitzer Ebbのように、袋小路にはまっていた可能性も...。そういった意味で、もっと評価されていいアルバムだと思います。

 

 ヨーロッパのシーンと同調し、90年代型EBMのスタイルを確立した1枚。また、単にシーンに迎合するだけではなく、その後のFLA自身、そして後続のダークエレクトロやフューチャーポップの参照元になったアルバムとも言えそうです。再評価希望!

 

 Pick Up!:#1「Final Impact」

 近未来の工場を連想させるSEで幕を開けるオープニングトラック。今までは(意地悪な言い方をすれば)ただ叫んでいるだけという印象があったヴォーカルも、ここでは低音でドスを効かせつつ、サビでは加工ヴォーカルを重ねてメロディを聞かせるなど、より表現が多彩になっています。何より、曲を通じて鳴らされるベコベコしたシーケンスの音が狂おしいほど好き。

*1:初期の彼らはレーベルを変えながらデモ音源やEPを乱発していたので、どこからカウントするのか線引きが難しいです...。

*2:(英語版wikiの記述によると)Bill Leeb曰く、先に映画の映像を見て、それから曲や詞の構想を固めていったそうです。そりゃマッチングが良くて当然か。

*3:例えばここ→https://addins.kwwl.com/blogs/criticalmass/2010/06/album-review-front-line-assembly-improvised-electronic-deviceのレビューでは、"Often times Caustic Grip or Tactical Neural Implant are called the best FLA albums..."と、「世間一般的な評価」という文脈で言及されています。

Gary Clail's Tackhead Sound System - Tackhead Tape Time

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Released Year:1987

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Mind At The End Of The Tether

  2.Half Cut Again

  3.Reality

  4.M.O.V.E.

  5.Hard Left

  6.Get This

  7.Man In A Suitcase

  8.What's My Mission Now? (Fight The Devil)

 

 ニューヨーク出身のインダストリアル・ヒップホップバンドによるアルバム。このグループは Doug Wimbish(ベース)、Keith Leblanc(ドラム)、Skip McDonald(ギター)、Adrian Sherwood(プロデューサー)というメンバー構成で、Mark Stewartのバックバンド"Mafia"としてこの4人が集結したのが活動の発端になったようです。

 

 この作品、正確にはGary Clailという人がTackheadやKeith Leblancの発表した音源をカットアップし、自らのMCを乗せ発表したもの。そのため名義としては"Gary Clail's Tackhead Sound System"となっています。まぁ実質的にはTackheadなので、ここでは1stアルバムという扱いで。

 

 一応ジャンルとしてはレゲエ/ダブといったものに属するのでしょうが、ここで鳴らされているのはほとんどEBMです。それもMinistryの"Twitch"辺りを髣髴とさせるボディ。...と思っていたら、Tackheadの一部の音源はTwitch製作時の没マテリアルが元になっているようです。このアルバムでいうと#1と#8がそれに該当する模様。また、#4(これは元々Keith Leblancの曲)ではキーボードを弾いているようですね*1。自分で書いててゴチャゴチャしてきたので時系列順にまとめると、

 

・Twitchのレコーディング。(アルさんの我儘により大量の没トラックが発生)

Adrian Sherwood、没トラックを利用して各種音源を製作・発表。(Tackheadのシングル"What's My Mission Now?"、"Mind At The End Of The Tether"、Keith Leblancのソロアルバム"Major Malfunction" etc.)

・Gary Clail、On-Uの各種音源をベースにアルバムを製作。(Tackhead Tape Time)

といったところ。

 

 Gary Clailの手が加わっているとはいえ、製作陣の手で激しく解体されていたMark Stewartのソロ作品と比較すると、こちらはややバンド感があるように思えます。とはいえ卓越した編集技術はここでも如何なく発揮されており、太いボディビートの上をサンプリングボイスやノイズ、そしてザラザラしたギターが駆け巡る様はなかなかクールです。特にサンプリングボイスをシーケンスのように反復させる手法は、Ministryにも受け継がれているな~と感じたり。

 

 Twitch製作時のAl Jourgensenは、ここで聴けるレゲエ/ダブ的な要素よりも、もっとノイズ的な表現を目指していたようで*2、そういう意味ではMinistryが意識的に削ぎ落としてきたエッセンスがここに詰まっていると言えるでしょう。「有り得たかもしれないもう1つのTwitch」という見方もできそうです。そういうわけで、やはり普通の(?)EBMに比べるとレゲエ由来の独特な癖があり、その辺好みが分かれそう。また音質も、昨今のシャープな音像とは程遠いモッサリとした音です*3。このアナログな感じがまた良いという人もいれば、受け付けない人もいるかもしれません。実際、ソフトバレエのフジマキ氏はAdrian SherwoodやKeith Leblancの作るサウンドが(音質的な面で)嫌いだったらしいです。

 

 自分はレゲエ方面の音楽に明るくないのでそういった見地からレビューを書くことはできないんですが、インダストリアル/ボディ好きとしては非常に興味深い作品です。ダブというジャンルがEBMに大きく影響を与えていることがよく判るので、EBMから遡ってOn-U一派の音に触れる際には最適な1枚ではないでしょうか。Adrian Sherwoodってよく見かけるけど、自分ではどんな音楽やってたの?という人にお勧めです。

 

Pick Up!:#8「What's My Mission Now? (Fight The Devil)」

 イントロから耳障りなノイズと跳ねまわるボディビートが超かっこいい。この曲は特にKMFDMへの影響が顕著で、ドラムループをそのままサンプリングして使っている曲があるほか、"Liebesleid"で無断サンプリングして発禁になったCarl Orffの"O Fortuna"が使われています。発表はTackheadが先なので、KMFDM側がこれを参考にしたのではないかと。Tackheadは特に訴訟沙汰にはなっていないようですが、ちゃんと許諾を取っていたのか、単に知名度が違ったのか...真相は不明です。

*1:前回のエントリも参照のこと。

*2:こちらhttps://klintron.com/2013/every-day-is-halloween/の記事より。あのアルバム後半のメドレー曲を思い出していただければ、その意図がわかると思います。

*3:まだデジタル機材など無かった時代、On-Uでは本当にテープを物理的に切り刻んで編集作業をおこなっていたらしいので、仕方ない部分もあるのですが...。

Ministry - Twitch

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Released Year:1986

Record Label:Sire

 

Track Listing

  1.Just Like You

  2.We Believe

  3.All Day Remix

  4.The Angel

  5.Over The Shoulder

  6.My Possession

  7.Where You At Now? / Crash And Burn / Twitch (Version II)

  8.Over The Shoulder (12" Version)

  9.Isle Of Man (Version II)

 

 この作品の内容については、今更私がどうこう述べるものではないと思うので、今回は製作背景なんかを中心に書いていきたいと思います。

 

 屈辱の1stアルバム(笑)とそれに伴うツアーでほとほと嫌気が差したAl Jourgensenは、メジャーレーベルであるArista Recordsとの契約を切ってWax Trax!へと戻りました。その後1984年後半にかけて、MinistryとしてFront 242をサポートに据えた*1ツアーをおこないつつ、本作の原型となるマテリアルを制作していったようです。そしてそのギグがSire Recordsの創設者Seymour Steinの目に留まり、Sireとの契約を持ちかけられます。Aristaとの一件で懲りていたアルさんは当初オファーを断りますが、アルバム製作におけるクリエイティブコントロールが約束されたことと、(当時最新鋭で高価だったらしい)フェアライトCMIというシンセサイザーを購入する予算を与えられたこともあり、最終的に契約を結ぶことになります。Sire側からそれほど熱烈なラブコールがあったとは、ちょっと意外。


 1985年に入りアルバム製作が開始されます。レコーディングは主にロンドンで進められ、一部シカゴや西ベルリンにもまたがっておこなわれたようです。プロデュースはOn-U Soundの総帥Adrian Sherwood。これはSire側の推薦だったらしく、Adrianは最初にオファーをされた時「SireとしてはDepeche Modeみたいな作品を作ってほしいんだろうな。よっしゃ、コマーシャルなアルバムで成功を手にしたるで」と考えていたそう*2。また、On-UつながりでKeith LeBlancも参加しています。この理由が、先述のフェアライトCMIの使い方をアルさんに教えるためだった、というのもおもしろいですね。もしかして、自分のところでは手が出せない高価なシンセを弄ってみたかったとか...?

 

 こうした面々の技術もあってサウンド面では強力にインダストリアル化が推し進められましたが、レコーディングは円満に進んだわけではなかったようです。Keith LeBlanc曰く*3

「Alにアイディアを示しても『ダメだ、それはゴミ。気に入らないね。』ばかりだったんで、Adrianはありとあらゆる手を尽くさないといけなかった」

「そのくせ一ヵ月後にスタジオに来てみたら、あいつはAdrianが示したのとそっくり同じ音を自分の手で作ってたんで、彼はだまされたということに気付いたんだ」

「ロンドンに帰ってきたら、Adrianに『見ろよ、これ全部Alが没にしたトラックさ。さぁどうする?』って訊かれたんで、俺は『じゃあそいつを再利用してみよう』って言ったのさ」

...といった有様*4

 

 一方のアルさんはアルさんで*5

「ロンドンでのレコーディングは勉強になったけど楽しくはなかったね」

「あの頃の俺はまだチビだったんで、全部Adrian Sherwoodに頼りきりだった」

「"Twitch"はAdrian Sherwoodの色が強すぎて、自分の作品という気がしない」

などとのたまう始末です*6

 

 おそらくAl Jourgensenという人は、基本的に自分がすべてイニシアチブを握らないと気が済まないタイプの人間なのでしょう。後にPaul Barkerが加わった後も、レコーディングはアルさん主導で進めていたようですし。そのわりにはサイドプロジェクトを随分やってる気もしますが、まぁあれのほとんどは「ヴォーカルがAl JourgensenじゃないMinistry」みたいなところもあるので...。だからこそ方向性が安定していて、本家が好きな人でもすんなり聞ける部分はあるんですけど。

 

 色々書いてきましたが、個人的にこの作品の最も大きな意義は「メジャーレーベルから発売された」という点にあると思っています。アンダーグラウンドで育まれてきた過激なカットアップのセンスと、メジャーならではの潤沢な予算と豊富な機材を組み合わせることで、当時まだ誰も実現することができていなかった、類を見ないほど重く・分厚く・ノイジーなエレクトロミュージックを提示したわけです。発売からもう30年以上経つのにリマスターの必要性をあまり感じないのも、ここに理由があるように思います。もちろん細かいセンスとかには時代を感じるのですが、音質的な不満は(個人的に)ほとんどありません。しかも、それをメジャーの強い配給力で全世界に発信したということも重要。おかけで日本国内では最も入手しやすいEBMの音源となっています。これが結果的に多くの人々を刺激することになったのでしょう。もちろん、かのTrent Reznorもその1人です。


 このように、EBMというジャンルの金字塔として後世にその名を刻むことになったこのアルバムですが、当の本人にとってはあくまで通過点でしかなかったのかもしれません。では、On-Uの手を離れて今度こそ100%主導権を握ったアルさんが進んだ道は...?という話はまた別の機会に。

 

 Pick Up!:#8「Over The Shoulder (12" Version)」

 リズミカルなメタルパーカッションの気持ちよさを私に教えてくれた曲です。アルバム収録版よりもこっちの方が全体的に重厚かつ金属的でベター。PVの監督はインダス界隈ではおなじみのPeter Christophersonですが、これの収録に関してはヤバい逸話があり、アルさんをして「あのビデオに写っていることは全部犯罪だ」と言わしめるほどです。以下その詳細をば。

 

  冒頭、路駐された車を盗む少年2人組みが映りますが、これはその辺のガキに金を渡して、マジで車を盗ませている模様(撮影後どうしたのかは不明)。また、アルさんがスーパーマーケットの店内をウロウロしながら歌うシーン、店側に撮影を依頼したところ断られたので、Peter Christophersonは次のような一計を案じました。まず、例の自動車盗少年2人に再び金を払い、その店を襲撃させて店内を滅茶苦茶にします(オイオイ...)。そして翌日、何も知らない振りをして再び撮影話をもちかけます。すると、店側としては損害を埋め合わせるための当座の金が入り用なので、ショバ代欲しさに撮影を受け入れる...という寸法です。さすが、かの「Broken Movie」を撮った狂気の監督。なんてやつだ*7

*1:Richard23をMinistryのステージに上げたりしていたらしい。こうしたことが後のRevolting Cocks結成につながったと思われます。

*2:こちらhttp://testpressing.org/feature/adrian-sherwood-on-u-sound/のインタビュー記事より。

*3:こちらhttps://imgur.com/gallery/bgq1zのインタビュー記事より。Ministry以外にも非常に興味深いことが語られています。

*4:この発言の通り、これらの没トラックの一部はKeith LeBlancのソロアルバム(Major Malfunction)に流用された模様。

*5:こちらhttp://thequietus.com/articles/20135-al-jourgensen-favourite-ministry-albums-interview?page=13のインタビュー記事より。

*6:ただし、Luc Van Ackerは「AlとAdrianはとても仲が良さそうに見えた」と回想しているほか、Adrian自身も*2:のインタビューで「Alはいいやつだったよ」と発言しているので、レコーディング中ずっと軋轢があったわけでもないようです。

*7:ただYoutubeのコメント欄を見てると、「Alはいつも嘘ばっか言ってるし、その話も一種のジョークだろ」という意見も。確かにありそう...。というわけで真相は不明です。

The Cure - Faith

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Released Year:1981

Record Label:Fiction Records

 

Track Listing

  1.The Holy Hour

  2.Primary

  3.Other Voices

  4.All Cats Are Grey

  5.The Funeral Party

  6.Doubt

  7.The Drowning Man

  8.Faith

 

 イギリスのポストパンクバンドの3rdアルバム。"Seventeen Seconds"の延長線上というべき作風で、相変わらずミニマルでモノクロームなポストパンクを奏でております。「信仰」というタイトルの通り、ロバート・スミスの宗教観が歌詞に強く現れているそうですが、そこはコアなファンの皆様が既に考察されているので、今回は音の方を中心に書いていきます(というかそれしか書けないので...)。

 

 一時的に在籍していたキーボード担当が方向性の違いにより脱退し、バンドは再びトリオ編成に戻りました。そのせいか、前作に見られたキーボード中心のインスト曲は姿を消しています。しかし、#4,5等、スローテンポな曲におけるシンセサイザーの厚みはむしろ増しており、より幻想的な雰囲気が強くなりました。アートワーク*1の通り、霧深い森の中をふらふらと彷徨っているかのようなイメージが想起されます。これは、前作で森に迷ってしまった主人公が、さらに深い森の奥へと足を進めてしまったということなのでしょうか*2。ドラムやヴォーカルにも深めのエコーがかけられていて、あたかも幽霊が遠くから呼びかけてきているかのようです。

 

 そうした落ち着いた雰囲気の曲が中心となっている一方で、#2,6といったアップテンポでパンク調の曲はより躍動的に、ヒリヒリとするような焦燥感を見せており、メリハリがはっきりしてきた印象。ややもすれば単調になりそうなアルバムをうまく引き締めています。特にシングルカットされた#2は、ロバスミもベースを持ってツインベースとなっており、いつもよりドライブ感強めです。

 

 全体的に陰鬱で冷たい空気を漂わせた音は、同時期に出たJoy Divisionの"Closer"と比較されることも多いそう。しかし、あちらが見せていた圧倒的な絶望感とは少し異なり、どちらかといえば"漠然とした不安感"が主といったところでしょうか。絶望や死といった明確なものではなく、もっと捉えどころのないぼんやりとした物に苛まれている印象。とはいえ暗いことには変わりなく、特にアルバム終盤では、答えの無い悩みをぐるぐるこねくりまわしているような、どうしようもない閉塞感のようなものも感じ取ることができます。初期の路線の中では最高傑作との呼び声も高い本作ですが、この世界観は濃密で完成度が高い反面、ややとっつき辛い側面もあるかもしれません。

 

 ロバスミが内面世界で1人苦悩し続けるうちに、どんどん霧が濃くなって出口が見つからなくなってしまったかのようなアルバム。次作ではその強迫観念が一気に反転し、どす黒く恐ろしい作品が生み出されることとなるのですが、その話はまた次の機会に。

 

 Pick Up!:#4「All Cats Are Grey」

 ヴェールのようにうっすらと被せられたシンセが幽玄な雰囲気を醸し出す、シンプルながら非常に美しい1曲です。この曲ではロバスミはキーボードとピアノに徹して、ギターは一切使っていないそう。長いキュアーの歴史の中で、完全にギターレスの曲というのは意外と珍しいのではないでしょうか(インストを除く)。

*1:これは後にギタリストとして加入するPorl Thompsonが手がけているそう。

*2:"A Forest"の歌詞参照。

Klute - Excluded

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Released Year:1992

Record Label: Zoth Ommog

 

Track Listing

  1.No Man’s Land

  2.I Wanna Fuck Now!

  3.Me, Myself And No One Else

  4.Cutthroat

  5.Run!

  6.Shotgun Blues.

  7.Guilty

  8.Incest

  9.I’ll Never Be Your Slave

10.Tequila Slammer

11.Desert Storm*日本盤ボーナストラック

12.No Remorse*日本盤ボーナストラック

 

 デンマークのエレクトロ・インダストリアルユニット、Leaether Stripのサイドプロジェクトの1stアルバム。中の人はレザストと同じくClaus Larsen唯一人で、ゲスト参加などはありません。ちなみに、90年代までは"Klute"名義で活動してましたが、後に同名のトランス系ユニットが出現したため(クラウス曰く「名前を盗まれた」)、2006年の活動再開以降は"Klutæ"という表記になっています。

 

 サイドプロジェクトということで、あくまで100%エレクトロニックだったレザストとは大きく異なり、メタルギターをガシガシ効かせたインダストリアルメタルを展開しています。当時アメリカを中心に勃興しつつあったインメタブームに影響されたんでしょうか。奇跡的にアルファから国内盤が出ていたおかげで、日本では下手すると本家よりも知名度が高いかもしれません。実際、私もクルート経由でレザストを知りましたし。​

 

 国内盤の帯の売り文句は"「制 御 不 能 !!」。本作品の内容をよく表した、いいコピーだと思います。解説はいつもの小野島先生ですが、あまりに破壊的な音に感化されたのか、ちょっと文章も壊れ気味(汗)。とはいえ、ふざけてるように見せてきちんと触れるべきところには触れているのはさすがですが。「おれは生き残る、必ず。」

 

 当時、日本の関係者の間では「ドイツのミニストリー」の2つ名で通っていたらしく(おそらくドイツのレーベルに所属という所から)、帯にもそう書かれていますが、ライナー本文中でデンマーク出身であることがきちんと指摘されてるんですから、その辺しっかりしてもらいたいものです。おかげで今でもドイツ出身と誤解されてる節があるような...まぁどっちだっていいんですけど。

 内容は帯の通り、まさにぶっ壊れた機械が暴走しているような、マシーナリーな音の塊。よくミニストリーやNINを評して「無機質、人間味の無い」という表現が用いられますが、これを聴いた後だとミニストリーですらだいぶ血の通った音に聞こえてきます。全部の音にディストーションをかけたんじゃないかというほど派手なエフェクト処理が施されており、ノイズの壁と化したメタルギターに割れまくりのスネアドラム、そして聞き取り困難なザワザワヴォーカルがゴチャゴチャに混ざり合い、潰れた状態で飛んでくるという拷問のようなシロモノ。さらにリズム面も、他のロック的なグループに比べると独特で、ジェットコースターのように目まぐるしく変動。意図的に反復を避けているかのような構成は、ちょっとプログレじみている印象すらあります。この辺りの変幻自在さはやはり打ち込みの特権ですね。

 

 ただ、シリアス一辺倒というわけでもなく、#6や#10*1ではコミカルな一面も覗かせるなどなかなか多彩で、いい意味で一筋縄ではいかない構成になっています。クラウス本人曰く、「クルートでの音楽性はレザー・ストリップよりもユーモアを含んでいる」そうですが...うーんこれをユーモアと言っていいものなのか()

 

 ドイツと日本では上のジャケで発売されましたが、Cleopatraから発売されたUS盤ではジャケが変更されたほか、収録曲・曲順が大幅に入れ替えられています。スローテンポ寄りの曲をごっそり排除し、デビューシングル"Explicit"から3曲と、コンピ"Technopolis 4"に提供した"Nosecandy (Feed 'em Mix)"(レザストの曲をメタル風にアレンジ・再録したもの)を追加。結果として、オリジナル盤よりも疾走パートの時間が増え、アルバムとしても風通しが良くなりました。なお、ここで外された曲とその他コンピ提供曲は、同じくCleopatraから出た"Excepted"というEPにまとめられています。したがって、Cleopatra盤のアイテム2つを買えば、デビューから"Excluded"までの全ての音源を揃えることが可能です。

Pick Up!:#2「I Wanna Fuck Now!」

 単調なハンマービートとナタのように振り下ろされるギターノイズが無慈悲な雰囲気を盛り上げますが、なんといってもコーラスで登場するシンセのメロディが素晴らしい。ポップでも哀愁でもないんですが、何とも言えない背徳的な高揚感を煽る旋律にゾクゾクします。インダストリアルメタルでありながら、ギターリフではなくシンセサイザーを主役に持ってくるような構成は、さすがEBM畑出身という感じがしますね。

*1:後者はカバー曲らしいのですがクレジット等は一切見当たらず、元曲が何なのか発見できませんでした...。ご存知の方いたら教えて下さい。