V.A. - Zoth In Your Mind

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Released Year:1993

Record Label:Zoth Ommog

 

Track Listing (Artist - Track title)

  1.Mentallo & The Fixer - Sacrilege (Angel Of Death Mix)

  2.Leæther Strip - Adrenalin Rush (Vegger Version)

  3.Yeht Mae - Take Him Out Back

  4.X Marks The Pedwalk - Interruption

  5.Bigod 20 Retortion - (Green - Eye - Instrumental - Mix)

  6.Orange Sector - Kalt Wie Stahl (W.W.B.)

  7.Headcrash - Free Your Mind (Structure Mix)

  8.Amageddon Dildos - Homicidal Maniac (Crash Head Mix)

  9.Psychopomps - Daddy's Girl (Incestious)

10.Klute - They're Right - I'm Wrong

11.Ringtailed Snorter - Until Now!

12.Lights Of Euphoria - Deal In Sex (Protection Mix)

 

 80年代後半に大きな盛り上がりを見せたEBMムーブメントは、90年代に入ると急速に失速し、アメリカではインダストリアルメタル、ヨーロッパではサイケデリックトランスへと発展的解消を遂げていきました。しかしそんな時代にあっても、いくつかのレーベルは頑なにEBMの音源をリリースし、誰も得しない需要を満たしていたようです。今回取り上げるドイツのレーベル、Zoth Ommogもその1つ。

 

 このレーベルは80年代中頃からドイツのテクノシーンで活躍していたTalla 2XLCという人が立ち上げたもので、90年代を通してヨーロッパのインダストリアル/EBMシーンを支えていました。そしてこのアルバムは、そのZoth Ommog所属アーティストの音源をまとめたレーベルコンピ。カタログナンバーとして「ZOT CD 100」が与えられた記念碑的な作品となっています。

 

 内容としては一応EBM/ニュービートなのですが、一般的に(?)知られているEBMとはかなり毛色が違います。ここで展開されているのは、同時期に勃興していたトランスを取り入れたボディ。そもそもトランス自体、EBM/ニュービートから誕生したという経緯があるので*1少々おかしな表現かもしれませんが、アメリカよりもテクノ・トランスのシーンが活発だったヨーロッパにおいて、同時並行的に影響を与え合っていたのでしょう。

 

 ディストーションかけすぎで何言ってるか分からないヴォーカルが強烈な#1(イントロのシンセがハリーポッターみたい)や、かの"Last Rights"を思わせる歪みきった導入部分でニヤリとさせられる#4のようにSkinny Puppyの影響を覗かせる者もいれば、#7,8のようにインダストリアル・ヒップホップを披露する者もいたりとなかなか多彩ですが、どのグループもシンセは分厚く、ビートの圧力は控えめにすることでトランスに接近している印象。特に、先述のTalla 2XLCによるユニットの#5などは、ほぼトランス化が完了しているように思います。当時自分たちのアルバムではバリバリのインダストリアル・メタルを完成させていたPsychopompsでさえ、#9ではギターを抑え目に、よりフロア向けのアレンジを施していますし(これはこれでかっこいい)。結果的に、アプローチは様々ながらも全体的に統一感のある仕上がりとなっています。

 

 FLAやKMFDMの奏でるボディとはまた違うベクトルのEBM/ニュービートを楽しめる1枚。収録曲も全て未発表曲でお得です*2。過激で破壊力のある音を期待する人にはお勧めしませんが、普段からテクノやトランスを聴いていてボディに関心を持った方は、こういった音の方が親しみ易いかもしれません。

 

Pick Up!:#10「Klute - They're Right - I'm Wrong」

 全体的にトランス寄りと書きましたがこの曲だけは別。心臓弱い人が聴いたら失神しそうな、超速ハイテンションハイパーブラストインダストリアルメタル()を鳴らしています。まったく空気を読む気がありません。ギチギチに詰め込まれたブラストビートはスラッシュメタルというよりもはやグラインドコアの域で、初聴時は思わず笑ってしまいました。これだけ無茶苦茶やってるのに、きちんとポップで聴きやすいのがまた素晴らしい。

*1:過去エントリ参照。

*2:後に別のコンピで聴けるようになった曲もありますが...。少なくともこのアルバムが出たときは初出の音源でした。

Numb - Christmeister / Bliss

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 カナダのエレクトロ・インダストリアルユニットの2ndに、アルバム発表後に出したシングル「Bliss」の4曲(#3のリミックス3曲+未発表曲1曲、#10~14)を追加して再発したもの。オリジナルは Lively Artというフランスのマイナーレーベルからの発売でしたが、リイシューによってKK Records(EU盤)/Metropolis(US盤)に版権が移りました。ジャケも変更されています(下がオリジナル盤のもの)。

 

 このアルバムでは、前作でヴォーカルを担当していたSean Stubbsが抜け、代わりにBlair Dobsonが加入しています。この人のヴォーカルは暑苦しくかつ粘着質にネチネチ絡みつくというなかなか特徴的なもので、最初は1本調子過ぎるかな~と思ってたんですが、気がついたら病み付きになってました。特に#5での引きずるようなシャウトの伸び方とか凄いです。さらに4文字ワードも連発。海外のレビューで彼が"Madman"と称されていたのも頷けますね。

 そんなヴォーカルに引っ張られたのか、バックトラックも一気にアグレッシブに。動的な曲と静的な曲の比率が前作と逆転した感じで、#1, 6ではハードコアパンクスラッシュメタル的な要素も導入しています。こういった点は同時期に出た*1Skinny Puppyの「Rabies」を思わせますが、あちらは全体的にゴシックで湿った雰囲気だったのに対し、こちらはより乾いて殺伐とした印象。ドラムの音も抜けがよくて聴いてて気持ちいいです。一方で、#4,8,9のようなノイズ中心のインストも健在。不健全で病的な空気を保っています。強いて言えば、4つ打ちのダンスビートというよりは横ノリでじわじわ攻める曲が多いのが好みの別れるところかもしれません。

 ​

 追加収録のリミックス3曲は、大胆なアレンジ変更こそないものの、どれもオリジナルから更にキックが分厚く攻撃的になっていて素晴らしいです。BPMも気持ち早めになって性急さが増した印象。B面曲の#13はかなりギターノイズが前面に出ていて、後の「Wasted Sky」の路線を予感させるものがあります。シングル盤はOceana Recordsとこれまたマイナーレーベルからの発売*2で入手困難なため、こういった形で聴けるのはありがたい限りです。

 

 時代柄か、彼らのキャリアの中では本作が最も典型的なEBMらしい音(あくまで他の作品と比較して、ですが)に近いと思います。またそんなEBMにギターノイズを違和感なく溶け込ませる手法の巧みさは、同時期のSkinny PuppyやFLAより1歩先を行っているといえるかも。陰湿で粘着質な音を好む性格悪い方()はぜひ。

 

Released Year:1996

Record Label: KK Records, Metropolis

 

Track Listing

  1. Dead Inside
  2. Cash
  3. Bliss
  4. Balance Of Terror
  5. Eugene
  6. Frantic
  7. What
  8. Christmeister
  9. Flesh
10. Bliss (Endurance)
11. Bliss (In Absentia)
12. Bliss (Fundamentalist)
13. Stiff

 

Pick Up!:#10「Bliss (Endurance)」

 原曲の地を這うようなシンベと、曲の上を縦横無尽に往ったり来たりするノイズはそのままに、キックをより重く・分厚くしたバージョン。個人的にリミックス3パターンの中ではこれが一番好きです。3:54~から挿入されるクワイアも地味に怖くてgood。

*1:オリジナル盤は1989年発売。

*2:オリジナル盤の「Christmeister」のUS盤もここからのリリースでした。

Swamp Terrorists - Combat Shock

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Released Year:1993

Record Label: Re-constriction Records, Sub/Mission Records, Simbiose Records

 

Track Listing

  1.Pale Torment

  2.Cynic Forage

  3.Right Here

  4.Spawn

  5.Comeback

  6.P.T.S.D.

  7.Liberator

  8.Pant To Injure

  9.Revelation

10.Jerks Ever Win

11.Right Now

12.Comeback (Edit)

13.P.T.S.D. (Back In Solitude)

14.Pale Torment (Hard 12" Mix)

15.Cynic Forage (Unnamed Remix)

16.Hit' Em (Justness Mix)

 

 スイスのインダストリアルユニットの3rdアルバム。この作品で本格的に世界進出を果たしたようで、アルファレコードから日本盤も出ていました。良い時代だ...

 

 彼らの音楽性は一言で言ってしまえば"インダストリアルメタル"なのですが、その内実は同時期のMinistryやKMFDMとはかなり異なります。ボディビートではなくアシッドハウスハードコアテクノ的なビートにザクザクしたスラッシュギターを組み合わせ、その上にPIGのRaymond Wattsを思わせるダミ声が乗っかるといういびつさは、まさにクロスオーバーの極み。でもそういった個々の要素が剥離することもなく、しっかりと噛み合っているのが凄いです。

 

 それとヒップホップの色も強く、歌い方もラップとまではいかないまでもかなりそっち寄り。けれどもそれほど"黒さ"を感じないという点では、「白いPublic Enemy」と称された(らしい)Meat Beat Manifestoとの類似を見いだせる気もします。こうした音楽性を彼らは"ストリート・テック・ビート"と自称していました。

 

 個人的に、もう一つMeat Beat Manifestoと共通していると感じる部分があります。それは音の解体・再構築の仕方。初期のMBMは、4曲のシングルをズタズタに分解して再編集し16曲入りのフルアルバムを作ってしまうほど、フリーダムな継ぎ接ぎをやっていました。いわばフレーズやメロディの違いではなく、カットアップした断片の組み合わせの違いで曲の個性を決めているような状態。そしてこのSwamp Terroristsも、同じようなスタンスで曲を作っているように思えます。後半にリミックスを大量に収録しているのもその表れでしょうか。

 

 特に#1とそのリミックス版#14を聴き比べると、ギターリフやリズムパターンがどのようなパーツから構成されているのか分かって興味深いです。他のインダストリアル系グループは、デジタルな技術を使いつつ如何にバンドらしく整合性を持たせるかを意識してる気がしますが、彼らはそういったことをまるで考えてないように思えます。聴いてて音の継ぎ目が分かるんですよね。ライブで再現しようとすると大変そうですけど...。

 

 次にどんな音が飛び出してくるかわからないスリリングさは、カットアップ中心のアプローチならでは。メタラー受けはしないかもしれませんが、MBMやMark Stewart、NINの"Fixed"みたいな、激しく解体された音が好きな方はぜひ。あと、ガバやハードコアテクノが好きな人にインダストリアルメタルを紹介する時は、Ministryよりこっちを勧めるべきでしょう...そんな機会があるのかという突っ込みは無しで。

 

Pick Up!:#8「Pant To Injure」

 変則的で予測不能な展開が多い中で、これは直線的なビートと小気味よい歌い回しが癖になるシンプルな高速トラック。とにかく勢いがあって気持ちいいです。押せ押せー!

A Split - Second - A Split • Second

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Released Year:1988

Record Label: Wax Trax!

 

Track Listing

​  1.Flesh

  2.On Command

  3.Check It Out

  4.Rigor Mortis

  5.Scandinavian Bellydance

  6.Burn Out

  7.Colonial Discharge

  8.Drinking Sand

  9.Close Combat

 

 ベルギーのEBM/ニュービートユニットの音源を、アメリカ市場向けにまとめたコンピレーション。米国でのディストリビューションを担当していたWax Trax!からの発売です。

 

 いわゆるニュービートの生みの親とされるこのユニット。#1の45回転シングルをあえて33回転で回す、つまりテンポを落としてクラブでかけたところ客に大受けし、これがきっかけとなってニュービートという新たなムーブメントが生まれた...といわれています。そしてこのニュービートは、後にアシッドハウスと融合しトランスへと発展した*1ので、そういう意味ではテクノ史的にも結構重要な立ち位置のグループといえるかも?

 

 とはいえこのアルバム、聞く限りでは普通にEBMです。特に前半に収録されたグループ初期の曲は、Front 242と聞き分けがつかないかも。某サイトでは「音もビートも凡庸」などと一蹴されていましたが...(汗)。

 

 でも#5や#7のようなニュービート誕生以降の曲は、よりスローテンポかつシンセを前に出した造りになっていて、少しづつ違うベクトルを目指し始めているのがわかります。この辺りは、Front 242が哀愁メロディを引っ込めてビートを強調していったのと対照的ですね。加えて、#6などはほとんどポジティブパンクのような趣でおもしろいです。さすがにメインのフレーズはシンセが担っていますが、ビート感はロックのそれだし、ヴォーカルも普通に歌ってるし。しかもこの人、The Sisters Of MercyのAndrew Eldritchみたいなルックスしてます。こういう所からも、EBMのルーツ(の1つ)はポジパンというのを感じることが出来ますね。

 

 ちなみに、#9で突然挿入される日本語のサンプリングは、「キングコング対ゴジラ」(1962年公開)に登場する製薬会社の宣伝部長の台詞です*2ゴジラ映画で初めての日米合作となり、米国での上映も視野に入れたためか、当時のステレオタイプな日本人顔(黒縁メガネ+出っ歯のオッサン)のキャラクターとして登場していました。コメディタッチのハイテンションな演技が印象的でしたが、まさかこんなところで耳にするとは...。

 

 全9曲とややボリューム不足なのが惜しいですが、鉄骨ビートをガシガシいわせる脳筋ボディとはまた違うEBMを楽しめる作品です。ポジパンからEBMが生まれ、さらにEBMがトランスへ進化していく様子を感じることの出来る興味深い1枚。

 

Pick Up!:#7「Colonial Discharge」

 このアルバムの中では最もトランスに近い雰囲気でしょうか。ヴォーカルを最低限に抑え、スローテンポなビートと妖しげなシンセで魅せる1曲。アラビアンな香り漂う荘厳な雰囲気が美しいです。

*1:こちらのページ→http://www1.meijigakuin.ac.jp/~hhsemi10/club8.htmlを元に書いています。日本語版wikiのトランスの項にも同様の記述がありますね。

*2:「ボヤボヤしとらんで今度のアイデアを考えろ」「宣伝に"もういい"は無いッ!」と部下を叱るシーンが使われてます。

Killing Joke - What's This For...!

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Released Year:1981

Record Label: EG

 

Track Listing

​  1.The Fall Of Because

  2.Tension

  3.Unspeakable

  4.Butcher

  5.Follow The Leaders

  6.Madness

  7.Who Told You How?

  8.Exit

 

 イギリスのポストパンクバンドの2ndアルバム。

 

 衝撃のデビュー作で見せた路線を踏襲しつつ、彼ら特有の「呪術的なビート」が完成をみた1枚。執拗にタムを強調したドラスティックなドラミングが、前作の単調さを払拭しつつ楽曲に緊張感を与えています。当時のイギリスではこうしたトライバルなビートが流行っていたようで、多くのバンドが似たような路線を打ち出していましたが、彼らの音はずば抜けて直情的でダンサブルな仕上がりになっていると思います。理性よりも本能に直接訴えかける音といいますか、考える前に勝手に体が動き出すようなリズム感。場違いなほどファンキーなベースも合わさり、強烈なグルーブを生み出しています。

 

 では体育会系なノリかというとそこは英国育ち、一貫して不安を煽るダークな仕上がりです。シンプルながら不穏な空気を作り出すシンセサイザー、油切れの錆びた鋸を挽くようなギター、そしてJaz Colemanの狂気をはらんだヴォーカルが一体となり襲い来るその様は、何か世界の歯車が狂ってしまったような、不吉な前兆を感じさせる異様な雰囲気。当時のJaz Colemanはアレイスター・クロウリーを始めとするオカルトな思想に傾倒していたらしく、冷戦による緊張感もあいまって終末思想が強く表われているように思います。もう世界おしめぇだしとりあえず踊るしかねぇべや!みたいなノリでしょうか(雑)。コラージュで構成された不気味なアートワークも、中身の音に忠実で良いですね。

 

 そして既に各所で指摘されている通り、ここで提示された「呪術的なビート+金属的なギターノイズ」という方法論は、そのまま後のインダストリアルメタルの雛形となり、後発のグループに大きな影響を与えることとなりました。よく知られているのはMinistryのAl Jourgensenで、以前当ブログでご紹介したPailheadと本作を聞き比べれば、いかにその影響力が大きいかが分かるでしょう。アルさんの場合はKilling Jokeの追っかけをしていたほど熱心なファンだったようです。

 

 後世への、特にオルタナ方面への影響という意味では1stが取り上げられることの多い彼らですが、個人的にはこちらが初期の最高傑作。クラブでかけようものなら、一瞬でフロアを未開のジャングルに変えてしまうこと請け合いです。爆音で原初のリズムを楽しみましょう!

 

 Pick Up!:#3「Unspeakable」

 ひたすらドコドコと反復するドラムに主張の激しいベースライン、神経を煽り立てるギターと、当時のKJらしさを全て詰め込んだ至高の1曲。順々に楽器を重ねていくイントロも王道ですが格好いい。あとベルギーの音楽番組に出演した際のライブ映像も、口パク&当てフリながらジャズさんの狂気が全面に出てて必見です(黒塗りメイクが怖い)。ていうかよく放送したなコレ。

Peace, Love & Pitbulls - Peace, Love & Pitbulls

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Released Year:1992

Record Label:Play It Again Sam, Nettwerk

 

Track Listing

  1.(I'm The) Radio King Kong

  2.Do The Monkey (Hitch-Hike To Mars)

  3.Dog Church

  4.Be My TV

  5.Reverberation Nation

  6.Elektrik '93

  7.What's Wrong

  8.Nutopia

  9.Futurehead

10.This Is Trash

11.A. Psycho

12.Do The Monkey (Remix)

 

 スウェーデンのインダストリアルメタルバンドの1stアルバム。

 

 このグループの中心人物であるJoakim Thåströmという人は、元々70年代後半からいくつかのバンドで活動を続けていたベテランで、スウェーデン国内ではそれなりの人気を得ていたようです。その頃の音楽性はPost-Punk/New Wave寄りで、(試聴する限り)インダストリアルの影も形もありませんでした。その後、1989年にバンドを解散してソロ作品を2枚ほど送り出した彼は、1992年にギタリスト2名とプログラミング・サンプラー担当を1名招き、新バンド:Peace, Love & Pitbullsを結成します。これは本格的な世界進出を見据えてのことだったようで...(だから今までと違ってタイトルも歌詞も全て英語)。実はこのアルバムも、スウェーデン国内ではThåström名義で発売され、国外でのリリースに合わせて名義をソロからバンドに変えた...という経緯を持ってたりします。

 

 で、これがまた大傑作。確かにこの時点で10年以上のキャリアを持っていたとはいえ、1作目でこの内容は快挙を通り越して異常です。きめ細かく計算されたサンプリングノイズ、マシーナリーでダイナミックな打ち込みドラム、分厚くへヴィでありながらフックのあるリフを奏でるギターと、曲を形作るバンドサウンドがしっかりしているのもさることながら、とにかくヴォーカルの迫力が素晴らしい。喉のどこからこんな声出してるんだと思わせる、J.G. Thirlwellを10倍ぐらい凶悪にしたようなダミ声だけで花丸をあげたい気分です。特に#1,2,5でのヴォーカリゼーションは圧倒的。かのマンソン氏が彼らの音に影響を受けたとする未確認情報もありますが、真偽のほどはともかく、さもありなんといったところ。

 

 強いて言えば、全体的にミドルテンポの曲が多く、終盤にかけてややダレ気味なのが難点でしょうか。あと超絶暑苦しいので、人間味の無い冷たい音を求める人には合わないかも。しかしそういった要素を加味したとしても、MinistryやNINがインダストリアルメタルを確立したのと同時期に、ここまで独自のスタイルを完成させていたとは驚異的と言うほかありません。一体何を参考にしてこのサウンドを構築したのか、あるいは何も参考にしていなかったからこそのこの音なのか...とにかく全インダストリアルファンは必聴です。マスターピース

 

Pick Up!:#1「(I'm The) Radio King Kong」

 引きずるような曲調の重々しいリードトラック。楽器隊は完全にバックに徹しており、粘着質に絡みつくヴォーカルが曲を引っ張っています。後半にかけてじわじわと怒りを放出していく歌い上げ方はお見事。プロレスの入場曲とかにしたら最高にフィットすると思うんですが、どうでしょう。

Skinny Puppy - Mind: The Perpetual Intercourse

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Released Year:1986

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.One Time One Place

  2.God's Gift (Maggot)

  3.Three Blind Mice

  4.Love

  5.Stairs And Flowers

  6.Antagonism

  7.200 Years

  8.Dig It

  9.Burnt With Water

10.Chainsaw

11.Addiction (Second Dose)

12.Stairs And Flowers (Too Far Gone)

13.Deep Down Trauma Hounds (Remix)

 

 2ndアルバム。製作中にBill Leebが脱退し、代わりにDwayne Goettelが加入(まだ作曲には不参加)。前作までに見せていたシンセポップ的なキャッチーさは後退し、一気に凶暴な音へと変貌しています。ビートも時々引き攣ったようにつっかかる複雑なもので、早くも踊らせることに興味がなくなった模様。同時にOgreのヴォーカルもSAN値が下がってきており、発狂したような激しいシャウトが目立つようになりました。特に#2なんて物凄い迫力。"死神オーガさん"が頭角を現していますね。


 さらに特筆されるのが#1,8などにおけるギターの導入。いわゆるメタルギターではありませんがその音は十分に鋭角的で、随所で効果的に使われています。こういうのを聴いていると、EBM界隈でよく耳にする「(ミニストリー出現まで)ギターの導入は禁じ手だった」というのは、それこそミニストリーがメタル化した以降から言われるようになったのではと思ったりします。初期インダストリアル勢だって(ノイズ発生源として)ギターは使っていたわけですし。その延長線上にあるパピーやNumbは、クラフトワーク等の影響が強いFront 242などと違って、あまり「エレクトロニック命!」とかそういうことは考えてない気がします。


 閑話休題。難点を挙げるとすれば、個人的には中盤が少し中弛みするかなと。やや音がとっ散らかっているというか、実験性が先行しすぎてしまった部分があるように思います。この辺はまだまだ試行錯誤の途中といったところでしょうか。

 

 実験と言えば、全体的にエスニックな旋律やパーカッションが多いのも本作の特徴。やけにチャカポコいってます。あと、#5,8を筆頭としてヒップホップ的なリズムの導入が目立ちます。こういった"非エレポップ"なリズム感を足がかりにして、その後の複雑怪奇な痙攣ビートを習得していったのではないでしょうか。こういうところも何となくNINの1stに影響を与えてそうな気もしますが、これ以降あまりこういったアプローチは無いですね。


 ちなみに、NINがパクったことで有名な#8は、CD化に合わせて12’バージョンに差し替えられています。その後LP収録のオリジナル版は1度もCD化されなかったため、かえってこちらがレア化するという妙な事態に。このバージョンは海外のファンの間では"Raw Version"などと呼ばれているらしく、今ではネット上で普通に聴くことができます。正直な話、CD化されないのも納得な出来ではあったりしますが...。


 加えて、CD化に際してシングルB面曲などのボートラが4曲追加されていますが、なぜか3rdアルバムからのシングル曲も含まれています。これらについては初期シングルをまとめた「12 Inch Anthology」を紹介する時に触れることとしましょう。

 

Pick Up!:#2「God's Gift (Maggot)」

 オーガさんの発狂ボイスが堪能できるという点ではこれ以上ない最高の1曲。中盤のタイトル連呼とかもう溜め息が出ます。緩急を付けながらもバシンバシンと追い打ちをかけてくるドラムも素敵。凶悪さを増していった後期の曲と比べても遜色がなく、またそれを裏付けるようにライブでもよく披露されていました。