Die Klute - Planet Fear

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Released Year:2019

Record Label:Cleopatra

 

Track Listing

  1. If I Die

  2. Out Of Control

  3.The Hangman

  4.Rich Kid Loser

  5.For Nothing

  6.Human Error

  7.It's All In Vain

  8.Born For A Cause

  9.Infectious

10.Push The Limit

11.She Watch Channel Zero?!

12.Mofo

 

 Die KruppsのJürgen Engler、Leæther Strip/KlutæのClaus Larsen、そしてFear FactoryのDino Cazaresという、超・強面な3人が集結したインダストリアルメタルユニット。どういった経緯で結成に至ったのかは不明ですが、ユルゲンとクラウスは90年代からCleopatra繋がりで交流があった同志*1ですし、それこそ2016年の来日公演で共演していたのは記憶に新しい所。ディーノはクラウスとの繋がりはあまり無かったと思いますが、クルップスとフィアファクはライブで何度か共演したことがあったようで、その縁で声がかかったのかもしれません。

 

 最初に結成がアナウンスされたのが昨年の7月末、同時にPVの撮影風景なども公開*2されたりして、(ごく一部の界隈で)注目と期待を集めていました。そして、今年の1月半ばに先行曲#7が公開されますが、正直な話、この時点での私は印象は「あ、コレあかんやつや」という感じでした。特に、一聴して判るギターが引っ込みすぎな点に関しては、YouTubeのコメント欄もほぼこれ一色といった様子で、公開からわずか1週間で"皆様の要望にお答えしてギターの音大きくしましたバージョン"が公開される*3という異例(?)の事態に。「インダストリアル系のスーパーグループに当たり無し」という、お決まりのジンクスがまたも的中するかと思われました。

 

 しかし、2月に入っていざアルバムが発売となったので試聴してみると...あら意外といい感じ。既にネット上で囁かれていた、「先行シングルが一番ギター弱い曲説」を裏付けるように、しっかりディーノの存在が判るミキシングです*4。全体的にリフもシンプルながら即効性のあるわりと私好みな感じで、ひとまず、大ハズレだろうという当初の予想は良い意味で裏切られることとなりました。ただ、このプロジェクトに期待していた人全員が満足する内容では無いな...と思ったのも事実。

 

 端的に表現するなら、メタルギターを全面的に導入しつつもあくまでエレクトロニックな要素が主導権を握っている、いわゆる"ボディメタル"です。「鳴らしている音の大きさ」でいうと【 クラウスディーノユルゲン 】ですが、「持ち込んだ音楽性」でいうと【 ユルゲンクラウスディーノ 】という配分になっていると思います。クレジットを見る限り、ユルゲンとクラウスが共同で打ち込みを担当していますが、私の勝手な推測ではクラウスは打ち込み、ディーノはギター、そしてユルゲンは総合プロデューサー...といった立ち位置で製作を進めたのではないかと。

 

 そういう意味で最初は「これ、まんま90年代中期のクルップスでは?」とも思ったのですが、よくよく考えてみるとその頃のクルップスの方がまだ叙情的でHR/HMっぽいんですよね*5。それに比べて本作は、既に先行しているレビューにもある通り、良くも悪くもとにかく単調。ここには(90年代の)レザストやクルートのグロテスクな禍々しさも、フィアファクの男臭いメロディもありません。そういった意味で、この3人の音楽性の化学反応を期待していた人...特にフィアファクのファンにとっては、ガッカリな内容だったというのはよくわかります。

 

 じゃあ中身は完全にゴミなのかというと、個人的にはこれがまぁまぁ良いんですよね。確かにバラエティには乏しいけれど、#3,4,6,12といった曲のスピード感は素直に好きだし、#2,9でのミドルテンポ寄りなリフもカッコ良いです。唯一の変化球は終盤の#11。これはPublic Enemyのカヴァーなんですが、原曲がSlayerのAngel of Deathのリフを丸々サンプリングしていたのを、上手いことシンベに置き換えつつSlayerの再演にならないようアレンジしているのが面白いです*6。でも全体的には、凝った曲構成や捻った展開の無い、シンプルな初期衝動の塊のような作品とも言えるかもしれません。そういう点ではある意味"パンキッシュ"とすら表現できそう。この「とりあえず3人で音出しました」感を許容できるかどうかが、本作への評価の分かれ目でしょう。

 

 つまるところ本作は、2017年に出たKlutæのアルバム"Black Piranha"に、生のメタルギターを足しただけの作品です。ただし、そのギターリフによって楽曲の説得力が大きく向上しています。"Black Piranha"も曲自体は悪くないと思うんですが、肝心のアレンジがエレクトロ中心で何故わざわざKlutæ名義で出したのかよく判らなかったですし、かつてのKluteのように強烈なサンプリングギターやノイズも無く、いまいちパッとしない結果に終わっていた感がありました*7。それに比べるとこの"Planet Fear"は、ザクザクしたギターの存在感によって、かつてクラウスが持っていた攻撃性や緊張感、そして音の凄みが少しだけ戻ってきた印象があります*8。このアルバムもベーシックなトラックは基本クラウスが作っていると思うのですが、やはり彼の完全な単独作業であるレザスト・クルートには無い、ディーノという"異物"の存在が、多少プラスに働いたのではないかと。

 

 近年、EBMやインダストリアルが一部界隈で再評価されている気がしますが、その実際は初期Front 242やKlinikの系統にあるシンセウェイブに近いEBM、あるいはSwansやGodfleshの系統にあるジャンクでノイジーなロック・ポストメタル...といった方向にトレンドが集中しているように思えます*9。そういった状況下で、90年代に流行したEBM+メタルギターという図式は意外と空白帯になっていたと思うのですが、今回のDie Kluteは見事にその穴を埋めてきたなという感じです。特に最近のクルップスも「ボディモードの時はボディ、メタルモードの時はメタル」という感じで、全編こういうバランスのアルバムはしばらく出していない気がするので...。このように、思わぬ形で90年代型"ボディメタル"の再来を拝めただけでも、自分のような懐古趣味者にとっては意義のあるコラボだったのではないかなと思っていたり*10

 

 誰もを唸らせる普遍的な完成度というわけではありませんが、悲惨な結果に終わることが多いインダストリアル系スーパーグループの中で見れば、まぁ及第点と言えるクオリティには達していると思います。もう少しアレンジに時間をかければまた仕上がりが違ったのかもしれませんが、逆に大御所らしからぬフレッシュな勢いを楽しむのが正解なのかも。個人的には、下手に色々やろうとしてグダグダになるよりは、勢いだけで突っ走るこの方向性で正解だったと思っています。肉感的なビートと美味しいリフだけあれば満足!という人は、とりあえず聴いてみても損は無いのでは。

 

Pick Up!:#9「Infectious」

 ほとんどが疾走系のアルバム中で、良いアクセントとなっているミドルテンポのグルーヴィな曲。このいかにもワルそうな感じのリフが結構好きです。せっかく少し捻りを加えてるんだから、もっとメタパーを入れるなりノイズを差し込むなりして欲しかった感じもありますが...。

*1:インタビューでのユルゲン曰く、"We are old buddies"とのこと。ソースはこちら→DieKlute (Dino Cazares) Premiere Video Featuring William Shatner

*2:動画はコチラ→https://www.youtube.com/watch?v=U9Cg1fDn-EI なんだかシュールで笑えます。

*3:それがコレ→https://www.youtube.com/watch?v=yIipfCq611U&feature=youtu.be "For the Metal Headbangers"だそうです。

*4:私はあまりフィアファクをきちんと聴いていないので、彼の持ち味がどれだけ生かされているのかは判断できないんですが...。

*5:これは当時メンバーだったメタル畑のギタリスト、Lee Altusが作曲に関わっているのも大きいと思います。

*6:というか海外のレビューサイトを見るまで、これがカヴァー曲であることすら気付きませんでした。なんかラップやろうとしてるな~とは思ってたんですが...。

*7:この内容、来日公演後に盛り上がっていた私のレザスト・クルート熱を一瞬で冷ますには十分なレベルでした...試聴しただけですけど。

*8:確かFLAの"Millennium"についても同様のことが指摘されていた記憶。

*9:私は流行に疎いのであくまで個人的な印象ですが...。

*10:そしてこのアルバムが、過去にボディとメタルの狭間のようなバンドを大量に擁していたCleopatraからの発売というのも、何かの因果でしょうか。