Foetus - Flow

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 7thアルバム。古典的なカートゥーン風味のジャケは本人の趣味でしょうか?

 

 80年代にはまさに破竹の勢いで進撃を続けたフィータスですが、90年代に入ると活動が急速に停滞し、ジャズ風味のサイドプロジェクトやリミックスワークといった形でしか表舞台に姿を見せなくなります*1。95年になってようやく出た"Gash"では、90年代のインダストリアルロック・ブームとNIN等若手のリスペクトというかつてない追い風を受けメジャーレーベルへ移籍、ついにNYアングラ界の帝王が華々しく表舞台へ…と思いきや、商業的には大失敗で本人が不貞腐れてしまう始末*2。決して中身は悪くないんですが、世間が求める"インダストリアルロック"のフォーマットからは大きく逸脱した、分かりにくい捻くれた仕上がりだったものですから…。

 

 そんなこんなで再び6年ものブランクが開き、21世紀になってようやく出たのが本作。古巣のThirsty Earに戻っての再出発です。基本的には前作"Gash"の延長線上にありながら、本作のキーワードは「ジャズ」。これまでもビッグバンド風のアプローチを随所で取り入れてきたフィータスですが、今作ではそれを前面に押し出しています。まさかのボサノヴァ風#2、ハモンドオルガンとサックスで渋くキメる#4、スパイ映画を思わせるスピードと緊張感に満ちた#6などにそのカラーが顕著です。

 

 一方で従来のインダストリアル的な要素もしっかり残しており、開き直ったかのようにブレイクビーツ・ビックビートを取り入れて"インダストリアルロック"を鳴らす#1*3を筆頭に、演奏は下品なほどノイジーな癖してヴォーカルラインは妙にキャッチ―な#5、ヤケクソ気味に暴走する#10など、いい意味でストレートな曲が光ります。一方で、スキニー・パピーの"Knowhere?"を彷彿とさせるジャンクでドゥームな#3や、ラストの13分近くある大曲#12等、へヴィな曲の迫力も相変わらず。前作ではメジャーの重圧もあったのか、変に明るくキャッチ―な要素と無理に力んだようなハードさとが噛み合ってなかった印象がありましたが、今作では程よく肩の力が抜け、かつてのように伸び伸びと暴れ回る素敵な()御大が拝めます。曲ごとのカラーを振り切ったことで統一感は無くなりましたが、その分上手く緩急が付いた印象がありますね。

 

 ある意味これまでの総決算的な仕上がりとなったアルバムですが、本作に伴うツアーを最後に、「ロックバンド的なライブはやらない」宣言を出してしまいます。この路線はもう十分にやり切ったということなのか、はたまた限界・行き詰まりを感じたのかは本人のみぞ知るところですが、これ以降の作品ではアンビエント環境音楽的なアプローチがメインとなり、いよいよロックの範疇から外れていってしまいます。そんなわけで、これがインダストリアルロックとしてのフィータス最後の輝き。ニューウェーブよりもオルタナ系が好きな人はこれが一番気に入るかもしれませんね。

 

Released Year:2001

Record Label:Thirsty Ear

 

Track Listing

  1. Quick Fix
  2. Cirrhosis Of The Heart
  3. Mandelay
  4. Grace Of God
  5. The Need Machine
  6. Suspect
  7. (You Got Me Confused With) Someone Who Cares
  8. Heuldoch 7B
  9. Victim Or Victor?
10. Shun
11. Kreibabe

 

 Pick Up!:#6「Suspect」

  どことなく戦前のスパイ映画を思わせる旋律が印象的な曲。ストリングスやピアノを駆使しつつ、不穏さのボルテージを徐々に上げていく手法はもはや円熟の域ですが、終始一貫したテンポの良さもあって比較的取っ付きやすいと思います。リズミカルで小気味いい歌唱も癖になりますが、歌詞については「1つだけ心残りがある/まだテメェを殺してないことさ」など、相変わらず物騒ですな。

*1:フィータス名義では90年にシングルを1枚、92年にライブアルバム(しかも90年のツアーのもの)を出したのみ。

*2:妬み交じりでNINをこき下ろしたりしてたらしい。カ、カッコ悪い…。

*3:こういうのが欲しいんだろ?とばかりに、ミニストリーの"Corrosion"までサンプリングしてるのが痛快。タイトルもミニストリーの同名曲を意識していると思われます。

Numb - Mortal Geometry

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  カナダ出身のエレクトロ・インダストリアルユニットの7thアルバム。1998年の最終作"Language Of Silence"以来、21年ぶりとなる新作です。中心人物のDon GordonはNumbの活動終了後、2000年にHalo_Gen名義で1枚アルバムを発表していたようですが、その後何を思ったのか突如ベトナムに移住。現地で結婚もして今は大学教授をしているらしい…などという情報もあり、もはや完全に音楽業界から足を洗ったものと思われていました。それだけに、今作発表の報には心が躍った反面、不安要素があったのもまた事実。

 

 そんな想いで上がってきた本作を聴いてみると...うーんこれが何とも言えない。基本的な方向性としては、幾重にも綿密にレイヤーを重ね合わせた、円熟味すら漂わせるサイバーなEBM。同じく去年出たFLAの新譜を彷彿とさせるところもあり、丸々一枚エレクトロニカ、或いはダークアンビエント…といった「脱・ボディ」な作風でなかったという点では一安心です。

 

 ただ、かつてのNumb最大のトレードマークだった、聞き手を突き放す強烈なノイズ処理がほぼ皆無なんですね。楽曲を聴いていると、#3、6、7等はむしろ20年前よりもストレート・キャッチ―でダンスフロア向けな仕上がりだったり。特にアンビエントな前半から一転して女声Vo.を交えてデジタルに疾走する#4などは、一歩突き抜けた感すらあります。これでもう少しだけでも音処理がハーシュだったら...と思わずにはいられません。その一方、一番かつての彼ららしい吐き捨てVo.の#1や、アルバム終盤のインスト曲では、活動初期から一貫している陰湿で不穏なエッセンスを見せてくれます。水中を思わせる黒光りシンセ空間の中を、淀んだギターノイズがサイレンのように反復する#8などは過去の名曲"Blood"を彷彿とさせ、Don Gordonの作曲センスが錆びついていないことを思い知らされましたね。

 

 そんなわけで楽曲の基礎の部分は悪くないので、あとは味付けの問題といった感じです。とりあえずカナダにいようがベトナムにいようが*1、Don Gordonはこういう作品を作れるということは判ったので、願わくばこのまま「ベトナムバンクーバーインダストリアル」*2な路線(意味不明)で活動を継続してほしいところ。できれば旧友のConan HunterかDavid Collingsもベトナムに呼んでアルバムを作ってくれたら*3言うことないんですが…。まぁ厳しいよなぁ…。

 

Released Year:2019

Record Label:Metropolis

 

Track Listing

  1. Redact
  2. Hush
  3. Complicit Silence
  4. The Waiting Room
  5. How It Ends
  6. Summer Lawns
  7. When Gravity Fails
  8. Shadow Play
  9. Mortal Geometry
10. Hush (Creation To Negation)

 

 Pick Up!:#7「When Gravity Fails」

  導入的なインスト#6からなだれ込むように始まる、ダンス路線の1曲。音は流石に今風にアップデートされていますが、このにじり寄るように地を這うシンセベースと淡々としかし強迫的なハンマービートはまさにThis Is EBM!と言った感じで、思わず口元がニヤけてしまいますね(キモい)。少しづつ音の厚みが増えていく終盤の盛り上がりもgood。

*1:クレジットを見ると"RECORDED AT HO CHI MINH CITY"の文字列が...。

*2:90年代のバンクーバー周辺は、cEvin Key、Front Line Assembly、Strapping Young Lad、Unit 187そしてNumbといったバンド群が跋扈する、超胸熱なエリアだったらしいです。

*3:今作ではDon Gordon自らがVo.をとっています。

HIDE - Castration Anxiety

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 女性Vo.のHeather Gabelとパーカッション担当のSeth Sherによる、シカゴ出身のインダストリアルユニットのデビューアルバム。Heather Gabelは元々、ヴィジュアルアート・グラフィックデザイン畑の人だったらしく、彼らの作品における不穏なアートワークやヴィジュアル面は全て彼女が担当しているそうです*1

 

 中身の方は、そのインモラルなジャケやタイトルから想像される通りのアングラワールド。呪術的なエレクトロビートの上に、ザワザワと歪められたシンセ、ゾンビか怨霊のうめき声を思わせるVo.が乗っかる、ミニマルなビートインダストリアルです。この手の音楽性で言うと、エレクトロパンクの始祖Suicide、さらにゴシカルでエログロなボンテージファッション・パフォーマンスといえばDie Formなどが連想されますが、そこはやはりシカゴ出身。前述のグループに比べると肉感的なボディビートを駆使して、より覇気のある音を鳴らしています。特にパーカッシブな冒頭3曲については、Killing Jokeを彷彿とさせる瞬間もありますね。

 

 また、軋んだハスキーなVo.の声質*2や楽曲のサタニックな雰囲気には、初期のMy Life With The Thrill Kill Kult(以下TKK)に通じる部分も見出せます...というより、Ministryの"Tonight We Murder"の世界観そのものといった方が近いかも。シングル"Stigmata"のB面だったこの曲は、高圧的かつダンサブルなドラムと超へヴィなベースラインを主体に、パンク的なうざいギターが被さるというシロモノ。ひたすら暗い穴の中を落ちていくような危険な雰囲気で、その中でのた打ち回る発狂Vo.もまた怖いんですねこれが。実はこの曲のVo.は、アルさんではなくTKKのGroovie Mannが担当しており、実質的にはMinistryとTKKの共作*3。結果としてTKKの暗黒カルトとミニストリーの冷徹な狂気が融合した、隠れた名曲となっていました。

 

 で、このHIDEのアルバムは、まさにそんな"冷徹な狂気"そのもの。実際のカルトにありがちな*4変なポップさやおふざけ要素はゼロで、100%シリアスかつストイックに攻め立てます。ただメロディというほどではないにしろ、引きずったヴォーカルラインに不思議と癖になる部分があって、何回かリピートしているうちにジワジワとハマってきます。そういう意味で突き放しっぱなしというわけではないのでご安心を(?)。3rdの頃のミニストリーの"メタル以外の部分"を引き継いだとも言える本作、もしミニストリーがギターを使わずにハードコア化したら…という趣で興味深いです。要チェック!

 

Released Year:2018

Record Label:Dais Records

 

Track Listing

  1. Fall Down
  2. Bound/Severed
  3. Close Your Eyes
  4. Wear Your Skin
  5. Come Undone
  6. Wildfire
  7. Fucked (I Found Heaven)
  8. All Fours

 

 Pick Up!:#2「Bound/Severed」

  個人的に特にミニストリーっぽさを感じた1曲。マシーナリーな殴打ビートとメタパーの応酬が最高に気持ちいいんですが、フラフラとさまようようなヴォーカルラインも不思議と癖になります。ちょっと曲長さが短めなのがもったいない。

*1:出典→https://artists.spotify.com/blog/hide's-heather-gabel-on-motherhood-late-starts-and-industrial-rage

*2:映像を見るまでまさか女性とは思ってませんでした。これで一児の母というのがまた凄い…母の力恐るべし。

*3:この曲の発表はTKKがデビューする直前ということもあり、むしろ初期TKKのスタイルの雛形になった曲、という方が正しいかもしれません。Groovie Mannとしても思い入れがあるのか、何回かTKKでも再利用しています。(Nervous Xiansの曲中でサンプリングしたり、"Burning Dirt"で歌詞を引用したり。) その辺の話はコチラ→https://groups.google.com/forum/#!topic/rec.music.industrial/33s_zMAWO-kが詳しいです。

*4:よくネタにされてるオ○ムの宣伝アニメとか。

Killing Joke - Revelations

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 イギリスのポストパンクバンドの3rdアルバム。

 

 本作レコーディング終了後、82年2月の末に突如Jaz Colemanがアイスランドへ逃亡してしまいます。どうもアレイスター・クロウリー等のオカルトにはまりすぎた結果、ガチで「アポカリプス(=核戦争による終末)が到来してこの世界終わるナリ!」と信じ込んでしまった模様。なぜアイスランドへ行けば助かるのかは謎なんですが...*1

 

 この時、バンドはプロモーションのため音楽番組への出演を控えていましたが、ジャズさんがドロンしてしまったため、ヴォーカル不在のまま出演を敢行するという異例の事態に*2。その後、GeordieとYouthもジャズさんを追ってアイスランドへ渡りますが、ほどなくYouthが愛想を尽かしイギリスへ帰国。ドラマーのPaul FergusonとBrilliantという新バンドを立ち上げます。しかし、このバンドに将来性は無いと判断したのか、Fergusonもアイスランドへ赴きジャズさんと合流。結果的にYouthだけがKJからハブられた形となってしまいました。

 

 ...とまぁ、リリースに際してかなりのゴタゴタがあったこのアルバムですが、音の方にも変革の兆候が見えてきています。本作の録音に当たり、バンド側はKraftwerkやCanといったクラウトロックでの仕事で知られる大御所、Conny Plankをプロデューサーに迎えました。バンドはドイツへと渡り、ケルンにあるConny Plankのスタジオでレコーディングを行っています。デビューからずっとセルフ・プロデュースでやってきたバンドにとって、外部のプロデューサーにプロダクションを委ねるのは初めてのこと。加えて、初めて異国の地で録音を行ったことも影響したのか、初期の野性的な荒削りさが後退し、音のバランスが整理された印象を受けます。ややお上品になったジャケットも象徴的ですね。

 

  それでいて曲自体は、かなり不透明で淀んだ雰囲気が漂っているのが本作の特徴。明白にヤバさのあった前作までと比べ、どこか歪だけどどこが歪んでいるのか判らない...という独特の居心地の悪さを感じます。キリキリと神経質に軋むギターは相変わらずなんですが、#4,5のイントロのように、アコースティックなパートを盛り込むことで"静"の不穏さを演出するなど、若干表現の幅が広がったとも言えるかもしれません。さらに、ジャズさんもガナリ声を卒業しノーマルボイスを使うように。元々声質が独特な人なので、これはこれで不気味さに拍車がかかっていますね。(一応褒め言葉。)

 

 特にアルバム前半の5曲は、こうした新しい要素と従来の持ち味が上手く噛み合っている印象。これぞKJ節というべき#1、珍しくストレートに突っ走る(でもドラムはロールしまくりな)#2、やや明るさも感じさせつつジャキジャキギターとダンサブルなリズムが気持ちいい#4等はアルバム中の白眉でしょう。

 

 一方で#6以降、アルバム後半は正直微妙な印象がぬぐえません。実験的過ぎるわけでもないし、1stに比べたらむしろ直線的なパンクだったりするのですが、イマイチ聴いててフックが弱いというか、印象に残らない曲が多いです。むしろ変にポップに寄せようとしている節があって、そこが噛み合わずスベっているのがアイタタタ...という感じ。そんな中で完全にアコースティックに振り切った#9はかなり異彩を放っていて、ある意味この曲が一番コワい。完全に神経切れちゃってます。

 

 というわけで初期作品の中では駄作扱いされたり、バンド初期の勢いを殺したアルバムとして戦犯扱いされることが多い本作ですが、前半はわりと気に入っているので、このクオリティを全編で維持してくれれば...という惜しい1枚ではあります。個人的には次作"Fire Dances"よりは好きかな~というところ。決して胸を張ってオススメはできませんが、かといって切り捨てるにはもったいない内容だと思います。

 

Released Year:1982

Record Label:EG

 

Track Listing

  1. The Hum
  2. Empire Song
  3. We Have Joy
  4. Chop Chop
  5. The Pandys Are Coming
  6. Chapter III
  7. Have A Nice Day
  8. Land Of Milk And Honey
  9. Good Samaritan
10. Dregs

 

 Pick Up!:#1「The Hum」

 この曲は2ndに入ってても違和感なさそう。終始ミドルテンポでじわじわと攻め立てる、いかにも初期KJという呪術的な曲。ズンドコドラムや不穏なシンセの音を組み合わせ、新興宗教の集会を思わせる雰囲気を演出するのも、1つの芸風としてこなれてきた印象がありますね。ジャズさんの詠唱するようかのようなヴォーカルもぴったりフィット。こういう曲にはガナリ声よりもこの歌い方の方が合ってる気がします。あと、この曲と#5はちょっとアラビアンな雰囲気も感じるあたり、後年の"Pandemonium"での作風を予見させるようで興味深いですね。ジャズさんのいう"Pandy"(=Pandemonium)は中近東からやってくるんでしょうか。(あながち間違ってもいないのがアレ...。)

*1:ちなみに、ジャズさんは2012年にも失踪騒ぎを起こしているんですが→https://rockinon.com/news/detail/71724、某掲示板で「Revelations30周年記念失踪www」と言われていたのは流石に笑ってしまいました。

*2:BBCの音楽番組Top of the Popsをはじめ、複数の番組に出演した模様。結局、養蜂家みたいな恰好で顔の見えないモブをシンセの前に立たせ、ドラマーのPaul Fergusonが口パクでヴォーカルを当てるという形で強行突破しています。

2019年に買った新譜

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  音楽好きな人々の年末恒例企画といえば「今年のベストアルバム○○選」ですが、私はそもそも、自分が聴いた中からベスト盤を選出できるほどの数を聞いていないので、単純に「今年自分が購入した新譜」をそのまま列挙したいと思います。そう、これしか買ってないんですよ*1。しかも1つアルバムじゃないのが混じってるし。毎年のように購入する新譜が0枚だった自分からすれば、これでも随分な数なんですが...(言い訳)。あ、順番については自分が購入した順です。リリース順ではないので念のため。

 それにしても全体的に黒い...彩度感ゼロ。

 

①Test Dept. - Disturbance

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 インダストリアル・パーカッションの代名詞的グループによる、約20年ぶりの復活作。ですが、蓋を開けてみれば、初期のような激烈ビートインダストリアルでも、90年代のゴアトランスでもない、意外と真っ当で地味~なボディ。彼らのキャリア中でも、ここまでEBMに近い音を鳴らしていたことは無かったんじゃないかという程です。ほとばしる熱量や派手な装飾も無いストイックな造りなのであまり評判は良くなかったようですが、これはこれでなかなか。個人的にゴアトランス期の音よりは全然アリです。

 

②Die Klute - Planet Fear

 過去のレビュー記事はこちら。↓

giesl-ejector.hatenablog.com

 当時のTLでは賛否両論だったのでレビューでも長ったらしく色々書いてますが、久々に聞き返しても「やっぱ言うほど悪くないんじゃ...?」という感想でした。飽きやすいし長く聞けるタイプのアルバムではないですが、即効性の塊なのでいつ聞いてもスッと入ってくる感じがします。年末に出たクルップスの新曲よりもこっちのほうが良い気がするなぁ...とか言うと各方面に怒られそうですが*2

 

③Front Line Assembly - Wake Up The Coma

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  KMFDMと並んで現役を守り続ける大御所が、久々にRhys Fulberと組んでEBM路線に帰ってきました。DAFのRobert Görl(!)を始め多くのゲストを招いていますが、中身は相変わらずサイバーで肉厚なボディで統一されています。プロステップ風味のモダンな音使いでありながらオールドスクール感もあり、派手さはないものの安心感のある仕上がり。アルバム終盤のメロウな展開も良いですね。そんな中、カヴァー曲の"Rock Me Amadeus"は完全に今風のヒップホップで度肝を抜かれます。言われなきゃFLAが演ってるとは気付かないレベル(笑)。アルバムのランニングタイムは長すぎるしつまらない曲もあるんですが、それでもこの内容は90年代のFLAファンにも勧められるクオリティと思います。

  

④THE XXXXXX - THE XXXXXX

  過去のレビュー記事はこちら。↓

giesl-ejector.hatenablog.com

ソフバのようでソフバじゃない、少しソフバなバンド」。今年upしたレビューの中ではダントツにアクセス数が多かったですね。やはりイケメン俳優はファン層が厚い。

 

⑤V.A. - Industrial Accident: The Story Of Wax Trax! Records

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  2018年に公開された、Wax Trax!のドキュメンタリー映画サウンドトラック。選曲に関しては既出曲3割・既出曲の未発表バージョン3割・完全未発表曲3割、という感じで無難にまとめていると思います。ミニストリー・リヴコ等、アルさん絡みの曲は安定の外れなしで流石といったところですが、バーカー兄弟による終盤の謎スコア曲はどうしようもなく退屈で、この辺り対照的です。個人的にはリヴコの未発表曲と、「Black Box」以来のCD化となる、Fini Tribeの"I Want More"を聞けたのが良かったです。後者のファニーなポップさはかなり個性的。

 

⑥Numb - Mortal Geometry

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  ある意味で今年一番衝撃的だったニュースは、このNumbの活動再開&新作発表でしょう。20年もの間沈黙を守っていたDon Gordonがどういう音を出してくるか、期待半分・不安半分だったんですが、出来上がった新作を聴くと...うーん何とも言えない。基本的にはFLAを彷彿とさせる今風のEBM路線で、丸々一枚エレクトロニカ、或いはダークアンビエントでなかったという点では一安心。ただ、かつての最大の特徴だったあの強烈なノイズ処理がほぼゼロなんですね。楽曲を聴いていると、きちんとダンサブルでノレる展開もあるし、インスト曲では昔から一貫している陰湿で邪悪なエッセンスを見せてくれるので、もう少しだけでもハーシュだったら...と思わずにはいられません。ただ楽曲の基礎の部分は悪くないので、あとは味付けの問題。とりあえずカナダにいようがベトナムにいようが*3、Don Gordonはこういう作品を作れるということは判ったので、願わくばこのまま活動を続けてほしいところ。できればConan HunterかDavid Collingsもベトナムに呼んでくれたら*4言うことないですね!(無茶振り)

 

⑦Drab Majesty - Modern Mirror

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  LA出身のニューウェイブ/ダークウェイブユニットの3rdアルバム。このグループは全然知らなかったんですが、TL上でいろんな方が絶賛されているのを見て"Ellipsis"を試聴したところ、イントロで一発KOされて購入。最近はこの手のダークウェイブのリバイバルが盛んなようですが、その中でも飛びっきり爽やかでポップな(それでいてきちんと暗くて哀愁もある)所が気に入りました。ギターの雰囲気がまんまキュアーのそれなのも、キュアー好きには堪りませんね。80年代への敬愛を感じさせつつ、単なる物真似に終わらない楽曲の個性とクオリティに圧倒されます。いやホント名盤ですよコレは。ダントツで今年のベストアルバム。

 

⑧Tempers - Private Life

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 こちらはNY出身のダークシンセポップデュオの3rdアルバム。Drab Majestyは素晴らしかったし、彼らが所属するDais Recordsにはインダストリアル系のYouth CodeやHIDE(X JAPANのhideではない)も所属しているということで、このレーベルで他にも何か面白い連中はいないかと探していて見つけたグループ。Drab Majesty同様に80年代風の音作りが光るんですが、こちらはゆっくり水の中に沈んでいくような、スローでムーディな雰囲気。温かみのあるシンセとエコーの効いたヴォーカルが、優しい暗闇に包まれるかのような安心感を与えてくれます。こちらもわりとハマってヘヴィロテしてました。ジャケットの通り、夜に部屋を暗くして聴きたい作品です。

 

番外編:SOFT BALLET - BODY TO BODY 30th Anniversary Remixes

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  これを「新譜」としてカウントするのはどうかと思いますが、Sound & Recording誌のソフバ特集号の付録CD。yukihiro上田剛士砂原良徳による"BODY TO BODY"のリミックスを3曲収録しています。今年はソフバデビュー30周年ということで各方面盛り上がっていましたね。私はアナログ再発もボックスセットもスルーしているミーハーですが、このリミックス盤は結構良かったと思います。3曲ともリミキサー各人の趣向が(いい意味で)はっきり別れていたのが、かつてのソフバ三者三様振りを見ているようで興味深かったですね*5。 

 

 

 今年は上記作品以外にも、ベテラン勢ではCubanateやcEvin KeyのDownload、そしてRammstein・KMFDM・Die Kruppsといったゲルマン組、Skold等が新譜を発表していましたね。Downloadはともかく、その他のインダストリアルロックはそこまでピンと来なかったかな...。決して彼らのクオリティが低いとは思いませんが、自分は単純にEBMやポストパンク寄りの音が好きなので、申し訳程度に電気処理が施されたメタルにはあまり惹かれないというのが本音かもしれません。あと、若手では前述のHIDE(X JAPANではない)も新作を出していた模様ですが、これについては去年出ていた1stの方が気に入ったのでそっちを買ってしまいました。なので今回は取り上げてません。

 

   とりあえず総括ということでざっと書いてみましたが、やっぱり良かった作品についてはきちんとフルのレビューを書いてあげないといけませんね。書こう書こうと思いつつ時間ばかりが過ぎてしまってよくない...。

 

 TLを見ていた方は薄々気付かれたかもしれませんが、今年度から定期的に収入が入る身分になりまして、それに伴って色々と生活環境が変わった一年でした。ブログの方も途中空白がかなり空いてしまいましたが、できれば最低でも月1ペースを維持したい...とは思っています。語彙力はいつまで経っても向上する気配がありませんが、こんな旧態依然としたブログでも、今後ともお付き合いいただければ幸いです。では、よいお年を~

*1:ちなみに旧譜は100枚くらい買ってました。積んでいるのも多いんですけど...。

*2:私はあの演歌くさい野暮ったさが苦手なので...。この辺はどっちが優れているとかではなく単純に好みの問題ですね。

*3:クレジットを見ると"RECORDED AT HO CHI MINH CITY"の文字列が...。

*4:今作ではDon Gordon自らがVo.をとっています。

*5:と、当時を知らない私が言うのもアレなんですが。

Foetus - Thaw

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 言わずと知れたインダストリアル界の帝王、Foetusの5thアルバム。80年代のフィータスはアルバムごとに意味もなく名義を変えてくるのが特徴ですが、本作は"Foetus Interruptus"名義となっています。あと、ジャケ裏に書かれた「手にしたその日から、誰にだって、プロ感覚でシンセが弾けるようになる、画期的なシンセ講座ができたんだ!!」は、インダス界隈では知らない人はいない名文(迷文?)です。

 

 フィータスやKMFDMなど、作品ごとのアートワークが似通っていて且つ多作なグループは、どの作品から入ればいいのかよくわからん...というのはよくある話。少なくとも私はそうでした。特に、"Angst"以降なら大体どこから入っても大丈夫なKMFDMと違い、フィータスはアルバムごとのカラーがわりと違うので、入り口の選定は重要かと。

 

 で、ここからは私の個人的な印象ですが、「NIN等の90年代インダストリアル勢がリスペクトする存在」という流れで聴く場合、この"Thaw"が一番「繋がりが判り易い」という意味でとっつきやすいのではないかと思っていたり。それは本作が、音質的にもメンタル的にも、80年代の作品中では最も"へヴィ"だからです。

 

 80年代中期にロンドンからニューヨークに移住したJ.G.Thirlwellは、Swans、Sonic Youth、Lydia LunchといったNY地下シーンのミュージシャンと交流を深めていき、様々なサイドプロジェクトで作品を生み出しました。その中でも、初期SwansのドラマーだったRoli Moshimannとタッグを組んだWisebloodは彼自身にとってもインパクトが大きかったようで*1、ここで獲得した"反復する鉄骨ビート"という要素は、その後本家Foetusの音楽性にも逆輸入されていきました。特に87年発表のアルバム未収録シングル"Ramrod"*2などにその傾向は顕著ですね。

 

 そういった背景もあり、本作は以前の作品に比べ圧倒的に低音域が補強され、よりグル―ヴィに聴かせる楽曲が増えています。これに関しては#1に代表される強靭なビートの導入に加え、ベースが生演奏*3にシフトしたのが大きいと思っていて、特に#4,10ではベースラインが曲の中心となり、単独で大きく前に出るパートもあるほど。初期のフィータスはサンプラー主体ということもあってか、高音寄りのガチャガチャとした音がメインで低音域はわりとスカスカな印象があったのですが、今作ではその軽さが完全に払拭されています。以前の作品に比べて音質がだいぶクリアになっているのも高ポイントですね。これが音質面でのへヴィネス。

 

 さらに、もう一つ注目したいのがJ.G.Thirlwellの歌唱法。これまでの彼の歌い方はどちらかといえばコミカル・ユーモアな面があって、満面の笑みでナイフを振り回しているような雰囲気*4でしたが、このアルバム辺りから、低音でドスを利かせつつ唸りをあげるような歌い方をするようになっていきます。その表情からは完全に笑いが消えていて、100%真顔でブチ切れる狂人そのもの。世の常、普段ニコニコしてる人が真顔になったときほど怖いものはないんですよね...*5。加えて、猟奇殺人の現場に立ち入ったかのような戦慄的な不協和音が鳴らされる#2,6,8といったインスト曲も、このアルバムの危険な緊張感をさらに高めています。こうした病的な凶暴さは、前述したNY地下シーンのバンド群に影響された部分もあるのかもしれません。これがメンタル面でのへヴィネス。

 

  こうした2つの面でのへヴィネスが噛み合わさることによって、今までになく凄みの効いた仕上がりになった本作。お家芸の過剰なサウンドコラージュもますます冴えわたり、一つの到達点を迎えたことは間違いありません。しかし、今までの進化をここで突き詰めてしまった結果、以降のスタジオ盤ではこれを超える過激さを生み出せず、しばし迷走することとなってしまいます...。まぁ逆に捉えれば、本人ですらも越えられなかった強烈なテンションを封じ込めた作品とも言えるわけで。名盤と名高い"Hole"、"Nail"の影に隠れがちですが、決してそれらに劣らない魅力を持つ名作です。

 

Released Year:1988

Record Label:Self Immolation, Some Bizzare

 

Track Listing

  1. Don't Hide It Provide It
  2. Asbestos
  3. Fin
  4. English Faggot / Nothin Man
  5. Hauss-On-Fah
  6. Fratricide Pastorale
  7. The Dipsomaniac Kiss
  8. Barbedwire Tumbleweed
  9. ¡Chingada!
10. A Prayer For My Death

 

 Pick Up!:#4「English Faggot / Nothin Man」

  フィータスお得意の静→動の転換を、最も過剰に・鮮やかに描き出していると思う1曲。実際、この後のライブではしばらく定番曲になっていました。夜の路地裏を思わせる不穏な導入部から、マシンガンのように打ち出されるビートを合図に加速し始める瞬間が最高。さらに最後のオケヒット連打が笑っちゃうほど凄まじい迫力で、あまりのやり過ぎ感に圧倒されます。粘着質なストーカーの脅迫文を思わせる歌詞が普通に怖いんですが、これは実際にJ.G.Thirlwellに掛かってきた電話をモチーフにしているそうです*6。この鬱屈としたブチ切れ感は、そのままNINに引き継がれていますね。

*1:ワンオフの活動に留まらずシングル2枚・アルバム1枚を発表し、Wiseblood名義でライブも行っていたことを考えれば、彼がこのプロジェクトにそれなりの手応えを感じていたのは間違いないと思います。

*2:のちにコンピレーションアルバムの"Sink"に収録。

*3:本当に生ならThirlwell自身が弾いていることになるんですが...。

*4:ネットで昔から知られているフィータスの動画といえば、"Wash It All Off"にドナルドをフィーチャーした音MADがありますが、まさにああいうジョーカーみたいなピエロのイメージ。

*5:またしてもジョーカーネタですが、「ダークナイト」の脅迫ビデオシーンの"LOOK AT ME!!"に震えあがった人には判ってもらえるかと。

*6:英語版wiki参照。→https://en.wikipedia.org/wiki/Thaw_(Foetus_album)

THE XXXXXX - THE XXXXXX

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  山田孝之綾野剛内田朝陽という著名俳優3名によって結成されたバンド、THE XXXXXX(ザ・シックス)の1stアルバム。

 

 このバンドに出会ったきっかけは、ある日TLに流れてきた「ソフバにそっくり!」というツイート。そこに貼られていた#5のMVを見て「本当だwww」となり購入してみたんですが、これが単なるネタ枠に留まらない良作でした。

 

 あえて言ってしまえば「SOFT BALLETBUCK-TICK、THE YELLOW MONKEYSの最大公約数を取って、モダンなEDMでコーティングしたような」音。細部を見てみるとそこまで似てるわけでもないんですが、聞いた後はなぜかそういったバンドの印象が頭に残ります。ただこれは、音楽性に対しての(良い意味での)比喩であって、楽曲そのものは凡庸なフォロワーに留まらないハイクオリティなものです。というか、本当に俳優3人だけでコレ作ったの?と問い詰めたくなるレベル。

 

 前述のように特定のバンド・ジャンルを連想させる内容でありながら、本人たちとしては率直にロックをやろうと思ってレコーディングに取り組んでいたようで、その結果出力されたものがコレ、というのが非常に面白いですね。普通はラッドとかマンウィズのような感じになりそうな気もするし、その方が受けも狙えたと思うんですが...。とはいえ、アゲアゲ()のEDMあるいはアンビエントに寄りすぎて個人的にイマイチだった近年のminus(-)に比べ、エレクトニック主体でありながら明らかに「ロック」を志向したこのバンドの音は、自分の中にスッと入ってきた感があります。

 

 歌詞に関しては、「意味のない、ナンセンスなもの」という本人たちの言葉があるように、一聴しただけでは意味を図りかねるものが多いです。難解...というよりも不思議系、イメージ先行型といったところでしょうか。その一方で、管理社会を連想する#1、反戦的な#2、どことなく芸能界の闇を匂わす#7など、明らかに特定のメッセージ性を感じるものもあり、必ずしもナンセンスなだけではないようです。とにかく全体的に醒めた感覚があり、説教臭くない、押しつけがましくないところが好印象。これら歌詞も含め、耳触りの良いポップさ・ライブ映えしそうなノリの良さと、時折顔を覗かせるドロッとしたダークさのバランス感覚に優れた作品です。

 

 正直、今の邦楽シーンにおいて一部の現役ベテラン勢以外からこういった路線の音が飛び出すとは思ってもいなかったので、このアルバムがミーハーなファン*1に浸透していく様子をネット上で観測できるのはなかなか痛快です。ライブをやり終わってからバンド活動は一段落している様子ですが、是非とも活動を続けてもらってまた新曲を聴かせて欲しいですね。(3人のスケジュールを考えると難しそうではありますが...。)

 

Released Year:2019

Record Label:(self released)

 

Track Listing

  1. seeds (Remastered)
  2. horizon bloom
  3. second hand
  4. zealot (Remastered)
  5. チート
  6. amber 1800
  7. tut-tut
  8. 冷静に暴れていこうか
  9. end starter 

 

 Pick Up!:#9「end starter」

  アルバムの〆はミッドテンポの壮大な曲。無人の海岸や荒野を連想させるSEから始まり、重厚なドラムとエスニックな音のキーボード、そして達観したようなヴォーカルの組み合わせが何とも冷たく心地よいです。少しづつ音を重ねていきながらも熱を帯びずむしろ沈んでいくような曲調は、ちょっと"The Fragile"の頃のNINを連想させる部分も。とはいっても、あそこまでの希死念慮は見受けられず、最後のファルセットで繰り返される「愚かに生きよう」というフレーズは、諦観の混ざった力強さすら感じますね。

*1:音楽オタクではない普通の人」という意味合いで、あえてこういう書き方をしてます。