Killing Joke - Pandemonium

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Released Year:1994

Record Label:Butterfly Records, Zoo Entertainment

 

Track Listing

  1.Pandemonium

  2.Exorcism

  3.Millennium

  4.Communion

  5.Black Moon

  6.Labyrinth

  7.Jana

  8.Whiteout

  9.Pleasures Of The Flesh

10.Mathematics Of Chaos

 

 イギリスのポストパンクバンドの9thアルバム。


 デビューから10年近く活動を続けてきた彼らも、80年代末にはメンバーの相次ぐ離脱など色々あって活動休止を迎えます。その後1990年にはMartin Atkinsをドラムに招いて1度復活しますが、すぐにまた沈黙。4年のブランクを経て再び表舞台に姿を現した復帰作が、今回紹介するアルバムになります。

 

 本作では1982年の脱退以来12年ぶりに、オリジナルメンバーのYouthがベースに復帰。KJ離脱後はAlex PatersonとThe Orbを始めたり、Dragonflyというレーベルを立ち上げてゴアトランスの布教に力を注いできただけあって、本作にもトランス的なエレクトロニクスが導入されています。また楽曲のへヴィネスも大幅に増加。90年代に入り世界的なインダストリアルメタル・ブームが到来したことで、さまざまな若手バンドがKJの影響を公言するようになったためでしょうか。明らかに時流のインメタを意識した音作りで、アルバム冒頭の3曲ではMinistryと肩を並べるほどの重量感を、#10,12ではKMFDMばりのダンサブルさを披露しています。結果的に、へヴィ路線回帰の兆候を見せつつもやや無理をしている感があった前作に比べ、より自然なスタイルで往年の緊張感を取り戻すことに成功しているのではないでしょうか。

 

 一方で#5,7では、80年代中期以降に獲得したメロディアスな面もきちんと昇華しており、アルバム上でのいい箸休めとなっています。その他、#4,6では当時ジャズさんが傾倒していたらしいアラビア音楽の要素も導入*1。初期とはまた違った呪術的空気を盛り込んでいます。こうした貪欲なジャンル吸収の結果、トランス+メタル+アラビア音楽という、何ともカオスで独自の音像が完成(当時の日本盤の煽り文句は「デジタル暗黒舞踏」だったらしい)。基本的に同じフレーズの反復が続くので、トランス同様の酩酊感もあるのですが、一方でどことなく影があるのも特徴的。一般的なトランスはやはりクラブ向けでアッパーな雰囲気がありますが、ポストパンク出身の彼らが奏でるトランスはやはりダークさがぬぐえず、そこがまた独特の味になっています。

 

 そもそも彼らの初期の音楽性は、テクニック不足から来る同一フレーズの反復が持ち味だったわけで、トランスというジャンルも元をたどれば彼ら自身が原点の1つだったりします*2。乱暴な言い方をしてしまえば、初期KJの反復性をエレクトロ的な方向で(Youthが)発展させたものがトランス、ロック的な方向で(後発バンドが)発展させたものがインダストリアルメタルとも解釈できるわけで、本作はバンドの影響下に生まれたジャンルを逆輸入することで形作られたものと言えるでしょう。

 

 そうそう、タイトルトラックの#1ですが、US盤とUK盤でバージョンが異なっています。どうもUS盤バージョンがオリジナルで、UK盤バージョンはCybersankによるリミックス...という扱いらしい(ちなみに#3もCybersankによるリミックス)。前者ではわりとポストパンク的なジャリジャリしたギターリフだったのが、後者では刻みのはっきりとしたメタリックなリフに変化しており、違いは瞭然。聴き比べるとなかなか興味深いです。このCybersankという人、調べてみるとPeace, Love & PitbullsやShotgun Messiahといったインダストリアルメタルバンドのプロデュースも手がけていて、なるほどと頷かされたり。この人の手腕があったからこそ、大きくインメタ路線に踏み込めたのかもしれませんね。

 

 今までのKJの変遷から各バンドメンバーの音楽性までもを取り込んだ、彼らの1つの到達点であり集大成。実際、これ以降の彼らの作品の雛形になっている節もあります(焼き直しとか言わない)。"インダストリアルメタルの原典"という側面で彼らに関心を持った方は、下手に初期の作品を買うよりもとりあえず本作を押さえておけばOKですし、入っていき易いかと思います。いずれにしても必聴の充実作!

 

 Pick Up!:#2「Exorcism」

  必殺のリフが9分ひたすら続く、デジタル暗黒舞踏ここに極まれり!な1曲。ジャズさんのアジテーションも最高潮で、いつめより多めにむせております。むせることを歌唱に取り入れて成立するのもこの人ぐらいじゃないでしょうか。ちなみに、この曲はあのギザの大ピラミッドの王の間で録音されたらしいです。これを最初に提案したのはYouthらしいのですが、さすがのジャズさんも「こいつ頭おかしいんじゃないかと思った」*3そうな。

*1:ジャズさんは1991年に"Anne Dudley And Jaz Coleman"名義で、中近東風インスト作品(なんだそりゃ)を発表するなどしています。

*2:YouthはAlex Paterson以外にも、Ben Watkins(Juno Reactor)やJimmy Cauty(KLF)とも交流を持ってたりします。さらに言えば、Alex PatersonはKJのローディーをやってた過去があったり。

*3:その辺の詳しいいきさつはコチラ→https://www.loudersound.com/features/killing-joke-inside-the-great-pyramid-at-gizaに。

Fad Gadget - Gag

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Released Year:1984

Record Label:Mute

 

Track Listing

  1.Ideal World

  2.Collapsing New People

  3.Sleep

  4.Stand Up

  5.Speak To Me

  6.One Man's Meat

  7.The Ring

  8.Jump

  9.Ad Nauseam

 

 イギリスのアーティスト、Frank Toveyによるソロプロジェクトの4thアルバム。

 

 このFad GadgetはMute Recordsが最初に契約したアーティストであり、初期Muteとは切っても切り離せない関係にあったようで、レーベルの歴史を振り返るようなコンピには必ず名前を連ねています。音源製作を始めた頃はオーナーのDaniel Millerとも共同作業をしていた模様。

 

 音楽性はなかなか形容しがたいのですが、強いて言えば初期Depeche ModeとNeubautenを足してヴォーカルにPeter Murphyを招いたような音、といったところでしょうか(説明になっていない...)。感覚としてはノイバウテンをサンプリングしてインダストリアルに接近したDMの3rd~4thに近いのですが、David Bowie直系のダンディなヴォーカルも相まって、あちらよりもややダークでシニカルな印象を受けます。あくまでエレクトロ中心だったDMに比べて、よりポストパンク的・ロック的なビート感を持っているのも相違点として挙げられるかと。

 

 特に、今回取り上げたアルバムでは本格的にバンド編成での録音を行ったようで、以前の音源と比べ音が分厚く、重厚に変化しました。ギターや女声コーラスも大きくフィーチャーされ、もはや単なるシンセポップから逸脱しています。後のNIN等とは全く異なる文脈の音ですが、ある意味インダストリアル・ロックの元祖と言えないこともないかもしれません。ちなみに、#2はずばりノイバウテンとの共作となっており、ジャンクな金属音がふんだんに使われています。

(2018.10.23 追記)ノイバウテンが直接参加したのは、この曲の12"mixである"Collapsing New People (Berlin Mix)"だった模様。このアルバムのレコーディングはベルリンのHansa Tonstudioで行われたのですが、同時期に同じスタジオでレコーディングをしていたノイバウテンの音楽性に興味を示したFrank Toveyが、リスペクトを込めて彼らのサンプリングを使用し"Collapsing New People"のアルバム版を製作。その後、この曲をシングルカットするにあたって12"mixを作製する際、Frank Toveyがノイバウテン側に共演を申し込み、先述の"(Berlin Mix)"とB面曲"Spoil The Child"を録音した...というのが実際の経緯のようです。こういうのはきちんと調べてから書かないとダメですね...反省。

 

 このように、随所に金属音やノイズなどを挟みつつ、基本的なメロディはポップで親しみやすいという、絶妙なバランスが聴き所。「音はかっこいいけど曲が弱い」というケースが散見されるこの手の音楽の中で、このセンスは他の追従を許さない部分があるかと思います。シンセサイザーという新たなツールがようやく普及し始めた頃に、ただの商業的なポップスでも過激なインダストリアルでもなく、その両者を融合させた"実験的なポップス"を鳴らしていたところに、この人の独自性があったのでしょう。先に挙げたDMの3rd~4thにおける音作りは、こうしたFad Gadgetの方法論を参考にしたのではないかと思っています。実際サンプリングネタとしても使っていますしね*1

 

 80年代のインダストリアルに関心はあるけれど、どうも難解で取っつきにくい...と思っている方は、このFad Gadget辺りから入ってみるのもいいかもしれません。あとDavid BowieやBauhausのような低音ヴォーカルが好きな人にもおすすめ。

 

Pick Up!:#3「Sleep」

 物悲しいピアノと鉄琴の音が印象的な、しっとりと聴かせる系の曲。困窮する家庭を歌った歌詞が泣かせます。"Don't you do as I do, Do as I say"のリフレインが刺さる...。こういった斜に構えたような歌詞も、Frank Toveyというアーティストの特色と言えるでしょう。赤ん坊の声のサンプリングは一周回って不気味ですが。

*1:石野卓球氏のインタビューhttp://www.sonymusic.co.jp/artist/depechemode/info/439127によれば、Frank ToveyはDM側が楽曲を勝手にサンプリングしたことについてかなり怒っていたようです。

Dive - First Album

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Released Year:1992

Record Label:Minus Habens Records

 

Track Listing

  1.Infected

  2.There's No Hope

  3.Dead Or Alive

  4.Right

  5.So Hard

  6.Attack

  7.Turn Me On

  8.Run

  9.Ghostcity

10.31

11.Menticide

12.Nightshift

13.Burning Skin

14.Eye Of The Past

15.Back To Back

16.Timezone

17.Shadows Of You

18.Sparks

 

 ベルギーのアーティストDirk Ivensによるソロ・プロジェクトの1stアルバム。元はセルフタイトルアルバム"Dive"として1990年にLPのみ発売されていたものに、未発表曲(#12~18)を追加してCD化されたもので、アートワークも変更されています。

 

 このDirk Ivensという人は、1980年代前半からAbsolute Body Control(略してABC)やThe Klinikというユニットで活動しているベテランで、現在もDive名義で活動*1しているほか、自身で複数のレーベルも運営しています。その関係で、この辺のアーティストのクレジットを見ていると、結構な頻度でサンクス欄に名前が挙がっていたりして、まさにベルジャンEBM・インダストリアルの重鎮。

 

 EBM最盛期の80年代後半にはFront 242をさらにミニマルでダークにしたような暗黒ボディを展開していたThe Klinikですが、Dirk Ivensは方向性の違いから1990年にグループを離脱。新たにこのDiveを始めたわけですが、これがまた強烈な音となっています。反復されるビートの上をダミ声ヴォーカルががなる...というのはその他のEBMグループと同じですが、決定的に違うのはその音質。ドラムからシンセベースからヴォーカルまで、全ての音が腹に響くような重低音。しかも原型を留めないほど過剰なエフェクトがかけられており、一瞬再生機器がぶっ壊れてるんじゃないかと疑いたくなります。スネアの割れ方とか、まさに壊れたスピーカーから聞こえてきそうな音。曲によっては早々ビートすらも放棄していて、ただのハーシュノイズになってます。これは確かにKlinikとはまったくの別物で、袂を別ったのもうなずけますね。

 

 あと、Klinik時代はわりと線の細い音作りをする印象でしたが、このDiveはもっと太くて破壊的。それでいて曲構成は相変わらずミニマルなので、却って脅迫的な効果が高まっています。それもダンスミュージック的な反復というより、ただただキックをループしてるだけといった趣で、はなから踊らせることなど眼中にない様子。一作目ということもあってか、初期衝動をそのままぶつけたかのように直情的で、それぞれの曲もワンアイディアで突っ走ってる印象があります。その上デス声で「There's No Hope...!」と絶望的なオブセッションを聴かされ続けた暁にはもう...屋上からDive To Blueするしかないですね(?)

  

 少なくとも90年代初頭の時点でほかに類を見なかったこの音作りは、その後EBMやインダストリアルメタルとはまた別に、リズミック・ノイズあるいはテクノイズなどと呼ばれるジャンルへと発展したようです。確かにこのビート感はわりと非ロック的というか、ライブなんかで盛り上がるにはあまりにもミニマルすぎる気がして、どちらかというとテクノ寄りの作りだなと感じます。ちなみに、本人もその後Sonarという別ユニットを立ち上げますが、そちらはさらに強烈なノイズを用いた、より後発のテクノイズに近いスタイルとなっています。それに比べてこのDiveはもっとダークで沈んでいるというか、ドロドロした生々しさが残っているのが特徴と言えるかも。あと、本作で聴ける「聴こえる音全部割れてます」というノイジーなスタイルは、:wumpscut:やSuicide Commandoなど、一部のダークエレクトロ勢が逆輸入して取り入れていますね。

 

 初期インダストリアル組の持っていたミニマルでダークな情景を、EBM以降のテクノロジーで再構成した暗黒ビート・インダストリアル。同じ「ぶっ壊れ系インダストリアル」でも、Skinny Puppyやその影響下にあるアーティストはそれなりに彩度のある音を鳴らしてますが、このDiveはジャケの通りひたすらモノクロームな世界観です。よく言えばストイック、悪く言えば単調...。TGやSPKなどと同じく、聴き手を突き放してくるタイプの音楽なので、人によっては聴くのが辛いと思われるのが難点でしょうか。

 

 あと他のベルギー産EBMと同じく、そもそもCDが非常に入手困難です。私も先日、某所でこれを発見した時は自分の目を疑いましたし...。興味がある方は、今ならダウンロード販売でも初期シングルなどをまとめた形で購入できるので、そちらでの入手をお勧めします。

 

Pick Up!:#3「Dead Or Alive

 以前弊ブログで紹介したAntler-Subwayのコンピにも収録されていて、そこで初めて耳にした曲。明らかに他のボディ系とは違う、ズシンズシンとした音に「何だこれは?」となったのを覚えています。単調な曲が多い本作の中においては、一番躍動感がある曲かも。あと歌詞もわりと凶悪というか、タイトル通り殺伐としてます。

*1:今年の6月には約20年ぶりに来日公演もおこなった様子。行けなかったのが残念...。

Numb - Death On The Installment Plan

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 3rdアルバム。前作発表後、Dave HalとBlair Dobsonが抜け、新しいヴォーカルとしてConan Hunterが加入。2人組のユニット体制になりました。このアルバムからベルギーのKK Recordsと契約しており、以後しばらくはヨーロッパでのリリースをKKが持つことになります。アメリカではRe-constriction Recordsからリリースされました。

 

 このアルバムを一言で表すとすれば、EBM・メタル・そしてリズミックノイズの三位一体。#1から暴走気味のビートと音圧のおかしいノイズに度肝を抜かれ、そのまま流れるようにダンサブルな#2へ。この2曲だけで完全に持ってかれます。その後も、変則的な曲展開を織り交ぜた中速ビートを基本に、嵐のようなノイズとサンプリングが唸り、邪悪なヴォーカルが呪詛を吐き捨てる悪夢的な世界が展開されます。その様はまるで、火山からあふれ出るマグマか、あるいは溶鉱炉で溶けた鉄のよう。ドロドロしてて、触れたもの全てをじわじわと焼き尽くしていくような、そんなイメージ。使っている音は無機質なのに、ネガティブな人間味に溢れているというか、強烈な負の感情を感じる音です。

 

 また、随所で歪んだギターノイズも導入され、攻撃的な雰囲気の構築に一役買っています。Skinny Puppyの6thや7thのように、もはやEBMの範疇に収めておくのが馬鹿馬鹿しくなるようなサウンドですね。元々このグループは、EBMらしからぬ特有のダイナミクスというか、「静から動への極端な転換」を持ち味としていたところがありますが、その路線が完成されたのがこのアルバムだと思っています。

 #6のようにギターが前面に出た比較的とっつきやすい曲もありますが、全体的にはへヴィな内容なので、やや聴く人を選ぶかも。難解というよりも、アルバム1枚聴き通すとその悪意に圧倒されぐったり...といった感じ。しかし、彼らの最高傑作と称される本昨、マスターピースであることは間違いありません。ぶっ壊れた音に飢えている人には超お勧めです。私は何度も聴いてるうちに耳が麻痺(Numb)してきて、最近ではこれぐらい壊れてないと満足できなくなってしまいました。もうダメかもしれない。

 

Released Year:1993

Record Label:KK Records, Re-constriction Records

 

Track Listing

  1. Violence
  2. Hole
  3. Curse
  4. Trial
  5. Painless
  6. Right...
  7. Shithammer
  8. A Dead Place
  9. Decay Of The Angel
10. Headcrash
11. Fugue
12. Revenant

 

 Pick Up!:#7「Shithammer」

 アルバム中盤のハイライトであり、今作中最も怨念に溢れた1曲。文字通りハンマーの如く、1音1音を叩きつけて来るような重厚なビートが堪能できます。あと個人的に、ヴォーカルの「シシシシィッッットハマー!」の引きずるような吐き捨て方がイイ! 気分が最低な時のBGMとしてこれ以上のものはありません。

Skinny Puppy - 12 Inch Anthology

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Released Year:1990

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Dig It

  2.The Choke (Re-Grip)

  3.Addiction (First Dose)

  4.Deep Down Trauma Hounds (Remix)

  5.Serpents

  6.Chainsaw

  7.Assimilate (R23 Remix)

  8.Stairs And Flowers (Def Wish Mix)

  9.Stairs And Flowers (Too Far Gone)

10.Testure (12" Version)

 

 タイトル通り、彼らの初期シングルの音源を纏めたコンピレーションアルバム。内訳を時代順に示しますと、#1,2が"Dig It"、#6~9が"Chainsaw/Stairs And Flowers"、#3,4が"Addiction"、#5,10が"Testure"からの収録となっています。各シングルからは収録時間の関係でいくつかオミットされている音源もありますが、それらは別のコンピレーションやオリジナルアルバムのボートラで聴くことが可能です*1

  

 まず個人的に注目したいのは#2,7の2曲。どちらもシングルのB面だった1stアルバム収録曲のリミックスですが、オリジナルを大きく上回る完成度。アレンジの大幅な変更はないものの、ヴォーカルの迫力やバックトラックの分厚さが向上し、やや控えめだった原曲の線の細さが改善されています。特に#7は、終盤での"Dead!"連呼が素晴らしくカッコいい。

 

 シングル"Addiction"からの2曲では、リミキサー/エンジニアリングにAdrian Sherwoodが参加しており、ダブ解釈されたパピーの音を聞くことができます。後の"Testure"に通じる哀愁を漂わせる#3は、"Mind~"に収録された"Addiction (Second Dose)"と聞き比べるのもまた一興。First Doseがメタルパーカッションやキラキラシンセを強調した、ある種パピーらしいシャープな音であるのに対し、Second DoseはOn-Uらしいモッサリとした、Tackhead的な音となっています。わりと大人しめな仕上がりなので、個人的にはもっとズタズタにしちゃっても良かった気はしますが...。

 

 #4は原曲の強迫的なドラムを抑え、飛び交うノイズやたまに顔を出すメロディアスなフレーズなど、曲に仕込まれた各種ギミックがより捉えやすい仕上がり。3rdアルバム自体、全体的に古典ホラー映画チックな印象が強かったですが、この曲はそのカラーを最も突き詰めた仕上がりと言えるかも。ちなみに、"Mind~"収録版ではアウトロに映画だかテレビショーのサンプリングが挿入されていましたが、こちらのコンピではなぜかカットされています。

 

 一方で、"Stairs And Flowers"のリミックスは正直退屈。新たに加えられたシンセベースのフレーズは嫌いじゃないですが、派手なノイズや強力なビートも無く、ヴォーカルも時々呻いたりするだけなのでフックに乏しいです。大して差異がないバージョン違いが2曲連続するのも、余計退屈さに拍車をかけているような。文字通りチェーンソーの音をサンプリングした#6も、2ndアルバムと3rdアルバムの過渡期のような雰囲気の曲ではありますが、ちょっと地味かも。

 

 そんな感じで捨て曲なし!とまでは言いませんが、シングル以外ではここでしか聴けない曲(#3,8,10)もあり、また内容としても初期ベスト的なものになっているので、ファンとしてはそれなりに見逃せないものと言えるでしょう。個人的には、中期から遡って聴く場合、下手にオリジナルアルバムに手を出すよりも、まずこれから聴いた方が良いんじゃないかと思っていたり。

 

 Pick Up!:#10「Testure (12" Version)」

  アルバム収録版は哀愁シンセを前面に押し出したポップ(?)な仕上がりでしたが、こちらのリミックスでは分厚いビートを追加したボディな曲に変貌。この超かっこいいイントロは、Soft Balletの藤井氏が"Spindle"でパクったことでも有名です。さらに全編にわたって生ベースが挿入されており、特に間奏部からの盛り上げに大きく貢献している印象。この手法は後に"Nature's Revenge"でも取り入れられていますね。

*1:特に、同時期のシングル曲をボートラに加えていた"Mind: The Perpetual Intercourse"とは4曲が被るという事態に...。

Skinny Puppy - Cleanse Fold And Manipulate

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Released Year:1987

Record Label:Nettwerk, Capitol Records

 

Track Listing

  1.First Aid

  2.Addiction

  3.Shadow Cast

  4.Draining Faces

  5.The Mourn

  6.Second Tooth

  7.Tear Or Beat

  8.Deep Down Trauma Hounds

  9.Anger

10.Epilogue

 

 3rdアルバム。今作からDwayne Goettelが作曲にも参加しています。このアルバム、各所で「地味、暗い」とネガティブな評判が目に付きますが、個人的にアルバムトータルとしては2ndよりも好きです。前作を「押し」とするならば今作は「引き」。全体的には抑え気味ながらも、要所にきちんとスパイスを効かせた音作りで、曲作りにもかなり手馴れてきた雰囲気。前作で一気に広げた音像を収束・整理した上、ややメロディにとっ付きやすさが戻るなど、1stの頃の路線に揺り戻しがかかった印象があります。


 しかしそのメロは1stほど明るいものではなく、ジャケの通りモノクロの古典ホラー映画を髣髴とさせる雰囲気で、ある意味パピー史上最も「ゴス」に接近したアルバムかもしれません。#1におけるシアトリカルなストリングスの導入にも、そうした傾向を見出すことができます。また、#4,5といったインストも1stの頃のような清涼感は皆無で、くらーい不気味な雰囲気が漂っています。聴いているとあたかも無人の洋館をさまよっているかのような気分を味わえたり。この頃はバンドロゴもホラー映画調のフォントですしね。

 

 ただ、派手に暴れていた前作やこの後の全盛期と比べると、ノイズ成分や発狂ヴォーカルといった要素は控えめなので、物足りなく感じる方が多いのは仕方ないかもしれません。全10曲43分と短め(かつ3曲はインスト)であることも、地味な印象に拍車をかけている節があるような。コレに関しては、他のアルバムでも本来(LP盤)はそれぐらいのボリュームなのですが、ボートラが追加されてるのであまりそう感じないのかもしれません(逆にボートラが無いためにコンパクトにまとまっている点も、自分としては高ポイントなのですが...)。


 でも本作の収録曲、とてもライブ映えするんです。元々の曲構成がシンプルで明快な分、ライブ演奏でも原型を損なわず、むしろライブ特有の荒々しさが際立つように感じられます。初期の彼らは純粋にスタジオでの実験をそのまま音にしているような印象がありましたが、この頃からライブでの再現も念頭に置くようになったのかもしれません。この点については、本作に伴うツアーを音源化したライブ盤のレビューで詳しく触れたいと思います。


 ちなみにこのアルバム、ループ再生すると、#10の最後のノイズが#1のイントロにつながるようになっています。英語ではこういうのを"cyclical album"と呼ぶそうです*1。とはいっても、私が持っているCDでは無音部分が1秒ほどあったので、波形編集ソフトでそれをカットしてようやく切れ目無くつながるようになりましたが。このアルバムからのシングルB面曲まで2ndのボートラにまわされたのは、もしかしてこの構成を考慮してのこと?などと勝手に思っていたり。というわけで、iPodで再生しているとずっとループで聴いていられるアルバムです。

 

 Pick Up!:#4「Draining Faces」

 少々長めのインスト曲。ひたひたと不穏な導入部から徐々にノイズが増え、終盤は偏執的なボディへと変貌しますが、その静から動への転換が見事。途中何度か盛り上がりを作りつつも溜めに溜め、最後にじわーっと音量が上がっていくところはまさに背筋がぞくっとします。これはただのインタールード的なものではなく、むしろA面のハイライトといっても過言ではないかと。後にブレア・ウィッチ・プロジェクトのサントラにも収録されましたが、実に映画の雰囲気に嵌まった選曲といえるでしょう。

*1:Pink Floydの「狂気」なんかが有名でしょうか。

Hilt - Journey To The Center Of The Bowl

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Released Year:1991

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Birdwatcher

  2.950

  3.Superhoney

  4.Way Out There

  5.222

  6.El Diablo

  7.Loudmouth Canyon

  8.Home

  9.314

10.Sandy Feet

11.Never Gonna Fall Again

12.Walkin On Thunder

13.Crazy For You

14.Real Cool Rain

15.World's Goin Down

16.The Ride

 

 Skinny Puppyのサイドプロジェクトの2ndアルバム。彼らのサイドプロジェクトはNivek OgreサイドとcEvin Key & Dwayne Goettelサイドに大別できますが、このグループは後者のパターン。cEvinとDwayneの2人に、Alan Nelsonという人をヴォーカルに加えたトリオ編成です。

 

 これはパピーのサイドプロジェクト全般に言えることですが、彼らの作品からEBM・インダストリアル的な音が聴けることは少なく、そういう音を求める人にこれらの作品はあまりお勧めできません。この辺り、サイドプロジェクトといいながら本家の延長線上にある音を鳴らしていたAl Jourgensenとは対照的です。どちらも半分遊び感覚というか、肩の力を抜いて取り組んでいる点では共通しているんですが。

 

 本作はというと、一言でいえば"サイケデリック・パンク"といったところでしょうか。もちろんドラムの多くは打ち込みですし、独特の歪んだエフェクトなどcEvinとDwayneの仕事だなと思わせる部分はあるのですが、それ以上にサイケなギターとヘロヘロのヴォーカルの印象が強く、いつものパピーからはかけ離れた内容になっています。またオルガンや生のパーカッションも大きくフィーチャーされ、とにかくカラフルで賑やかな印象。いきなり"Rabies"を髣髴とさせるブラストビートが炸裂したかと思えば、急にアコギ中心で爽やかに歌いだしたりと、方向性もバラバラです。意味不明なジャケット通り、とにかく何でもありのラリパッパ状態()

 

 元々このグループは上記の3人が組んでいたパンクバンドが母体となっていることもあり、比較的ロック寄りの音が特徴でしたが、ここまでドラッギーで弛緩した音に変わってしまうとは。この内容については某掲示板で「あれはテキサスサイケだから」と書かれていて、テキサスサイケって何ぞやと調べたら、The 13th Floor Elevatorsとかを指す言葉みたいですね。確かに60年代サイケを髣髴とさせる部分もあるけど、それだけじゃないような...と思っていたら、テキサスサイケでもう1つ、Butthole Surfersがヒットして、あぁなるほどと思わず膝を打ってしまいました。

 

 Butthole Surfersに関しては私も数枚しかアルバムを聴いてないので詳しくは言及できませんが、メタルのようにへヴィなリフ中心の曲がある一方で、レイドバックしたメロディを聞かせる曲もあったりと、とにかく多彩なルーツをドラッグと悪意でコーティングしたような音を鳴らすロックバンド...というイメージがあります。この何でもありのカオスな空気、言われてみると確かにこのアルバムに通じるものがあるような。さすがにGibby Haynesのような圧倒的狂気や悪意は無くて、もっと穏やかな感じですけど。

 

 「テキサスサイケにパンクやメタルを取り込み、90年代オルタナとして復活させた」*1といわれるButthole Surfersの音を、Skinny Puppyのエレクトロニクスを以って再現してしまった異色作。好みは別れそうですが、私は結構好きです。全体的にメロディアスな上、要所にきちんとフックを用意してあるので聞きやすいですし。また、曲間がほとんど繋がってることもあって、一度再生するとずるずる最後まで聞いてしまうというか、こっちの頭までいい感じにネジが緩んできます。インダストリアルよりも、Butthole SurfersやPixiesなどのオルタナ/ロック系が好きな方にお勧め。

 

 Pick Up!:#12「Never Gonna Fall Again」

 このアルバムの中でも特に弛緩しきった、リラックスしたムードの1曲。優しげなアコギと素朴な歌メロが何とも美しい。しかしこのまともに音程の取れていないヘロヘロヴォーカル、ほとんどThe Pastelsの域です。80~90年代のUKロックが好きな人はこういうの気に入るんじゃないでしょうか。晴れた日の午後、昼寝のBGMにすると最高です。