Ministry - In Case You Didn't Feel Like Showing Up/Live Necronomicon

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 Download Festivalでついに25年ぶりの来日が実現…と思いきや、昨今のコロナ禍の煽りを受けてまたしても*1中止となってしまったミニストリーの来日公演。そもそも日本でのフェス出演どころか、本国でのツアー開催*2も難しそうな状況となっており、なかなか厳しい状況です。とにかく今は「Stay Home」が至上命題、ライブやフェスはもってのほかということで…こうなったら出来ることはただ一つ、家でライブ盤を楽しむことだけですね(?)

 

 …というわけで今回は、この界隈なら知らない人はいないであろう、ミニストリーの最強ライブ盤を紹介。89年末~90年に行われた、"The Mind~"発表時のライブを記録したアルバムです。このツアーの音源については、同じ日の公演を記録したものが2種類発売されていますので、その両方を取り上げつつ比較してみたいと思います。

 

 このツアーでは、サンプリングや打ち込みを駆使した非人間的なスタジオ音源を再現するため、総勢10名というプログレバンド並みの大所帯でライブを敢行。結果、凄まじい熱量のライブアルバムが完成してしまいました。Bill RieflinとMartin Atkinsによるツインドラムと、最大4名のクォーター(?)ギターで繰り出される楽曲群は、どれもスタジオ音源を遥かに上回る音圧・迫力。重いというよりとにかく「厚い」です。ひとたびこれを聴いてしまったが最後、原曲なんて聴く気がしなくなってしまいますね(特に3rdの曲)。このライブで会得した音圧と熱量を、そのままスタジオ録音に持ち込んだのが次作"Psalm 69"だと個人的には思っていたり。この頃の彼らは間違いなく、世界最強のインダストリアル・メタルバンドでした*3

 

①In Case You Didn't Feel Like Showing Up (Live)

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 こちらが当初発売されたもの。実際のセトリからサイドプロジェクトの曲はごっそり削除され、随分とコンパクトな曲数になっています*4。VHSも同時にリリースされており、そちらには"Breathe"、"The Land Of Rape And Honey"、そしてビアフラによるスポークンワード"Pledge Of Allegiance"も収録されています。

 

 この作品に関しては、やはりVHSの映像が真骨頂。ただライブの模様を記録したビデオというよりも、PVのように様々なイメージ映像を挿入し、加工を施した*5プロパガンダというべき仕上がり。英語版wiki*6によると、89年12月31日*7と90年2月22日*8の2つの公演を組み合わせて映像を作っていて*9、メンバーもわざわざ服装を揃えて違和感を消しているという徹底ぶりだそう*10。ライブ映像自体にもネガポジ反転のような派手な処理が施されていて、各人の様子や演奏風景を楽しみたい人にとってはこの上なく見辛い映像になっています。しかしながら、この全容を把握できない荒い画質が、いかにもインダストリアルらしい不気味で危険な雰囲気作りに成功しているんですね*11。各所に暴行の様子や火だるまになる観客などが写っていますが、どこまでがフェイクでどこまでがガチなのか、見ていて判らなくなる瞬間が多々あります*12SPK的なインモラルと、メタル的エンタメを高度な次元で融合させた、至極のライブビデオと言えるでしょう。DVD化されていないのが残念ですが、YouTubeで全編見れるのでぜひ一度ご覧あれ。

 

Released Year:1990

Record Label:Sire

 

Track Listing

  1. The Missing
  2. Diety
  3. So What
  4. Burning Inside
  5. Thieves
  6. Stigmata

 

 Pick Up!:#6「Stigmata」

 ライブ本編のクライマックス。アルさんのヴォーカルにもかなり力が入っていて、要所で聞ける狂気的な叫びが強烈です。あと何といっても外せないのは終盤のアジテーションキリスト教徒、仏教徒ユダヤに始まりジョージ(パパ)ブッシュからゴルバチョフまで、全てに中指を立てていく姿は一周回って神々しさすら覚えます。まさに鳥肌もの。

 

②Live Necronomicon

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 で、こっちが2017年に突如リリースされたIn Case~の完全版。こちらは全て90年2月22日の音源で、In Caseでは削られていたサイドプロジェクト等の曲を含め、80分以上に及ぶセットリストをフル収録しています。といいつつ、この日演ったはずのRevolting Cocksの曲"Stainless Steel Providers"は漏れていますが…。これについては、リヴコのシングル"Beers, Steers & Queers (Remixes)"に、"Public Image"と共に収録されています*13。というかこの音源、ミニストリーのライブだったんですね。リヴコのツアー音源かと思ってましたよ*14。あと、ビアフラのスポークンワードもオミットされてます。

 

 音質に関しても当然リマスター済みで、各楽器パートの分離がクリアになっていますが、それ以上に驚くのが演奏そのものの差異。"Breathe"の冒頭ドラムソロに始まり、"The Missing"のイントロとコーラス部分の音程、"Thieves"のヴォーカル処理…本当に同じ音源か!?と問い詰めたくなること請け合いです*15。上でIn Caseは「加工されたプロパガンダ」と書きましたが、映像だけでなく演奏そのものもアルさんによって相当に手を加えられていたことが判ります。それもNINのライブ盤*16のように純然たる音質向上のためではなく、ライブ特有のミスや演奏のブレなどを都合よく修正した、言ってしまえば荒隠しの小細工。特にヴォーカル部分へのイコライジング処理が多い印象です。ヴォーカリストが入れ替わる割には声質が変わらないな~とは思ってたんですけど…。そんなわけで、良くも悪くも当時のバンドのありのままを捉えた、In Caseの伝説…もとい幻想をぶち壊す内容になっています。

 

 特に差が歴然としているのが"Stigmata"で、あのド迫力のパフォーマンスはどこへやら…といった感じです。最後の怒涛のアジテーションも、実際にはそこまで覇気がなくてなんだか興ざめ。もっと酷いのが"The Power Of Lard"で、肝心のビアフラ先生が曲のスピードについてこれず、後半はかなーりグダグダな演奏になってます(苦笑)。まぁLARDの曲はビアフラがゲスト参加した数回の公演でしか披露されていないので、バンドとしてもリハ不足、且つ息が揃わないのは仕方ないとは思うんですが…。これはIn Caseで外したのも納得です。

 

 しかしその一方で、こちらの方が輝きを増している曲も多数あります。中盤のPailheadのカヴァーは原曲超えのカッコよさですし、アンコールの"The Land Of Rape And Honey"では人力のノイジーなサンプリングが加わり、スタジオ盤とはかなり違った表情を楽しむことができます。また"So What"と"Burning Inside"はギターの音が整理されていない分、電ノコのようなリフの生々しさ・殺気が前面に出た仕上がりになっていて最高。In Caseとは迫力が全然違います。"Smothered Hope"と"Thieves"では、ミニストリーの鬼ハードコアな演奏にパピーのOgre兄さんのウゲウゲ声という組み合わせが聴けるだけでもう5000兆点。今やミニストリーの顔ともいえる曲になった"Thieves"も、オーガさんのVo.だとだいぶ印象が違って新鮮ですね。

 

 In Caseという作為的なプロパガンダの裏側を垣間見れるという点で、ファンにとってはかなり興味深い資料ですし、単純なライブ音源としても十分にアピールポイントを持つ内容だと思います。In Caseについても上ではちょっとネガティブな書き方をしてしまいましたが、最終的にカッコいいものが出来上がってるので手を加えたこと自体を批判するつもりは毛頭ありません。結果良ければすべてよし。ということで、両者違った良さがあるのでどちらをお勧めするかはかなり甲乙つけがたいんですが、個人的にはIn Caseを履修してからNecronomiconを聴いた方がより楽しめると思うので、余裕がある方はぜひ両方聴いてみては。

 

Released Year:2017

Record Label:Cleopatra Records

 

Track Listing

  1. Breathe
  2. The Missing
  3. Deity
  4. Man Should Surrender
  5. No Bunny
  6. Smothered Hope
  7. So What 
  8. Burning Inside
  9. Thieves
10. Stigmata
11. Public Image
12. The Power Of Lard
13. Hellfudge
14. The Land Of Rape And Honey

 

 Pick Up!:#6「Smothered Hope」

 やはり私としてはこの曲が外せません。初期スキニー・パピーの代表曲を大胆にスピードアップ、ハードコアにアレンジしたカヴァー。スタジオ音源はシングル"Burning Inside"のB面に収録されていますが、このライブ版ではさらにテンポがアップし、オーガさんのヴォーカルはもはや早口言葉の域に。まさに"Rabies"での狂気的なテンションの再来です。中期のパピーは好きだけど初期はちょっと…という人も、これなら聴けるんじゃないでしょうか。

 

*バンドメンバーについて

 本文で当然のようにラインナップの話をしてしまいましたが、そもそもアルとポール以外のメンバーなんて知らねぇよ!という人が大半だと思うので、つべのVHS映像から抜き出した画像付きで各メンバーも簡単に紹介したいと思います(上手くキャプチャできなかった人もいますが…)。もう見飽きたという人も、これを参照しつつビデオを見返すと新たな発見があるかもしれません。以下、クレジットも添えつつ。

 

Personnel

f:id:giesl-ejector:20200418151505j:plainAl Jourgensen – vocals, guitar 
みんな大好きアルおじさん。このビデオではテンガロンハットがトレードマークです。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151541j:plainPaul Barker – bass, keyboards 
単身ベースでバンドの屋台骨を支えております。ここまで周りがコワモテばかりだと、この人の知的なルックスがより際立ちますね。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151620j:plainTerry Roberts – guitar 
ギタリストその①にしてテンガロンハットその②。この人の立ち位置はアルさんの右隣なのでビデオに映ることも多く、見た目的にも判別しやすいです。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151647j:plainWilliam Tucker (右) – guitar
ギタリストその②。立ち位置はステージ上手。後にPigfaceやKMFDM等にも参加しており、インダストリアル界隈ではよく名前を見かける人ですが、ヘロイン中毒が原因で1999年に他界しています。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151705j:plainMike Scaccia – guitar
 ギタリストその③。立ち位置はステージ下手。一番メタルっぽいルックスからも判る通り、ミニストリーに速弾きギターソロを持ち込んだのはこの人です。このツアーで初めてミニストリーに帯同し、以降2010年代まで断続的にバンドに参加していましたが、2012年にライブ中の心臓発作で他界。このショックでアルさんが一時ミニストリーの解散を宣言したほど、貢献度が高かった人です。
  

f:id:giesl-ejector:20200418151802j:plainBill Rieflin – electric drums 
ドラマーその①。ミニストリーのサイドプロジェクトのほとんどに参加していた裏の立役者。ダンディなスーツ姿で機械のように淡々とエレドラを叩く姿が滅茶苦茶クールです。アルさんによれば、「この時のリーフリンにはメトロノームのような役割を果たしてもらった(ので申し訳なかった)」そうで、まさに名実共に人間ドラムマシンだった模様。

 

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Martin Atkins – drums
ドラマーその②。元Public Image Ltd.で自レーベルInvisible Recordsのオーナー。金髪とボーダーシャツがトレードマークで、このファッションはなぜかPigfaceやKilling Jokeでも統一されていました。リーフリンとは対照的に、ヘドバンしまくりの激しいドラミングが特徴的で、この二人のスタイルの対比も見どころの一つです。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151922j:plainChris Connelly – keyboards, vocals ("So What", "Public Image")
 ゲストヴォーカルその①。元Fini Tribeで、ビル・リーフリンと並びミニストリーのサイドプロジェクトでは常連だった人です。こちらのドレッドヘアー+スーツというスタイルも大好き。So Whatでのパフォーマンスは必見です。

 

f:id:giesl-ejector:20200418151949j:plainNivek Ogre (奥) – keyboards, guitar, vocals ("Smothered Hope", "Thieves", "The Land Of Rape And Honey")  
ゲストヴォーカルその②。ご存じ我らがスキニー・パピーのヴォーカリスト。1988年のミニストリーのツアーにも参加していました。本家と違い、ゲスト参加だと血みどろにならないので()、普通にイケメンな立ち姿が拝めます。「FUCK ART LET'S KILL」シャツにも注目。

Joe Kelly (手前) – vocals ("Man Should Surrender", "No Bunny", "Thieves")  
ゲストヴォーカルその③。シカゴでLost Causeというパンクバンドを率いていたようで、どういう経緯か不明ですがミニストリーに参加。"Thieves"のスタジオ盤でもバックヴォーカルでクレジットされています。 

 

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Jello Biafra – spoken word(video only), vocals ("The Power Of Lard", "Hellfudge")   
ゲストヴォーカルその④。説明不要、元Dead KennedysAlternative Tentaclesレーベルの総帥です。英語をロクに聞き取れない私でも引き込まれてしまう、キレッキレの演説は流石の一言。LARDのパフォーマンス映像も見たいなぁ…。

 

 

 最後に、今年の3月24日に惜しくも亡くなったビル・リーフリンに、哀悼の意を表して本記事を締めたいと思います*17Twitterでも呟きましたが、全盛期のミニストリーはこの人のドラミング無しには成立しえないものだったと思っているので。Ministryに限らず、Revolting Cocks始め多数のサイドプロジェクトでのプレイも大好きでした。どうか安らかに。R.I.P.

 

*1:過去にはラウドパーク'06で来日予定だったものの突然キャンセル、さらに遡ればPsalm 69の頃から来日決定!→キャンセル…を繰り返していたらしいです。

*2:ちょうど今回取り上げているツアーの30周年記念で、前座にKMFDMとFront Line Assemblyという超豪華ラインナップのツアーを予定していたんですが、うーん… https://www.axs.com/ministry-announces-2020-the-industrial-strength-tour-138777

*3:一応断っておくと、私は"Filth Pig"も大好きな人です。あくまでライブバンドとしてこの時のラインナップが最強という意味ですので念のため。

*4:版権の問題もあると思いますが、恐らくはLP盤を2枚組にしないための措置。

*5:実際、シングル曲についてはPVがそのまま使用されています。

*6:コチラを参照のこと。→In Case You Didn't Feel Like Showing Up - Wikipedia

*7:実際のセトリ→Ministry Concert Setlist at Riviera Theatre, Chicago on December 31, 1989 | setlist.fm

*8:実際のセトリ→Ministry Concert Setlist at Star Plaza Theatre, Merrillville on February 22, 1990 | setlist.fm

*9:これが映像のみを指しているのか、音源も2日分を組み合わせているのかは不明。

*10:これにメンバーがイラついていたというのも面白いですね。ビデオの監督に強要されたんでしょうか。

*11:もちろん、かがり火と金網を並べたセッティングに、ツインドラム含む総勢10名のパフォーマーが暴れまわる時点で、すでに絵面として最強なんですが。

*12:というか、ステージ上の金網前で暴れまわる観客については、恐らくこの日のビデオ撮影のためのサクラ。別の日に録画されたブート映像(Ministry - Live In Dallas 1-28-90 (1990, VHS) | Discogs)ではステージ上に登る観客は確認できませんし。このライブビデオ中でも、はっちゃけ過ぎてスタッフに制止されている姿が散見されます。

*13:"Public Image"についても、このシングル版ではイントロにサウンドチェック(便宜的に"Country Interlude"とも呼ばれています)が入っており、さりげなくエアロスミスのリフを弾いてたりするのが興味深いです。Necronomiconで削られてしまったのが残念。

*14:どっちにしたところで演奏者は変わらないんですが。

*15:先述した通り、In Caseでは2日分の音源を組み合わせている可能性があり、演奏が違う曲=89年12月31日の音源ということも考えられます。"Thieves"については、ビデオではNivek OgreとJoe Kellyが2人で歌っている様子がはっきり映っているんですが、Necronomiconではどう聞いてもOgreのヴォーカルしか聞き取れませんね。

*16:And All That Could Have Been。偏執狂のトレントさんが弄り倒した結果、ツアー終了から丸一年以上経ってようやく発売に漕ぎ着けたというアレ。

*17:ミニストリー、R.E.M.、キング・クリムゾンで活躍したドラマーのビル・リーフリンが59歳で逝去。その半生を辿る