The Klinik - Black Leather

Front 242と並んでベルジャンEBMの開祖と呼ばれるグループの、初期シングル4枚を全曲まとめたコンピレーション盤。今までレビューで散々名前を出しながらきちんと作品を取り上げたことがなかったので…。
このユニットはMarc Verhaeghen、Dirk Ivens、Eric van Wonterghem、Sandy Nijsの4人が結成したAbsolute Controlled Clinical Maniacsというグループが母体となっており、Sandy Nijsがグループを離れた後、名前をThe Klinikに短縮して1985年に活動をスタートしています。1987年にはEric van Wonterghemが脱退、1990年には方向性の違いからDirk Ivensも離脱してDive名義で活動を開始したため、以降はMarc Verhaeghenのソロ状態となっていました*1。2000年以降断続的にDirk Ivensがグループに戻り、2013年にはアルバムも1枚残しています。
本作の収録曲は#1~3が「Black Leather」(1990)、#4~7が「Fever」(1988)、#8~11が「Fear」(1987)、#12~14が「Pain And Pleasure」(1986)と、3人組ないし2人組だった頃の作品を遡っていく構成になっています。こういう並び順の場合、最初はいいけど後半にいくにつれてスカスカでつまらない…みたいなパターンがありがちですが、彼らの場合そういうこともなく1つの作品として聴くことができます。裏を返せば頑なに自分のスタイルを守っているので、あまり進化がないとも言えますが。
初期Skinny Puppyを指してSPK(の2nd)にそっくり、という評をよく見ますが、このアルバムを聴いているとSPKの「Leichenschrei」の正統後継者はこのThe Klinikだな、という感じがしてきます。ハーシュに歪んだヴォーカルとノイズ、ダークなシンセのコラボといえば両者ともよく似ているものの、パピーのそれはホラー映画からの引用で分かる通り聴き手を怖がらせるためのテクニックであり、どこかシアトリカルで演劇的。元々彼らは別名義でシンセポップ*2やパンクバンド*3をやっていたりして、パピー以外の方向性も器用にこなせる人たちだったりします。
対してクリニックは、他ジャンルの音を出そうとしたところでこれしかできない切実さがあるというか、「"素"でこれなんだな…」という病んだ空気をひしひしと感じます。ありがちなサンプリングによる味付けをほとんど使わないのも特徴的。アルバム後半の楽曲(#9,10,11,13辺り)などは、ミニマルな構造ながら空気の淀み具合が尋常じゃありません。特にタイトルトラックの#2は、彼ら特有のザワザワした強迫ヴォーカルと明滅するシンセサイザーが絡み合い、合わせ鏡のようにきらめく悪夢というアンビバレントな暗黒世界を描き出しています。
その他のパーカッシブな曲も、やたらガシャガシャとパーカッションが飛び交うのに強迫観念まみれで全然踊れない#3,6や、つんのめるリズムの#4など一筋縄ではいかないものが多いです。後のFLAに通じる緊張感を湛えた#5,8、スカスカなのに妙に耳に残る#12などはまだ比較的まっとうなEBMですが。特に#12は彼らの楽曲で唯一MVが制作されており、トレードマークである「白い包帯頭に黒のレザースーツ」*4という特異なファッションが拝めるので必見です。
本作含む彼らの音源はHands Productionsから2005年に再発されていますが、それも現在では入手困難。Appleでも配信されていますが、#3がシングル版ではなくアルバム版*5になっていたりするので要注意です。The KlinikとKlinikで別アーティスト扱いになっていたり、あの会社はいい加減こういうのを何とかしてもらいたいですね…。いずれにせよEBMマニアのみならず、リズミックノイズ/テクノイズ系が好きな方にもおススメな作品です。西欧の闇(病み)をとくとご覧あれ。
Released Year:1990
Record Label:Antler-Subway / Hands Productions
Track Listing
1. White Trash
2. Black Leather
3. Obsession
4. Fever
5. Moving Hands
6. Public Pressure
7. Desire
8. Memories
9. Nursery
10. Sick In Your Mind (Remix)
11. Fear
12. Go Back
13. Drowning In Your Sleep
14. Pain And Pleasure (Live)
Pick Up!:#10「Sick In Your Mind (Remix)」
1stアルバム「Sabotage」収録曲のリミックス。バックを這いまわる電子ノイズに象徴されるように、タイトル通りじわじわと神経を蝕まれるようなオーラが癖になりますね。後にDiveでもカヴァー(というかセルフリメイク)されてライブでも定番曲になっており、本人としても思い入れがあるようです。
Vomito Negro - Human (The Cross On Natures Back)

Front 242、The Klinik、A Split Second等と並びベルギーのEBM/ニュービート界における重鎮グループの3rdアルバム。バンド名は(野口英世で有名な)黄熱病の別名から来ており、末期症状で吐血する様子を指したもの。ごく初期のシングルでは3人組でしたが、1stアルバム以降はGin DevoとGuy Van Mieghemの2人組になっています*1。ちなみに昔のPCゲームみたいな画素の荒いデジタルアートワークは、Front Line AssemblyやX Marks The Pedwalkのジャケも手掛けているChristian Mumenthalerの作品*2。
The Klinik/Dive関係の人脈と交流が盛んなだけあってサウンドの傾向もよく似ており、無機質でダークに沈むベルジャンEBMです。ただ彼らに比べるともう少し音に覇気というか派手さがあって、The Klinikが立ち入り禁止の廃病院だとしたらVomito Negroはその廃病院の解体工事真っ最中…といったところ。ちなみに解体現場に勝手にクラブ建てて踊ってるのがA Split Secondです(なんじゃそりゃ)。
真面目な話、#1,3,6,12辺りは多少凄みを効かせたダンサブルさを見せる一方、#4,5,7では骨と皮だけのストイックなプレEBMをやっていたり、同時期の他のグループに比べてもまだまだ過渡期な印象を受けます。あとはInsektにも言えることですが、マスタリング環境が良くなかったのか音が全体的にのっぺりしており、曲のポテンシャルを生かし切れていないのもマイナスポイント。とはいえ上物として被さるシンセの旋律には、90年代のZoth Ommogのグループが持っていた背徳的狂酔のセンス(いわゆる"欧州の業")を感じる瞬間があって、流石ヨーロッパ出身だな~と感心させられます。特に#11で見られるキックを控えめに抑えてシンセを分厚くする空間処理は、ベルギーならではのニュービート。個人的にはThe Klinik/Dive/Vomito Negroの作品群を"黒曜石EBM"と呼んでいたりして。何というか独特の妖しさというか黒光り感があるんですよね。
本作収録曲のいくつかは2010年のセルフリメイク作品「The 2K10 Remakes」で再録されていますが、そちらの方が一般的なEBMらしい音(かつモダンな音質)にアップデートされていますので、初めて聴くのであればリメイク版の方が入りやすいかな、とは思います。ですがこちらのオリジナルにも資料価値以上の魅力がありますので、ベルジャンEBMを辿る際はぜひ。Apple及びBandcampで配信もされていますが、前者では#9が抜けているので*3後者での購入をお勧めします。
Released Year:1990
Record Label:KK Records
Track Listing
1. Raise Your Power
2. Give Him Coke
3. In Strict Tempo (Part 2)
4. Black Power
5. The Citydump
6. In Strict Tempo (Part 3)
7. Meeting Eyes
8. The Future
9. Escape
10. Human
11. The Needle
12. Feel The Heat
Pick Up!:#7「Meeting Eyes」
本作の中では比較的軽快でキャッチーな1曲。地を這うシンセベースとサンプリングされたデジタルギターリフの組み合わせはFront 242を思わせますが、小走り感のあるテンポと背景でうっすら鳴る冷涼なシンセヴェールが、EBMらしからぬ醒めた疾走感を生み出していて、謎の中毒性がありますね。
Insekt - Stress

The Klinikの初期(トリオだった頃の)メンバーEric Van Wonterghemと、Vomito Negroの初期メンバーだったMario VaerewijckがやっていたEBMユニットの2ndアルバム。Eric Van Wonterghemは後にDive・SonarなどDirk Ivens絡みのプロジェクトに参加するほか、ソロではMonolith名義で現在も活動中です。ちなみに1stアルバムのタイトル「We Can't Trust The Insect」は映画「ザ・フライ」の台詞からの引用*1で、恐らくバンド名もここから取ったようです。
以前に紹介したBlok 57と近い人脈のユニットということもあり、Front 242やNitzer Ebbを参照したようなところもありつつ全体的にダークで硬派な印象を受けます。The KlinikもVomito Negroも、元々EBMというジャンルが確立する前からその系譜の音を作り上げていたオリジネーターですから、後発バンドたちが巻き起こした流行に目配せしつつ、自分たちなりに消化したサウンド…というところでしょうか。
#2,3,5をはじめ一聴すると王道のEBMなんですが、全体的にミキシングが平面的でのっぺりしている*2&ヴォーカルが激しくイコライジングされているので、エレクトロニックでありながら油切れの歯車がガリガリ駆動しているような印象を受けます。所々ハードコアテクノっぽい音使いも相まって、なんというか油っけなしの辛口ボディ。野郎がダミ声でシャウトしてる割に汗臭さをほとんど感じないというか…。そして#4,6,7辺りに顕著ですが、ヨーロッパ(ベルギー)出身ならではの冷涼で酩酊感のあるシンセメロディが被さっているのも、汗臭さを感じない要因の1つと思います*3。一方で比較的Nitzer Ebbに寄せたような音の#9に至っては、ほとんどジョーク?という確信犯的タイトルが付いてたり。
いわゆるダークエレクトロやハードミニマル勢のようなマッチョさとはまた違う、ベルギーならではのダークなニュービートから進化した独自のEBM。入手は困難ですが一聴の価値ありです。
Released Year:1990
Record Label:KK Records
Track Listing
1. Perfect Crime
2. Give Me Protection
3. Murder
4. Aqua Death
5. Another Bacteria
6. Theme From...
7. Stress
8. The Bat
9. Control Your Fear... Now!
Pick Up!:#3「Murder」
最初こそミニマルなシンベと乾いたキックで淡々と進行していきますが、途中から乗っかってくるハーシュなヴォーカルの迫力がすごい。全力シャウトしながらこの歪み具合はインダストリアルメタルも顔負けです。随所でボカスカ叩き込まれる無慈悲な圧搾ビートもgood。
Marilyn Manson - Smells Like Children

アルバム並みの収録曲数にも関わらずEP扱い、だがこれを聴かずに初期マンソンは語れない…という微妙に扱いに困るアイテム。元々は1stアルバムから"Dope Hat"のリカットシングルとして製作がスタートしたようですが、Dave Ogilvie、Charlie Clouserらのリミックス、新録のカヴァー曲、さらにツアー中のバンドメンバーの乱痴気騒ぎから生まれたアイデア、マテリアルやらをどんどん盛り込んでいった結果、ここまで構想が広がった模様。本作はマンソンのコンセプト先行型の作品として語られがちですが、ぶっちゃけ「マンソン版ナチュラル・ボーン・キラーズ」だよね?と思ってたりします。
94年に公開された映画「ナチュラル・ボーン・キラーズ」のサントラはトレント・レズナーが最初に手掛けた映画のサウンドトラックとして有名です。ここでトレントが見せた「単に映画にフィットする曲を書き下ろす・既発曲を集める」のではなく、映画本編の音・セリフをサンプリングし、それに合わせて既発曲も編集を施して1つの作品として編み込むという手法は、当時かなりセンセーショナルだった模様*1。特にJane's Addictionの"Ted, Just Admit It..."とDiamanda Galasの"I Put A Spell On You"を大胆にジョイントした"Sex Is Violent"など、トレントのセンスが冴え渡った最たるものの1つです。マンソン自身もこれに感銘を受けた1人だったんじゃないかと。
カヴァー3曲中の2曲(I Put A Spell On YouとRock 'n' Roll Nigger)が「ナチュラル・ボーン・キラーズ」から選曲されているのが最たる証拠*2と思っていますが、それ以外にTV番組のSEのような挿入歌や曲未満のよくわからないセリフなどを散りばめてあるのも、上記サントラの模倣と考えれば納得がいきます。架空の映画のサントラのよう、とは本作を指してよく見かける評価ですが、それもある種当然。プロデュース側のトレントとしても、1アーティストの作品において「ナチュラル・ボーン・キラーズ」の手法を試す、というトライアルだったのかもしれません。
そんなわけで多分に実験要素が強い作品ではあるのですが、1stアルバムに比べてスタジオでの編集・加工度が大幅に上がったことで、結果的にインダストリアル路線に弾みをつけたという意味でも見逃せないことは間違いありません。リミックス・リビルド曲もダブ・レゲエ調の#2、EBM的な四つ打ちビートで躍らせる#4,12、リズム隊のうねりを強調した#7などなかなか多彩。カヴァー曲に至ってはその後のライブ定番になるほど完成度が高く、#6は初のヒットチャート入りも果たすなど、全米制覇への大きな1歩となったのでした。
Released Year:1995
Record Label:Nothing / Interscope
Track Listing
1. The Hands Of Small Children
2. Diary Of A Dope Fiend
3. Shitty Chicken Gang Bang
4. Kiddy Grinder (Remix)
5. Sympathy For The Parents
6. Sweet Dreams (Are Made Of This)
7. Everlasting Cocksucker (Remix)
8. Fuck Frankie
9. I Put A Spell On You
10. May Cause Discoloration Of The Urine Or Feces
11. Scabs, Guns And Peanut Butter
12. Dance Of The Dope Hats (Remix)
13. White Trash (Remixed By Tony F. Wiggins)
14. Dancing With The One-Legged...
15. Rock 'n' Roll Nigger
16. Untitled
Pick Up!:#12「Dance Of The Dope Hats」
原曲の不気味なファニーさを残しつつ、タイトル通りにド直球な縦ノリダンスビートに生まれ変わったDope Hat。この清濁のバランス感覚は流石Dave Ogilvieという感じです。ギターリフが飾り程度でほぼデジタルサウンドで展開される辺り、後の「Mechanical Animals」(特に"Posthuman"あたり)の路線を思わせるものがありますね。
*1:デヴィッド・リンチはロスト・ハイウェイのサントラをオファーした時、「ナチュラル・ボーン・キラーズのようなサントラを作ってくれ」と依頼したとか。
*2:ちなみにサントラには入りませんでしたが、ナチュラル・ボーン・キラーズ本編には1stアルバム収録の"Cyclops"が一瞬使われてたりします。
Marilyn Mansonの初期シングルを語りたい

インダストリアルメタル系のバンドはシングルB面にリミックスをガンガン入れていく傾向が強く、またそれがシングルでしか聴けなかったりするのでマニア泣かせだったりします。マンソンもご多分に漏れずこのパターンで、特に初期3部作(トレント・レズナープロデュースの時期)のシングルはB面で埋もれさせておくには惜しいものばかり。その割にきちんと取りあげられることが少ないようですので、落穂拾いとしてこの機会にまとめて書いてみました。
①Get Your Gunn
記念すべきデビューシングル。#1と#2は後に1stアルバムにも収録されているので特に言うことはありません(強いて言えば#2はアルバムだとシークレットトラック入りになっているので、単体で聴けるのはここだけ)。ビートルズのRevolution#9からタイトルを拝借した#4はマンソン流のノイズ・ミュージックコンクレートというところですが、流石に13分は冗長すぎて集中して聴くのはちと辛い。
というわけで特筆すべきは#1をわれらがトレントさんが直々にリミックス*1した#3ですが、これがプレ・アンチクライスト・スーパースター(ACSS)といった趣で神がかりなクオリティなのです。のっけから超マシナリーな打ち込みドラムが叩き込まれ、ギターリフにダメ押しでハーシュノイズの壁が被さるところで掴みは完璧。基本的な構成は原曲通りですが、"ややインダス風味"くらいだったオリジナルを換骨奪胎して、紛うことなきインダストリアルメタルに進化させています。後のACSSにおける「電気処理されたパーツでバンドサウンドを偽装」というスタイルがほぼ完成しているのが驚き。というよりも、このコンセプトをリミックスではなくレコーディングの段階で実践したのがACSSということなのでしょう。いずれにせよ、脂の乗り切った天才トレント・レズナーの手腕を堪能できる至高の1曲です。必聴!
Released Year:1994
Record Label:Nothing / Interscope
Track Listing
1. Get Your Gunn
2. Misery Machine
3. Mother Inferior Got Her Gunn
4. Revelation 9
②Lunchbox
1stアルバム発売後のリカットシングル。#1はアルバム収録版と同じ、#6は4文字ワードを無音処理したラジオオンエア用。聴き所はカヴァー曲#3とその他リミックスになります。
#2,4,5はいずれもCharlie Clouserの手によるリミックスで、NINの「Further Down The Spiral」での仕事を彷彿とさせる音になっています。この人のリミックスは露骨な解体や脱構築はしない原形重視路線ながらも、サンプリングのチョイスや処理方法・パーツの弄り方に独特の気色悪さがあって(誉め言葉ですよ)、聴くとすぐにわかりますね。
#3はアンドロイドしてた頃のGary Numan(Tubeway Army)のカヴァーで、マンソンのニューウェイブ趣味を垣間見ることができます。Fear Factoryのデジタルサイバーメタルな"Cars"のカヴァーと比べると、こちらはアンドロイドというよりゾンビがうろついているようなグロテスクさ・不気味さがあり、原曲のコンセプトをマンソンなりに解釈して新しい要素を引き出した…という意味でなかなか面白いです。同じ手法でレコーディングされたユーリズミックスのカヴァーしかり、元々はHR・HMというよりこっち畑の人と考えると近年の方向性も納得できるというか、なまじインダストリアルメタルとして売れてしまったことが不幸だったのかも…と思ってしまったり。
Released Year:1995
Record Label:Nothing / Interscope
Track Listing
1. Lunchbox
2. Next Motherfucker (Remix)
3. Down In The Park
4. Brown Bag (Remix)
5. Metal (Remix)
6. Lunchbox (Highschool Drop-Outs)
③The Beautiful People
2ndアルバムからのリカットシングル第1弾。ACSS期のシングルはUS盤、UK盤、オーストラリア盤(日本盤)で収録曲がマチマチなので、購入するときは要注意。このシングルに関しては日本盤が一番効率的にリミックスを集められますので、購入の際は日本盤をオススメします(下記トラックリストも日本盤のもの)。
#1,3,4はアルバムと全く同じ音源なので、聴きどころはリミックス2曲。#2はBlack GrapeのDanny Saberの仕事で、ジャジーなイントロや随所に挿し込まれたホーンでカラーを変えつつ、リズムパターンをマンチェ風(?)にしてスタイリッシュに仕上げています。一方#5はNYアンダーグラウンドの帝王J.G. Thirwellによって、ズンドコドラムはそのままにカオス度を高めてあり、NINの"Wish"や"Self Destruction Part 2"を思い出す出来栄え。同じ曲でもリミキサーのカラーの違いが好対照を成した印象です。また#3から#4の流れも実に自然で違和感がなく、これはこれで1枚のミニアルバムとしても楽しめるのがうれしいところ。
Released Year:1997
Record Label:Nothing / Interscope
Track Listing (Japanese Edition)
1. The Beautiful People
2. The Horrible People
3. Sweet Dreams (Are Made Of This)
4. Cryptorchid
5. The Not So Beautiful People
④Tourniquet
2ndアルバムからのリカットシングル第2弾。こちらも発売された地域によって収録曲がマチマチでコレクター泣かせ。一応ここではオーストラリア盤準拠でレビューをしています。
#1はアルバム収録版と同じ、#3はThe Beautiful Peopleのシングルにも収録されていますから、注目は7分を超える#2のリミックス。これはACSSでもプロダクション・ミキシングで参加していたSean Beavanの手によるもので、単なるリミックス作業に留まらずヴォーカルも一部新規録音して全体を再構築した、いわばリビルド版と呼べるもの。したがって共同作業者としてマンソン自身もクレジットされています。こうしたリミックスの域を超えた作業は同時期のNINでもよく見られますね。
この"義肢ダンス"なリビルドですが、EBM的なシーケンスを敷きつつスローにじわじわと曲世界を練り上げる構成で、メタルキッズの受けはすこぶる悪そうですが遅効型ドラッグのごとき中毒性があります。特に2:40~でギターが入ってきてからの盛り上がりとアウトロの寂寥感漂うキーボードがよき。ダイナミックに残響音を残すドラムの質感も相まってダブの要素も感じられますね。ショートバージョンがミニアルバムの「Remix & Repent」にも収録されていますが、この曲はフルバージョンでこそ光ると思うのでこのために買う価値は十分にあるかと。
Released Year:1997
Record Label:Nothing / Interscope
Track Listing (Australian Edition)
1. The Tourniquet
2. The Tourniquet Prosthetic Dance Mix
3. The Horrible People
この他、"The Horrible People"と"The Tourniquet Prosthetic Dance Mix"のショートバージョン、さらにライブ音源2曲と"Man That You Fear"のアコースティック・ミックスをまとめた「Remix & Repent」も揃えれば、この時期の音源はおおむね網羅可能です。基本的には1曲ないし2曲のためにシングル1枚を買うことになるので効率は悪いのですが、やはりトレントレズナーと組んでいた頃のマンソンにしかない毒々しさというのがありまして、ファンとしてはつい買ってしまうんですよね…。まぁシングル自体は意外と中古屋に転がっていますので、もし安値で見つけたら拾ってみても損はないですよ!
2nd Communication - The Brain That Binds Your Body

日本は札幌出身のEBMユニットの1stシングル*1。一応2ndアルバムからの先行シングルという位置付けでしょうか。
以前に1stアルバムを取り上げた際も「ストイックで容赦のない音」と紹介しましたが、今回もその路線は引き継がれており、シングルながら全4曲すべて5分越え・トータル24分という今のサブスク全盛時代ではとても受け入れられなさそうなボリュームとなっています(当たり前)。
しかしながら攻撃性・音密度は1stアルバムよりもさらにアップしており、同一テンポで押し切るだけではなく、随所に疾走パートを挟むような捻りが加わっています。特にシングルB面#3や#4の性急さなど、あとはギターだけ足せばMinistryの3rd…くらいのところまで来ている気がしますね。テンポの早さも然ることながらサンプリングの詰め込み具合が凄まじい。この偏執的な緻密さは同時期のユニットでもFront Line AssemblyやLeæther Stripぐらいしか持っていなかったセンスだと思います。本シングルがリリースされた1990年はEBMからインメタへの過渡期であり、個人的にはEBMというジャンルが成熟・臨界点を迎えたピークの時期*2ですが、この作品にもそういった時代性を感じることができますね。
ただでさえマイナーなユニットのシングルということで(特にCDでの)入手は困難を極めますが*3、国産EBMを語るうえでアルバム同様に見逃せない作品でしょう。ブート同然とはいえApple Storeで配信もされていますので、まずはとにかく聴け!と推せる1枚。
Released Year:1990
Record Label:KK Records
Track Listing
1. Locked In Truth
2. Break Your Chains
3. Scratch The Wall
4. We've Got A New Mind
Pick Up!:#4「We've Got A New Mind」
この曲はもはやほぼLeæther Strip!私が大好きな「Black Gold」を想起させる、いわゆる"前傾姿勢で突撃するようなボディ"が徹頭徹尾展開されています。合いの手で入る削岩機のようなマシンガンビートの気持ちいいこと。欧米ですら初期レザストのクオリティに追従できたユニットは数えるほどしかいないというのに、あっさり日本人が肩を並べていたのは初めて聴いた時カルチャーショックですらありました。
*1:厳密にはこの前にスイスの音楽雑誌「New Life Soundmagazine」の付録だった7インチが存在しますが、特殊なリリース形態なので今回はカウントせず。2 nd Communication – Locked In Truth – Vinyl (7", 45 RPM, Single), 1989 [r303250] | Discogs
*2:FLAのCaustic Grip、SPのToo Dark Park、LSのScience For The Satanic Citizen等々…
*3:私はDiscogsでなんとか手が届く価格の在庫を見つけてようやくゲットしました。
The Process期のレア音源で辿る第1期Skinny Puppyの崩壊

年始早々インフルエンザになりまして、時間を持て余したので久々にちょっと書いてみました。
92年の「Last Rights」発表後、Skinny PuppyはついにメジャーレーベルのAmerican Recordingと契約して次なるアルバム制作に入ります。しかし大衆性を求めるレーベルからの圧力、度重なるプロデューサーの交代、バンド内の方向性の違いによる人間関係の悪化、それに伴うドラッグ乱用などからレコーディングは難航。ついにvo.のNivek Ogreがバンドを脱退し、直後にDwayne Goettelがオーバードーズで亡くなる…という悲劇を生んでしまいます。結局、彼の遺作となった「The Process」を96年にリリースしてパピーは一度目の解散となりました*1。
と、ここに至るまでの3年半ほどの期間、恐らく世間で最もパピーへの期待度が高かった時期ということもあり、コンピレーションへの提供などでいくつかアルバム未収録の曲が残されています。今回はこの辺を辿ってみることにしましょう。
① Ode To Groovy「In Defense of Animals」 (1993) 収録
アニマルライツを訴えるオルタナ系アーティストが集結したコンピレーションから。ほとんどのアーティストが既発曲を提供する中でパピーは新曲を送り込んでいますが、これが初期パピーともまた違う、浮遊感のあるシンセポップ調の不思議な小品。それもそのはず、この曲はNivek OgreとDave Ogilvieしか制作に関与しておらず、実質Nivek Ogreのソロ。後のohgrに繋がる音といえばそれまでですが、後半から被さってくるノイズ処理にはDave Ogilvieの手腕を若干感じる…かもしれない。
② Haunted「Industrial Revolution 3rd Edition: Rare & Unreleased」 (1996) 収録
クレオパトラから出たインダストリアル総まとめコンピの第3弾から。今度は9分を越えるマニアックな即興演奏ノイズ曲で、こちらは反対にcEvin KeyとDwayne Goettelしか参加していません。リリース当時はここでしか聞けないレア音源でしたが、その後2007年に出た「Back & Forth Vol 7」に収録されており、そのライナーによればレコーディングは94年頃のようです。曲自体はLast Rightsの最終曲"Download"をさらに混沌とさせた雰囲気で、これといったメロディらしい旋律もなくかなり聴く人を選ぶと思います。ただ、最近のEBM系アクトはめっきりこういうサンプリング/コラージュの嵐をやらなくなってしまったので、そういう意味では懐かしく聞ける…かもしれない。
③ Outafter「The Eyes of Stanley Pain」(1996) 収録
こちらはれっきとした別プロジェクトDownloadの曲ですが、実は当初Skinny Puppyの曲として作られたものでした。詳細は以前別エントリ↓に書いていますが、これにNivek Ogreがあの声を乗せたらどんな感じになったのか、そしてThe Crowのサントラに入ったら…と想像しながら聴くのもまた楽しからずや、というところでしょうか。
④ Morpheus「We Came to Dance: Indie Dancefloor vol.10」 (1997) 収録
今まで紹介したのは実質デモ音源みたいな半完成の曲ばかりでしたが、これはオーガさんのVo.も入った完成形でお蔵入りしていた、純然たる未発表曲。曲名が"Morpheus Laughing"と被っていて紛らわしいのですが、恐らくは「The Process」の収録に漏れたアウトテイクと思われます。曲の雰囲気は"Hardset Head"からメタルギターを抜いた感じで、ブレイクビーツ的な処理は新機軸ですが、クオリティは可もなく不可もなく…というところ。というか後半の一部歌詞が"Hardset Head"と同じだったりするので、実は兄弟曲なのかもしれません。この曲もミックス違いが「Back And Forth 06Six」に、デモバージョンが「Back & Forth Vol 7」にそれぞれ収録されています。
⑤ Melt : Paradigm Shift (1997) 収録
cEvin Keyの立ち上げたレーベル、Subconscious Communicationsのコンピレーションから。パピーのサイドプロジェクトの未発表曲や、Dwayne Goettelのソロ作品などをまとめた中に、パピー名義の曲が1曲しれっと入ってます。Subconscious(=cEvinサイド)からのリリースということでまたしてもvo.不在のインストですが、これが超神曲なのです。同郷カナダのNumbを思わせるハーシュノイズが暴れた後にいったん雷鳴と豪雨の音に落ち着いたと思いきや、遠くからマシーナリーなキックが聞こえてきて、グワッと急に前に出てくる…というダイナミックな展開は鳥肌もの。怒涛の後半はリズミックノイズ化したDownloadという感じで、EBMといえば紋切り型のように単調で同じようなキックを使いがちな最近のアクトに1億回聞かせたい、実に鮮やかな狂乱ビートで魅せてくれます。間違いなくこのコンピの目玉曲であり、これのためにアルバムを買っても損はないでしょう。
おまけ① Hooligan's Holiday (Extended Holiday Version) : Quaternary (1994) 収録
なぜここでモトリー、しかも不遇のジョンコラビ時代の曲が!?と驚く方もいるかもしれませんが、実はこれ、リミックスのクレジットが「additional remixed by Dave Ogilvie with D.Goettel, C.Kev」、おまけに「assisted by K.Marshall, editing by A.Valcic」と100%パピー人脈で固められています*2。後にレアトラック集に収録された際はタイトルに"by Skinny Puppy"とはっきりパピーの名前が入りました。
聞いていくと3:10くらいまでは原曲と何ら変わりないのですが、突然ベースに変なエフェクトが入り出したところから雲行きが怪しくなり、3:40過ぎからは完全にパピーのターン。メタルキッズなどお構いなしに曲を切り刻んで好き勝手遊んでおります。そして9:30過ぎに何事もなかったかのように原曲に戻るのがまた非常にシュール。私としては聞きたいのは中間部のカオスだけなので、前3分と後1分はいつも飛ばしています (原曲は原曲で好きなんですが)。音的にはすでにDownload以降のIDMライクなスタイルが確立されており、パピーらしさは薄いかもしれませんがcEvin Keyの癖みたいなものは非常に強く出た仕上がり。他のインダストリアル系バンドでよく見られるDave Ogilvieの手がけたリミックスとは全く違う様相を呈しています。
これは完全に私の憶測ですが、このリミックスは「The Process」の制作過程でSkinny Puppyのメタル化を嫌がるcEvin KeyとDwayne Goettelに対し、メタルバンドのリミックスでもこなして勉強してこいと言わんばかりに与えられたある種の"宿題"だったのでは…などと想像しています。結果的にモトリー側がこのリミックスを面白がったことで、その後の「Generation Swine」がインダストリアルな方向性に進んだ、というのも因果な話ですが*3。
おまけ② Hero Of The Day (Outta B Sides Mix) : Hero Of The Day (1996) 収録
なんとメタリカまでリミックスしてますこの人たち。とはいっても残念ながらゴエテル逝去後の時期なのでダウンロード名義、参加メンバーはA. Valcic, K. Marshall, Philth, cEvin Keyの4名です。モトリーの時はインダスパートの前後を原曲でサンドしていましたが、今度は逆で原曲の歌ものパートの前後をインダスパートで挟んでいます。曲の骨子そのものを破壊していたモトリーの時に比べると、今回は一応ギターリフはなぞりつつ音パーツの破壊に留まっているので少し大人しくなった印象でしょうか。とはいえメタリカのヘヴィなリフがだいぶ気持ち悪い(誉め言葉)ことになっているのは流石です。しかし脱B面!ミックス的なタイトルは皮肉なのかそれとも…。
と徒然なるままに書いてみましたが、これらの音源を聞くとDwayne Goettelが亡くなる前の時点で既に、ロック・歌もの的な方向性を志向するNivek Ogreとテクノ・IDM的な方向性を志向するcEvin Key/Dwayne Goettelで相当の溝があったことが見て取れます。①~③はこれら2組が交じり合えなかった末の残骸、④は無理やり組み合わせたけれど…な仕上がり。これらを見ているとむしろよく「The Process」をあのクオリティまで仕上げたなというか、あれが最後の奇跡だったのだろうということを強く感じずにはいられません。
というわけで最近はクリエイティブな敏腕経営者として名を売っているらしいリック・ルービンさん、「The Process 30th aniversary Deluxe Edition」を出すときは、この辺のレア曲やデモをきちんとボートラにまとめて出して下さいね…というか出しやがれ。