2019年に買った新譜

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  音楽好きな人々の年末恒例企画といえば「今年のベストアルバム○○選」ですが、私はそもそも、自分が聴いた中からベスト盤を選出できるほどの数を聞いていないので、単純に「今年自分が購入した新譜」をそのまま列挙したいと思います。そう、これしか買ってないんですよ*1。しかも1つアルバムじゃないのが混じってるし。毎年のように購入する新譜が0枚だった自分からすれば、これでも随分な数なんですが...(言い訳)。あ、順番については自分が購入した順です。リリース順ではないので念のため。

 それにしても全体的に黒い...彩度感ゼロ。

 

①Test Dept. - Disturbance

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 インダストリアル・パーカッションの代名詞的グループによる、約20年ぶりの復活作。ですが、蓋を開けてみれば、初期のような激烈ビートインダストリアルでも、90年代のゴアトランスでもない、意外と真っ当で地味~なボディ。彼らのキャリア中でも、ここまでEBMに近い音を鳴らしていたことは無かったんじゃないかという程です。ほとばしる熱量や派手な装飾も無いストイックな造りなのであまり評判は良くなかったようですが、これはこれでなかなか。個人的にゴアトランス期の音よりは全然アリです。

 

②Die Klute - Planet Fear

 過去のレビュー記事はこちら。↓

giesl-ejector.hatenablog.com

 当時のTLでは賛否両論だったのでレビューでも長ったらしく色々書いてますが、久々に聞き返しても「やっぱ言うほど悪くないんじゃ...?」という感想でした。飽きやすいし長く聞けるタイプのアルバムではないですが、即効性の塊なのでいつ聞いてもスッと入ってくる感じがします。年末に出たクルップスの新曲よりもこっちのほうが良い気がするなぁ...とか言うと各方面に怒られそうですが*2

 

③Front Line Assembly - Wake Up The Coma

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  KMFDMと並んで現役を守り続ける大御所が、久々にRhys Fulberと組んでEBM路線に帰ってきました。DAFのRobert Görl(!)を始め多くのゲストを招いていますが、中身は相変わらずサイバーで肉厚なボディで統一されています。プロステップ風味のモダンな音使いでありながらオールドスクール感もあり、派手さはないものの安心感のある仕上がり。アルバム終盤のメロウな展開も良いですね。そんな中、カヴァー曲の"Rock Me Amadeus"は完全に今風のヒップホップで度肝を抜かれます。言われなきゃFLAが演ってるとは気付かないレベル(笑)。アルバムのランニングタイムは長すぎるしつまらない曲もあるんですが、それでもこの内容は90年代のFLAファンにも勧められるクオリティと思います。

  

④THE XXXXXX - THE XXXXXX

  過去のレビュー記事はこちら。↓

giesl-ejector.hatenablog.com

ソフバのようでソフバじゃない、少しソフバなバンド」。今年upしたレビューの中ではダントツにアクセス数が多かったですね。やはりイケメン俳優はファン層が厚い。

 

⑤V.A. - Industrial Accident: The Story Of Wax Trax! Records

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  2018年に公開された、Wax Trax!のドキュメンタリー映画サウンドトラック。選曲に関しては既出曲3割・既出曲の未発表バージョン3割・完全未発表曲3割、という感じで無難にまとめていると思います。ミニストリー・リヴコ等、アルさん絡みの曲は安定の外れなしで流石といったところですが、バーカー兄弟による終盤の謎スコア曲はどうしようもなく退屈で、この辺り対照的です。個人的にはリヴコの未発表曲と、「Black Box」以来のCD化となる、Fini Tribeの"I Want More"を聞けたのが良かったです。後者のファニーなポップさはかなり個性的。

 

⑥Numb - Mortal Geometry

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  ある意味で今年一番衝撃的だったニュースは、このNumbの活動再開&新作発表でしょう。20年もの間沈黙を守っていたDon Gordonがどういう音を出してくるか、期待半分・不安半分だったんですが、出来上がった新作を聴くと...うーん何とも言えない。基本的にはFLAを彷彿とさせる今風のEBM路線で、丸々一枚エレクトロニカ、或いはダークアンビエントでなかったという点では一安心。ただ、かつての最大の特徴だったあの強烈なノイズ処理がほぼゼロなんですね。楽曲を聴いていると、きちんとダンサブルでノレる展開もあるし、インスト曲では昔から一貫している陰湿で邪悪なエッセンスを見せてくれるので、もう少しだけでもハーシュだったら...と思わずにはいられません。ただ楽曲の基礎の部分は悪くないので、あとは味付けの問題。とりあえずカナダにいようがベトナムにいようが*3、Don Gordonはこういう作品を作れるということは判ったので、願わくばこのまま活動を続けてほしいところ。できればConan HunterかDavid Collingsもベトナムに呼んでくれたら*4言うことないですね!(無茶振り)

 

⑦Drab Majesty - Modern Mirror

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  LA出身のニューウェイブ/ダークウェイブユニットの3rdアルバム。このグループは全然知らなかったんですが、TL上でいろんな方が絶賛されているのを見て"Ellipsis"を試聴したところ、イントロで一発KOされて購入。最近はこの手のダークウェイブのリバイバルが盛んなようですが、その中でも飛びっきり爽やかでポップな(それでいてきちんと暗くて哀愁もある)所が気に入りました。ギターの雰囲気がまんまキュアーのそれなのも、キュアー好きには堪りませんね。80年代への敬愛を感じさせつつ、単なる物真似に終わらない楽曲の個性とクオリティに圧倒されます。いやホント名盤ですよコレは。ダントツで今年のベストアルバム。

 

⑧Tempers - Private Life

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 こちらはNY出身のダークシンセポップデュオの3rdアルバム。Drab Majestyは素晴らしかったし、彼らが所属するDais Recordsにはインダストリアル系のYouth CodeやHIDE(X JAPANのhideではない)も所属しているということで、このレーベルで他にも何か面白い連中はいないかと探していて見つけたグループ。Drab Majesty同様に80年代風の音作りが光るんですが、こちらはゆっくり水の中に沈んでいくような、スローでムーディな雰囲気。温かみのあるシンセとエコーの効いたヴォーカルが、優しい暗闇に包まれるかのような安心感を与えてくれます。こちらもわりとハマってヘヴィロテしてました。ジャケットの通り、夜に部屋を暗くして聴きたい作品です。

 

番外編:SOFT BALLET - BODY TO BODY 30th Anniversary Remixes

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  これを「新譜」としてカウントするのはどうかと思いますが、Sound & Recording誌のソフバ特集号の付録CD。yukihiro上田剛士砂原良徳による"BODY TO BODY"のリミックスを3曲収録しています。今年はソフバデビュー30周年ということで各方面盛り上がっていましたね。私はアナログ再発もボックスセットもスルーしているミーハーですが、このリミックス盤は結構良かったと思います。3曲ともリミキサー各人の趣向が(いい意味で)はっきり別れていたのが、かつてのソフバ三者三様振りを見ているようで興味深かったですね*5。 

 

 

 今年は上記作品以外にも、ベテラン勢ではCubanateやcEvin KeyのDownload、そしてRammstein・KMFDM・Die Kruppsといったゲルマン組、Skold等が新譜を発表していましたね。Downloadはともかく、その他のインダストリアルロックはそこまでピンと来なかったかな...。決して彼らのクオリティが低いとは思いませんが、自分は単純にEBMやポストパンク寄りの音が好きなので、申し訳程度に電気処理が施されたメタルにはあまり惹かれないというのが本音かもしれません。あと、若手では前述のHIDE(X JAPANではない)も新作を出していた模様ですが、これについては去年出ていた1stの方が気に入ったのでそっちを買ってしまいました。なので今回は取り上げてません。

 

   とりあえず総括ということでざっと書いてみましたが、やっぱり良かった作品についてはきちんとフルのレビューを書いてあげないといけませんね。書こう書こうと思いつつ時間ばかりが過ぎてしまってよくない...。

 

 TLを見ていた方は薄々気付かれたかもしれませんが、今年度から定期的に収入が入る身分になりまして、それに伴って色々と生活環境が変わった一年でした。ブログの方も途中空白がかなり空いてしまいましたが、できれば最低でも月1ペースを維持したい...とは思っています。語彙力はいつまで経っても向上する気配がありませんが、こんな旧態依然としたブログでも、今後ともお付き合いいただければ幸いです。では、よいお年を~

*1:ちなみに旧譜は100枚くらい買ってました。積んでいるのも多いんですけど...。

*2:私はあの演歌くさい野暮ったさが苦手なので...。この辺はどっちが優れているとかではなく単純に好みの問題ですね。

*3:クレジットを見ると"RECORDED AT HO CHI MINH CITY"の文字列が...。

*4:今作ではDon Gordon自らがVo.をとっています。

*5:と、当時を知らない私が言うのもアレなんですが。

Foetus - Thaw

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 言わずと知れたインダストリアル界の帝王、Foetusの5thアルバム。80年代のフィータスはアルバムごとに意味もなく名義を変えてくるのが特徴ですが、本作は"Foetus Interruptus"名義となっています。あと、ジャケ裏に書かれた「手にしたその日から、誰にだって、プロ感覚でシンセが弾けるようになる、画期的なシンセ講座ができたんだ!!」は、インダス界隈では知らない人はいない名文(迷文?)です。

 

 フィータスやKMFDMなど、作品ごとのアートワークが似通っていて且つ多作なグループは、どの作品から入ればいいのかよくわからん...というのはよくある話。少なくとも私はそうでした。特に、"Angst"以降なら大体どこから入っても大丈夫なKMFDMと違い、フィータスはアルバムごとのカラーがわりと違うので、入り口の選定は重要かと。

 

 で、ここからは私の個人的な印象ですが、「NIN等の90年代インダストリアル勢がリスペクトする存在」という流れで聴く場合、この"Thaw"が一番「繋がりが判り易い」という意味でとっつきやすいのではないかと思っていたり。それは本作が、音質的にもメンタル的にも、80年代の作品中では最も"へヴィ"だからです。

 

 80年代中期にロンドンからニューヨークに移住したJ.G.Thirlwellは、Swans、Sonic Youth、Lydia LunchといったNY地下シーンのミュージシャンと交流を深めていき、様々なサイドプロジェクトで作品を生み出しました。その中でも、初期SwansのドラマーだったRoli Moshimannとタッグを組んだWisebloodは彼自身にとってもインパクトが大きかったようで*1、ここで獲得した"反復する鉄骨ビート"という要素は、その後本家Foetusの音楽性にも逆輸入されていきました。特に87年発表のアルバム未収録シングル"Ramrod"*2などにその傾向は顕著ですね。

 

 そういった背景もあり、本作は以前の作品に比べ圧倒的に低音域が補強され、よりグル―ヴィに聴かせる楽曲が増えています。これに関しては#1に代表される強靭なビートの導入に加え、ベースが生演奏*3にシフトしたのが大きいと思っていて、特に#4,10ではベースラインが曲の中心となり、単独で大きく前に出るパートもあるほど。初期のフィータスはサンプラー主体ということもあってか、高音寄りのガチャガチャとした音がメインで低音域はわりとスカスカな印象があったのですが、今作ではその軽さが完全に払拭されています。以前の作品に比べて音質がだいぶクリアになっているのも高ポイントですね。これが音質面でのへヴィネス。

 

 さらに、もう一つ注目したいのがJ.G.Thirlwellの歌唱法。これまでの彼の歌い方はどちらかといえばコミカル・ユーモアな面があって、満面の笑みでナイフを振り回しているような雰囲気*4でしたが、このアルバム辺りから、低音でドスを利かせつつ唸りをあげるような歌い方をするようになっていきます。その表情からは完全に笑いが消えていて、100%真顔でブチ切れる狂人そのもの。世の常、普段ニコニコしてる人が真顔になったときほど怖いものはないんですよね...*5。加えて、猟奇殺人の現場に立ち入ったかのような戦慄的な不協和音が鳴らされる#2,6,8といったインスト曲も、このアルバムの危険な緊張感をさらに高めています。こうした病的な凶暴さは、前述したNY地下シーンのバンド群に影響された部分もあるのかもしれません。これがメンタル面でのへヴィネス。

 

  こうした2つの面でのへヴィネスが噛み合わさることによって、今までになく凄みの効いた仕上がりになった本作。お家芸の過剰なサウンドコラージュもますます冴えわたり、一つの到達点を迎えたことは間違いありません。しかし、今までの進化をここで突き詰めてしまった結果、以降のスタジオ盤ではこれを超える過激さを生み出せず、しばし迷走することとなってしまいます...。まぁ逆に捉えれば、本人ですらも越えられなかった強烈なテンションを封じ込めた作品とも言えるわけで。名盤と名高い"Hole"、"Nail"の影に隠れがちですが、決してそれらに劣らない魅力を持つ名作です。

 

Released Year:1988

Record Label:Self Immolation, Some Bizzare

 

Track Listing

  1. Don't Hide It Provide It
  2. Asbestos
  3. Fin
  4. English Faggot / Nothin Man
  5. Hauss-On-Fah
  6. Fratricide Pastorale
  7. The Dipsomaniac Kiss
  8. Barbedwire Tumbleweed
  9. ¡Chingada!
10. A Prayer For My Death

 

 Pick Up!:#4「English Faggot / Nothin Man」

  フィータスお得意の静→動の転換を、最も過剰に・鮮やかに描き出していると思う1曲。実際、この後のライブではしばらく定番曲になっていました。夜の路地裏を思わせる不穏な導入部から、マシンガンのように打ち出されるビートを合図に加速し始める瞬間が最高。さらに最後のオケヒット連打が笑っちゃうほど凄まじい迫力で、あまりのやり過ぎ感に圧倒されます。粘着質なストーカーの脅迫文を思わせる歌詞が普通に怖いんですが、これは実際にJ.G.Thirlwellに掛かってきた電話をモチーフにしているそうです*6。この鬱屈としたブチ切れ感は、そのままNINに引き継がれていますね。

*1:ワンオフの活動に留まらずシングル2枚・アルバム1枚を発表し、Wiseblood名義でライブも行っていたことを考えれば、彼がこのプロジェクトにそれなりの手応えを感じていたのは間違いないと思います。

*2:のちにコンピレーションアルバムの"Sink"に収録。

*3:本当に生ならThirlwell自身が弾いていることになるんですが...。

*4:ネットで昔から知られているフィータスの動画といえば、"Wash It All Off"にドナルドをフィーチャーした音MADがありますが、まさにああいうジョーカーみたいなピエロのイメージ。

*5:またしてもジョーカーネタですが、「ダークナイト」の脅迫ビデオシーンの"LOOK AT ME!!"に震えあがった人には判ってもらえるかと。

*6:英語版wiki参照。→https://en.wikipedia.org/wiki/Thaw_(Foetus_album)

THE XXXXXX - THE XXXXXX

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  山田孝之綾野剛内田朝陽という著名俳優3名によって結成されたバンド、THE XXXXXX(ザ・シックス)の1stアルバム。

 

 このバンドに出会ったきっかけは、ある日TLに流れてきた「ソフバにそっくり!」というツイート。そこに貼られていた#5のMVを見て「本当だwww」となり購入してみたんですが、これが単なるネタ枠に留まらない良作でした。

 

 あえて言ってしまえば「SOFT BALLETBUCK-TICK、THE YELLOW MONKEYSの最大公約数を取って、モダンなEDMでコーティングしたような」音。細部を見てみるとそこまで似てるわけでもないんですが、聞いた後はなぜかそういったバンドの印象が頭に残ります。ただこれは、音楽性に対しての(良い意味での)比喩であって、楽曲そのものは凡庸なフォロワーに留まらないハイクオリティなものです。というか、本当に俳優3人だけでコレ作ったの?と問い詰めたくなるレベル。

 

 前述のように特定のバンド・ジャンルを連想させる内容でありながら、本人たちとしては率直にロックをやろうと思ってレコーディングに取り組んでいたようで、その結果出力されたものがコレ、というのが非常に面白いですね。普通はラッドとかマンウィズのような感じになりそうな気もするし、その方が受けも狙えたと思うんですが...。とはいえ、アゲアゲ()のEDMあるいはアンビエントに寄りすぎて個人的にイマイチだった近年のminus(-)に比べ、エレクトニック主体でありながら明らかに「ロック」を志向したこのバンドの音は、自分の中にスッと入ってきた感があります。

 

 歌詞に関しては、「意味のない、ナンセンスなもの」という本人たちの言葉があるように、一聴しただけでは意味を図りかねるものが多いです。難解...というよりも不思議系、イメージ先行型といったところでしょうか。その一方で、管理社会を連想する#1、反戦的な#2、どことなく芸能界の闇を匂わす#7など、明らかに特定のメッセージ性を感じるものもあり、必ずしもナンセンスなだけではないようです。とにかく全体的に醒めた感覚があり、説教臭くない、押しつけがましくないところが好印象。これら歌詞も含め、耳触りの良いポップさ・ライブ映えしそうなノリの良さと、時折顔を覗かせるドロッとしたダークさのバランス感覚に優れた作品です。

 

 正直、今の邦楽シーンにおいて一部の現役ベテラン勢以外からこういった路線の音が飛び出すとは思ってもいなかったので、このアルバムがミーハーなファン*1に浸透していく様子をネット上で観測できるのはなかなか痛快です。ライブをやり終わってからバンド活動は一段落している様子ですが、是非とも活動を続けてもらってまた新曲を聴かせて欲しいですね。(3人のスケジュールを考えると難しそうではありますが...。)

 

Released Year:2019

Record Label:(self released)

 

Track Listing

  1. seeds (Remastered)
  2. horizon bloom
  3. second hand
  4. zealot (Remastered)
  5. チート
  6. amber 1800
  7. tut-tut
  8. 冷静に暴れていこうか
  9. end starter 

 

 Pick Up!:#9「end starter」

  アルバムの〆はミッドテンポの壮大な曲。無人の海岸や荒野を連想させるSEから始まり、重厚なドラムとエスニックな音のキーボード、そして達観したようなヴォーカルの組み合わせが何とも冷たく心地よいです。少しづつ音を重ねていきながらも熱を帯びずむしろ沈んでいくような曲調は、ちょっと"The Fragile"の頃のNINを連想させる部分も。とはいっても、あそこまでの希死念慮は見受けられず、最後のファルセットで繰り返される「愚かに生きよう」というフレーズは、諦観の混ざった力強さすら感じますね。

*1:音楽オタクではない普通の人」という意味合いで、あえてこういう書き方をしてます。

V.A. - NG (Various Collektiv From Trans Records)

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 ナゴムと並んで日本の80年代インディーズシーンを代表する(らしい)、「トランスレコード」のレーベルコンピ。私はこの辺りの80年代サブカルチャーに疎いので、個々のバンドについて詳しいことは書けないんですが、90年代以降のいわゆるJロック()とは全く違う、アンダーグラウンドな熱量を感じる楽曲がズラリと並んでいます。

 

 あえて形容すれば #1,6,8はポストパンク、#2,5はカオティック・ハードコア、#5,9はノイズ...と括ることはできなくもないですが、そういったカテゴライズでは語り切れないほど異形かつカオスな曲が多い印象。もちろん同時代のパンク・ニューウェーブに何らかの形で影響は受けているのでしょうが、その咀嚼・消化の仕方が独特すぎるのか、いい意味で「こんなの聞いたことねぇ...!」という感覚を味わえます。ある意味、最も影響元に対して素直なのは、"和製ノイバウテン"といった感のあるZeitlich Vergelterの#3かもしれません*1。そういえばライブ盤が出るという話はどうなったんでしょうか...。

 

 そんな尖りまくりの楽曲群の中で異彩を放っているのが、#4と#10。前者は明らかに後続のV系バンドへの影響を感じる、耽美かつヒステリックなヴォーカルが印象的ですし、後者のどんよりと不穏な静謐さの中に見える形容しがたい閉塞感・鬱屈さ加減は頭一つ飛び抜けています。タイトルのナンバーレスランドは「網走番外地」から採られたらしいですが、歌詞からもそういった"ネガティブな"昭和のモチーフを色濃く感じるのが、日本のバンドならではといった趣で興味深いです。そういえば、英詞がほとんどの本作においてこの2曲だけは日本語詞なんですね。

 

  インディーズということでヴォーカルや演奏には独特の癖がありますし、全体的にグチャドロとしたアングラ感が漂っているので好みは別れるかもしれません。ただ、音源としてはこのコンピでしか聴けないものがほとんどですし、そもそも碌にスタジオ音源を残していないバンドもあったりするので、そういった意味でかなり貴重なアルバム。入手は困難と思われますが、ジャパニーズ・インダストリアルの一資料という域を超えて、一度聴いてみてもらいたい作品です。

 

Released Year:1986

Record Label:Transrecords

 

Track Listing (Artist - Track title)

  1. Z.O.A - Cry The War
  2. Ruins - Ideology / Sanctuary
  3. Zeitlich Vergelter - The Third System Of Transit
  4. Asylum - Mu En
  5. YBO² - Trash! Crash! Y.B.O.
  6. Sodom - Banshee / Cry
  7. Boredoms - Ground Burn Out
  8. Libido - Kiss My Area
  9. A.N.P - Disembody
10. Ill Bone - Numberless Land

  

* #2,6はCD上ではトラック分割されていますが、両者とも実質的に1つの曲といった感じなのでこのように表記しています。

 

  Pick Up!:#4「Mu En」

  上に書いた通り、V系バンド群との連続性を感じる1曲。個人的には、この泣き喚くようなヴォーカルスタイルは完全に初期LUNA SEAにおけるRYUICHIのそれで、86年にしていわゆる「V系っぽい歌唱法」が既に完成しているというのは非常に驚きでした。それでいて歌メロは意外と馴染みやすいですし、中盤からの急加速と「モウオワリダ!!」連呼も素敵で、結構気に入ってます。ちなみに、Mu Enは"無縁"ではなく"夢宴"と書くらしいですね。

*1:バンドメンバーはノイバウテンと比較されるのを嫌がっていたとも聞きますが、メタパーを駆使しつつも激しさより音と音の隙間・静寂が印象に残るという点で、2nd~3rdの頃のノイバウテンにそっくりだと思うんですよね。

Numb - Wasted Sky

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 前作で確かな手応えを感じたのか、1年弱のスパンでリリースされた4thアルバム。このアルバムから、米国でのリリースをMetropolisが持つようになりました(US盤のリリースは翌95年)。またしてもKK盤とMetropolis盤でジャケが異なる模様。あと、なにげに同一メンバーで2作続いてアルバムがリリースされるのはこれが始めてだったりします。

 

 本作での彼らは、より分かりやすい形でギターを取り入れ、ある程度流行のインダストリアルロックへの接近を見せています。そうはいっても多少"接近"した程度で、比較的歯切れのいい表題曲の#1にしろ、地上スレスレを低空飛行で疾走するかのような#3にしろ、KMFDM等に比べれば10倍くらい捻くれてます。陰湿でドロドロした音処理も相変わらずなのでご安心を。

 

 その一方、前作で見せた圧倒的な邪念とテンションは収束・整理されており、変則的な曲展開や執拗に牙を剥くノイズも控えめなので、よく言えば分かり易くキャッチー、悪く言えばやや地味...という印象を受けます。ヴォーカルが低音のウィスパーボイスを多用するようになったのも象徴的。一般的に、EBM系ユニットがギターを導入すると曲のテンションやボルテージが向上することが多いんですが、このアルバムではむしろクールダウンした、冷めた印象すら受けるところがおもしろいですね。Don Gordon曰く「ノイズ一辺倒な展開は出来るだけ使わずに行く」と決めてレコーディングに臨んだらしく*1、前作とは異なる方向性を志向していたようです。

 そういったわけで、本作の真骨頂はどちらかといえば"静"のパート。特に、淡々としたメタルパーカッションに、浮遊感のある妖しくもキラキラしたシンセが重なる#2は彼らの新境地。その他インスト曲も、いつも通り不穏に始まったかと思えば珍しく途中からテンポアップする#4や、一通りノイズで蹂躙してから不気味なストリングスで終幕を迎えるラスト曲#9など、1stの頃とはまた違ったアプローチで静・動の混沌を見せてくれます。前作が全てを破壊し尽くす地獄の業火ならば、本作はその焼き尽くされた世界のための葬送曲とでも言いましょうか...(厨二的表現)。この全体に漂う終末後感、夕日に照らされた廃墟や遺跡が似合いそうな雰囲気です。

 燃え盛っているようで黒光りしたダークさも垣間見せるジャケに象徴される通り、破壊衝動のみならず奥深さすら漂う作風は、相変わらず独特の個性があって飽きさせません。単に「Skinny Puppyがメタルをやったら...」という足し算的発想に留まらない良作。

 

Released Year:1994

Record Label:KK Records, Metropolis

 

Track Listing

  1. Wasted Sky
  2. Blood
  3. Driven
  4. Keyak
  5. Ophelia
  6. Ratblast
  7. Smile
  8. Effigy
  9. Seven Types Of Ambiguity

 

 Pick Up!:#6「Smile」

 真綿で首を絞めるようにジワジワ責め立てるミドルテンポの曲。ベコベコシンセは流石EBM出身というところですが、そこへのギターの絡ませ方がなかなか面白い。明瞭なリフがあるわけでもなく、ざらざらと耳障りなようで心地良いこの感じが癖になりますね。終盤の強迫的な"Smile"連呼も、背筋が寒くなるような怖さがあって良いです。

Numb - Fixate

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 3rd収録曲のリミックス4曲、未発表曲1曲、ライブ音源3曲をまとめたEP。錆びついた鉄筋をあしらったアートワークがいかにもなインダス風味で素敵です。

 

 リミックスに関しては全てセルフリミックスのようですが、比較的原曲に忠実な#1,2と、容赦なく解体して別の側面を見せる#6,7といったように、素材によってきちんとアプローチを変えて持ち味を引き出している印象。#1,2は3rdアルバム中で最もキャッチ―だった"Right..."のリミックス。原曲のザクザクしたギターリフをスラッシーに編集、さらに偏執的で気持ち悪いノイズを重ねることで、独特の疾走感を生み出しています。未発表曲の#3はインタールード的なインストですが、遠くから聞こえるノイズとドローンシンセが荒れ果てた廃墟を思わせる佳曲。この雰囲気は4thアルバムでさらに追及されることとなります。

 しかし何といっても目玉は3曲のライブ音源でしょう。3rd発表後、彼らはヨーロッパツアーをおこなったらしく*1、これはその際に録音されたものと思われます。彼らのライブ活動に関しては音源、映像、セットリスト、どれを取ってもまともな記録が残っておらず、特にConan Hunter在籍時のライブ音源は貴重です。3曲それぞれは異なる日付・場所での録音ですが、曲間をつなぐような編集が施されている為、あたかも一続きのライブのように聴けます。特に当時新曲の#4は、次回作"Wasted Sky"に収録されたバージョンではなく、コンピレーション"The Digital Space Between"に提供された(Compressed & Distressed)バージョンに近いアレンジで披露されています*2。おそらくこちらが最初のバージョンで、4thアルバム収録時にさらに手が加わったのだと思われますが、どの程度スラッシュメタルに寄せていくのか、方向性の逡巡を見て取れるのが興味深いです。

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​ このように、EPといいながら収録曲も多く、その内容もバラエティに富んだお得な内容となっています。ある程度マニアックな層向けではありますが、3rdアルバムと併せて持っておきたいアイテム。

 

Released Year:1993

Record Label:KK Records

 

Track Listing

  1. Right... (Amphetamine Psychosis)
  2. Right... (Santa Sangre)
  3. La Neante
  4. Ratblast (Live In Rotterdam)
  5. Frantic (Live In Rome)
  6. Painless (Live In Copenhagen)
  7. Curse (Metastasizing Dub)
  8. Headcrash (Skullcrusher)

 

 Pick Up!:#8「Headcrash (Skullcrusher)」

  文字通り、頭蓋骨を粉砕する勢いでノイズが迫ってくる凶悪なリミックス。原曲も中盤からの発狂ぶりが凄まじかったですが、こちらはもう全編にわたって完全発狂。織り込まれた爆発音も相俟って、解体中のビルの中に閉じ込められたかのような感覚を味わえます。あと余談ですが、途中で挿入される女声のボイスサンプリングは、インダストリアルメタルバンドのSkrewも"Cold Angel Press"という曲で使用していましたね。

*1:ソース→A Dead Place - Numb's Biography

*2:過去エントリも参照のこと。→V.A. - The Digital Space Between - giesl-ejector/blog

Skinny Puppy - VIVIsectVI

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Released Year:1988

Record Label:Nettwerk, Capitol Records

 

Track Listing

  1.Dogshit

  2.VX Gas Attack

  3.Harsh Stone White

  4.Human Disease (S.K.U.M.M.)

  5.Who's Laughing Now?

  6.Testure

  7.State Aid

  8.Hospital Waste

  9.Fritter (Stella's Home)

10.Yes He Ran

11.Punk in Park Zoo's

12.The Second Opinion

13.Funguss 

 

 初期の彼らの到達点であり、ここからがいよいよ彼らの本領発揮。1stの清涼感あるシンセ、2ndの変則的なビート感、3rdの暗黒で淀んだ空気を融合させ、ノイズの海で漂白させたような感じ...とでも言いましょうか。これまでのダークさはそのままに、ビートはより機械的に、サンプリングはより緻密に、ノイズはより苛烈に、そして曲構造はより複雑怪奇に変貌。タガどころか関節が外れたかのような独特の異形っぷりは、もはや「エレボディ」というより「エレクトロニック・ジャンク」という表現がしっくりくる内容となっています。

 

 のっけからハーシュノイズで幕を開ける#1は、オーガさんのVo.も甲高く叫びまくりで、スローテンポながら掴みは抜群。#4は腐りきったジャンクビートが突如整然としたボディビートへと転換する構成が見事。アルバム本編を締めるインスト曲#9での、サンプリングボイスを交えた不穏な静寂に強烈なビートが切り込んでくる展開などは、驚異・戦慄という二重の意味で鳥肌ものです。この曲をはじめとするホラー映画風の不気味な空気感は、3rdアルバムを通過したからこそ演出できたものでしょう*1

 

 こうして説明していくと難解な内容かのように思われそうですが、ネット上での評判を見ていると「ポップになった」「聴きやすくなった」という声が多いです。これはつまり、以前より「わかりやすい壊れ方」をするようになった、という意味合いではないかと。ポップスとは違う、"過激な音楽"としての判り易さといいますか...。

 

 3rdまでのパピーは、"80年代の"ポストパンク・インダストリアル然とした、一種冷めたような淡々とした空気感を引きずっていた部分があり、そこがインダストリアルメタルを好む層などからすると「わかりにくい」ポイントになっていたと思われます。しかし本作における、一聴しただけで気付けてしまう音の強烈さ・パラノイアな構成は、明らかにそれ以前の作風とは一線を画し、90年代以降のインダストリアルに繋がるものです。

 

 それに加え、ドラッグ中毒をテーマとした#3や、前作からのシングル曲"Addiction"の発展形ともいえる#6では、以前からの持ち味だった寂寥感や哀愁といったものも健在で、喧しいだけで終わらせないフックを与えています。これらの曲でベールのように被せられたシンセの音は、同時にケミカルで無機質な印象も高めており、先述した狂気と相俟って「人ならざるもの」感を強く打ち出しているように思えますね。ゾンビで例えると、3rd以前が墓地の地面の下から這い出てくる、有機的に"腐敗"したタイプ、本作は廃工場・廃病院から出現する、無機的に"汚染"されたタイプ...つまり「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」と「バイオハザード」の違いといったところでしょうか(?)。

 

 #10~13はCDのみのボートラで、シングルB面曲が中心ということもあってやや実験的。そんな中でも#11では、後のリズミックノイズにつながるような音を鳴らしていたりするのが興味深いです*2。また、B面曲でない#13はCD版のみの収録。


 音以外にも目を向けると、これ以降顕著になる傾向として、オーガさんによる言葉遊びというか造語遊びが挙げられます。まず、アルバムタイトルはVivisecion(生体解剖)と666(ローマ数字にするとVIVIVI)を引っかけていますし、TestureはこれまたTestとTortureをかけた造語(PVもそのまんまTest+Tortureな内容)。本作のコンセプトとして"Anti-Vivisection"(反動物実験)が根底にあるのは有名ですが、そういったものを曲に落とし込む手法として造語が効果的に使用されていますね。

 

 こうしたメッセージ性が明確になっていくにつれて、ステージパフォーマンスがさらに大がかり且つ過激になり始めたのもこの頃。当時の映像は不鮮明ながらネット上で見ることができますが、

・オーガさんが白衣を着て犬の死体(*どう見てもぬいぐるみ)を弄ぶ

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・突然謎の被り物をした研究者?(*スタッフ)が現れオーガさんを拘束

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・ステージ上に金属製の檻?が組まれ、研究者がオーガさんを上に座らせる

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・オーガさんが檻の上から飛び降りて逆さ吊りに

​             ↓
・なぜか拘束が解け、半狂乱になったオーガさんが客席に乱入...しかけたところを研究者が取り押さえて退場。ライブ本編は終了し、アンコールへ

というのが、クライマックスにおける一連の流れです*3。一応、動物実験をしていた研究者が怪物化した動物によって実験台にされる...という"Testure"のPVと同じ流れにはなっているんですが、こうやって文章化しても意味不明だと思うので、実際の様子はぜひ各位で確認してみてください(投げやり)。

 

 ちなみに、不気味でありながら美しいアートワークは例によってSteven R. Gilmore作ですが、これはブリティッシュコロンビア大学に勤めていたGilmore氏の友人から、廃棄されるレントゲン写真を横流ししてもらって製作したそうな*4。人間の手のレントゲン写真をバラバラに解体・再構築して作り上げたらしいですが、果たしてどこをどう弄ったらこうなるのか...。コンセプト面だけでなく、"過剰なカットアップ・コラージュ"という意味でもアルバムの内容に忠実な、名ジャケットだと思います。

 

 1988年という「Electronic Body Music」が提唱された年に、Ministryの3rdと並んで次なる一手を投じていた彼らの革新性には驚かされますし、このアルバムが持つ衝撃度は30年が経った今もなお有効ではないかと思っています(流石に音圧とかの面では劣りますけど...)。"EBMグループ"としての彼らの集大成。

 

 ちなみにNEWSWAVE誌のレビューでは「内容は素晴らしいが、方法論としてはMinistryが"Twitch"で見せたものと変わらない。ついにEBMも成熟を迎えたのか」という趣旨のことが書かれていたりします*5。その点に関しては彼らも自覚していたのか、以降はEBMという範疇を飛び越えて、さらに孤高の道を突き進むこととなります。それについてはまた次のレビューで。

 

 Pick Up!:#1「Dogshit」

 本文にも書きましたが、ノイジーな凶暴さと取っつき易さが同居したアルバムのリードトラック。規則的なようで微妙に反復を避けながら進んでいくリズムも癖になりますが、なんといっても中盤にギターが入ってからの展開が最高に盛り上がります。ここのギターの使い方、ちょっと"One Time One Place"と似てるかも。

*1:余談ですが、途中の台詞パートが「あ、バイト出ません」と聞こえるのは私だけ...?

*2:実はこの曲、シングルの"Censor"収録版とはバージョンが異なります。といってもアウトロの処理が微妙に違うだけですが...。言われなきゃ気付かないレベルの差異です。

*3:これのバックでは、cEvinとDwayneによるカオスな即興演奏が繰り広げられます。

*4:英語版wikiより。https://en.wikipedia.org/wiki/VIVIsectVI#Artwork

*5:確かに#2のドラムパターンが"Over The Shoulder"とよく似ていたりと、影響された部分もあるとは思いますが...。