The Young Gods - L'Eau Rouge

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Released Year:1989

Record Label:Play It Again Sam

 

Track Listing

  1.La Fille De La Mort

  2.Rue Des Tempêtes

  3.L'Eau Rouge

  4.Charlottey

  5.Longue Route

  6.Crier Les Chiens

  7.Ville Nôtre

  8.Les Enfants

  9.L'Amourir

10.Pas Mal

 

 スイスのインダストリアルロックバンドの2ndアルバム。このバンドはヴォーカル、サンプラー、ドラマーの3人組で、他の楽器(ギターやベース)は全部サンプラーで鳴らしているという変わったグループです。

 

  バンド名はSwansのEPが由来、プロデュースはRoli Mosimann(初期Swansのドラマー)、ヴォーカルはMichael Gira直系のダミ声ということで、かなりSwansをリスペクトしているようですが、実際の音楽性はそこまでジャンクかつノイジーなわけでもないです。どちらかといえばRoli MosimannとJ.G.Thirlwellのユニット、Wisebloodに近い印象。特にタイトで硬質なドラムの音処理はそっくりで、デビュー当時「Wisebloodの変名か?」と言われていた...という逸話にも納得です。Roli Mosimannという人はロック全般を手がける総合プロデューサー的なところがあるので、関わったバンド全てがインダストリアルな仕上がりになるわけでもないんですが*1、このThe Young Godsはその中でも、比較的Swansとの繋がりが判りやすいケースではないかと思います。

 

 そして、ヴォーカルとドラム以外の全てを任されているサンプラーですが、これがまた千手観音のような活躍を見せています。ゴリゴリとしたベースは前述の強力なドラムに負けないグルーヴを生み出していますし、神経質なギターとストリングスを自由自在に入れ替えて、巧みに焦燥感を煽る手法にはただ唸らされるばかり。時々挿入される逆回転や小刻みな継ぎ接ぎなど、サンプラー(=人力演奏による再現を考慮しなくてよい)というアドバンテージをフルに活用していますね。ギュルギュル唸るギターの早弾きソロも、この人たちにかかれば効果的なサンプリングノイズに早変わりです。

 

 また、#1,4,8ではオペラというかキャバレーというか、演劇的な要素も取り入れており、大仰なオーケストレーションはFoetusやPigを連想させる部分もあります*2。当然これもサンプラーの仕事。彼らはこの後、クルト・ヴァイルのカバーアルバムで丸々1枚オペラな音楽性を披露するのですが、この頃からその布石は打たれていたようですね。

 

 ただ、こうした雑多な音楽性やヴォーカルの野太い声が、独特の個性を演出する反面で聴く人を選ぶ要因になっているのも事実かなと。#4のとぼけた場末感にしろ、#5の猪突猛進な勢いにしろ、どことなくコミカルというか掴みどころの無さがあって、米英のバンドとはちょっと違うセンスを感じます。さらに、この頃は歌詞や曲タイトルもまだフランス語*3で、この辺も好みが別れるところかも。

 

 あとは既に各所で指摘されていますが、この人たち、音に"邪念"がほとんど感じられません。同時期のインダストリアル系にありがちな、ノイズや打ち込みに乗せた感情の発露が皆無。仏語の歌詞も翻訳にかけてみると、"Everyone dances the red water"だとか"We made a long journey, Never it stops"だとかで、かなり浮世離れした雰囲気。どこか醒めているというか、仙人のように達観した印象を受けます。したがって、NINその他のごとく、音楽にネガティブな感情を託したい人にはあまりお勧めできません。

 

 とはいえ、この後の彼らがどんどんインダストリアルという枠を飛び越えてポストロックの域にまで行ってしまう(その頃の音源も良いんですが)ことを考えると、SwansやFoetusといった先達の影響をうまく噛み砕き、"エレクトロニクスを駆使したロック"に落とし込んでいる本作は、まだ80年代インダストリアルとの繋がりが分かり易くて個人的には好きです。彼らのキャリアの中で見れば発展途上ではありますが、ジャンク寄りのインダストリアル好きなら押さえておいて損はないかと。 

  

 Pick Up!:#10「Pas Mal

 #9,10はシングルからの曲でCD版のみのボートラとなっています。この2曲、どちらもアルバム本編よりもストレートにボディを打ち出していて甲乙つけがたい良さがあるのですが、僅差でこちらをチョイス。引き締まったビート中心のシンプルな構成はさながら「ギターを導入したWiseblood」という趣で、単調ながらも疾走するスピード感が心地よいです。シングルのB面にしとくのはもったいない出来映え。

*1:かのマリリン・マンソンの1stにもエンジニアとして参加していますが、少なくともNYジャンク的な要素は皆無です。あれはトレントさんがプロデュースという点も大きいと思いますが。

*2:Allmusicのレビューhttps://www.allmusic.com/album/l-eau-rouge-red-water-mw0000654523では、"traditional French cabaret tunes"と言及されていたり。学が無いものでこれ以上言及できないのが辛いですが...。

*3:後に、世界的な人気の獲得に伴って英語を使うようになります。

Skinny Puppy - Ain't It Dead Yet?

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Released Year:1989(VHS)/1991(CD)

Record Label:Nettwerk

 

Track Listing

  1.Intro

  2.Anger

  3.The Choke

  4.Addiction

  5.Assimilate

  6.First Aid

  7.Dig It

  8.One Time One Place

  9.Deep Down Trauma Hounds

10.Chainsaw

11.Brap

12.Smothered Hope

 

 パピー初の公式ライブアルバム。彼らは何度かライブアルバムを出していますが、Dwayne Goettel存命時のライブがフルセットで記録されているのはこのアルバムだけです*1。公演は87年の"Cleanse Fold and Manipulate Tour"からの録音ですが、リリースは2年遅れて89年、しかも当初はVHSのみでの発売でした。続いて91年にCD化、その後2001年にはDVD化もされています。

 

 ちなみにこのツアー、3rdアルバムの名を掲げておきながらアルバム発売前にスタートしたため、この公演の時点ではセットリストの半分近くは未発表の新曲だった模様*2。バンドは3rdアルバム発表後、翌年になってから改めて"Head Trauma tour"を行っています。ツアー前半ではカナダ・アメリカを廻り、後半ではヨーロッパを廻るという行程だったみたいですね。

 

 この手のグループでは、ライブと言いつつもほとんどカラオケじゃん?というパターンが多々見受けられますが、このアルバムはわりとしっかり「ライブ」してます。基本的なバックトラックはテープに頼りつつ、随所で人力のパーカッションやギターを導入。これによって、原曲を忠実に再現しながらも生々しさを加えることに成功しています。また、シンセやギターは全てエフェクター(?)を駆使してノイズ発生源に徹しており、全体的にザワザワとした心地よい耳触りの悪さ(意味不明)を演出。オーガさんも唄いながらボコーダーらしきものを弄り、声までも音のパーツとして利用していたり。また、ドラム缶を利用したパーカッションも迫力満点で、#2,9などでの高圧ビートがいっそう際立っています。

 

 さらに特筆されるのがインプロビゼーション(即興演奏)の巧みさ。曲間部分が特に顕著ですが、シンセの残響音やサンプリングボイスを器用に反復、あるいは変容させてノイズを生み出し、上手く次の曲へと繋いでいます。さらに終盤の#11では、SPKばりに火花を散らす本格ノイズ・インプロを披露しています。ピュアノイズ大好き人間にとってはここだけで十分なのかもしれませんが、こうした即興的要素が曲に緊張感を与えると同時に、より凶暴さを高めてもいるんですね。以前TLでも話題になったんですが、このようにエレクトロニクスを多用しつつも、あくまで人の手によって為されるスリリングな即興演奏こそが、初期インダストリアル(特にThrobbing Gristle)の系譜を踏む要素ではないかと思っていたり。

 

 またオーガさんのVo.もスタジオ版に比べてテンションがup。パピーお得意の血みどろパフォーマンスを繰り広げながらということもあってか、より狂気的で凄みのあるウゲウゲボイスで魅せてくれます。たまに挿入される演説というか朗読もいい感じに不気味でクール。その一方で、#7では歌い出しの入りをミスって上手いこと誤魔化す...なんていうお茶目な一幕もあったり(笑)。こういうハプニングもライブならではですね。

 

 これらの要素によって、トータルで曲の迫力や凄みが強化された結果、特に地味といわれがちな3rdの曲が見違えるほどカッコ良くなった印象があります。#4はこの先のライブでも定番曲となりますが、それも納得といったところ。リズミカルなビート感とメロディアスな哀愁のバランスが素晴らしいです。低音で囁くように歌っていたスタジオ版に比べ、オクターブ上で叫ぶように歌唱法を変えているのも大きいと思いますが...。しばしば「大人しい・控えめ」と言われがちな初期と、ぶっ壊れた中期とを繋ぐ、ある種のミッシングリンクのような内容と言えるかもしれません。

 

 今までの文章でもチラチラ書いてきましたが、やはりパピーのライブは派手なパフォーマンスも含めたトータルエンターテイメントなので、一度は映像で確認して頂きたいところ。ステージ上を動き回るオーガさんはもちろんのこと、映る度に担当楽器が変わるケヴィン・キーの千手観音なマルチプレイヤーぶりや、黙々とノイズを繰り出すまだ容姿端麗な*3ゴエテル、さらにオープニングのホラー映画風クレジットなど、見所がたくさんあります。その一方で、改めてCDで聴いてみると、視覚情報が強烈すぎるあまり、映像を見ているだけでは気付かなかった演奏面での面白さも再発見できたので、ファンとしては映像と音源の両方で鑑賞してみることをお勧めしたいです。

 

 ちなみに、91年に発売されたCDの初回盤は、ミスプレスによりすべての楽曲がトラック分割されずに1曲に纏まってしまっているほか、ケース裏面のトラックリストも一部間違っています*4。私はたまたまこれに当たってしまったので、波形編集ソフトで自分でトラック分割をするはめになりました()。まぁ致命的な問題があるわけじゃないんで別にいいんですけど。

 

Pick Up!:#2「Anger」

 イントロに続きオープニングを飾る1曲。3rdアルバムでは歌詞がほとんど聴き取れないよくわからん曲...という印象が強かったですが、このライブ版での聴きどころはやはり、後半から叩き込まれるケヴィンの生ドラムでしょう。一応原曲に沿ったアレンジなんですが、打ち込みと生ドラムの音質差が顕著になったことで、曲の流れにメリハリがついた印象。オリジナルから一番見違えた曲と言ってもいいかもしれません。視覚面でも、布張りの箱(?)の中にのた打ち回るオーガさんのシルエットが浮かび上がる演出が印象的。

*1:曲単位では、シングルのB面やレアトラック集として散発的に発表されています。

*2:この公演の録音が5/31、3rdアルバムの発売が6/25です。

*3:晩年の彼はドラッグに蝕まれた結果、急激に容姿が老化&痛々しくなってしまっていたので。最初は美青年だったのに...。

*4:出典→Skinny Puppy - Ain't It Dead Yet? (CD, Album) | Discogs

Pankow - Gisela

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Released Year:1989

Record Label:Contempo Records, Wax Trax!, Cashbeat, LD Records

 

Track Listing

  1.I'm Lost, Little Girl

  2.Warm Leatherette

  3.Die Beine Von Dolores

  4.Let Me Be Stalin

  5.Pankow's Rotkäppchen

  6.Me & My Ding Dong

  7.Happy As The Horses Shite

  8.Deutsches Bier

  9.Madness (Danke Gisela)

10.Follow Me In Suicide (Lenin)

 

 イタリアのEBMグループの3rdアルバム。

 

 最近では、Adrian Sherwoodの仕事を纏めたアーカイブ集に取り上げられたりと、On-Uとの繋がりが強調されがちな彼ら。2ndではアルバム丸ごとシャーウッドにミキシングを頼んでいたようですが、自分たちなりのテクニックが確立したのか、本作では3曲(#4,8,9)のみでの参加に留まっています。そのせいか、そこまでOn-Uらしい質感というわけでもなく、もっとエッジの効いたシャープな音という印象を受けました。どちらかというと、NINの"Sin"(シングル盤のバージョン)とかに近いかも。これぞEBM!といった趣の、芯の太いボディビートは確かにかっこいい。

 

 ただそれ以上に、イタリア人特有の"アク"や個性が非常に強く感じられる内容です...というか、変。明るく猥雑なアメリカ、陰湿で皮肉屋なイギリス、生真面目で汗臭いドイツのどれとも違う、深刻なんだか間抜けなんだかわからない独特の勢いがあります。政治的なテーマは曲タイトルからもビシビシ伝わってきますし、そもそもグループ名が旧・東ドイツの政治的中枢だったベルリンの行政区*1という事からも、冷戦下という空気を感じずにはいられないんですが...。出だしからアイ♪アイ♪アイ♪アイ♪な#1や、ヴォーカルが変態的な#8、唐突にマーチング風の#10など、やっぱり何かズレてる。

 

 そんなわけで最初は「ん?ん?」ってな感じでいまいち入り込めなかったんですが、当時のライブ映像を見たらかなり印象が変わりました。淡々とビートを打ち出すシンセドラムの前で、エレクトロ系らしからぬ長髪の兄ちゃんが飛び跳ねながら熱いアジテートをかます...まさに「激しすぎて30分しか持たない」と言われたNitzer Ebbを髣髴とさせるパフォーマンスです。意外と熱血系な人たちだったんですね。このライブ映像を見てから、アルバム中の奇妙な印象は狙ってやっているのではなく、本人たちが100%シリアスにやった結果として滲み出たおかしさだという気がしてきました。当の本人は大真面目なのに傍から見ると笑っちゃう...というケース、わりとありますよね。

 

 また、入り込むのに時間がかかった分、慣れてくると先述の"変"なポイントがそのまま中毒性を発揮して病みつきになる気がします。硬派でダーク、狂気的、破壊的なインダストリアル・ボディはいくらでもいますが、こういう変態チックな路線は確かにあまり類を見ないタイプの個性。 ある意味、DAFの持っていた変態性・コミカル成分を最も色濃く受け継いだグループと言えるかもしれません。特に#6などは、彼ら特有のコミカルさとEBMとしての肉感的な重さがバランスよく融合した曲だと思います。例によって入手困難ではありますが、一聴の価値あり!なアルバム。

 

 Pick Up!:#2「Warm Leatherette」

 Muteの総帥Daniel Millerの1人プロジェクト、The Normalのカヴァー。この曲はJoy Divisionの"Isolation"と並び、EBM界隈でよくカヴァーされるエレクトロミュージックのクラシックとなっています。このPankowバージョンは原曲よりBPMも上がって、超筋肉質な猪突猛進ボディに。カンカン鳴る金属的なスネアと隙間無く充填されたハンマービート、ビニョビニョシンベの組み合わせで押しまくります。この勢いは素晴らしいですね。

*1:東ドイツの体制を揶揄する意味でも使われたとか。日本で言うところの"霞ヶ関"的なニュアンス...といったところですかね。

Download - The Eyes Of Stanley Pain

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Released Year:1996

Record Label:Nettwerk, Off Beat, Subconscious Communications

 

Track Listing

  1.Suni C

  2.Possession

  3.The Turin Cloud

  4.Glassblower

  5.H Sien Influence

  6.Base Metal

  7.Collision

  8.Sidewinder

  9.Outafter

10.Killfly

11.Separate

12.Seven Plagues

13.Fire This Ground (Puppy Gristle Part 1)

14.The Eyes Of Stanley Pain

 

 Skinny Puppy崩壊後、cEvin Keyが始めたユニットの2ndアルバム。以前書いた通り、パピーのサイドプロジェクトに本家のようなぶっ壊れた音はあまり期待できないのですが、そういう意味だと実はこのDownloadが、最もパピーに近い狂気を内包しているかもしれません。音を構成するパーツは全く異なりますが。

 

 元々このDownloadというプロジェクトは、泥沼化し膠着状態に陥った"The Process"のレコーディングから逃避し、パピーで没になったアイディアやマテリアルを、レーベルの圧力も無い環境下で自由に形にする場として始まった模様。要はストレス発散&自己実現をするセラピーの場と言ったところでしょうか*1。バンドは93年から95年にかけ、cEvin Key、Dwayne Goettel、Mark Spybey、Phil Western*2の4人を中心にジャムセッションを繰り返し、発売を前提としない膨大な量のマテリアルを録音。Downloadの3rdアルバム以前の音源は、全てこの時期に録音されたものが基となっています。

 

 そういうわけで、今回取り上げる2ndアルバムは、中身としては1stアルバム"Furnace"と兄弟のような立ち位置の作品となっています。ただし、1stに比べるとほんの少しだけ愛想が良くなったというか、#3,4,9など、キャッチーな部分が顔を覗かせる部分も出てきました(それでも難解であることに変わりはありませんが)。1stの日本盤ライナーノーツでも触れられていますが、単なるセラピーとしての実験場ではなく、ライブツアーも行う自主レーベルの看板アーティストとしての自覚...みたいなものも芽生えていたのかもしれません。

 

 とはいえ、全体的にはAutechreAphex TwinSkinny Puppyが融合したような、IDM寄りのカオスなエレクトロ・インダストリアルです。ノリノリのダンスビートが始まったかと思えば縦横無尽に飛び交う電子音が曲を覆い尽くし、透き通るようなメロディが聞こえたと思ったらドロドロのグロテスクなサンプリングが襲い来るという、変幻自在のびっくり箱状態。まるで相手の情報をコピーできる不定形のスライム型エイリアンと対面させられているみたいです(なんじゃそりゃ)。とはいえそこはcEvin Key、狂気とポップを紙一重で綱渡りする巧みなセンスは健在です。時折ハッとさせられるような美しい旋律を挟みこんでくるんですが、その塩梅が絶妙なんですよね*3。楽曲単位で見ても、カクカクした機械音がジャンクに踊る#4から、奇妙な浮遊感のあるアンビエント風味の#6まで、表情が様々でメリハリも効いているので、慣れてしまえば意外と普通に楽しむことが出来ます。

 

 そしてヴォーカルの存在も重要。到底"歌"と呼べるようなものではありませんが、大半の曲でMark Spybeyのザワザワしたヴォイスが挿入されています。この不気味な声の存在が、ただのIDMに留まらない、歪なインダストリアルとしての側面をより強調しているような印象がありますね。その他Genesis P. Orridgeも数曲で参加していますが、一聴してそれと判る独特の個性は相変わらず。その1つである#5の歌詞は彼の作詞なのかよく判りませんが、レコーディングの作業過程をそのまま歌ったような内容なのがおもしろいところ。

 

 アルバム終盤の#13は、パピーのメンバー3人にジェネP、さらに同じくTGのChris Carterも参加したインプロビゼーション音源をエディットしたもので、フルの演奏(40分超え!)は2002年に"Puppy Gristle"という形でリリースされています。レアアイテムっぽいのでいつかは聴いてみたい所ですが、わずか5分でも十分狂ってて恐ろしいのに、これを40分も聴かされて精神の平衡を保っていられるかが不安ですね...(大げさ)。

 

 ちなみに、この2ndアルバムはバンダイから日本盤も発売されています。ライナーノーツはこの界隈ではおなじみ小野島氏が担当されているのですが、前身プロジェクトとして当然Skinny Puppyについての解説も書かれており、マニアとしては日本語で彼らを語る数少ない記録として見逃せません*4。また当時(96年頃)の小野島氏は、メタル化したMinistry及び類型化したインダストリアルメタルブームに愛想を尽かしていた節があり*5、それらから距離を置きつつ孤高の路線を攻めた本作に並々ならぬ期待を寄せているのが伝わってきて興味深いです。

 

 アルバム全体が長尺なのと、曲展開の複雑さから取っつきにくい部分はあるかもしれませんが、最初は作業用BGMにしつつ、キャッチーな"掴み"の部分を少しずつ発見していくと、じわじわ良さが判ってくるかもしれません。もちろんIDM系が好きな方にもお勧め。

 

 Pick Up!:#9「Outafter」

 このアルバムの中ではかなりポップな質感の曲。それもそのはず、この曲は元々、Skinny Puppyの曲として映画「The Crow」のサントラに提供される予定だったものの、オーガさんが"パピーとしてはテクノっぽすぎる"という理由でお蔵入りにしてしまった...という経緯を持っています。主演のブランドン・リーはパピーのファンで、この曲も気に入っていたという話もあり、オーガさんは後にこのことを後悔したんだとか...。*6 ちなみにこの時、オーガさんは映画に出演する端役としてオーディションを受けていたらしいです。といっても、ステージと違う感覚にはだいぶ戸惑った模様。*7

*1:日本盤のライナーノーツ曰く、"「スキニー内部のトラブルによる極度の緊張感やプレッシャーから逃れるために、親しい友人同志のプロジェクトであるダウンロードが必要だった」とケヴィン・キーは語っている。"だそうです。

*2:残念なことに、2019年2月9日に亡くなられた模様。→Canadian Electronic Artist, Engineer Phil Western Dies at 47; Bryan Adams & Skinny Puppy's cEvin Key React | Billboard 死因は"accidental drug overdose"らしく、ゴエテルの件もあるだけになお心が痛みます...。R.I.P.

*3:#1のアウトロとかが良い例。

*4:2004年の復活作が日本盤で出るまでは、数少ない日本語でのパピーの解説文だったはず。

*5:ミュージックマガジンのインダストリアルメタル特集に推薦盤としてPanteraやHelmetを推したり、クロスビートのテクノ特集で"元ミニストリー評論家"を自称するなどされていた模様。

*6:ブランドン・リーは撮影中の事故で亡くなっているので、デモ音源か何かを聞いたのではないかと推測。

*7:この話の出典→http://home.earthlink.net/~coreygoldberg/download/outafter.htm 

  およびインタビュー→http://regenmag.com/interviews/skinny-puppy-interview-shapes-arms-pt-2/

Die Klute - Planet Fear

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Released Year:2019

Record Label:Cleopatra

 

Track Listing

  1. If I Die

  2. Out Of Control

  3.The Hangman

  4.Rich Kid Loser

  5.For Nothing

  6.Human Error

  7.It's All In Vain

  8.Born For A Cause

  9.Infectious

10.Push The Limit

11.She Watch Channel Zero?!

12.Mofo

 

 Die KruppsのJürgen Engler、Leæther Strip/KlutæのClaus Larsen、そしてFear FactoryのDino Cazaresという、超・強面な3人が集結したインダストリアルメタルユニット。どういった経緯で結成に至ったのかは不明ですが、ユルゲンとクラウスは90年代からCleopatra繋がりで交流があった同志*1ですし、それこそ2016年の来日公演で共演していたのは記憶に新しい所。ディーノはクラウスとの繋がりはあまり無かったと思いますが、クルップスとフィアファクはライブで何度か共演したことがあったようで、その縁で声がかかったのかもしれません。

 

 最初に結成がアナウンスされたのが昨年の7月末、同時にPVの撮影風景なども公開*2されたりして、(ごく一部の界隈で)注目と期待を集めていました。そして、今年の1月半ばに先行曲#7が公開されますが、正直な話、この時点での私は印象は「あ、コレあかんやつや」という感じでした。特に、一聴して判るギターが引っ込みすぎな点に関しては、YouTubeのコメント欄もほぼこれ一色といった様子で、公開からわずか1週間で"皆様の要望にお答えしてギターの音大きくしましたバージョン"が公開される*3という異例(?)の事態に。「インダストリアル系のスーパーグループに当たり無し」という、お決まりのジンクスがまたも的中するかと思われました。

 

 しかし、2月に入っていざアルバムが発売となったので試聴してみると...あら意外といい感じ。既にネット上で囁かれていた、「先行シングルが一番ギター弱い曲説」を裏付けるように、しっかりディーノの存在が判るミキシングです*4。全体的にリフもシンプルながら即効性のあるわりと私好みな感じで、ひとまず、大ハズレだろうという当初の予想は良い意味で裏切られることとなりました。ただ、このプロジェクトに期待していた人全員が満足する内容では無いな...と思ったのも事実。

 

 端的に表現するなら、メタルギターを全面的に導入しつつもあくまでエレクトロニックな要素が主導権を握っている、いわゆる"ボディメタル"です。「鳴らしている音の大きさ」でいうと【 クラウスディーノユルゲン 】ですが、「持ち込んだ音楽性」でいうと【 ユルゲンクラウスディーノ 】という配分になっていると思います。クレジットを見る限り、ユルゲンとクラウスが共同で打ち込みを担当していますが、私の勝手な推測ではクラウスは打ち込み、ディーノはギター、そしてユルゲンは総合プロデューサー...といった立ち位置で製作を進めたのではないかと。

 

 そういう意味で最初は「これ、まんま90年代中期のクルップスでは?」とも思ったのですが、よくよく考えてみるとその頃のクルップスの方がまだ叙情的でHR/HMっぽいんですよね*5。それに比べて本作は、既に先行しているレビューにもある通り、良くも悪くもとにかく単調。ここには(90年代の)レザストやクルートのグロテスクな禍々しさも、フィアファクの男臭いメロディもありません。そういった意味で、この3人の音楽性の化学反応を期待していた人...特にフィアファクのファンにとっては、ガッカリな内容だったというのはよくわかります。

 

 じゃあ中身は完全にゴミなのかというと、個人的にはこれがまぁまぁ良いんですよね。確かにバラエティには乏しいけれど、#3,4,6,12といった曲のスピード感は素直に好きだし、#2,9でのミドルテンポ寄りなリフもカッコ良いです。唯一の変化球は終盤の#11。これはPublic Enemyのカヴァーなんですが、原曲がSlayerのAngel of Deathのリフを丸々サンプリングしていたのを、上手いことシンベに置き換えつつSlayerの再演にならないようアレンジしているのが面白いです*6。でも全体的には、凝った曲構成や捻った展開の無い、シンプルな初期衝動の塊のような作品とも言えるかもしれません。そういう点ではある意味"パンキッシュ"とすら表現できそう。この「とりあえず3人で音出しました」感を許容できるかどうかが、本作への評価の分かれ目でしょう。

 

 つまるところ本作は、2017年に出たKlutæのアルバム"Black Piranha"に、生のメタルギターを足しただけの作品です。ただし、そのギターリフによって楽曲の説得力が大きく向上しています。"Black Piranha"も曲自体は悪くないと思うんですが、肝心のアレンジがエレクトロ中心で何故わざわざKlutæ名義で出したのかよく判らなかったですし、かつてのKluteのように強烈なサンプリングギターやノイズも無く、いまいちパッとしない結果に終わっていた感がありました*7。それに比べるとこの"Planet Fear"は、ザクザクしたギターの存在感によって、かつてクラウスが持っていた攻撃性や緊張感、そして音の凄みが少しだけ戻ってきた印象があります*8。このアルバムもベーシックなトラックは基本クラウスが作っていると思うのですが、やはり彼の完全な単独作業であるレザスト・クルートには無い、ディーノという"異物"の存在が、多少プラスに働いたのではないかと。

 

 近年、EBMやインダストリアルが一部界隈で再評価されている気がしますが、その実際は初期Front 242やKlinikの系統にあるシンセウェイブに近いEBM、あるいはSwansやGodfleshの系統にあるジャンクでノイジーなロック・ポストメタル...といった方向にトレンドが集中しているように思えます*9。そういった状況下で、90年代に流行したEBM+メタルギターという図式は意外と空白帯になっていたと思うのですが、今回のDie Kluteは見事にその穴を埋めてきたなという感じです。特に最近のクルップスも「ボディモードの時はボディ、メタルモードの時はメタル」という感じで、全編こういうバランスのアルバムはしばらく出していない気がするので...。このように、思わぬ形で90年代型"ボディメタル"の再来を拝めただけでも、自分のような懐古趣味者にとっては意義のあるコラボだったのではないかなと思っていたり*10

 

 誰もを唸らせる普遍的な完成度というわけではありませんが、悲惨な結果に終わることが多いインダストリアル系スーパーグループの中で見れば、まぁ及第点と言えるクオリティには達していると思います。もう少しアレンジに時間をかければまた仕上がりが違ったのかもしれませんが、逆に大御所らしからぬフレッシュな勢いを楽しむのが正解なのかも。個人的には、下手に色々やろうとしてグダグダになるよりは、勢いだけで突っ走るこの方向性で正解だったと思っています。肉感的なビートと美味しいリフだけあれば満足!という人は、とりあえず聴いてみても損は無いのでは。

 

Pick Up!:#9「Infectious」

 ほとんどが疾走系のアルバム中で、良いアクセントとなっているミドルテンポのグルーヴィな曲。このいかにもワルそうな感じのリフが結構好きです。せっかく少し捻りを加えてるんだから、もっとメタパーを入れるなりノイズを差し込むなりして欲しかった感じもありますが...。

*1:インタビューでのユルゲン曰く、"We are old buddies"とのこと。ソースはこちら→DieKlute (Dino Cazares) Premiere Video Featuring William Shatner

*2:動画はコチラ→https://www.youtube.com/watch?v=U9Cg1fDn-EI なんだかシュールで笑えます。

*3:それがコレ→https://www.youtube.com/watch?v=yIipfCq611U&feature=youtu.be "For the Metal Headbangers"だそうです。

*4:私はあまりフィアファクをきちんと聴いていないので、彼の持ち味がどれだけ生かされているのかは判断できないんですが...。

*5:これは当時メンバーだったメタル畑のギタリスト、Lee Altusが作曲に関わっているのも大きいと思います。

*6:というか海外のレビューサイトを見るまで、これがカヴァー曲であることすら気付きませんでした。なんかラップやろうとしてるな~とは思ってたんですが...。

*7:この内容、来日公演後に盛り上がっていた私のレザスト・クルート熱を一瞬で冷ますには十分なレベルでした...試聴しただけですけど。

*8:確かFLAの"Millennium"についても同様のことが指摘されていた記憶。

*9:私は流行に疎いのであくまで個人的な印象ですが...。

*10:そしてこのアルバムが、過去にボディとメタルの狭間のようなバンドを大量に擁していたCleopatraからの発売というのも、何かの因果でしょうか。

Fatal Morgana - The Destructive Solution

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Released Year:1990

Record Label:Antler-Subway

 

Track Listing

  1.Overture

  2.The Unchangeable Image

  3.Lifeblood

  4.Earth's Revenge

  5.Herity Caused By The Devil

  6.Glasnost (Original Version)

  7.The Innocent Children Of The Cruel World

  8.Mindcontrol

  9.The Last Generation

10.Greed

11.Attention (Instrumental)

12.Glasnost (Cycle Mix)

 

 オランダ出身のEBMユニットが残した唯一のアルバム。Antler-Subwayからの発売なので、てっきりベルギーの人かと思ってました。

 

 シングル2枚、アルバム1枚だけを残して消えてしまったこともあり、ほとんど知られていないグループですが、個人的にはこれが隠れた名作。どこをどう切り取っても「王道EBM!」としか言い表せないほど原点に忠実なんですが、逆にここまでEBMのマナーに沿った音もなかなか無いと言いますか、ある意味で希少な気がします。

 

 強いて言えば、A Split Secondの酩酊感と、FLAのバキバキなリズムのいいとこ取り、といったところでしょうか。時にヨーロッパ的荘厳さを感じさせる重厚なシンセサイザーの旋律は、ベルジャンEBM/ニュービート由来と思われ、トランス的な覚醒を促します。特にインタールード的な#5,7ではそういった傾向が顕著。A Split Secondを始めとするニュービート勢は、こうした"酩酊感"と引き換えにBPMやビート圧を抑えてどんどんテクノに寄っていくわけですが、このFatal Morganaは逆に、FLAのCaustic Gripを髣髴とさせる威圧的で引き締まったキックを導入、よりハードな路線を志向しています。特に#3での、ガチガチに金属的な横ノリビートは最高。また、#2,4,9,12での扇動的なスピード感も、「再生速度を抑えて重さを引き出した」といわれるニュービートの方向性とまったく逆で興味深いです。だからこそベルギー国内ではあまり受けず、すぐに消えてしまったのではないかという見方も出来ますが...*1

 

 当時の流行からすると中途半端にしか見えなかったであろう、EBMとニュービートの狭間にある作品ですが、時代性とか一切気にしていない私にとっては最高にバランスのいい愛聴盤です。一発屋と切り捨てるにはあまりにもったいなさ過ぎる、捨て曲なしの充実作。例によって入手は困難ですが、「強迫ハンマービート+トランス=最強!」という図式に同意できる人には自信を持ってお勧めします。

 

*2020.8.19追記

 なんと30周年を記念して(?)、「The Final Destruction」としてMecanicaというポーランドのレーベルから再発されたようです。本作の音源と、アルバム未収録のシングル音源等をコンパイルしており、彼らの残した音源は余さず網羅できる親切設計。もちろんリマスター済です。Bandcampからも購入できる*2ので、とりあえず試聴だけでもいかがです?

 

 Pick Up!:#11「Attention (Instrumental)」

 CDのみのボーナストラックで、同時に出ていた12インチシングルからの収録曲。水の流れるようなSEと流麗なシンセから始まり、ぶっといシンベがせり上がってくるイントロにゾクゾクさせられます。個人的にはJuno Reactorあたりを思い出したり。インストであることも相まって、ベルジャンEBMからトランスが生まれた事がよくわかる名曲。

*1:ベルギー人はドラッグをやらないので、BPMの速いEBMについていけなかった...という話もよく見かけます。

*2:こちら→The Final Destruction | Fatal Morgana | mecanica

V.A. - The Crow: Original Motion Picture Soundtrack

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Released Year:1994

Record Label:Atlantic, Interscope

 

Track Listing (Artist - Track title)

  1.The Cure - Burn

  2.Machines Of Loving Grace - Golgotha Tenement Blues

  3.Stone Temple Pilots - Big Empty

  4.Nine Inch Nails - Dead Souls

  5.Rage Against The Machine - Darkness

  6.Violent Femmes - Color Me Once

  7.Rollins Band - Ghostrider

  8.Helmet - Milktoast

  9.Pantera - The Badge

10.For Love Not Lisa - Slip Slide Melting

11.My Life With The Thrill Kill Kult - After The Flesh

12.The Jesus And Mary Chain - Snakedriver

13.Medicine - Time Baby III

14.Jane Siberry - It Can't Rain All The Time

 

 1994年公開のダークヒーロー・アクション映画「The Crow」*1サウンドトラック。ちょっと前に(と言いつつもう結構経ちますが)、ツイッターでお勧めのサントラは?という話になったので。

 

 私自身サントラをそこまで知っているわけでもないんですが、揃えられた面子、楽曲の完成度、全体の統一感など、様々な観点で見ても、所持しているサントラ盤の中ではトップクラスの内容です。こういった類のアルバムは多数のアーティストが集まる性質上、完成度という点でどうしても隙ができたり、既発曲ばかりで改めて買う必要を感じなかったり*2...というケースが多いですが、このアルバムにはそういった不満は一切ありません。楽曲もここでしか聴けない(あるいは聴こうとするとシングルや編集盤にまで手を出さなければならない)ものが多いですし、まぁ全曲100点満点とは言わないまでも、みな完成度は粒ぞろい。いくつかのアーティストに関しては、ここがキャリアピークと言っても過言ではないレベルに達しています。サントラでありながら、ビルボードチャートで1位にまで登りつめたのも納得の充実度。

 

 映画の内容についてはここでは触れませんが、王道を往く復讐劇でありながらファンタジー要素もある良作。サントラだけでも十分楽しめますが、映画を見てから聴くとよりいっそう堪能できる内容かと思います。このアルバムに関しては1曲だけPick Upとか無理なので、以下全曲解説。みな有名なグループばかりなので、アーティストに関する説明はおおむね省略しています。

 

 

#1:いきなり超名曲。呪術的でプリミティブなドラミングと重厚なベースラインが、重苦しくサントラの幕を開けます。このグルーヴ感だけでもご飯3杯はいけるんですが、加えてダークに揺れるメロディラインが本当にツボ。サビの下降気味なヴォーカル、間奏の悶えるようなギター、アウトロの悪夢に沈んでいくかのような絶望感、どこを取っても最高です。"Disintegration"のゴシックな歎美さと、"Wish"のロックバンド的ダイナミズムが、奇跡的な融合を果たした曲と言っていいでしょう。主人公の心情とリンクした歌詞にも涙。元々、この映画の原作コミックがキュアーの曲にインスパイアされているだけあって、映画との親和性も抜群です。さらに、ロバスミがフルートに初挑戦したり、全盛期を支えたドラマーBoris Williamsが最後に参加した曲だったりと、小ネタも多々あり。というか、この曲はロバスミとボリスの2人だけで、しかも2日で完成させたそうです。化け物か。

 

#2:トレントが絶賛したとも言われるインダストリアルロック、というかポストNIN型バンド。不穏な雰囲気でじわじわ進みいつ爆発するか...と思ったら、そのままフェードアウトしてしまうのでちと拍子抜け。Roli Mosimannが絡んでるだけあって打ち込みや細かいギミックは手馴れた感触ですが、いまいち盛り上がりに欠ける曲。映画の空気にはしっかり溶け込んでますけど。

 

#3:ジャジーで渋いヴァースから、メロウになだれ込むコーラスが見事な名曲。静→動の展開やざらついたギターはモロに当時の典型的なグランジではありますが、良いものは良いのです。この曲は1995年のMTV Movie Awardsで、"Best Movie Song賞"を受賞しました*3

 

#4:TDSの日本盤ボートラとしてよく知られている、Joy Divisionのカヴァー曲。これも言わずもがな名演ですね。いかにもポストパンク然としたドコドコしたリズムがグッド。演奏としてはほぼ完コピながらこの嵌り具合、さすが90年代を代表する暗黒王子です。終盤の畳み掛けから淋しげなアウトロへの流れも十八番ながら完璧。フォロワーの#2を前に格の違いを見せ付けております。

 

#5:アコースティックなパートといつものRATM節なラップメタルが同居した、彼らとしてはやや異色な曲。これは1stシングルのB面曲"Darkness Of Greed"の再録で、元はデビュー前に製作されたデモ音源に入っていた曲だとか。抑制された演奏は爆発力という点ではやや劣るものの、きちんとメリハリは効いているし、映画の雰囲気に合ってるので個人的にはむしろ好み。こういう路線でアルバム作っても良かったのでは?

 

#6:いかにもアメリカンといった泥臭さのある、ブルージーな曲。かなり気怠い雰囲気なので好みは分かれそうですが、このヘナヘナしたヴォーカルの泣き具合には不思議な魅力がありますね。調べてみると1980年から活動しているベテランらしく、独特の音楽性は"フォークパンク"などと呼ばれたそうです。

 

#7:NYシンセパンクSuicideのカヴァー。ミニマルな原曲を大胆にもドゥーミーにアレンジしており、流石はパンクにサバス由来の"遅さ"を持ち込んだ元祖...と云った感じでなかなか面白いです。しかし、Marc AlmondとFoetusのコンビによる圧倒的"モーターサイクル"なカヴァーを聴いてしまった後では、やや冗長に聴こえてしまう面も。オリジナルは10分近くあるようで、ここまで来るとちょっとやり過ぎた感が否めないですね...*4

 

#8:3rdアルバム「Betty」には"Milquetoast"とタイトルを変えて収録された曲。ミキシングもアルバム版とは微妙に異なり、全体的にノイズやエフェクトがかかった仕上がりとなっていますが、これはButch Vigの仕事によるもの。インダストリアルとまでは言わないですが、このノイジーなバージョンはオリジナルを上回る良さがあります。後半で疾走する展開もクール。

 

#9:カヴァー3曲目。これはPoison Ideaというハードコアパンクバンドの曲らしく、普段のパンテラよりもやや明るくストレートな印象を受けます。終盤のヤケクソ気味な加速から〆の悪態まみれなボイスサンプリングも含め、全体的にコミカルな雰囲気。"Far Beyond Driven"の日本盤にもボートラとして収録されています。

 

#10:おそらくここに揃った面子の中で最も無名なバンド。このサントラへの参加がキャリアのピークになってしまった悲しいパターンのようですが、曲の方はなかなか。Soundgardenをもう少しポップにしたような、ハードロック寄りのグランジと言ってしまえばそれまでですが、グルーブ感溢れる演奏と壮大な大サビの開放感がカッコいい。この曲を聴いてる限りは、もう少し売れても良かったんじゃないかと思ってしまいますね。

 

#11:はい神曲。初聴時、この如何わしい音とねちっこいヴォーカルはサントラの中でもかなりB級に聴こえたものですが、実はこれ、彼らの通常モードからは信じられないレベルにA級でカッコいい音だったりします。この曲は彼らの初期シングル"Nervous Xians"のリメイクですが、10分近くあった原曲を3分に短縮、BPMは大幅upし、ギターシンセ(?)と思しきリフを追加...といった具合に、(いい意味で)野暮ったかったオリジナルが想像できないほど、ダークかつシリアスに疾走するインダストリアル・ダンスへと変貌しています。それでいてエレクトロ中心で肉感的な部分はしっかり維持されているし、ジャストなタイミングで入ってくるサンプリングも冴えまくり。これはTKKのキャリアの中でも最高傑作などころか、実はこれこそEBMが90年代の"ロックシーン"に生き残る上での最適解だったのでは?と思わせるほどのクオリティです。やれば出来るじゃん!といったところ。因みに彼らは映画本編にも出演しており、敵マフィアのアジトとなっているライブハウスでこの曲を演奏、怪しげなオーラを振りまいていました*5。このシーンの映像も鬼カッコいいので必見。

 

#12:いつものジザメリ節。あまりに平常運転すぎて特に書くことが見当たりません(苦笑)。ノイジーなギターは相変わらずですが、うだるような炎天下を思わせるダラけた空気を感じるあたり、レイドバック路線な次作の片鱗を感じます。私は彼らのファンなので満足ですが、それ以外の人に対する訴求力はやや弱いかもしれません。素直にいい曲ですけどね。

 

#13:これも名曲。元々は"5ive"というシングルのB面曲だった"Time Baby II"のリミックスで、原曲の凶暴なノイズは綺麗さっぱり取り払われ、フワフワとした浮遊感が心地よいアレンジとなっています。このリミックスはCocteau TwinsのRobin Guthrieによるもので、Elizabeth Fraserもコーラスで参加しています。後半に反復される多重コーラスはややくどいという意見もありそうですが、このキッチュさと気怠さが同居したポップ感は癖になりますね。次曲と並び、このサントラの中では数少ないリラックスできる曲です。ちなみにTKK同様、彼らもライブハウスで演奏する形で映画に出演しています。

 

#14:最後はシンプルなピアノバラード。これまでのハードで厳しい戦いをくぐり抜けてきた主人公(≒リスナー)を癒すかのように、天使を思わせる女性ヴォーカルが歌い上げます。これは思わず昇天しそう...*6。曲自体はありふれた雰囲気ですが、実はコレ、作曲にあのGraeme Revellがクレジットされてます*7。この当時のグレアムさんは既にハリウッドの売れっ子作曲家に完全変態しているのでなんら不思議な事はないんですが、かつてステージで羊の頭を食していた人*8がこういう音楽を作るようになるのを、成熟と捉えるか退化と捉えるかは意見が割れそう。とはいえ、ダークな路線を突き進みつつ、最後は王道で美しく締める、というバランスの良さこそが、映画本編の魅力であり、またこのサントラの魅力でもあります。

 

 

 こうしてみると、いかに当時のオルタナティブ・シーンが充実し、また表舞台に進出していたかがありありと伝わってきて溜め息が出ますね。ハリウッド映画にここまでロックバンドが勢ぞろいしているのも、今では考えられないですし。

 

 この時代のロックが好きな人にとっては今更取り上げるまでも無い名盤だと思うんですが、せっかくなので書いてみた次第です。当ブログの趣旨に沿った観点からコメントすると、NINの"Dead Souls"の雰囲気が好きな人なら馴染める内容ではないでしょうか。あとボディ好きとしてはTKKが要チェックですよ!
 

 

*上の全曲解説でも参考にした記事。今回の記事に書ききれなかったトリビアも多数書いてあるので必見です。

www.revolvermag.com

 

*1:邦題は「クロウ/飛翔伝説」。ダ、ダサい...。

*2:私の場合、マトリックスのサントラがこのパターンでした。収録曲の半分を既に持っているとなると、どうしても購買意欲が湧かないんですよね...。

*3:出典はコチラ。→https://en.wikipedia.org/wiki/MTV_Movie_Award_for_Best_Musical_Moment

ちなみに映画自体もMTV Movie Awardsにノミネートされています。→https://www.imdb.com/title/tt0109506/awards

*4:実は1987年にHenry Rollinsのソロ名義(メンバーはRollins Band)で、既に同曲のカバーを披露してたりします。試聴する限りそちらはオリジナルの完コピといった趣だったので、次は全く別のアレンジで...ということになったのかもしれません。

*5:なおライブは主人公の突入で中断された模様。

*6:というか実際のところ劇中では昇天するんですが。

*7:この映画の劇伴もグレアムさんが手がけています。→The Crow: Original Motion Picture Score - Wikipedia

*8:NEWSWAVE19号のインタビューより。